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巨人

 ウルとの初戦以来となる同格との戦いを前に恭也は緊張しきりだった。


(勝ち目あるのか?)


 気軽に聞いてくるウルに恭也は本音で答えた。


(今分かってることが自分以外を守れるってことだけだからね。さすがに能力がそれだけってことはないと思うし、あの鎧も意味分からないし)


 鎧騎士二人を相手にしたウルによると、鎧騎士の中身は二人とも空洞だったらしい。

 苦労して鎧の両脚を消し飛ばした際に血が全く出なかったことを不思議に思ったウルが鎧の断面から中を覗き込むと、鎧の中には誰もいなかったとのことだった。


 二人目の鎧騎士を倒した際は初めからわき腹を狙って『キュメール』を連発したのだが、結局鎧のわき腹部分が消滅しても鎧はそのまま流血することなく戦闘を続行したらしい。

 結局胴体部分の半分以上が消えると鎧自体も消えたそうだが、そうなるとガーニスの能力は鎧の召還とそれを他人に付与できる能力といったところだろうか。


 恭也のこの予想が正しければ『埋葬』一つで攻略できるので楽なものだが、初めての異世界人との対面で、しかも今回は間違いなく戦いは避けられないだろう。

 そう考えると胃が痛くなってきた恭也だったが、逃げるだけならどうにでもなるのだからと何とか自分に言い聞かせた。


 そうこうしている内に恭也たちはギズア族の本拠地に到着し、恭也は捕えていたギズア族たちを解放した。

 解放された男たちが奥に逃げ込んだ後少し待ってから、恭也はギズア族の本拠地へと乗り込んだ。

 恭也とウルが奥に進むと、ギズア族と思われる人々に囲まれる形で一人の男が地面に座り込んでいた。


 先程戦った鎧騎士改め、鎧と同じぐらいの身長で赤みがかった髪と肌をしたその男は、周囲で何やら話している男たちの声を聞きながら恭也に視線を向けていた。

『魔法看破』で見たところ、この巨人は異世界人のようで彼がガーニスで間違いないだろう。

 自分に突き刺さる視線を感じつつ、恭也はさらに奥へと進んだ。


「話がしたいんですけど構いませんか?」


 ガーニスへの距離が数メートルとなったところで、恭也はガーニスに話しかけた。


「ああ、構わない。私の騎士を倒した君なら、彼らを殺すこともできただろう。彼らを無事に帰してくれた君を信じ、話を聞こう」


 思ったよりも理知的な話し方のガーニスに驚きながらも、恭也はなぜトキクシを襲ったのかを尋ねた。


「どうしてトキクシを襲ったりしたんですか?今回だけで五百人以上の人が亡くなりましたし、僕が通りがからなければ街の人全員殺すつもりでしたよね?」

「別にトキクシとかいう街だけを襲ったわけではない。ここから近い街四ヶ所に私の騎士を送り込んだ」


 あの惨劇が他に三ヶ所で起こっていると聞き、恭也は衝動的にガーニスに襲い掛かりそうになった。実際ウルが聞いたトキクシの住人たちの不穏な発言が無ければ、そうなっていただろう。

 何とか自分を落ち着かせた恭也は、ガーニスとの会話を続けた。


「これ以上侵略を続けるようなら、僕はあなたと戦うつもりです。どうしてこんなことをするんですか?」


 場合によっては敵対すると明言した恭也の視線を受けても、ガーニスの表情は変わらなかった。


「君がティノリスの国民からどう聞いているかは分からないが、彼らギズア族は元々この国の北に住んでいた民族だ。しかし二万人程いた彼らはティノリスの軍による攻撃を受け、現在二千人近くまで数を減らしている。軍から逃げていた彼らの前に私が現れなければ、彼らは全滅していただろう」

「どうしてティノリスはそんなことを?」


 一万人以上の人間を国が殺したと聞き、恭也の中にティノリス皇国への怒りが湧き上がってきた。


「私は彼らを守りながらここまで逃げ、それからの数年は能力の研鑽に時間を費やした。だからティノリスの考えは分からないが、ギズア族の中には捕まった者もいる。聞いた話では人間を悪魔に変える魔導具をティノリスは持っているらしいので、その対象が欲しかったのかも知れない」


 今すぐティノリス皇国の首脳陣を一時間程痛めつけてやりたい衝動に駆られた恭也だったが、それとティノリス皇国の国民へのガーニスたちの攻撃は別の話だ。

 これ以上の被害を出さないために、恭也はガーニスたちに一つの提案をした。


「あなたたちの話が本当なら、僕もティノリスのしたことは許せません。でもだからといってティノリスの街を次々に滅ぼすなんてやり過ぎです。僕がティノリスの偉い人何人か連れて来るんで、恨みはその人たちで晴らしてくれませんか?この国の国民には罪は無いわけですし」

「ふざけるな!」


 恭也とガーニスの話を黙って聞いていたギズア族だったが、その内の一人が突然激高して二人の会話に割り込んできた。


「ティノリスの国民に罪が無いだと!ふざけるな!俺たちがここに逃げてくるまでの間に、どれだけの女子供がティノリスの国民に捕まったと思ってる!あいつらは俺たちのことなんて家畜程度にしか考えちゃいない!あの時のあいつらの笑った顔を見てないからそんな綺麗事が言えるんだ!」

「そうだ!夫の前で妊婦の腹を切り開いて笑っているような連中だぞ!そんな奴らをどうして許さなくちゃならない!」


 ティノリスの軍による一方的な虐殺を想像していた恭也は、国民までギズア族への迫害に手を貸していたことに衝撃を受け、自分の軽率な発言について謝罪した。


「すみません。あなたたちがされたことも知らないで、軽はずみな発言をしたことは謝ります。でも人がこれ以上死ぬのが嫌っていう僕の意見が間違っているとも思わないので、みなさんがティノリスへの攻撃を止めないというなら相手になります」


 ウルと分離した恭也は、ギズア族に我慢を強いる選択肢しか提示できない以上戦闘は避けられないと覚悟を決めた。


「君は悪い人間ではなさそうだ。一度だけ言う。このままこの国から去ってくれ。君とは戦いたくない」

「人が殺されるって分かってて帰るなんて無理です。残念ですけど力ずくであきらめてもらいます」

「そうか、…残念だ」


 ガーニスがそう言うと同時に、ガーニスの前に五体の鎧が現れた。

 当然ガーニスの能力で守られている五体の鎧は、ガーニスの指示を受けて恭也とウルに襲い掛かった。


「恭也、雑魚は任せたぜ!」


 恭也の返事も聞かずにガーニス目掛けて飛んで行くウルに呆れつつも、恭也は鎧たちを次々に『埋葬』で地面に埋めていった。

 ガーニスの能力は、対象の耐久力を跳ね上げるだけだ。


 初めて戦った時こそ驚いたものの、二種類の無効化と『束縛無効』を持っている恭也にとって、鎧たちは一切警戒する必要の無い相手だった。

 瞬く間に自分の召還した鎧たちが無力化されたのを見て、ガーニスは驚きの声をあげた。


「話には聞いていたが、あんな形で私の騎士を動けなくするとは…。異世界人が相手では、楽には勝てそうにないな」

「てめぇ、なめた口きいてんじゃねぇぞ!こっち見やがれ!」


 鎧五体を次々と地面に沈める恭也に視線を向け、ウルに一切視線を向けないガーニスにウルは怒号を飛ばしながら攻撃を仕掛けた。

 しかしウルの攻撃がガーニスに当たる寸前、正六角形の盾がガーニスの周囲に現れてガーニスを守った。


 羽での斬りつけや『キュメール』は一枚の盾で防がれ、『バギオン』でガーニスを全方位から包み込んでも複数の盾で構成された半球状の天蓋がガーニスを覆い、ガーニスには傷一つつかなかった。

 とはいえ、『キュメール』はともかく、『バギオン』は放置するとガーニスの視界を遮るため、ガーニスも本格的にウルへの攻撃を始めた。


 二十枚の盾がガーニスを守る天蓋の周囲に新たに現れ、一斉にウルへと襲い掛かった。

 ウルは羽で打ち落とそうとしたが、ウルの羽で斬りつけられてもガーニスの盾は微動だにせずそのままウルに直撃した。


 顔、胴体、羽、脚とウルの体中にガーニスの盾が襲い掛かった。

 硬いといっても所詮は盾なので、ウルの体を切り刻むとまではいかない。

 しかし高速で激突する盾は、徐々にではあるがウルの体、つまり魔力を削り始めていた。


「ちまちま、ちまちまうっとうしい!」


 二十枚の盾に翻弄されていたウルだったが、盾による攻撃は、威力自体は大したものではない。

 あの鎧と同じ手間をかけて壊すぐらいなら、ガーニスを直接狙った方がいいと判断したウルは自分の周囲を飛び回る盾を無視してガーニスへと襲い掛かった。

 そんなウルの前に更に一枚の盾が立ち塞がった。


 壊すのが面倒なだけの盾などまともに相手をする気が無かったウルは、その盾も無視して進もうとした。

 しかしウルの目の前の盾は、無視しようとするウルの横で突然強く光り出した。

 ウルがまずいと思った時にはすでに手遅れで、ウルは盾が変形した半透明の球体の檻に閉じ込められていた。


「ったく、硬いのだけが取り柄か。遊び相手としては、恭也の足下にも及ばないな」


 自分を覆う盾を腹いせに殴りながらウルは、実体を解いて檻から抜け出そうとした。

 しかし檻に触れた瞬間違和感を覚え、ウルはすぐに実体を解いた。

 自分が置かれている状況をようやく理解して焦るウルにガーニスが声をかけてきた。


「どうやらそこから抜け出そうとしたようだが、無駄だ。一枚とはいえ私の盾が変形した檻、小細工では抜け出せない」

「だったら壊すだけだ!」


 実際にガーニスの能力に守られていた鎧を破壊したウルなら、三十枚以上の盾で構成される天蓋は無理でも現在ウルを閉じ込めている球体なら破壊できただろう。

 邪魔さえ入らなければ。


 ウルが自分を閉じ込めている球体の破壊に取り掛かろうとしたまさにその時、先程までウルにまとわりついていた盾二十枚が球体の中に入ってきた。

 ガーニスの盾は、ガーニスが許可したものなら素通りできる。

 直径三メートル程の球体の中で二十枚の盾に襲われたウルは、先程と違い逃げることもできずただなぶられるだけだった。


「すまない。苦しめるのは本意ではないのだが、私の能力は攻撃に向いていないのでね。しばらく苦しんでもらうことになる」


 このガーニスの発言は、ウルに届いていた。

 しかし憐れむような言葉をかけられて激高したウルは、それを口にする余裕も無くただガーニスの盾に体をじわじわと削られていった。


 恭也との初戦は魔力を回復できるかどうかの差で負けただけで、純粋な戦闘力なら自分の方が恭也より上だとウルは考えていた。

 そのため魔力が時間経過で回復する今の自分なら、恭也と同じ異世界人が相手でも互角以上に戦えると考えていた。


 それがこの様だ。

 確かに恭也とウルがどちらかが死ぬまで戦えば、ウルが勝つだろう。

 しかしそれは双方が小細工無しでぶつかったらの話で、実際ウルは自分の有利な点で勝負した恭也に敗れた。


 ウルは相手を制圧する能力だけで評価すれば、歴代の異世界人と比べても何ら遜色ない。

 しかし防御や特殊能力といった総合力まで含めると、魔神は異世界人には一歩及ばない。

 そのため戦闘力だけなら歴代でも間違い無く最弱の異世界人の恭也に負けたウルがガーニスに勝てるわけがなかった。


「この野郎、調子に乗るなよ」


 怒りに声を震わせたウルは、『アビス』を発動して盾を破壊しようとした。

 しかし『アビス』の渦に盾が入り込んだ瞬間、『アビス』を構成しているウルの体が盾を取り込むことに耐えられず『アビス』は解除された。


「か、はっ…」


 自身の最強の技が瞬時に破られ、それと同時に自分の魔力が二万近く消えたことを実感したウルは強い敗北感を覚えた。

 そんなウルに恭也が声をかけてきた。


「ウル、大丈夫?」

「恭也、どこにいる?」

「ウルから見て右上にいる」


 声はするのに姿が見えない恭也にウルが質問をすると、誰もいない空間から返事が聞こえてきた。

 どうやら姿を消した状態で風魔法で飛んでいるようだった。


「こいつやべぇな。わりぃ、なめてた」


 悔しそうに謝罪してくるウルに恭也は気にしないように伝えた。


「僕もここまで強いとは思ってなかったよ。ウルがそれの中に入ってからウルを呼べなくなったし、そっちにワープもできない。ガーニスさんの能力、かなり強いね」

「でもあいつも結構魔力使ったと思うし、後は恭也が戦えば勝てるんじゃねぇか?」

「無理。理由は後で説明するよ。今は僕の分身が悪魔と一緒に戦ってるけど、長くは持たないと思う。とりあえず今はここから逃げよう」


 そう言われたウルが視線を遠くに向けると、分身らしき恭也と中級悪魔がガーニスの鎧と戦っていた。

 どうやら『埋葬』対策としてガーニスの盾を足場にしているらしく、鎧と地面の間にはかなりの間隔があった。


「でも逃げるったってどうやって?この壁めっちゃ硬いぞ」

「でも一ヶ所を壊すぐらいはできるでしょ?僕が見たところ、少しでも穴が空いたら出入りができるようになるみたいだよ。うっとうしいだろうけど、とりあえずその盾は無視して壁を壊すのに集中してよ」

「分かった」


 盾がうっとうしいのは事実だったが、痛覚の無いウルからすれば我慢できない程ではない。

 ウルは恭也の指示に従い壁の破壊に意識を向け始めた。

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