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お土産

 そんなジュナの心配をよそに恭也は気楽なものだった。


「大丈夫ですよ。まともな貴族もそれなりにいたみたいですし、最悪失敗してもその時は僕が手を貸しますから」

「確かに恭也が王女の後ろ盾になれば、嫌でも収まるだろうな。でも分かってるのか?恭也がしようとしてること、すごく時間がかかるぞ」


「分かってはいるつもりです。ギルドと一緒で長期計画でやっていくつもりですし」

「いや、はっきり言うけど無理だぞ。いくら恭也が強くても、それとこれとは話が別だ」


 あまりに気楽に言う恭也にジュナは苦言を呈したが、恭也の態度は変わらなかった。


「今回仲間にした火の魔神は、たくさんの眷属を召還できるんです。それで今もティノリスで仕事してもらってますし、僕としては戦闘力よりこっちの方が収穫でしたね。そういうわけで人手がいる仕事についてはそこまで心配してません」

「ふーん。その割には恭也、全然楽できてる様に見えないぞ」


 このジュナの指摘は恭也としても図星だったので、恭也はすぐには返答できなかった。


「いや、まあ、もうちょっとすれば落ち着くと思いますよ。さすがにオルルカまでひどいことになってるなんてことはないでしょうし」

「オルルカにまで行くつもりか?」


 次から次に別の計画を口にする恭也にジュナは開いた口が塞がらなかった。


「さすがにこれに関してはティノリスが落ち着いてからになりますけど、できるだけ早く行くつもりです。ティノリスで会った異世界人、ガーニスさんはやられたら黙ってる人じゃないんでオルルカが何かする前に顔を出しておきたいですし」

「……その内過労で倒れるぞ」

「大丈夫ですよ。ちゃんと寝てますし」


 さすがにいざとなったら死んで疲労を消すとまでは言わなかったが、そんな恭也に向けてのジュナの発言は当たらずも遠からずなものだった。


「どうせ過労死しても蘇られると思っているんだろ?カムータさんやノムキナも心配してたぞ?ちゃんと自分の体にも気を遣わないと駄目だぞ?」

「大丈夫ですよ。僕そこまで働き者ってわけじゃないですし、後コーセスとセザキアに行ったら二日ぐらいゆっくりする気ですし」

「それならいいんだけどな」


 そう言いながらもまだ不満そうだったジュナだったが、ユーダムに着いたことで話は終わり、二人はそこで別れた。

 ユーダムに着いた恭也が早速カムータの家に行くと、カムータは二人の村人と話をしているところだった。


「お話し中すみません。帰って来たんで一応あいさつだけでもと思って」


 そう言ってカムータたちに声をかけた恭也をカムータは家の中に招き入れた。


「おかえりなさい。ティノリスの方は片付いたんですか?」

「はい。まだ完全に終わったわけじゃないですけど、今のネースと同じぐらいには落ち着きました。火の魔神も仲間にしたんでその内紹介します」

「さすがですね。しばらくはゆっくりできるのですか?」

「はい。後コーセスとセザキアに報告に行ってそれから二日ぐらいはゆっくりしようと思ってます。大分留守にしちゃいましたけど、何か変わったことなかったですか?」

「細々したことはいくつかありましたけど、一番困ってるのはゴーズンの囚人たちが生活環境の改善を要求してきたことですね」

「生活環境の改善?」

「はい。詳しいことはこれに。研究所からの報告も一緒にしてあります」


 そう言うとカムータは、後ろの棚から数枚の紙を取り出して恭也に渡した。


「分かりました。とりあえず読んでからどうするかは決めて、その後は僕の方からゴーズンの人たちには伝えます」

「はい。そうしてもらえると助かります」


 報告書を受け取った恭也は、その後すぐにセザキア王国のいつもの住居に転移した。

 いつもの様に恭也が待っていると、一時間程してアロガンが現れた。


「お待たせして申し訳ありません。今日はどういった御用件ですか?」


 到着してからしばらく雑談をした後、アロガンに用件を尋ねられた恭也は、クノン王国でしたのと同様の説明をした。


「なるほどティノリスの変化と異世界人は無関係でしたか…」

「はい。ティノリスにいた異世界人、ガーニスさんは話せば分かる人でしたよ。ただ怒らせると手に負えないと思いますけど」


 もう二度とガーニスとは戦いたくない。

 そう思いながら恭也がガーニスの説明をしていると、アロガンが質問をしてきた。


「恭也さんでも勝てないのですか?」

「無理です。僕に有利なルールで試合してようやく勝てましたけど、それでもウルとホムラとの三人がかりでようやくでしたからね。ガーニスさんが本気で怒って殺し合いになったら、僕は足止めが精いっぱいだと思います」

「へぇ、……そんなにですか」


 セザキア王国だけでなく恭也と関わった全ての国の王や貴族にとって恭也とは対処不可能の危険人物だ。

 その恭也をして勝てないと言わせるガーニスの存在にアロガンはしばらく黙り込んでしまった。

 そんなアロガンを見た恭也は、心配無いと伝えた。


「大丈夫ですよ。ガーニスさんのいる場所とセザキアは離れてますし、そもそもガーニスさん自分から暴力を振るう様な人じゃなさそうでしたから」

「そうですか。……これから恭也さんはどうするんですか?」


 ガーニスの強さを知り言葉を失っていたアロガンだったが、いつまでも黙り込んでもいられなかったので秘密裏に与えられている仕事を果たすため何気無い口調で恭也の予定を尋ねた。

 そんなアロガンの意図など知る由も無く恭也は現在の予定を告げた。


「フォッグさんが探してくれた人を治療したら、その後はネースに戻ってしばらくゆっくりするつもりです。長いこと自治区を留守にしちゃったので」


 恭也の治療という言葉を聞き、アロガンは心中複雑だったが顔には出さなかった。


「そうですか。では私は城に帰り上司にティノリスの件を報告します。ティノリスの情勢が安定したと聞けばみんな喜ぶと思います」

「はい。戦争を未然に防げたのは素直によかったです」


 発言内容とは裏腹にアロガンにとって一番の懸念事項は、恭也が魔神を手に入れただけでなく別の異世界人と友好的な関係を結んだことだった。

 この情報を聞けば、セザキア王国首脳部の多くが驚き、恭也をさらに警戒するだろう。

 しかしアロガンとしては報告しないわけにもいかず、憂鬱な心中を表情に出さないようにアロガンは何とか恭也を笑顔で送り出した。


 アロガンが恭也を送り出してから数時間後、大臣たちとの会議を終えたセザキア王国国王、ザウゼンは、ミーシアを伴い自室へと戻ろうとしていた。

 そんなザウゼンを途中で待ち構えていたオーガスは、ザウゼンに話があると伝えた。


「分かった。ミーシア、ここでいい。お前も自分の仕事に戻れ」

「かしこまりました」


 ミーシアがザウゼンとオーガスにそれぞれ一礼して去った後、ザウゼンの自室で二人は話を始めた。


「父上、異世界人のティノリスでの行動については聞きました。父上はこれでもまだあの異世界人と交流を続けるつもりですか?このままでは我が国もティノリスの様になってしまいます!」


 席について早々声を荒げるオーガスを前にザウゼンは落ち着いた口調で話し始めた。


「お前の考え方は乱暴過ぎる。クノン王国のゼルス陛下とも手紙で確認したが、異世界人との付き合い方はつかず離れずが理想だ。戦いになれば必ずこちらが負けるのだぞ?」

「父上は異世界人の家畜になるとおっしゃるのですか?」

「争いを前提に考えるなと言っている。あの異世界人のおかげでさらわれた国民の多くが救われ、我が国に新しい技術も入ってきた。こんな状況で異世界人と事を構えて、我が国に何の得がある?」

「そうして異世界人の力に頼り切ったところであの異世界人が我が国の領土を求めてきたらどうするのです?今日だってあの異世界人は、我が物顔で我が国で怪我人の治療を行ったのですよ?しかも貴族や資産家ばかりです!今の内に異世界人とのつながりを絶っておかなくては、近いうちに必ず取り返しのつかないことに、」

「もうよい」


 それ程強い口調でも大きな声でもなかったが、強い拒絶の意思を感じさせたザウゼンの言葉にオーガスは思わず黙り込んでしまった。

 そんなオーガスにザウゼンは言い聞かせるように話しかけた。


「いいか、オーガス。王の判断には多くの国民の命がかかっている。民あっての国だ。国の体面など些細なことだ。一度頭を冷やして考え直せ」


 そう言われたオーガスは、追い出される様にザウゼンの部屋を後にした。

 この時のオーガスの眼をザウゼンが見ていなかったことは、ザウゼンとオーガス双方にとって不運だった。


 アロガンと別れた恭也は、三日ほどかけてフオッグの探してくれた人々の治療のためにセザキア王国中を転々としていた。

 別に急ぎの用も無いため『空間転移』を使わずに姿を消してセザキア王国中を飛び回った恭也は、今回の分の治療を終えてホムラと合流した後、そのままコーセスへと向かって飛んでいた。

 合流早々、ホムラはティノリス皇国が行っていた魔術の研究に関する資料の押収に時間がかかったことを謝ってきた。


(お待たせして申し訳ありません。実を申しますと、まだ全部は終わっていないんですの。ティノリスで一番大きい研究機関はノリスではなくザボンという街にありまして、そこから資料を取り寄せるだけで一週間近くかかりそうですの)

(そればかりはしかたないよ。僕が立ち会わなくてすむだけでも助かってるし、別に急がないから気楽にやって。いやでもその研究所に捕まってる人たちがいたら急いだ方がいいか)


 コーセスでの用事を後回しにしようか考えた恭也だったが、その心配は不要だった。


(それに関しては心配いりませんわ。マスターの心配された通り研究所には多くの人間が捕らわれていましたがすでに解放済みで、ギズア族は私の眷属を護衛につけてガーニス様のもとに送り出しましたわ。死体もいくつか回収しましたけれど、凍らせて保存していますから時間を見つけて蘇らせていただければ十分ですわ)

(…悪いんだけどその死体はホムラが封印されてた場所に運んどいてくれる?人を蘇らせる能力何度も使いたくはないし)


 死後三十分以上経っている人間を蘇らせるためには恭也の魔力を三万消費する。

 できるだけ使用回数を減らしたいというのが恭也の本音だった。


(了解しましたわ。……気がつかなくて申し訳ありません)


 恭也に研究資料の押収を命じられていたホムラは、それと並行してティノリス皇国の財政や権力闘争に関する多くの情報を集める気配りを見せていた。

 それにも関わらずホムラが恭也が死者蘇生を行う際の気遣いを忘れたのはホムラがうっかりしていたからではない。


 ホムラにとって人命救助の優先順位が低かったからだ。

 恭也の手前口にはしないがホムラもウル同様人間に大して興味を持っていない。

 そのためティノリス皇国の現状把握にばかり気が向いてしまい、被害者たちの死体への興味など凍らせた時点で消え失せていた。


 ティノリス皇国の現状把握は完璧に行ったと自負していただけに、今回のこの失敗はホムラにとって大きかった。

 もっとも眷属数十体を指揮して今も複数の仕事を同時行っているホムラを責めるつもりは恭也には無かった。


(そこまで気にしなくてもいいよ。それよりキースさんに加護与える件は大丈夫?)

(はい。それは問題ありませんわ。加護を与えること自体は簡単ですもの)


 今回恭也はキースにホムラの加護を与えるつもりだった。

 キースのことは信頼していたし、闇属性と違い火属性の魔法なら直接的な犯罪しかできない。

 キースに加護を与えて問題無かったら徐々に加護持ちを増やしたいと恭也は考えていた。

 コーセスに着いた恭也は、キースを見つけ出してホムラの加護を与えることを提案した。


「だ、大丈夫なんですか?」


 いきなり魔神の加護を与えると言われ、キースは緊張した様子だった。

 恭也は、そんなキースにすでに他の者にも行っているので問題無いと伝えた。

 別に実験のつもりは無かったが、以前サキナトを潰す際に構成員たちにウルの加護を与えた。

 その後彼らに後遺症が出たという話も聞いていないので大丈夫だろう。

 ホムラによる加護の付与自体はすぐに終わり、加護を与えられたキースは恐る恐る精霊魔法を使用した。


「うわっ!」


 軽い気持ちで魔法を使ったら直径二メートル程の火球が出てしまい、キースは驚きのあまり後ろに倒れこんでしまった。

 離れて恭也たちの様子を見ていたコーセスの住人達の驚いた声が恭也の耳に届いた。


「大丈夫ですか?」


 勢い余って火傷などしていないかと心配した恭也がキースに駆け寄ったが、恭也が見たところキースにけがは無かった。


「大丈夫です。それにしてもすごいですね。これで俺、ずっと精霊魔法が使えるんですか?」

「はい。僕が死なない限りは」


 厳密に言うと恭也がホムラとの契約を解除した場合も加護は消えるが、ホムラが動揺するといけないので恭也は口にはしなかった。


「もちろん今まで通り普通の魔法も使えますし、精霊魔法は応用が利くので色々試してみて下さい」

「分かりました。ありがとうございます」


 その後もし何か問題があったら教えて欲しいとキースに伝えると、連絡用にホムラの眷属を一体役場に配置してから恭也は宿を求めてアズーバへと飛んだ。


 恭也がキースに加護を与えた三日後のセザキア王国の王城の一室で、第一王子オーガスはキスア伯爵と二人きりで話をしていた。


「今日は何の用ですか?」


 急に自分を尋ねて来たキスア伯爵にオーガスは用件を尋ねた。

「以前お誘いいただいた件に協力をしたいと思い、こうして顔を出しました」

「おお、ついに決心してくれましたか!」


 半ば予想していたとはいえ、キスア伯爵が自分の計画に同意を示したことにオーガスは心からの笑みを浮かべた。


「はい。ティノリスの件は聞きました。このままでは我が国もいつ異世界人の手に落ちるか……。決断が遅くなり申し訳ありません」


 そう言って頭を下げるキスア伯爵にオーガスは気にしないように伝えた。


「何をおっしゃるのですか?我が国の未来を憂いて勇気を出してくれただけで十分です。父上を始めとしてすでに異世界人に屈している者が多い中よく来てくれました。伯爵のお力添えがあれば、計画は成功したも同然です」


 嬉しそうにそう言ったオーガスは、キスア伯爵に計画の詳しい内容を話し始めた。

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