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第二の魔神

 ノリスを出発してから一時間程飛び、恭也は予定通り魔神が封印されている場所に到着した。

 魔神が封印されている場所には簡素な小屋があり、その周囲には多数の魔導具や死体が転がっていた。


 恭也は魔神との戦いの前に周囲にいるはずの見張りの兵士に退避するように伝えるつもりだった。それなのにすでに封印の周りに死体が散乱していることに恭也は衝撃を受けた。

『死体探査』によると二十三名の死体が周囲にはあるらしく、中級悪魔二体を召還した恭也は、彼らの死体を集めると、ウルとの融合を解いて彼らの死体を水の精霊魔法で凍らせた。


「すいません。魔神との戦いから帰ったらちゃんと蘇らせます」


 氷漬けの死体に向けて謝罪をした恭也は、振り返ってウルにしばらく待っているように伝えた。


「じゃあ、そろそろ行くよ。早くても一日はかかると思うから、悪いけどこれお願いね」


 そう言って恭也は、魔導具を二十個取り出した。


「めんどくせぇ」


 心底面倒そうなウルだったが、他にすることがあるわけでもない。

 しかたなくウルは、魔導具を羽に取り込んだ。

 そんなウルの様子を見ながら恭也は小屋の中にあった赤く光る石に触り、異空間へと飛ばされた。


 二度目となる魔神の居場所への転移を終えた恭也は、周囲を見回した。

 少し期待していたのだが、ウルが以前伝えた通りウルはこの場所には来ていなかった。

 残念に思いながら再度周囲を見回した恭也は、すぐに魔神らしき存在を発見した。

 魔神も恭也の存在に気がついたようで、恭也と魔神の視線がぶつかった。


「あらあら、ずいぶんと早く次の挑戦者が現れましたわね。それもお一人、先程の方々の仲間かしら?」


 ウルと違い丁寧な口調で話しかけてきた魔神に驚きつつ、恭也は魔神を観察した。

 全身が赤く頭の左右に角が生えているという点を除けば、人間で言うと二十歳前後の女性といった見た目の魔神は、特に恭也に対して敵意の様なものは示してこなかった。

 そんな魔神に対し、恭也は先程の魔神の発言で気になったことを尋ねた。


「さっきの人たちって、つい最近もあなたに挑んだ人たちがいたんですか?」

「えぇ、何やら大きな化け物を引き連れて挑んできましたわ。もっとも見掛け倒しで、話になりませんでしたけれど」


 どうやら先程恭也が回収した死体は、ここ数日の間に魔神に挑んだ人たちらしい。

 しかもゲピスとかいう悪魔もどきまで投入されたようだった。

 おそらくゲピスに使用されていた人々の大半が、この魔神の攻撃で体ごと吹き飛ばされたのだろう。


 死体が残っていなくては、さすがに恭也でも蘇生は無理だ。

 筋違いだと分かっていても、恭也は目の前の魔神をにらまずにはいられなかった。

 一方の魔神は、恭也の視線にもひるまずに涼し気に笑うだけだった。


「あら、怖い。そんなににらまないで下さいまし。あっちから勝手に来たんですのよ?」

「それはそうですね。さてと、そろそろ始めますか?」

「あら、もうおしゃべりは終わりですの?ではまずはお手並み拝見ですわ」


 魔神はそう言うと、自分の目の前に二体の眷属を召還した。

 魔神の見た目から予想はしていたが、この眷属が体中に火を纏っているのを見て今回の魔神が火の魔神だと恭也は確信した。


 すぐに『魔法看破』を発動した恭也は、この眷属の内包魔力が二百しかなく魔力を消費したら傷を負っていなくても消滅することを知った。

 こんな中級悪魔以下の存在ならいくら召還されても構わない。


 むしろ魔力を消費してくれて助かる。

 そう考えた恭也は、この眷属召還で火の魔神がどれだけ魔力を消費したかを『魔法看破』で確認してその結果に愕然とした。


 しかし当然敵は、待ってはくれなかった。

 予想外の『魔法看破』の結果に驚く恭也に二体の眷属が襲い掛かってきた。

 恭也は『格納庫』から水属性の魔導具を取り出すと、眷属たちに照準を定めた。

 大砲型の魔導具から放たれた水球四発がそれぞれ魔神の眷属の体を貫き、眷属たちは程無く消滅した。


「あら、驚きましたわ。ここでそれだけの精霊魔法を使えるなんて」


 自分が召還した眷属があっさりやられたにも関わらず、魔神は驚きこそしたものの全く慌てた様子を見せなかった。


「先程の方たちもそうでしたが、人間の技術もずいぶんと進歩していますのね。ではこれならどうかしら?」


 火の魔神は眷属を五十体召還すると、楽しそうに恭也を襲うように命じた。


「先程の化け物はこれにも耐え切りましたわよ。お一人でしのぎ切れますかしら?」


 魔神がそう言うと同時に眷属たちが恭也に襲い掛かってきたが、まともに付き合う義理は恭也には無かった。

 恭也は『空間転移』で魔神の後ろに転移すると、ゼロ距離で魔神の無防備な背中に大砲型の魔導具を撃ち込んだ。


「なっ…」


 一瞬何が起こったか分からなかった様子の魔神だったが、すぐに体を修復すると炎を纏った腕を振るい恭也に反撃してきた。

 回避できる距離ではなかったため、魔導具だけ『格納庫』にしまった恭也は魔神の攻撃をまともに受けた。


 魔神が腕に纏った炎は、当然のように恭也の『魔法攻撃無効』を突破してきた。

 厳密に言うと、今回の魔神の攻撃は威力が高かったため『魔法攻撃無効』の対象外で、発動すらしなかった。


 そのため魔力を消費しなかったのはよかったが、恭也は炎で焼かれる痛みをそのまま味わうことになった。

 しかもこの攻撃で吹き飛べればまだよかったのだが、恭也は『物理攻撃無効』のおかげで魔神の打撃の影響は受けなかった。

 そのため痛みで動きを止めるだけとなった恭也はすぐに魔神につかまり、そのまま魔神に抱き着かれた。


「う、あ、がっ…」


 何とか悲鳴を押し殺そうとした恭也だったが、魔神が体に纏った火に全身をじわじわと焼かれる痛みに思わず悲鳴が漏れてしまった。

 魔神の抱き着きによる拘束自体は『束縛無効』ですぐにすり抜けることができたのだが、その後魔神は恭也に半端な魔法が通用しないことを悟ると、恭也が無効化できない威力の魔法で恭也の体をじわじわと焼き始めた。


 一気に大技で恭也を殺さない理由が魔力の節約ではないことは、恭也をいたぶっている魔神の笑顔を見れば明らかだった。

 今も嗜虐心あふれる笑顔を向けながら火の魔神は、恭也に近づいてきた。


「もっと泣き叫んでくれてもいいんですのよ?初めて私に傷をつけた人間の悲鳴、もっと聞いてみたいですわ」

「あいにくあなたの趣味に付き合う気はありません」


 何とか魔神にそう言い放った恭也だったが、そこが限界だった。

 体の大部分が炭化した恭也は、あっけなく息絶えた。


「あら?どうして封印されないのかしら」


 初めて自分を傷つけた人間の苦悶の表情に満足していた魔神は、敵を殺したにも関わらず自分が封印されないことに疑問を覚えた。

 先程自分が焼き殺した人間が瞬時に自分の背後に現れたことを思い出した魔神は、出したままになっていた眷属五十体に命じて空間内をくまなく探させた。

 しかし敵を発見したという報告は入って来ず、魔神は途方に暮れた。

 

 一方の恭也は『即時復活』を発動せず、復活までの一時間を使って先程知り得た火の魔神についての情報を思い出していた。

 先程大量の眷属を召還していた魔神だったが、その際に魔神の魔力は一切減っていなかった。


 魔神たちはそれぞれに固有能力を持っており、ウルの場合は魔導具の製造がそれにあたる。

 火の魔神の固有能力、『眷属召還』は、どれだけ燃え広がっても源となった火が減るわけではないという火の性質を体現した能力だ。


 同時に二百体しか召還できないという制限こそあるが、火の魔神さえいれば魔力の消費無しに眷属は無限に召還できる。

 火の魔神の『眷属召還』を突破するには眷属を無視できるだけの高い突破力が必要で、ウル抜きの恭也にそれだけの力は無かった。


(なんか一気にやる気なくなっちゃったな)


 ウル以外の魔神が各属性の魔導具を作れないと知り、恭也のやる気は大きくそがれた。

『魔法看破』は見た対象についての情報を文字通り読み解ける能力で、恭也は対象についての情報を本や辞典を読む感覚で知ることができる。


 魔神に関しての情報となると百科事典二十冊以上の情報を読み解かなければならず、なまじ検索機能らしきこともできたせいで、恭也はウルについての情報すら二十分の一も把握していなかった。

 火の精霊魔法が込められた魔導具の作成が魔神にできないということを先程火の魔神を見てようやく知り、恭也の士気は大きく下がっていた。


 しかも先程の恭也をいたぶっている時の魔神の笑顔を見る限り、火の魔神は性格もかなり悪そうだった。

 仲間にしても精神的に疲れそうなので、何とか倒してその後すぐに契約を解除しよう。


 先程知ったばかりの魔神との契約についての情報を思い出しながら恭也は、そう決意した。

 そして一時間後、蘇った恭也は再び火の魔神の前に現れた。

 魔神に焼き殺された結果『炎化』の能力を獲得したが、火の魔神の前でこの能力を使ってもへたをすると恭也が操られかねない。

 役に立たない能力を獲得してしまうことも多い自分の能力の仕様を嘆きつつ、恭也は魔神と対峙した。


「あら、まさかとは思いましたけど、本当に生きていたのですね。うれしいですわ。また、あなたの苦しむ顔が見れるだなんて」


 そう言って笑う魔神だったが、眷属五体を自分の背後に配置している辺り油断はしていないようだった。

 先程の様ななぶり殺しを何度もされるのは恭也も嫌なので、今回は当初の長期戦狙いは止めにした。


 一応それ以外にも火の魔神に勝つ算段はあるので、なんとか火の魔神の魔力を減らさないといけない恭也は、『眷属召還』以外の能力を火の魔神に使わせるべく戦いを挑んだ。

 恭也はセザキア王国で手に入れた槍の様な魔導具を『格納庫』から取り出すと、近くにいた火の魔神の眷属の足元に突き立てた。


 眷属の足元がみるみる凍りつき、眷属はその場から動けなくなった。

 しかし眷属は全く動じることなく、恭也目掛けて火球を撃ち出してきた。

 火球の威力自体は火の魔神の魔法とは比較にならなかったが、『魔法攻撃無効』を使って魔力を消費したくなかった恭也は、眷属の火球を何とか回避した。


 しかし周りの眷属たちも火球を放ってきたため、恭也は攻撃をよけ切れなくなった。

 その後火球の雨にさらされ続けて身動きが取れなくなった恭也の肩を火の魔神がつかんだ。

『物理攻撃無効』のせいで恭也を動かせなかった火の魔神は、恭也を抱き寄せるのをあきらめるとためらうことなく右手を恭也の顔に押し付けた。


「うっ、わあああ!」


 顔全体を焼かれた恭也の悲鳴が響く中、肉の焼ける臭いが辺りに漂った。

 すぐに火の魔神の手から逃れた恭也だったが、痛みで考えはまとまらず右目は完全に見えなくなっていた。


「あらあら、素敵な声で泣きますのね。もっと聞かせて下さいまし」


 顔の痛みに悶えながら後退する恭也を楽しそうに追い詰める火の魔神に向かい、恭也は水の刃を放った。

 魔導具すら使っていない恭也の攻撃を体に受け、火の魔神は楽しそうに笑った。


「ずいぶんとかわいらしい攻撃ですわね。もうネタ切れですの?」


 一気に間合いを詰めてきた火の魔神が、恭也の腹部を殴りつけた。

 本来なら体を貫通している一撃に対して『物理攻撃無効』が発動した瞬間、恭也は絶句した。

 中級魔神に殴られた時の十倍以上の魔力を消費したからだ。

 恭也がやはり魔神には正攻法では勝てないと悟った一方、火の魔神の方も驚いている様子だった。


「不思議な能力を持っていますわね。私の眷属の魔法だけでなく、私の打撃も効かないだなんて。…いい遊び道具が見つかりましたわ」


 そう言って笑みを浮かべた火の魔神に、その後恭也は徹底的になぶられた。

 手足の一本一本を少しずつ焼かれ、その後も急所以外をじわじわとあぶられて殺された。

 周囲を炎で包まれたと思ったら酸欠に追い込まれ、その後気絶したところを何度も顔を焼かれる痛みで起こされた。


 火の魔神は恭也を炎以外で傷つけられないことが不満なようだったが、それでも終始楽しそうに恭也を自分の魔法で痛めつけた。

 二時間以上に及ぶ火の魔神の遊びで恭也は十四回殺された。

 十四回目の復活をした恭也の表情を見て、火の魔神は驚いた様子を見せた。


「あら、もうあきらめたのかとばかり思っていましたわ。うれしいですわ。いたぶるなら反抗的な相手に限りますもの!」


 そう言って笑顔で恭也に襲い掛かる火の魔神に対し、恭也は勝利宣言をした。


「調子に乗って魔力を消費してくれてありがとうございます。できれば大技何回かであっさり殺して欲しかったですけど」

「一体何を言ってますの?」


 恭也の自信に満ちた発言に魔神の表情がわずかながら変わった。

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