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来訪

 ノリスに着いた恭也は、早速城の地下牢からオルガナを含むティノリス皇国の首脳陣数人と四天将を始めとする軍の幹部、合わせて十数名を連れてきた。

 さらったギズア族の人々を奴隷扱いしていた者は他にも百人近くいたのだが、ガーニスと戦う可能性がある以上あまり大勢に『不朽刻印』はつけられない。


 魔力を少しでも温存しておかなくてはいけないからだ。

 そのためガーニスのもとに連れて行く人間は最小限に留める必要があり、残った者たちはその内ノリスの近くに建てる予定の刑務所に収容するつもりだった。


「一人も逃げないのは意外でした。特にデモアさんは逃げられると僕も追跡のしようが無かったんですけど」


 城の外に連れ出された者たちの中で唯一デモアだけは『不朽刻印』をつけられていなかった。

『不朽刻印』は対象が恭也に精神的に屈服していなければつけられず、デモアは負けこそ認めているものの他の四天将たちの様に恭也を恐れてはいなかった。


 そのため『不朽刻印』をつけられず、デモアが部下の手を借りて逃げるのではと恭也は心配していた。

 余計な手間をかけずにすみ、ほっとしていた恭也の視線を受けてデモアが口を開いた。


「見損なうな。オルガナ様を連れ出せるならまだしも私一人逃げても意味が無い」


 束縛を受けて地面に膝をつきながらもデモアの視線は鋭いままだった。


(ご不快でしたら、この男に私が礼儀を教えますわよ?)

(別に驚いただけで不快ってわけじゃないよ)


 敗軍の将の身でありながら今も恭也から視線をそらさないデモアの姿はホムラにとっては許しがたいようで、ホムラ自身がデモアに不快感を持っているのが恭也に伝わってきた。

 そんなホムラをなだめつつ、恭也はデモアとの話を続けた。


「でも北に逃げて、フーリン王女と一緒に抵抗するって手もあったんじゃないですか?」

「この短期間で我が軍を倒した相手にこれ以上抵抗しても、余計な犠牲を出すだけだ。王女たちにその様な真似はさせられない」

「そうですか。とりあえず王女様と王子様、それに兵士のみなさんにも手荒なことをする気は無いんでその辺は安心して下さい」

「その点については感謝する」


 そう言って恭也に軽く頭を下げてくるデモアを見て、恭也は舌打ちしたくなった。


(こいつぐらいは残しといてもいいんじゃねぇか?まだガキの王女一人で国の運営なんてできるわけねぇし)


 ガーニスとの決着が仮についたとしてもその後恭也が長い時間をかけてティノリス皇国の改革を行うことに関してはウルも諦めていた。

 しかしつまらない時間は短いに越したことはないため、ウルとしてはティノリス皇国に少しでも人材を残しておきたかった。

 しかしウルのこの提案は、恭也にしては珍しい強い口調で拒否された。


(駄目だよ。この人、武骨な武人みたいな顔しといて、逃げるギズア族の人たち殺しまくってたらしいから)

(ん?そうなのか?)

(洗脳した兵士何人かに聞いたから間違いない。というかその時ウルもいたよね?)

(雑魚との話なんて一々聞いてねぇよ。あの盾野郎に負けて機嫌悪かったし)

(ウルさん、マスターは戦闘以外でも私たちに期待している様子ですわ。ウルさんの方が属性としては役に立ちやすいのですから、しっかりして下さいまし)

(あー、めんどくせぇ。そういうのはお前に任せる。お前、そういうのも得意そうだし。戦い以外の雑用の時は、お前の命令も聞くから細かいことは任せた)

(ウルさん!)


 その後もウルに何か言おうとしたホムラだったが、突如として響いたオルガナの声に邪魔されてホムラはオルガナに視線を向けた。

 恭也を始め周囲の人間の視線を一身に受けたオルガナは、声を張り上げて恭也に自分の子供たちの命乞いをしてきた。


「お願い、あの子たちだけは助けて!二人共まだ国のことには何も関わっていないの!あなたに抵抗するだけの後ろ盾もあの子たちには無いし、今後あなたの邪魔になることはないわ!」


 必死に自分の子供たちを追う必要が無いことを訴えてくるオルガナに恭也はすでに王女たちに追っ手を出していることを告げた。


「もう魔神の力を使って王女たちに追っ手は出しています。王女様にはみなさんの代わりにこの国を運営してもらわないといけませんから」


 ただでさえユーダムとコーセスに顔を出せなくなり困っている中、ティノリス皇国の面倒までは見ていられない。

 かといってそのまま放置して権力争いで内乱が起こっても困るので、恭也としても新しい統治者は必要だった。


 王女なら血筋も問題無く恭也が彼女を正式なティノリス皇国の後継者に認めると言えば誰も表立っては逆らえないだろう。

 実務に関してはギズア族への迫害に反対して左遷された人々も多いらしいので、彼らに任せれば大丈夫だろう。

 そうした自分の考えを恭也はオルガナに伝えた。


「お願い、私はどうなってもいいからあの子たちだけは……」


 とうとう涙を流し始めたオルガナに恭也は罪悪感を覚え始めたが、オルガナの弟、シグンの所業を思い出してオルガナの懇願を切り捨てた。


「あなたの弟のとこにいたギズア族の女の子たち、十三歳の子までいたんですよ?あなたの弟があの子たちに何をしたかなんて知りたくもないですけど、これを放っておいてずいぶんむしがいいこと言いますね。まさか知らなかったなんて言いませんよね?」


 不機嫌そうにオルガナを問い詰める恭也を前にオルガナは何も言い返せず、少し離れたところでシグンも身をすくめていた。


「勘違いしてるかもしれませんけど、僕この国をどうこうする気はありません。魔神を仲間にしに来ただけなのに面倒事に巻き込まれて困ってるぐらいです。皆さんと違って世界征服なんてする程ひまじゃないんで」


 聞きようによっては勝手な言い分に聞こえる恭也の発言を聞いても、その場の誰も言い返すことはできなかった。


「さてとそろそろ行きましょうか。ガーニスさんたちがしびれ切らしても面倒ですし」


 その後恭也はオルガナたちを伴いソパスを目指した。


 三日後ソパスに着いた恭也は、ヘーキッサ、カタク、ネパの三人を迎えに行った。

 もしかしたらオルガナたちが勝っているかもしれないと期待していた三人だったが、捕えられているオルガナたち、そして以前は連れていなかったはずの魔神を連れている恭也の姿を見て心が折れたようだった。


 一切抵抗する様子も無く三人は捕えられているオルガナたちと合流した。

 この時点で夕暮れ前だったため、恭也はソパスを出発するのは明日にしようと考えた。

 オルガナたちを運ぶだけなら中級悪魔に運ばせての強行軍も可能だが、今の恭也はノリスで助け出した少女たちを連れている。


 これまでに各地で助けたギズア族は最低二百人はいる集団で、男も多数いた。

 そのため護衛もつけずに送り出したのだがノリスで助けた彼女たちはほとんどが十代の少女たちで、彼女たちに後は自力で同族のもとに行って下さいとはさすがに恭也も言えなかった。


 そうしたわけで彼女たちが同族と合流できるのは四日後だと考えていた恭也だったが、その予定ははソパスを訪れた集団により変更を余儀無くされた。

 何やら騒がしいソパスの住人のもとに恭也が向かうと、住人たちをかき分けるまでもなく騒ぎの原因は分かった。

 離れたところからでも目立つ巨体が恭也の目に入ってきたからだ。

 恭也は急いでガーニスに近づいた。


「ガーニスさん、どうしてここに?」


 ここまでガーニスたちが何もしてこなかったため、恭也はガーニスたちが本拠地で待っているものだとばかり思っていた。

 しかしこうしてガーニスがここにいる以上、油断はできない。

 どの街からも助けを求める声は聞こえないので、そこまで心配する必要は無いと思うのだが……。

 緊張のあまり次の言葉が出てこない恭也にガーニスが声をかけてきた。


「そんなに警戒しないで欲しい。私たちに君と敵対する気は無い。捕らわれたギズア族だけでなく、悪魔を作る材料にされていた者たちまで助けてくれたと聞いている。本当にありがとう」


 深々と頭を下げてきたガーニスだったが、体格差のせいで恭也は威圧されてしまった。

 それでも何とか恭也は返事をした。


「わざわざありがとうございます。でもそっちから来てくれて助かりました。ティノリスの首都で助けた人たちを連れて行こうとしてたんですけど、今連れてきてもいいですか?」

「ああ、構わない。さらわれていた彼らをわざわざ連れてきてもらうのも悪いからね。ついでにティノリスの女王たちももらっていこう」

「僕の提案を受けてくれるってことですか?」

「ああ。これ程尽力してくれた君の提案だ。あの時すぐに君の提案を受け入れられなかったことを許してくれ」

「いえ、いきなり信じろって言っても無理だったのも分かりますから気にしないで下さい」


 これまでしてきたことが功を奏したようで恭也は安堵のため息をついた。

 ガーニスの了承を得た恭也は、ホムラの眷属を二体召喚して彼女たちを迎えに行かせた。


「今のは魔神の能力か?」


 突然現れた眷属にガーニスは驚いた様子で質問してきた。


「はい。ノリスに行くついでに封印されてた魔神を仲間にしました」

「ティノリスの相手をする合間に魔神まで。……すごいな、君は」


 心底感心した様子のガーニスに恭也は苦笑した。


「魔神に関してはずるい手使って勝ったので、そこまでは……。ガーニスさんなら多分普通に勝てるでしょうし」

「そうか。もっとも私は当分ギズア族と行動を共にするつもりだ。魔神と戦う機会は無いだろうな」


 その後も恭也が『不朽刻印』やティノリス皇国の各街に今もいるであろうギズア族の救出予定についてガーニスに説明を続け、二人の会話はなごやかに進んだ。


(何かこのまま終わりそうだな)

(正直拍子抜けしましたけれど、まあ、よかったですわ。これから忙しくなるんですもの)


 ガーニスとの戦闘を回避できそうな流れに、ウルとホムラは残念と安堵が入り混じった感情を抱いた。

 そんな時ホムラの眷属がギズア族の少女とオルガナたちを連れて来た。

 後は彼女たちをガーニスに引き渡すだけだと誰もが思っていたのだが、突然カタクが口を開いた。


「騙されるな!そいつは自分の能力を増やすために我々を利用しただけだ!ここで気を許したらまた似たような騒ぎを起こすぞ!」


 突然のカタクの発言に恭也を含む誰もが反応できない中、ガーニスだけがカタクの発言に反応した。


「能力を増やす?どういう意味だ?」

「そのままの意味だ!そいつは他人が死ぬ度に能力を増やすことができる!今回だってさぞ能力が増えたことだろうよ!」

「この男の言っていることは本当か?」


 先程までとは違い険しい表情で探るように質問してくるガーニスを見て、恭也は自分の失敗を悟った。

 恭也は自分が他人の死で能力を獲得できることをティノリス皇国の人間に伝えていた。


 ティノリス皇国の人間がギズア族に危害を加えないように伝えたのだが、この事実を面倒な時にばらされてしまった。

 恭也は何とかガーニスの疑いを解こうと口を開いた。


「その人の言ってることは本当です。ティノリスに来てから、えーっと、四つ増えました。一つは、魔神との戦いで死んだ時にですけど」

「自分が死んだ時?君は蘇ることまでできるのか?」

「はい。そういう能力なんで……」


 呆れた様なガーニスの視線を受け、恭也は返事に困った。しかしこのまま黙っているわけにもいかないので何とかガーニスの誤解を解こうとした。


「別に能力増やすためにこの国に来たわけじゃありませんよ。そもそも能力増やすだけならガーニスさんたちのすること黙って見てればよかったんですから」

「お前たちが行動を始めたちょうどその時にこいつが現れたんだぞ!どこかで介入する時機を見計らっていたに決まってる!」


(うっぜえな、こいつ)

(落ち着いて下さいまし、ウルさん。確かに耳障りですけれど、今この男を黙らせるわけにはいきませんわ。今この男に手を出しても、マスターの心証が悪くなるだけですもの)


 ホムラの言う通り、今恭也たちがカタクを黙らせたら口封じにしか見えないだろう。

 どうしたものかと悩む恭也たちの前でカタクはさらに口を開いた。


「能力を増やし、魔神を従え、我々の持っていた魔導具まで奪った!その上お前たちに恩まで着せようとしているんだぞ!こいつは闇の魔神の力で他人を洗脳することができる!我々の行動もこいつに誘導されていた可能性だって、」

「もういい、静かにしてくれ」


 調子に乗りガーニスを扇動しようとするカタクを当のガーニスが黙らせた。


「私と彼を戦わせようとしているのだろうが、私もそこまで愚かではない。君たちは軍の作戦会議に参加している人間が闇魔法を使われていないか確認しないのか?」

「もちろんしている!だが魔神の魔法なら察知できない可能性だってある!我々も被害者だ!」


 闇属性の魔法による洗脳は、かなり簡単に見破ることができる。

 洗脳された相手は受け答えがあいまいになる上に、魔法の効果が長時間持続しないからだ。

 そのため洗脳した人間に諜報活動をさせるのは不可能とされている。


 その上闇属性で洗脳されていた人間は操られていた時のことを覚えているため、発覚も早い。

 しかし魔神ならそれらの不可能を可能にできるという暴論で話を進められると、恭也としてはそれを否定できない。


 ネース王国の上級悪魔の件で自作自演を疑われた時もそうだったが、恭也たちの能力の限界は恭也たちにしか分からないからだ。

 もはや自分たちが恭也に操られていたという前提で話を進めるカタクだったが、そんなカタクにガーニスは一つの質問をした。


「仮に君の言う通りだとしよう。だとしたらどうしてこの期に及んで君にそんなことを言わせるのだ?」

「このままでたらめを言ったなどと言って私たちを殺すつもりなのだろう!その後は隙をついてお前の番だ!せいぜい気をつけるんだな!」


(…恭也、こいつ一回黙らせようぜ)

(マスター、ガーニス様との関係については後で考えればいいですわ。とりあえずはこの男の処置を)


 恭也の許可さえ不要なら今にも恭也の体から出てカタクを襲いそうな二人を恭也はなだめた。


(まあまあ、落ち着いて。ガーニスさんが何か言いたそうだし)


 恭也にそう言われ、ウルとホムラはガーニスに視線を向けた。


「気を遣ってくれて感謝する。だが君と彼なら、私は彼を信用する」


 カタクから視線を外したガーニスはまっすぐに恭也に視線を向け、それを見たカタクは取り乱した。


「なぜだ!あいつはどんな方法で私たちを欺くか想像もつかないのだぞ!」

「私と私が守っているギズア族は、彼の能力でどうにかなる心配は無い。彼に何か企みがあったとしても、すでに多くの人間の命を奪っている君たちと敵である君たちすら殺さずに済ませた彼。現時点でどちらを信じるかなど、考えるまでもないと思うが?」


 自分の話を全く信じていないガーニスを見て、ようやくカタクは自分の企みが失敗したことを悟った。

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