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蹂躙

 恭也はソパスに『空間転移』すると、すぐに街の西側に向かった。

 それ程飛ばない内にティノリス皇国の軍隊らしき隊列が目に入り、恭也は透明化を解きその隊列の前で止まると、闇属性の魔法を発動して兵士たちを眠らせようとした。

 しかし恭也が魔法を発動しても兵士たちは眠らず、お返しとばかりに大量の矢が恭也に襲い掛かった。


「あれ、何で兵士たちにまで魔法が効かないんだ?」


 自分に隙間無く襲い掛かる大量の矢を『物理攻撃無効』で防いだ恭也は、ヘーキッサから事前に聞いていた情報との食い違いに首をかしげた。

 四天将の一人の持っている魔導具がこの世界の六属性の魔法を無力化するマント、『モシルの布』であることは、ヘーキッサから聞いて恭也も知っていた。


 だからそれの持ち主のカタクという将軍は直々に倒そうと思っていた恭也だったが、何故か末端の兵にもウル由来の闇の精霊魔法が効かなかった。

 この事実に困惑しつつも、恭也は今も矢を撃ち続けている兵士たちに向けて『魔法看破』を発動した。


 その結果、目の前のティノリス皇国軍の兵士全員が『モシルの布』を限定的に再現した首輪を持っていることが分かった。

『魔法看破』によるとこの首輪による無力化は、本来ならウル由来の精霊魔法を防げる程の力を持っていないらしい。


 先程の魔法が無効にされたのは、広範囲を対象にしたために魔法の効果が弱くなったせいだった。今度は念のため先程の五倍程の魔力を込めて魔法を発動し、何とか兵士全員を眠らせることができた。


 しかし今回ソパスに派遣された兵士一万人を対象とした精霊魔法の行使は、予想以上の魔力を消費した。

 一般兵を無力化するだけで二万近い魔力を消費してしまい、仮にも一国の軍隊を戦おうというのに気を抜いていたと恭也は反省した。


(一人一人脚斬り落として後で治せばよかったんだよ。魔力がもったいねぇ)

(それ何時間かかると思ってるの?それにそれすると最初に斬った人は出血多量で死んじゃうと思うし)


 ただ敵を殺すだけならウルが『ミスリア』を使えばそれで終わりだ。

 今回の様な極端な話逃げてもいい戦いで、そこまでするつもりは恭也には無かった。

 制御していた兵士たちが眠り、動きを止めたゲピス二体に恭也は『能力強化』を使った『治癒』を発動した。


 その後前回同様風の精霊魔法で落下してくる犠牲者たちを受け止め、恭也は全員に『治癒』を行った。

 その後ウルと融合した恭也は、死んだ人々に前回同様の手順で蘇生を行った。

 とりあえず彼らについては後で処理をすることにして、恭也は兵士たちとゲピスが無力化されるなり逃げ出した男二人を追うことにした。


(それにしてもヘーキッサさん、どうして僕が質問した時にあの首輪のこと教えてくれなかったんだろ)

(恭也、何個も質問してたからな。一個ぐらい教えるの忘れてもしょうがないと思うぜ)

(質問は結構絞ったつもりだったんだけどなー)


 恭也がヘーキッサを洗脳して聞いたことは、将軍たちの持っている魔導具の能力と魔神の封印場所、他に恭也の脅威になり得る軍の兵器の存在だった。

 洗脳されていたヘーキッサが嘘をつくわけもなく、実際恭也はこの質問で城の地下にあるティノリス皇国の秘密兵器、『ゼンアス』についても知っていた。


 ではなぜヘーキッサが恭也に首輪の件を伝えなかったかというと、この首輪が恭也の脅威になるとヘーキッサが思わなかったからだ。ヘーキッサの前で恭也が使った能力の数々は、どう見てもこの世界の魔法ではなかった。


 そのため首輪の存在は恭也にとって脅威にならないとヘーキッサは考え、質問された際に答えなかった。

 そのことを知る由も無い恭也だったが、終わったことをいつまでも考えていてもしかたがない。


 気を取り直した恭也は、『魔法看破』の発動を継続しつつ逃げた二人を追った。

 途中で脱げ捨ててあった『モシルの布』を回収した恭也は、手間が省けたことを喜びながらも追跡の手を緩めなかった。


 一応『モシルの布』は簡単に隠してあったのだが、『魔法看破』からは逃げられなかった。

 おそらく現在隠れるのに使っている光属性の魔導具の発動を阻害するから『モシルの布』を捨てたのだろうが、『魔法看破』を発動中の恭也は透明になる魔導具が発動中という情報を視認できる。


 そのため姿を消して逃げている二人、カタクとネパの逃走は、初めから成功する可能性は無かった。

 逃げる二人組を追い抜いてから透明化を解いた恭也に対し、二人組は街道からそれて逃げようとした。

 恭也がどうやって追跡しているか知らない二人の悪あがきにため息をついてから、恭也は二人の前に回り込んだ。


「無駄ですよ」


 足音を殺しながら何とか逃げようとする二人に対し、恭也は『埋葬』を発動した。


「うわっ」「何だ」


 突然地面の抵抗が無くなり、消えていた二人はあっけなく恭也に捕らわれた。


「さてと、そろそろ姿現してくれますか?分かってると思いますけど、逃げられ、」


 恭也が二人に投降を呼びかけていた最中、二人の姿が現れたと思ったら、その内の一人、ネパが持っていた魔導具『スベアの杖』を発動した。

 この魔導具は攻撃魔法しか使えないものの、使い手の属性に応じた強力な魔法を使えるという代物だった。


 ネパの魔法の属性、風を増幅した精霊魔法すらしのぐ威力の魔法を食らい、恭也はわき腹を消し飛ばされてそのまま後ろへと吹き飛んだ。

 そのままぴくりとも動かない恭也を見て、ネパは高笑いを上げた。


「くくっ、ざまあ無いな!デモア将軍の言う通り、どんな能力を持っていようが不意を突かれたらそれまでだ!思い知ったか、異世界人め!」

「兵士全員がやられた時はどうなるかと思いましたよ」


 冷や汗を流しながらも安堵した様子を見せるカタクに、ネパは自慢気に笑いかけた。


「異世界人だからと怯える必要は無い。隙を突いて殺せばこの通りだ!さて、この調子でギズア族のところの異世界人も殺してやろう」

「はい。姿を消したあなたに不意を突かれたら、どんな相手でも反応すらできないでしょうからね」

「任せておけ。さて、まずはここから抜け出すか」


 そう言ってネパが普通の魔法で地面を吹き飛ばそうとした時だった。


「抜け出す必要は無いですよ。まだ話したいことありますし」


 突如として聞こえてきた声に、カタクとネパは慌てて声の聞こえてきた方に視線を向けた。

 そこには、『スベアの杖』による攻撃をまともに受けて死んだはずの異世界人がいた。


「ば、馬鹿な。一体どうやって?」

「答える義理無いです。さあ、その杖捨てて下さい」

「ふざけるな!死ね!」


 叫びながらネパは『スベアの杖』による攻撃を三度行った。

 その攻撃自体は『魔法攻撃無効』を突破して恭也を殺すことに成功したが、二百回蘇られる恭也にとっては些細なことだった。

 何度死んでも蘇る恭也を前に、殺意に満ちていたネパの表情が変わった。


「ば、馬鹿な。どうなっている?」

「答える義理無いです。これ、何回やる気ですか?」


『スベアの杖』による攻撃は『魔法攻撃無効』を貫いてくるため、今の恭也は攻撃を食らう度に痛みを感じていた。

 しかしカタクとネパに恐怖を与えるために、恭也はできるだけ表情を変えずに二人との会話を続けていた。

 その後も十発近く魔法を撃ち出してきたネパだったが、魔法を回避する素振りすら無い恭也を見てようやく武器を捨てた。


「あなたたちは二人とも将軍ですか?」

「「はい」」


 恭也の質問に素直に答えた自分たちに驚いた様子のカタクとネパに恭也は『不朽刻印』の説明をした。

 そして今後抵抗する意思を奪うために、恭也は二人に『情報伝播』による制裁を加えた。

 突如として自分たちを襲った痛みに地面に腰まで埋まったままカタクとネパは悲鳴をあげた。


「た、頼む。私たちが悪かった。もう止めてくれ!」


『情報伝播』連続使用の隙を突き、カタクが涙を流しながら謝ってきた。

 しかし恭也はカタクの謝罪を聞き流した。


「すみません。長く続く痛み、それぐらいしか知らないんですよ」


『情報伝播』の仕様を知らないカタクにとって、恭也の説明は理解できないものだった。

 それでも恭也に命乞いが通用しないということだけは理解し、カタクはネパと一緒にその後も焼死の痛みを味わうことになった。


 その後カタクとネパを連れ、恭也はソパスにいるヘーキッサのもとに向かった。

 兵士たちにはノリスに帰るように伝え、恭也にあっけなく負けた上に将軍二人の身柄を抑えられた兵士たちは逃げるようにノリスへと帰って行った。


 ヘーキッサは現在宿の一室で寝泊まりしており、恭也がカタクとネパを連れて部屋に入った瞬間、全てを悟った様子で乾いた笑みを浮かべた。


「さてと、とりあえず二人もここにいて下さい。もう一人の将軍と女王様、後適当に偉い人捕まえてからギズア族に差し出すつもりなので、今の内に落ち着いた時間過ごしておいて下さい」


 この数日でこれからの覚悟ができていたヘーキッサと違い、ギズア族に差し出されると聞いたカタクとネパは慌てて恭也に考え直すように頼んだ。


「た、頼む。もうギズア族には手を出さない!金ならいくらでも出す!だから命だけは!」

「俺たちは国からの命令でやってただけなんだ!悪いのは陛下で…」

「さっき僕が殺された振りした理由は、あなたたちの本音を聞くためです。僕を殺したと思った直後のあなたたち、すごく楽しそうでしたよ」


 不快そうに自分たちに視線を向ける恭也に、カタクとネパはそれ以上の命乞いはできなかった。


「あなたたちを差し出すぐらいはしないと、ギズア族の人たちも納得しないと思います。さっき説明した通り、その刻印がある限り死にませんし、ギズア族も毎日あなたたちを殺していればその内虚しくなると思います。本当に死ぬわけじゃないんですから、死んでいったギズア族のみなさんへの償いだと思って頑張って下さい」


 それだけ言うと、恭也は三人の返事も聞かずに部屋を後にした。


(で、この後どうするんだ?)


 ウルは今後の予定についてティノリス皇国の城に攻め込んだ後で魔神を倒し、その後ガーニスと決着をつけるとしか聞いていなかった。

 ヘーキッサによると魔神が封印されている場所は、ティノリス皇国の首都、ノリスから飛べば一時間もかからない場所にあるということだった。

 そのため城を攻めるのと魔神を倒すのはどちらを先にしてもよいはずだ。

 そう考えてのウルの質問だった。


(とりあえず一回ユーダムに帰るつもりだよ。さすがに一回帰らないとみんなに心配かけちゃうし)

(魔力二万使ってか?)

(ここで帰らないと多分一ヶ月近く帰らないことになるしね)


 城に行き女王やデモア将軍、その他権力者をさらうとなると、その後誰か一人がにらみを利かせないと国内が混乱するだろう。

 女王オルガナは夫を早くに亡くし、子供は十歳の娘と三歳の息子がいるらしい。


 女王には今年二十五になる弟もいるのだが、その男はギズア族の若い女性を何人も自分の物にしているらしく恭也の中のギズア族行きの人間一覧表の最上位に名前があった。

 恭也が聞いた話ではオルガナの弟は未婚で、王位継承者は弟の他はオルガナの子供しかいないらしい。


 とりあえずその十歳の娘に新たな女王になってもらい、恭也が支援するという形でいきたいと思っているのだが、恭也が行おうとしていることはどこからどう見ても現体制を倒して傀儡政権を作ろうとしているようにしか見えないだろう。


 もちろん恭也にティノリス皇国を私物化しようなどという意思は無い。

 ユーダムとコーセスになかなか顔を出せていないことを考えると、内乱の恐れが無ければ国民たちに丸投げしたいぐらいだ。

 しかしこれまでのティノリス皇国国民の言動を思い出すと、彼らの民度に期待するのはあまりに分が悪い賭けだと恭也には思えた。


 カタクとネパが率いる軍隊を返り討ちにした翌日、一度ユーダムに帰った恭也は、その後すぐにノリスを目指した。

 千人以上の人間が材料として使われた上に、さらに起動に二百人の命を必要とするという聞いただけで虫唾が走る悪魔もどきの兵器、『ゼンアス』を無力化するためだ。


 あの人間二百人を材料にしているゲピスとやらもそうだったが、ティノリス皇国は新兵器のために自国の罪人すら使用していた。

 これまでよくティノリス皇国が自滅しなかったなと呆れながら恭也は、昨日追い返した兵士たちを途中で追い抜き、ノリスへの道中を急いだ。


 ノリスの近くまで来た恭也は、ノリスに入る前にウルに『アビス』を使ってもらい全身の疲れを取り除いた。

 連日の戦闘のせいか眠りが浅く、長時間の飛行による体への負担もたまっていたからだ。


 一度体を消し飛ばされた恭也は、すぐに蘇り疲労がきれいになくなった体を軽く伸ばしてからノリスに乗り込んだ。

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