表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/244

報告

 クノン王国の首都、メーズに転移した恭也は、近くの喫茶店に入るとティノリス皇国で自分が行ったことを一枚の紙に簡単にまとめた。

 毎回事前の通達無しで王城を訪ねているため、もし誰にも会ってもらえなかった場合に備えて毎回用件を書いた手紙を恭也は用意していた。


 もっともこの世界の言語の読み書きについては、恭也は今でも自信が無い。

 そのためできれば担当者と直接会って話をしたかった。

 セザキア王国の様に大使館の様な場所を用意してくれると助かるのだが、まさか恭也から頼むわけにもいかないためこの様な方法をとっていた。


 用意を終えて王城を訪ねた恭也は、城門でしばらく待たされた後で城の一室に通された。

 恭也がしばらく待っていると、恭也も何度か会ったことがあるクノン王国の軍か騎士団の幹部の男が現れた。


「本日はどの様なご用件でしょうか?」


 あいさつもそこそこに恭也の要件を聞いてきた男に、恭也はティノリス皇国内での出来事を伝えた。


「つまり能様は火の魔神も従えたということですかな?」

「えっ、はい。一応」


 まさか恭也の話を聞いて最初の質問がそれとは思わず、少し困惑した恭也だったが隠す気も無かったため素直に答えた。

 恭也としては隣国ティノリス皇国の情勢が落ち着いたという方が主題だったのだが、恭也を潜在的な脅威と考えて警戒しているクノン王国の幹部からすれば、恭也が新たに魔神を配下に加えたという事実の方が重要だった。


「今紹介していただけますか?」

「すいません。火の魔神は、今ティノリスで仕事中なんです。火の魔神は細かい仕事も任せられるので」

(おい、俺が馬鹿だって言いたいのか?)

(ホムラの仕事手伝いたいって言うなら止めないよ?)

(…今からあいつの手柄奪うのも悪いから、俺は先輩として我慢してやるよ)

(あっそ)


 白々しい言い訳をするウルとの会話もそこそこに恭也は男との会話を続けた。


「魔神にどんな仕事をさせているんですか?」

「ティノリスが持ってる研究資料の押収とか捕まってるギズア族を解放するように書いた立て札の設置とかです」

「押収した資料の内容は我が国にも教えてもらえますか?」

「それは構いませんけど、ただでは駄目ですよ?」

「もちろんです。ですが代金に関しては内容次第ですので、内容を簡単にでも教えてくれませんか?」


 これまでのやりとりから恭也がただで教えてくれることを期待していた男は、料金を要求されたことに内心舌打ちしながら恭也に商品の内容を尋ねた。


「うーん。すぐに役立ちそうなのは悪魔の誘導とかですかね」

「悪魔の誘導?」

「専門的な説明は分かりませんでしたけど、設置しておけば悪魔を誘導したり逆に追い払ったりできる魔導具があるらしいです」

「ほお、それは素晴らしいですね」

「多分使用に制限はあるんでしょうし、悪魔追い払うだけだと後で面倒になるだけなんで僕としては微妙な技術だと思ってるんですけどね」


 ティノリス皇国の技術は人体実験が基になっているため、恭也としては手放しに誉める気にはならなかった。

 もっとも人が死ぬ度に能力を増やしている恭也が偉そうに批判しても虚しいだけだ。

 それ以上は何も言わず、恭也はティノリス皇国の異世界人とは話をつけたので警戒の必要は無いことを告げると王城を後にした。


 恭也が王城を去った直後、ゼルスを含むクノン王国の幹部たちは、玉座の間近くの会議室で今回恭也がもたらした情報について話し合っていた。


「覚悟はしてたつもりだったが、いざ二体目の魔神も倒したって言われるときついな」

「あの異世界人が言っているだけでまだ確定したわけではないですが、こちらとしては事実だと仮定して行動するしかないですからな」


 ゼルスのぼやきに軍の幹部が相づちを打った。


「わが国としてはどう行動しますか?あの異世界人がティノリスでも影響を強めたとなると、これまで通りというわけにはいかないと思いますが」

「とりあえず今ティノリスが混乱してるって言うなら、間諜を何人か送り込んでくれ。ティノリスでのあいつの評判が知りたい」

「かしこまりました。早速手配します」


 諜報を担当している幹部の返事を聞きながらゼルスは、今後の方針を考えていた。

 本音を言えば異世界人同士で相打ちになってくれた方がゼルスたちとしては都合がよかった。

 その場合ティノリス皇国が開発していたという巨大な化け物と戦う羽目になっていたが、クノン王国だってむざむざ負けはしない。

 何度殺しても蘇ったりいかなる攻撃も受け付けないといったふざけた能力を持った相手でなければ、クノン王国側も秘蔵の魔導具を使えば勝算はあった。


「オルルカがどう動くか次第だな。最悪三方向を同時に警戒する必要がある」


 北方の二つの国の内、オルルカ教国としか隣接していないセザキア王国と違い、クノン王国はティノリス皇国とオルルカ教国の両方に隣接している。

 その上ギノシス大河を挟んだすぐ向こうは、異世界人の支配する自治区だ。

 気がつけば異世界人の支配する地域が南北にあるという状況に置かれていたクノン王国の恭也への警戒は、恭也が考えているより深刻なものだった。


「これでセザキアまで落ちたらおしまいだな」

「セザキアに関しては大丈夫でしょう。第一王子はあの異世界人への嫌悪感を隠そうともしていないと聞いております」


 ゼルスのつぶやきに応えた大臣の発言を聞き、ゼルスが乾いた笑いを浮かべた。


「唯一ありがたい情報だな。はあ、じわじわと攻められてる気分だ。いっそのことはっきりけんか売ってくれねぇかな」


 さすがにこのゼルスの発言にはその場の全員が表情を変えたが、その後誰も口を開かなかった。周囲の出方をうかがっている大臣たちを見てゼルスは苦笑した。


「悪かった。不謹慎過ぎたな。とりあえず今のところは、あの異世界人に介入される口実を作らないぐらいしかできないな。異世界人の自治区への移住希望者への対応はどうなってる?」

「はい。ネースへの内通者を出した責任という形で各地の貴族たちから金を出させ、国民に配ったことである程度は落ち着きました。しかし何度もできる手ではありませんし、貴族からは不満も出ております」

「そりゃそうだろうな。とりあえずはさっき言った通り、情報収集と国内の安定ぐらいしかすることがない。お前らも色んなところから勝手なこと言われて大変だろうが、よろしく頼む」


 このゼルスの発言で今日の会議は終了となった。


(ってな感じだったぞ)

(うーん。クノンをどうこうする気無いんだけど、ティノリスでしたこと考えると無理も無いか)


 ゼルスたちが自分に対して警戒心を抱き、無駄に神経をすり減らしていることをウルの盗み聞きで知った恭也だったが、これに関しては恭也がいくら大丈夫と言ってもゼルスたちは納得しないだろう。

 恭也としても困ったものだった。


(あっちのお望み通りけんか売ってやればいいじゃねぇか。恭也が支配してやれば、あの王も気が楽になるだろ)

(やだよ。ティノリスだってホムラがいなければもっと手間取っただろうし、これ以上手を広げるなんてありえない)

(ふーん。まあ雑魚相手にしても暇つぶしにしかならないから無理にとは言わねぇけどな)

(クノンは国内安定させるって言ってるし、セザキアの方も国内に大きな問題も無いしね。そうほいほい問題も起こらないだろうし大丈夫でしょ)


 ただオルルカ教国に関しては、恭也も多少不安ではあった。

 今まで警戒していた国が異世界人の介入を受けた状況で、もう戦う意思はありませんと当の恭也が言って信じてもらえるか不安だったからだ。


 ティノリス皇国とオルルカ教国の国境近くにギズア族の居住地があるということも不安要素だった。ガーニスがいる以上ギズア族がオルルカ教国に迫害される可能性は無いが、オルルカ教国側に死者が出る可能性はわずかながらあった。


 ガーニスの事は信用しているが、オルルカ教国側の出方次第ではガーニスも黙ってはいないだろう。とりあえずユーダムとコーセスに顔を出してから、一度オルルカ教国にも顔を出そう。

 そう決めた恭也は、今度はユーダムへと転移した。


 恭也は、ユーダムに転移する際はユーダムの東の郊外に転移している。

 この辺りは街道や街も無いため、誰にも迷惑がかからないからだ。

 コロトークにティノリス皇国で手に入れた研究資料について話さないといけないし、ホムラの眷属を使った見回りについてジュナたちの意見も聞きたい。


 また今回はコーセスに行ってやりたいこともあったため、しばらくネース王国内に留まる予定の恭也だったがとてもゆっくりはできそうになかった。

 何から手をつけようかと考えていた恭也だったが、近くの森から人が草を踏み分ける音が聞こえたため考えを中断した。


 カムータからこちらの方に何か作るという話は聞いていなかった恭也だったが、この辺りは別に誰の土地でもない。

 ユーダムの住民が数人で狩りでもしているのだろうと恭也は考えていたのだが、森から出て来たのは恭也もよく知っている人物だった。


「あれ?ジュナさん、こんなところで何してるんですか?」


 小さな荷物だけを持って森から出て来たジュナは、話しかけられたことに驚いた様子だったが話しかけたのが恭也だと気づきすぐに近づいてきた。


「私は昨日休みをとって、森で野営していたんだ。森の中で暮らしてた時期が長いから、人が多いところはどうも落ち着かなくてな」

「ん?でもそれだとメーズでの暮らしって大変なんじゃ?」

「ああ、すっごく肩がこるぞ。城の中はあっちこっちで腹の探り合いしてるし、お母様とロップと住んでた場所は割と静かな場所だけど、それでも夕方ぐらいまではうるさいからな。私が悪かったとはいえ、引っ越しのきっかけになったあの件は今でも後悔してるぞ」


 ジュナにそう言われ、恭也はメーズで聞いた話を思い出した。

 母親と二人で静かに暮らしていたジュナが前国王の隠し子だと知られるきっかけになった騒動のことを。


 しかしジュナに対して恭也ができることなど何も無い。

 ジュナの今の状況には同情するが、一時的に来てもらっているだけのジュナにあまり突っ込んだことを言うのはまずい。


 そう考えてこのままユーダムに向かおうとした恭也だったが、以前ロップから聞いた話を思い出してつい口を滑らしてしまった。


「もしジュナさんさえよかったら、ずっとユーダムにいられるようにゼルスさんに頼みましょうか?」


 恭也のこの発言を聞き、ジュナは最初何を言われたか分からなかった。

 しかし恭也の発言を理解するにつれてジュナの表情は変わり、最後には笑い出した。


「いきなり何を言ってるんだ、恭也は。そんなことできるわけないぞ!もちろん恭也が言えば陛下だって嫌とは言えないだろうけど、確実に不快に思うはずだ。野営ぐらいクノンでもできるし、そこまでしてもらう必要は無いぞ」

「…そうですか。まあ、無理にとは言いませんけど」


 ジュナが国の目の届かないメーズの外に出るのは、今回の様な件でもなければまず無理らしい。

 監視が行き届かない森の中で休日を過ごすことなどまず不可能で、かなり窮屈な生活を余儀なくされているとロップから恭也は聞いていた。

 しかし当のジュナに断られた以上、恭也としてはジュナの嘘を指摘することはできなかった。


「それより一度帰ってきただけでずっとティノリスに行ったきりだったけど、魔神や異世界人の件はうまくいったのか?」


 露骨な話題変換だったが、これは恭也にとっても好都合だったのでそのまま話を続けた。


「はい。火の魔神は無事仲間にできましたし、異世界人とも何とか話はつけられました。ただティノリス自体が思ってたよりひどくて…」


 恭也は、ティノリス皇国での出来事をジュナに手短に説明した。

 恭也のティノリス皇国滞在が長引いているため、ジュナだけでなくユーダムの住民全員が恭也がまた何かやっているのだろうとは思っていた。


 しかしまた国一つを相手に騒動を起こしているとは思っておらず、ジュナはどこから突っ込めばいいのか分からなかった。

 そこでジュナはとりあえず一番気になったことを聞いてみた。


「そのフーリンとかいう王女は、本当に大丈夫なのか?十歳の子がいきなり女王なんてできるわけがないぞ」


 いきなり王家の血を引いていると言われて面倒なことになったジュナだが、それでも結局王女になったわけではない。

 そんなジュナですら今も苦労しているのだ。

 心の準備をする暇も無く女王になった少女のするであろう苦労など、ジュナには想像もつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ