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制圧

 その後王城に入り込んだ恭也は、透明になった状態で事前に聞いていた『ゼンアス』の収納場所までたどり着くと、即座に『ゼンアス』を元の人間に戻してそれと同時に捕らわれていた人たちを助け出した。


『ゼンアス』は室内の魔導具を起動すれば即座に起動するらしい。

そのためここまでの道中見つからないかひやひやしていた恭也だったが、これでティノリス皇国に関する事柄は解決したも同然だ。


 城内のこの部屋以外の全域に闇属性の魔法を発動して城内の人間を眠らせると、恭也は助け出した人々を連れ出して城を抜け出した。

 例の首輪をつけた人間への魔法の効果時間が短くなることが昨日の戦いで分かっている。


そのため一刻も早く城を抜け出したい恭也は、助け出した人々を先導して急いで城を抜け出した。

 城を抜け出してから何度かティノリス皇国の兵士に見つかったが、その度に洗脳魔法をかけて恭也たちはノリスを抜け出した。


 なお、この際にティノリス皇国の罪人らしき人物はノリスに置いてきた。

 二百人足らずの彼らをここに置いていったとしてもまさかティノリス皇国も殺しはしないだろう。

恭也は千人以上のギズア族を連れて三日かけてソパスへと向かった。


 千人分もの食事など恭也は用意していなかったため、ギズア族は三日間ろくな食事もせずにノリスからソパスまで移動した。

 水は魔法で用意できたため何とかソパスまでたどり着けたギズア族だったが、ソパスに着いた時には全員が疲労困憊だった。


 ギズア族にゆっくり休むように伝えた恭也はヘーキッサたちに彼らの世話を任せるとすぐにノリスへと向かった。

 すぐに追撃用の軍が送り出される可能性を考え、街道を飛んできた恭也だったが取り越し苦労だった。


 こんなことなら転移してくるのだったと思いながら恭也は再び城を目指した。

 当然城は内外共に厳戒態勢だったが、今の恭也にとっては通常の警備など無いも同然だ。

 あっさり玉座の間に到着した恭也は、そこで二人の人物を発見した。

 部屋の外の兵士四人は眠らせているため、邪魔が入ることはない。

 恭也は後ろ手に扉を閉めて玉座の間に入った。


「よくもここまでティノリスで好き勝手やってくれたな」

「あなたがデモア将軍ですか?ギズア族のみなさんも、きっと似たようなことあなたたちに言いたいと思いますよ。先に言っておくと、あなたと女王様は捕まえてギズア族に差し出すつもりです。抵抗は自由にどうぞ」


 別に待っていたわけではないだろうが、恭也の発言が終わると同時にデモア将軍が恭也目掛けて斬りかかってきた。

 デモア将軍は、四天将の中で唯一上級悪魔由来の魔導具を持っていない。


 純粋に自身の強さだけで今の地位まで昇りつめた。

 長年共に戦ってきた火属性の剣型魔導具、『バモルト』を手にデモアは恭也を斬り裂こうとした。

 鉄すら軽く溶かす『バモルト』はいかなる防御も通用せず、デモアの剣技が加わることで最強の一撃となっていた。


 しかしそれはあくまでもこの世界限定の話で、恭也の二種類の無効化能力の前には無力だった。

 恭也の服を焦がすことすらできず、魔導具を使うために例の首輪をつけていなかったデモアは恭也の闇魔法であっさり眠らされた。

 床に倒れこむデモアの横を通り過ぎ、恭也はオルガナの前に立った。


「えーっと、一応聞きますけど、戦いますか?」


 豪華な衣服をまとい玉座に座るオルガナは、とても戦闘経験があるようには見えない。

 大人しく降参してくれるのならそれが一番だと考えてオルガナに質問した恭也だったが、『魔法看破』でオルガナが右腕に装備している魔導具の効果を知りオルガナが降参するかは疑わしいと考えていた。


 残念ながら恭也の懸念は当たり、オルガナは装備した魔導具、『メイデス』を発動した。

『メイデス』は敵の精神を破壊する闇属性の魔導具だ。

『メイデス』で破壊された精神は時間経過では治らず、ティノリス皇国内にも治療の方法は無い。

 相手を殺すも同然の魔導具をためらうことなく使ってきたオルガナを見て、恭也の中にあったオルガナへの遠慮は完全に消えた。


(俺と契約してる恭也に闇属性の魔法使うとか、何考えてんだ、この女?)


 魔神と融合している契約者にはその魔神の属性の魔法は通用しない。

 しかし今まで魔神を従えた者がいなかったため、この事実は恭也たちしか知らなかった。

 そのためオルガナの今回の行動を失敗と呼ぶのは酷だった。


(魔神との戦闘経験なんて無いだろうししかたないよ。実際この魔導具結構強いし)


 恭也の発言通り『メイデス』は個人が携帯できる大きさの魔導具としては破格の威力を持っていた。

『魔法攻撃無効』を獲得する前の恭也なら手も足も出ずに無力化されていただろう。


 量産化することを考えていないからこその強さだったが結局今の恭也には効かず、三度『メイデス』を発動したオルガナはようやく諦めた様子だった。

 まだ聞きたいことがあったため、恭也はオルガナを眠らせずに洗脳すると『メイデス』を取り上げた後でオルガナの子供たちの居場所を尋ねた。


「子供たち二人はここから北にある街、オキケノに逃がしました。私たちが負けた場合は、ツィルバまで逃げて一生隠れているように伝えました」

「なるほど。護衛はついてるんですか?」

「目立たないように二人を子どもの頃から知っている女中二人だけつけて逃がしました。ノリス以外の街ではフーリンたちの顔は知られていませんので、下手に護衛はつけない方がいいと考えました」


 オルガナの洗脳を解いた恭也は、子供たちの行き先をしゃべらされて青ざめるオルガナを眠らせてからティノリス皇国の地図を取り出してオルガナの説明にあった街の場所を確認した。


 オキケノはノリスから徒歩で四日程の場所にあり、ツィルバはオキケノから北西に五日程歩いたところにある港街だ。

 今から魔神を倒してガーニスのもとに引き返して戦い、またノリスに帰って来てその後オキケノに向かうとなると、どう急いでも四日では終わらないだろう。


 オルガナの子供探しは、落ち着いてからになりそうだ。

 そう考えた恭也は、中級悪魔を召還してオルガナとデモアを担がせると玉座の間を後にした。

 この時点で日が暮れようとしていたので、恭也はオルガナとデモアを地下牢に入れてその日の作業を終えることにした。


 すでにノリスは『隔離空間』で覆われているので国の有力者たちが逃げ出す心配も無い。

 恭也は城内で適当な部屋を見つけると簡単に食事を済ませ、しばらくしてから眠りに就いた。

 恭也が起きて城の外に出ると武装した兵士たちが待ち構えており、彼らの前には縄で縛り上げられた二十人近い人間がいた。


「えーっと、この人たちは一体…」


 予想外の状況に戸惑う恭也の質問を聞き、兵士の代表らしき男が口を開いた。


「この者たちはオルガナ女王の弟のシグン様、いえシグンと大臣たちです。逃げようとしていた彼らを我々が捕えました。どうかお受け取り下さい」


 恭也に恐怖しながらも自分たちの手柄を主張する男を見て、恭也はいら立ちを覚えた。

 自分たちのこれまでしたことを棚に上げ、まるで義憤にかられてシグンたちを捕えたとでも言いたげだったからだ。


 しかしここで兵士たちに対して厳しい態度を見せると、ガーニスとの話し合いの後の諸作業がやりにくくなるだろう。

 それにティノリス皇国の全軍人に罰を与えると言うのは現実的ではないし、全員とは言わないが上からの命令に従っただけの兵も少なくないだろう。

 そもそもガーニスたちに女王たちだけで我慢して欲しいと言ったのは恭也なので、ここは我慢するしかなかった。


「ありがとうございます。とりあえずその人たちは城の地下牢に入れといて下さい。魔神を倒した後で、その人たちはギズア族に引き渡すつもりなので」


 恭也のこの発言を聞き、シグンが慌てて口を開いた。


「ちょっと、待ってくれ!そんなことをされたら私たちは殺されてしまう!何とか命だけは!」

「ああ、すいません。言ってなかったですね。大丈夫ですよ。命だけは保証しますから」


 その後恭也はシグンたちに『不朽刻印』を施し、彼らに自分たちに刻まれた刻印の説明をした。

 恭也の説明を聞いたシグンたちは一様に絶望した様子で兵士たちに連れて行かれた。

 それを見送った恭也は、後ろでまだ何か言いたそうにしていた兵士の代表に視線を向けた。


「まだ何か?まさか謝礼が欲しいなんて言いませんよね?」

「め、滅相も。ただフーリン王女とニオン王子が見つからなかったことを謝ろうと…」

「ああ、あの二人なら、」


 兵士に先程オルガナから聞いた情報を伝えようとした恭也は、途中で口を閉じた。

 兵士たちにフーリンたちの捕縛を頼んでいいものか迷ったからだ。

 先程見たシグンたちは傷やあざだらけで、ここに連れて来るまでにかなり手荒に扱われた様子だった。


 恭也としても、まだ十歳と三歳の王女と王子に国のしてきたことの責任を取らせるつもりはなかった。

 しかし兵士たちに任せると必要以上に手荒なことになりそうだ。

 考えた末、オルガナの子供二人に関しては一通りの決着がついてから恭也自身で迎えに行くことに決めた。


「王女と王子はさっき女王に逃げた先を聞いて僕の部下が捕まえに行ってます。王女に即位してもらって僕がその手助けをと思ってるので連絡があるまでは各自待機してて下さい」

「はい。分かりました」


 その後恭也はシグンを始めとするティノリス皇国の首脳陣数人の家からギズア族の少女たちを助け出した。

 シグンや大臣の計七人の家から三十人以上の少女を助け出した恭也は、他にも捕まっている少女がいるはずという彼女たちの話を聞き頭を抱えた。


 しかしそろそろこの国の魔神を倒しておかないと、ガーニスの街への到着に間に合わなくなる。

 一応ガーニスの出発をためらわせるためにギズア族の本拠地に近い街、ナーベンダとピッカで助けたギズア族をガーニスのもとに送ったが、それをガーニスがどう受け止めるかは未知数だ。


『ゲピス』と『ゼンアス』の材料にされていたギズア族も助けて送り出したので、ガーニスたちも多少は恩を感じてはくれるだろう。

 しかし恭也の目論見通りに行かなかった場合も考えなくてはならない。


 恭也が次にガーニスと戦って引き分け以上に持ち込むのがこれまでの行動の大前提で、そこが崩れるとティノリス皇国側に多数の死者が出ることになる。

 今も捕らわれている少女たちがいることを思うと歯がゆかったが、恭也は彼女たちに他の少女たちも必ず助けると伝え、街の人々に少女たちを避難させた建物に近づいた場合は容赦しないとだけ伝えるとその場を離れた。


(俺が見張ってなくていいのか?)


 せっかく助け出した少女たちに恭也が一切の警護をつけなかったことを疑問に思い、ウルは恭也に見張りを申し出た。

 いつもなら人間の警護など自分から言い出すウルではないが、今回ウルは恭也が魔神と戦っている間完全にすることが無い。

 どうせひまするぐらいならと考えたウルの提案だったが、恭也はそれを断った。


(いざとなったらウルに頼みたいこともあるから一緒に来てよ)


 その瞬間恭也の計画を知ったウルは、これから恭也と戦う魔神に同情した。


(恭也ってほんと手段選ばねぇよな)

(他のことならともかく人の命がかかってる時は、かっこなんてつけてられないよ。そもそも試合やってるわけじゃないんだし)


 ウルの批判めいた感情と発言の両方を軽く聞き流しつつ、恭也は残された少女たちの安全について考えていた。

 少女たちを残していく際、恭也はトキクシでガーニスの鎧と初めて戦った時に獲得した『能力譲渡』で少女たちの誰かに恭也の能力をどれか一つ渡しておこうと考えた。

 しかし恭也の能力を使うにはこの世界の人間の魔力は少なすぎるため、結局はノリスの人間を脅すだけにとどめた。


 トキクシで獲得したもう一つの能力も便利ではあるのだが、『能力譲渡』同様協力者前提の能力のため使いどころが難しかった。

 全く苦労しないで獲得した能力に文句を言うのがぜいたくなのは分かってはいるが、もう少し使いやすく強い能力が欲しい。

 そう嘆きながら恭也は魔神の封印されている場所へと向かった。

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