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対応

(あー、そうきたか)


 王族などの上層部に恨まれるのは予想していた恭也だったが、まさかそんな理由で国民からも恨まれるとは予想していなかった。


(恭也が甘いからさっきみたいになめられるんだよ。あの盾野郎に勝ったのになめられるって相当だぜ?)

(私の眷属も二回攻撃を受けましたわ。マスターが温厚なのをいいことに増長して、本当に不快ですわ)


 心底不快そうにそう言うホムラの発言を聞き慌てた恭也だったが、軽傷を負わすだけで追い払ったとホムラは報告したので一応は安心した。

 しかしこの件に関してはこれで終わりというわけにはいかなかった。

 ホムラには眷属が人間に襲われた場合、一回までは攻撃を我慢して自分が恭也の配下だと伝えるように指示していた。


 それでも攻撃をしてくるようなら軽傷を負わせ、なおも攻撃してくる様なら殺しさえしなければ何をしてもいいと伝えてあった。

 もちろんその都度相手に警告をしてだ。

 それにも関わらず、ティノリス皇国の国民がホムラの眷属に軽傷を負わされるまで攻撃したとなると、彼らの恭也への恨みは恭也が思っているより大きいのかも知れない。


(正直申し上げますと放っておけばいいと思いますわ。その内暴動が起きるでしょうけれど自業自得ですもの、……と言ってもマスターは納得しませんわよね?)


 呆れ半分期待半分といった様子でホムラは恭也の意思を確認した。


(うん。近い内に一回ティノリスに行った方がよさそうだね。ガーニスさんにも何かあったらこっちで対応するって伝えておかないといけないし)

(何で研究所にも着いてない内に次の予定が決まってんだよ……)


 呆れとも怒りともつかないウルの突っ込みに恭也は苦笑いするしかなかった。

 そうこうしている内に恭也は研究所に着き、早速コロトークに会いに行った。

 コロトークに出迎えられた恭也は、あいさつもそこそこに本題を切り出した。


「『エアフォン』が完成したって聞いたんですけど?」

「はい。とりあえず十キロまでですが、安定して声を届けることに成功しました。すでにアナシンにも設置をして何度かやり取りをしましたけど問題は起きていません」


 恭也が制作を頼み命名もした風魔法を使った遠距離連絡用魔導具『エアフォン』が一応の完成を迎え、コロトークの表情も明るかった。


「この前五キロって言ってたのにずいぶん早く伸びましたね。もしかして距離を伸ばすのは順調だったりします?」


 恭也のこの何気無い質問を受け、コロトークの表情が曇った。


「距離、というより『エアフォン』の出力自体は、『精霊珠』のおかげで上がっています。しかし今の技術では一つの魔導具に三つまでしか『精霊珠』を搭載できませんし、有効距離と効果時間の両立に魔導具の軽量化と課題は山積みです。恭也さんのいた世界の様に携帯できるようにするのはかなり難しいと思います」


 コロトークによると現在の『エアフォン』は風属性の使い手三人が魔力を全て使って、五秒間だけ起動できるらしい。

 これでは品物の注文すら難しく、大きさにしても恭也が実物を見たところ軽自動車ぐらいの大きさだった。

 この状況で気軽に距離を伸ばせそうかと聞かれたら、コロトークが渋い顔をするのも納得だった。

 そう考えた恭也は、素直に謝ることにした。


「素人が気軽に変なこと言ってすみませんでした。こんなに早くアナシンまで届く魔導具を作れただけでもすごいと思います。これからもよろしくお願いします」


 恭也が頭まで下げたことにウルとホムラから驚きと不快感が伝わってきて、コロトークを始めとした研究員たちも驚いた様子だった。

 その後頭を上げた恭也は、報告書でもう一つ気になっていたことを確認することにした。


「『精霊珠』の内、闇属性は僕抜きでも作れるようになったって報告書に書いてありましたけど、本当ですか?」

「はい。まだ時間はかかりますが、闇属性の魔導具を触媒にすることで闇属性の精霊を物に定着させられるようになりました」

「どうして闇属性なんですか?他の属性の方が応用が利くと思うんですけど」


 ウルを仲間にして以来洗脳魔法を使いまくっている恭也が言うのも何だが、闇属性など犯罪にしか使えない魔法だ。

 そんな属性を研究するぐらいなら日常生活に応用が容易な水や土属性を研究して欲しいところだった。

 そんな恭也の不満が伝わったのだろう。

 コロトークは若干表情を固くしつつも、『精霊珠』の開発で闇属性が最初になった理由を言葉を選びながら恭也に説明した。


「何と言えばいいのか、私共は今までの積み重ねで闇属性の研究が一番進んでいまして、そのため今回闇属性の『精霊珠』が一番早く完成しました。もちろん悪用する気は一切ありません!」


 コロトークの説明を聞き、あからさまに機嫌が悪くなっていく恭也を前にしてコロトークは自分たちの潔白を力説した。

 そんなコロトークの様子を見た恭也は、一度息を吐いてからコロトークに話しかけた。


「そうですね。さっき失礼なこと言ったばかりなんで、みなさんの研究内容についてどうこう言うのは止めておきます。召還魔法に関しては特に進展は無いですか?」

「は、はい。申し訳ありません。まだお伝えする程の成果は……」


 結局そのまま微妙な雰囲気のまま恭也とコロトークたちのやり取りは終わり、恭也は連絡用にホムラの眷属を一体置いて研究所を後にした。


(なあ恭也、ホムラの眷属がいればあの『エアフォン』とかいうのいらなくね?)


 研究所を離れるなりウルはコロトークたちのここ最近の研究成果を全否定してきた。

 そんなウルに恭也は自分の考えを伝えた。


(ウルの言いたいことも分かるよ。さっきホムラの眷属の説明した時のコロトークさんたちも同じこと思ってただろうし)


 つい先程恭也からホムラの眷属についての説明を受けた時、コロトークたちは一様に言葉を失っていた。

『エアフォン』の開発を頼んだ張本人の恭也がこれさえあればどんなに離れていても連絡が取り合えますとホムラの眷属を連れて来たのだ。

 コロトークたちの徒労感は、察して余りあった。

 しかし恭也はコロトークたちに無駄なことをさせたなどとは全く考えていなかった。


(ホムラの眷属は確かに便利だけど、僕が死んだらそれまでだからね。ずっと先のことを考えたらこの世界の人だけで使える技術の開発は必要だよ)

(恭也が死ぬ?寿命で死んでも恭也なら蘇りそうだけどな)


 恭也の心配を一蹴したウルの発言は本気で言っているのかどうか恭也は判断できなかった。


(そこは人間としては死んどきたいところだけど……。一応想定は、最悪の場合を想定しとかないとね。それに僕が生きてる間もホムラの眷属には見張り以外の仕事をしてもらいたいし)


 現に恭也がセザキア王国内での転移先に使っている家の近くにも恭也はホムラの眷属を配置していた。もっともセザキア王国との関係は友好的とまでは言えないため、透明な状態で配置して情報収集も街をうろつく程度にとどめていた。


(そうですわね。ティノリスについてもどれだけかかるか分かりませんし、場合によっては刑務所を追加で作らないといけないんですもの。マスターのお考えは正しいと思いますわ)

(ま、勝手にしてくれればいいけどよ)


 自分で話を振ってきてこの態度のウルに恭也は苦笑してしまったが、ウルから建設的な意見が出るとは恭也も期待していなかったので特に何も言わなかった。


(さてと、とりあえずネースで行きたい所には一通り顔出したし、一度ティノリスの様子を見てみようか)

(よろしいんですの?マスターは二日程休みを取る予定でしたわよね?)


 先程恭也はティノリス皇国の様子を見に行くと言ったが、まさかこれ程早く行くとはホムラは思っていなかった。

 ホムラにとって、恭也の休息とティノリス皇国の安定の優先度など比べるまでもない。

 そのためホムラは恭也にそれ程慌てる必要は無いと伝えた。


(ティノリスの国民たちの不満が高まっていると言っても、まだ国民同士で愚痴を言い合っているという段階で今すぐマスターが出向かなくてはならない状況ではありませんわ。どうかご自愛下さいませ)


 実際問題ティノリス皇国内で急を要する問題は起きていなかった。

 強いて言うなら街に向かおうとしていた悪魔の群れとホムラの眷属十体が遭遇し、戦闘の結果眷属七体がやられたことぐらいだった。


 群れに中級悪魔が一体いたせいで思ったよりも被害が大きかったらしい。

 ホムラから眷属への指示はどれだけ離れていても行えるが、眷属の召還自体はホムラがその場にいないと行えない。


 そのためティノリス皇国内での眷属による作業に現時点で遅れが出ていた。

 ホムラからその報告を受けていた恭也に、ホムラは七体程度の損害なら他から眷属を向かわせれば大丈夫だと伝えたのだが、オルルカ教国やガーニスのことも気になるのでそのついでに眷属の再召喚も行うことを恭也は決めた。


(お手間をかけて申し訳ありません)

(気にしないで。それよりホムラの眷属にホムラの加護与えることってできないの?)


 それができれば中級悪魔程度楽に勝てると思ったのだが、残念ながら恭也の案は即却下された。


(残念ですけれど、それは無理ですわ。私たち魔神が加護を与えられる相手は一定以上の知性がある存在だけですもの。私の眷属は人の形はしていましても私の指示無しでは何もできない人形、加護を受けられる存在ではありませんわ)

(だったら魔導具は?火属性の魔導具なら使えるんじゃない?)

(それは可能ですけれど、私の眷属は魔力が回復しませんもの。魔導具の使用はあまり現実的では……。いや、でも中級悪魔との戦い用と考えたら眷属全員は無理でも何体かに持たせるのはありかも知れませんわね)

(分かった。じゃあ、とりあえず二十個程コロトークさんたちに頼む、のは悪いか。……手持ちにあったかな)


 そう言うと恭也は『格納庫』から魔導具をまとめて入れている木箱を取り出した。

 しかし木箱の中には魔導具は二十個も入っていなかった。

 戦闘はここ最近はウルかホムラに任せっきりで、それ以外の時も『六大元素』と『精霊支配』による精霊魔法行使で十分だった。


 そのため持っていた魔導具のほとんどはユーダムとコーセスの住民たちに配ってしまったのだ。

 恭也が『魔法看破』で見たところ、火属性の魔導具は三つしかなかったのでどこかで調達しないといけなかった。


(ティノリスに行ってから買うなり奪うなりすれば二十個ぐらいすぐに揃うでしょ)

(マスターまでウルさんみたいなことを言わないで下さいまし……)


 恭也の一部物騒な発言に呆れた様子のホムラの発言を聞きながら恭也は、ティノリス皇国に転移した。


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