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修正パッチ

「今のあなたの魔力は九万ちょっとです。魔力が九万五千以上あれば二発目の『ゴゼロウカ』も何とか撃てますけど、今の魔力じゃそれも無理ですよね?」

「どうしてわたくしの切り札を?まさか私の魔力を消費するために殺されていたとでも言いますの

?」


 自分の切り札の存在どころか名前まで恭也に言い当てられ、恭也と戦い始めてから初めて焦りを見せた火の魔神に恭也は冷たく言い放った。


「あなたとは性格が合いそうにないんで契約はすぐに切らせてもらいますね」

 そう言うと恭也はトキクシで獲得した二つ目の能力、『救援要請』に対して『能力強化』を発動した。

『救援要請』は恭也がこの能力を獲得してから会ったことがある相手をこの場に召還できる能力だ。

『空間転移』の他者版とも言える能力で、別に恭也の身に危機が迫っていなくても使用できる。


 この状況で呼び出す相手は当然ウルの知り合いの中で一番強いウルだ。

 本来この空間には封印されていた魔神以外の魔神は入れないのだが、元々発動に一万の魔力を消費する強力な能力、『救援要請』が『能力強化』で強化されたことで、その不可能が可能となった。


 空間の一部が歪み、次の瞬間には恭也と火の魔神の前にウルが姿を現していた。

 突如として現れたウルの正体に気づき、火の魔神はあまりに想定外の事態に今までの余裕の表情をかなぐり捨てて恭也に質問をぶつけた。


「すでに他の魔神と契約をしていただなんて…。いえ、それより一体何をしましたの?ここに私以外の魔神が入れるわけが…」


 慌てふためく火の魔神を前に恭也は余裕の笑みで謝った。


「すいません。あまりにパワーバランスがおかしかったんで、勝手に修正パッチあてさせてもらいました。一対一なら確実にあなたが勝ってましたから負けたの恥ずかしがる必要無いですよ」

「ちょ、調子に乗らないで下さいまし。いくら私と同じ魔神といえど、この空間ではまともに、」


 この空間は、火の属性以外の精霊はいない火の魔神の独壇場だ。

 そのため仮に他の魔神が来ても自分に対抗できないはず。

 そう考えた火の魔神だったが、目の前の魔神が大量の闇の精霊を連れていることに気づき言葉を失った。


「呼ばれることが分かってたんぜ?準備ぐらいしてるに決まってるだろ」


 狼狽する火の魔神の視線に対し、ウルは余裕の笑みを返した。


「じゃあ、そろそろ終わらせましょうか。ウル、手っ取り早く『ミスリア』二連発でお願い」

「えっ、俺魔力六万しか残ってねぇぞ」


 いざとなったら自分が呼ばれるということしか聞いていなかったウルは無茶な命令をされて慌てた。

 しかし命令した恭也は、余裕の表情を崩さなかった。


「大丈夫、二発目の魔力は僕が用意するから」

「あっそ」


 命令を受けたウルはそれ以上考えるのを止めると久しぶりに『ミスリア』を発動した。

 これに火の魔神が対抗するためには火の魔神も自身の最強の技、『ゴゼロウカ』を使うしかなかったが、恭也をいたぶり続けた結果、今の火の魔神は『ゴゼロウカ』を二発使うことができなかった。


 魔神それぞれの切り札は使用に魔力を五万消費するが二回目の消費の際には魔力をわずかに残して使用できる。

 そうなければ二回目の切り札を気軽に使えないからだ。


 しかしそれも魔力の消費が少ない時の話で、今の火の魔神には当てはまらなかった。

 すでに契約している闇の魔神と違い、誰とも契約していない火の魔神は魔力がなくなった時点で負けとなる。


 つい先程まで目の前の人間をどういたぶるかを考えていたはずなのに、気がつけば自分が追い込まれていた。

 いつの間にこうなったのか愕然とする火の魔神の見ている前で闇の魔神が魔力を解放し始めた。


 こうなったら火の魔神も『ゴゼロウカ』で対抗するしかなく、闇の魔神の主の発言がはったりであることを祈りながら火の魔神も魔力を解放し始めた。

 やがて全てを侵食する闇と全てを焼き尽くす炎が空間内で激突した。


 魔神の最強の技がぶつかり合っている中で眷属などいないも同然だ。

 火の魔神が召還した眷属は一体残らず消えるか焼き尽くされて瞬く間にこの場から消え去った。

『ミスリア』と『ゴゼロウカ』が正面からぶつかった場合、物理的な破壊力しかない分『ゴゼロウカ』に軍配が上がる。


 そのためしばらく両者の技が拮抗した後で押し勝った『ゴゼロウカ』が恭也とウルに迫ったが、ウルと火の魔神の技がぶつかっている間に恭也とウルの迎撃の準備は完了していた。

『能力強化』で強化した『能力譲渡』を使い、恭也はウルに自分の全魔力を譲渡した。


 これによりウルの魔力は八万近くまで回復して即座に二発目の『ミスリア』を発動した。

 二発目の『ミスリア』は威力が大きく削られた『ゴゼロウカ』をあっさり飲み込み、そのまま火の魔神も飲み込んだ。

 魔力を使い切った火の魔神はなす術も無く消滅し、恭也は二体の魔神を従える存在となった。


「こうして負けた以上、ご主人様の配下に加わりますわ。ご主人様の前に立ちふさがる者をことごとく焼き払ってみせますわ」


 そう言って地面に片膝をついた火の魔神は赤い軍服に身を包み恭也に恭淳の意思を示した。

 先程までの嗜虐的な態度をまるで感じさせない火の魔神を前に恭也は軽い口調で火の魔神の仲間入りを断った。


「すいません。さっきも言いましたけどあなたとの契約解除させてもらいますね」


 恭也のこの発言を聞き、火の魔神は慌てて口を開いた。


「ど、どうしてですの?私を配下にするためにここに来たのではないんですの?」

「はい。そのつもりだったんですけどあなたとは性格が合いそうにないんで」


 ウルの様に戦いが好きというだけなら時々恭也が相手をすればいい。

 しかし火の魔神の様に他者をいたぶる趣味があるとなると話が別だった。

 相対的にではあるが弱者に興味が無いウルの方がましで、今後仲間としてやっていくには火の魔神には不安がある。

 そう考えて火の魔神との契約を解除しようとした恭也だったが、火の魔神が食い下がってきた。


「お待ち下さいまし!先程のご無礼は謝りますわ!ですからどうか私と契約して下さいまし!」


 自分が負けるとは思っていなかったため、先程火の魔神は挑んできた少年を思う存分いたぶった。

 しかし負けて部下となったからには火の魔神は自分を打ち負かした少年に忠誠を誓うつもりだった。

 それなのに当の少年は乗り気ではなく、また火の魔神の予想外のことを言い始めた。


「いえ、さっきのことは何とも思ってないって言ったら嘘になりますけど、そこまで気にはしてません。いい感じの能力もゲットできましたし」


 右手を炎に変えながらそう言った少年を見る限り、確かに火の魔神に対する恨みや憎しみは感じられなかった。


「でしたら、どうしてですの?ご主人様に敗れたとはいえ、私もそちらの闇の魔神と同じ魔神。きっとお役に立てますわ」


 少年の発言にはところどころ分からないこともあったが、今はそれどころではない。

 火の魔神は自分を積極的に売り込んだ。


「私が攻撃しか取り柄がないとお思いかもしれませんが、先程ご主人様にしたように周囲の酸素を奪って相手を無傷で捕えることもできますし、眷属たちは姿を消すこともできます。誘拐でも暗殺でもこなせますし、もちろん捕えた相手への拷問は私自ら、」


 何とか自分を売り込もうとしていた火の魔神だったが、自分の説明を聞くにつれて目の前の少年の自分への興味が薄れていくのを感じて火の魔神は発言を止めざるを得なかった。


「うーん。情報聞き出すのは洗脳魔法で間に合ってるし、やっぱ無理、いや、でも待てよ。二百体の見えない眷属を召還か…」


 火の魔神にとってあまり歓迎できない発言が聞こえきたが、まだ伝えていない眷属の召還の限界を少年が口にしたことに火の魔神は再び戸惑った。

 先程『ゴゼロウカ』を知っていたことと言い、この少年は得体が知れなかった。

 そんなことを思っていた火の魔神の前でしばらく考え込んでいた少年は、またしても火の魔神が予想していなかったことを聞いてきた。


「あなたの眷属って自分で考えて行動できますか?」

「いえ、私の眷属は、私の命令に従うだけの存在ですので……」


 闇の魔神の力ありきとはいえ自分を倒した少年がどうして取るに足らない眷属などに興味を持つのか理解できなかった火の魔神だったが、とりあえず聞かれたことに素直に答えた。


「考えて動けないんじゃ駄目か……」


 自分を倒した少年のこの発言を聞き、火の魔神はここが勝負どころだと悟った。


「お待ち下さい!確かに私の眷属に知性はありませんが、私が随時指示を飛ばせば手足の様に動かせます!ご主人様のどんなご命令でも実行してみせますわ!」

「いや、そうは言っても一ヶ所に二百体いてもしょうが、」


 突然少年が黙り込み、自分の方に視線を、より正確に言うなら頭部に視線を向けているのを感じて火の魔神は戸惑った。

 しかしここで黙り込んでも状況は改善しない。


 とにかく自分を売り込まなくては。

 そう考えて口を開こうとした火の魔神より先に少年が口を開いた。

 それも何故か先程までとは打って変わって、興奮した様子だった。


「すごい!あなたの眷属ってどれだけ離れててもあなたの指示を受信できる上に眷属が見たり聞いたりしたことはあなたも知ることができるんですね!」

「え、えぇ、眷属は私の分身ですもの……」


 特に自分の売りだとも思っていなかったところに食いつかれ、火の魔神が再び戸惑う中、少年が口を開いた。


「うーん。あなたの眷属を召還する能力かなり便利なんで僕としては契約したいんですけど僕多分あなたが欲しいもの用意できませんよ?僕別に侵略や虐殺したいわけじゃないんで」


 自分たち魔神と比べると取るに足らない眷属の一体どこに自分を倒した少年が興味を持ったのか火の魔神には分からなかった。

 しかしどうにか自分の望み通りの展開になったため、火の魔神は改めて自分の考えを新しい主に伝えた。


「もちろん構いませんわ!ご主人様にお仕えできれば、私はそれだけで満足ですもの!拷問はあくまで趣味ですのでご主人様が嫌ならば控えますわ!」

「……そうですか。そうしてもらえると助かります」


 何故か疲れた様子でそう言った少年が火の魔神にホムラと名前を付け、これで火の魔神改め、ホムラは初めての主を持つことになった。


「改めてよろしくお願いしますわ。ご主人様、そしてウルさん」

「うん。よろしくね」

「ああ、よろしくな。この国の件が片付いたら一度ゆっくり遊ぼうぜ。さっきのは一気に終わっちまってつまらなかったからな」

「はい。その時は全力でお相手させていただきますわ」


 物騒な約束をしているウルとホムラに割って入り、恭也は今後の予定を二人に伝えた。


「とりあえずホムラには眷属二百体全部召還してもらってオキケノとツィルバで王女と王子を探してもらっていい?名前しか分からないから難しいと思うけど最悪見つからなくてもいいよ。その時はその時でガーニスさんと決着つけた後で探すから」


 恭也はウルと話す時同様、砕けた口調でホムラに指示を出した。

 最初はホムラの見た目が自分より年上だったため丁寧語で話していた恭也だったが、ホムラの方から止めて欲しいと言われてこのようになった。


「かしこまりましたわ。ですが雑用を任せる眷属を手元に二体残しておきたいですわ」

「ああ、そうか。ごめん。気が回らなくて。もちろんいいよ」


 その後恭也からティノリス皇国の地図を借りたホムラは眷属たちにオキケノとツィルバに向かうように指示を出した。


「さてと、じゃあ後はガーニスさんたちと話をつけるだけだね」

「簡単に言うけど、正直俺たち三人で一斉にかかっても勝てないと思うぞ」

「そんなに強いんですの?」


 三人の中でガーニスの能力を唯一見ていないホムラに恭也は『情報伝播』でガーニスの能力を見せた。


「……これは、すごいですわね。これでほとんど魔力を消費してないんですの?」

「うん。ガーニスさんの残り魔力は盾のせいで見れなかったけど、盾一枚を治すだけならそこまで魔力消費しないみたい」

「ホムラの眷属ぶつけたらどうだ?それならいくらあいつの能力の消費魔力が少なくても、その内勝てるだろ」

「ホムラには悪いけど、あの鎧に蹴散らされておしまいだと思う」

「はい。私の眷属はそれ程強くはありませんので、ご主人様と同格の相手には通用しないと思いますわ」

「うーん、小細工が無い分、あいつ恭也より強くね?」

「ウルさん!」


 自分たちの主を馬鹿にした様なウルの発言を聞き、ホムラが不機嫌そうに顔をしかめた。

 そんなホムラをたしなめつつ、恭也はウルの発言を肯定した。


「僕の能力、攻撃向きのがほとんどないからね。多分他の異世界人ならガーニスさんの盾も壊せるんだろうけど」


 数年前にセザキア王国で暴れた異世界人は上級悪魔と同じ大きさの怪物を同時に何体も召還でき、その上怪物それぞれが全身からの熱線放射、天候操作、空間転移といった異なる能力を持っていたらしい。


 おそらくその怪物たちならガーニスの盾をガーニスの魔力が減る速度で破壊できるのだろう。

 しかし恭也個人の力では一日かけてもガーニスの盾一枚すら破壊できない。

 こればかりはもらった能力の違いなので文句を言ってもしかたがない。

 それに恭也はウルとホムラと違い、それ程悲観していなかった。


「僕が弱いのはその通りだけど、それならそれでやりようあるよ。今回はウルやホムラと戦った時と違って、ガーニスさん倒す必要は無いんだし」

「どういう意味ですの?」

「僕の目的はガーニスさんたちのティノリスへの攻撃を止めることなんだから、別にガーニスさんに勝つ必要は無いよ」

「しかし聞いた限りでは、話し合いの余地は無いのでは?」

「そうそう、あいつら恭也の提案断ったじゃねぇか」


 実際に交渉が決裂した現場にいたウルは、恭也の発言を否定した。

 確かに恭也の『ティノリス皇国の首脳陣を差し出すからそれ以上の侵攻はやめて欲しい』という提案は、先日ガーニスたちに断られたばかりだ。

 しかし今は状況が違った。


 ガーニスたちと別れて数日経った今でも恭也が助けた街、トキクシやソパスがガーニスの攻撃を受けていないことから恭也は自分の計画の実現に自信を持っていた。


「とりあえずノリスに戻ろうか。詳しい話はノリスに向かいながら話すよ」


 この場で死んだまま氷漬けになっている兵士たちには悪いが、今の恭也たちは三人合わせても魔力が三万以下のため彼らをすぐに蘇らせることはできない。

 死体が土に還らない限り蘇生に時間制限はないので、彼らの蘇生はガーニスとの決着がついてからになる。


 彼らに心の中で謝った恭也は、ウルと融合するとノリスに向かおうとした。

 当然ホムラは恭也たちについてくると思っていたのだが、ホムラは何故か地面に立ったまま恭也を見上げていた。


「どうしたの?行くよ?」


 動こうとしないホムラを不思議そうに見下ろす恭也の視線を受け、ホムラは恥ずかしそうに口を開いた。


「……私、飛べませんの」

「えっ……」


 しばらく微妙な間が恭也とホムラの間に漂い、その後恭也は『魔法看破』でホムラを見た。その結果、魔神にはどんな姿になろうと現れる部位が各自にあるということを恭也は知った。

 ウルでいうと物を飲み込む『羽』で、ホムラの場合は頭の左右に生えている『角』がそれにあたるらしい。


 羽の無いホムラは飛ぶことができず、浮遊の類もできないらしい。

 しかたがないので恭也はホムラとも融合し、何の気構えも無く二体の魔神と融合した。

 その結果、ウルだけと融合した時とは違う感覚を覚えた恭也は、今度は自分の体を『魔法看破』で見た。

 その結果おもしろいことになっていることが分かり、恭也は気分を高揚させたまま今度こそノリスへと向かった。

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