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鎧騎士

(これからどうするんだ?)

(まずはこの国の首都に行って魔神を倒す許可もらわないとね)

(そんなのいるか?どうせ恭也以外には倒せないんだし、勝手に倒しちまえばいいじゃねぇか)

(さすがにそれはまずいよ。国が管理してた場合、けんか売ることになっちゃうし。セザキアとかクノンの人たちの反応見たでしょ。こっちが何もしてなくてもあの反応なんだから、これから仲良くしようと思ったら第一印象は大事だよ)


 なおいきなり国の首脳陣に会おうとすること自体が無礼な行為なのだが、今まで誰もそれを指摘しなかったため恭也は気づいていなかった。


(というか今のウルの言葉で気づいたけど、この国の魔神、この国にいる異世界人がとっくに倒してる可能性があるよね?)

(言われてみるとそうだな。その場合は魔神とも戦えて俺としては嬉しいけどな)


 ここに来るまでにその可能性を考えていなかった自分のうかつさを呪いつつ、恭也はその場合の異世界人との対峙を想像した。


(二対二か。それが普通って言われるとそれまでだけど、相手が僕と互角の力を持ってた場合うまく交渉できるかな)

(その心配はとりあえずこの国の魔神がどうなってるか分かってからでいいんじゃねぇか?)

(それもそうだね)


 呆れた様なウルの発言を受け、ここでじっとしていてもしかたないと考えた恭也はとりあえず国境沿いに進むことにした。

 姿を消しつつ二時間程飛んだ頃、はるか上空を飛んでいた恭也はようやく街らしきものを発見した。

 しかし街を発見したことに喜んでいる余裕は恭也には無かった。眼下の街からは煙と破壊音、そして悲鳴が聞こえてきたからだ。


(へへっ、早速来やがったな)

(…ウル)


 現在進行形で街が襲われている状況で、戦えることに嬉しそうにするウルをたしなめながら恭也は街へと降下した。

 恭也たちが街に降り立つと、周囲の状況は無残なものだった。


 無傷な建物はほとんどなく、どこに視線を向けても住民たちの死体が目に映った。

 彼らの死により恭也は新たに二つの能力を獲得した。

 どちらも自分一人では手が回らないと痛感した恭也にはありがたい能力だったが、この場ですぐに役立つ能力ではなかった。


 恭也は今回獲得した能力のことは一回忘れ、一度息を吐くとウルと分離し、今も街を蹂躙している敵への対処を始めた。


「何あれ?この世界って巨人いないはずだよね?」


 降りてくる途中も見えていたのだが、現在街を破壊している物の正体はただの人間でなければ悪魔でもなかった。

 巨大な鎧騎士三人が斧槍を持って暴れ回っており、住民たちはなす術も無く逃げ回っていた。


 恭也がこれまで聞いた話ではこの大陸にいる異種族は、獣人とエルフ、そしてオルルカ教国の奥地に何らかの種族がいるだけのはずだった。

 遠く海を渡ったところにある二つの大陸のことまでは分からないが、少なくてもこの大陸に巨人はいないはずだ。


 巨人と言っても中級悪魔より一回り大きい程度なので、精々身長は五メートル程だろう。

 しかし人間が戦う相手としては十分脅威となる大きさで、恭也は殺されることがないと分かってはいても一瞬ひるんでしまった。

 その後『魔法看破』で鎧騎士たちを見た恭也は『魔法看破』で知った事実に驚きつつも、ウルに指示を出した。


「ウル、あの騎士たち、異世界人の力で守られてる!『キュメール』五十発当てて、ようやく効くらしいから気をつけて!あいつは僕が何とかするから、他の二人をお願い!殺しちゃ駄目だよ!」

「『キュメール』五十発でようやく効く?めんどくせぇ敵だな」


 強いわけでもなくただ倒すのが面倒なだけの敵と聞き、ウルはやる気が出ないようだった。

 それでも恭也の命令通り、ウルは羽を広げて戦闘の音がする方へと向かった。


「時間はかかるだろうけど、ウルなら大丈夫でしょ。どっちかっていうと僕の方が心配だな。…どうやって倒そう」


『魔法看破』で見たところ、異世界人の能力で強化されているとはいえ鎧自体からは何の情報も読み取れなかった。

 つまり鎧自体は大きさ以外は普通の品で、ウルが負ける可能性はまず無かった。


 とりあえずこれ以上暴れられても困るため、特に考えも無く鎧騎士に向けて走り出した恭也に鎧騎士も反応した。

 鎧騎士は横薙ぎに斧槍を振るい、恭也を殺そうとした。


 それをいつもの様に『物理攻撃無効』で防ぎつつ、恭也は鎧騎士を倒す方法を考え始めた。

 慌てていたので忘れていたが、ウルに加護を与えてもらっていれば恭也も『キュメール』で鎧騎士を倒すことができた。


 しかしウルはこの場にいないため、別の方法を考えないといけなかった。

 鎧騎士の斧槍を十発以上受けながらそう考えていた恭也だったが、突然鎧騎士の後ろから聞こえてきた声に考えを中断させられた。


「そいつに武器での攻撃は効かないみたいだ!押さえつけて潰せ!」


 声の出所に恭也が視線を向けると、そこには見慣れない服装の男がいた。

 恭也がその男に『魔法看破』を使ったところ、その男も鎧騎士同様異世界人の能力で守られていた。


 男を守っている異世界人の能力のせいか、恭也はその男の使える魔法の属性を見抜くことができなかった。

 しかしそれ以上に異世界人の能力で守られている存在がティノリス皇国内の街を襲撃しているという事実に恭也は困惑した。


 恭也はこれまでティノリス皇国にいる異世界人がこの国を支配しているのだと思っていた。

 しかし自分の支配している国の街を攻める人間がいるはずもない。

 この国にいる異世界人とティノリス皇国は敵対しているのだろうか。


 ティノリス皇国は異世界人が現れる前から軍備を拡大していたらしいので、その可能性は十分にあった。

 となると恭也としては、おそらく劣勢であろうティノリス皇国側に味方するべきだ。


 そう恭也が考えたちょうどその時、恭也は鎧騎士につかまれた。

 どうやら鎧騎士は、先程の男の指示通りに恭也を押し倒してから押さえつけて殺そうとしたらしい。


 しかし『物理攻撃無効』を持っている恭也は微動だにせず、その後『束縛無効』を使って難無く鎧騎士の手から逃れた。

 中級悪魔を召還して先程鎧騎士に指示を出した男を捕えるように命じると、恭也は鎧騎士の足下に『埋葬』を発動した。


 突如として足元の地面の支えがなくなり、鎧騎士はなす術も無く胸元まで地面に埋まった。

 今回の『埋葬』の対象が巨大だったため、今回は『埋葬』の効果範囲に恭也もいた。

 しかし恭也は『六大元素』と『精霊支配』を発動して風属性の精霊魔法を使って空へと逃れた。


 それでも腕を振るい恭也に攻撃をしかけてくる鎧騎士を無視し、恭也は中級悪魔に捕まりながらも必死にもがく男のもとに向かった。

 恭也が目前まで来ると、男はようやく観念した様子だった。


「貴様も異世界人か?」


 セザキア王国やクノン王国で向けられたものとは比べ物にならない敵意のこもった視線を男は恭也に向けてきた。


「はい。異世界人の能恭也です。もってことは、あなたは異世界人の部下ってことでいいんですね?」

「ティノリスに味方する者に話すことなど何も無い。どうせ貴様は俺を殺すことはできないだろう。ガーニス様のお力を授かっている以上、貴様など怖いものか」


 今まで敵対しきた人々と違い、恭也に対して気丈に振る舞う男に驚きながらも恭也は男との会話を続けた。


「とりあえずあなたの上司の異世界人の名前がガーニスだってことは分かりました。他にも色々話してくれると助かるんですけど」


 うっかり自分たちを率いる異世界人の名前を口走ってしまった男は、恭也の指摘を受けて黙り込んでしまった。

 これ以上話を聞こうにも、『魔法看破』によるとガーニスとかいう異世界人の能力による守りは相当強固で、洗脳しようと思ったらウルの加護を受けた状態での洗脳魔法を十時間は使わないと洗脳できないらしい。


 さすがにそれは面倒なので、恭也はおそらく他にもいるであろうこの男の仲間を捕まえることを優先することにした。

 恭也は街全体を『隔離空間』で覆うと、残りのガーニスの部下を捕えるべくこの場を離れることにした。

 しかしその前に男を脅しておくことも忘れない。


「ガーニスとかいう人の能力信頼してるみたいですけど、その能力外からの攻撃無効にするってだけなんでこんな風にされたら餓死しますよね?」


 先程の鎧騎士同様『埋葬』で胸元まで沈められた男は埋められた直後こそ動揺していたが、すぐに落ち着くと再び恭也をにらみつけてきた。


「俺が死んでもまだ仲間たちがいる。ガーニス様や仲間たちがきっとティノリスの人間を根絶やしにしてくれるだろう」


 そう言われた恭也はこの男が舌を噛んで自殺するのではと内心慌てたのだが、結局男はそのまま黙り込んだだけだった。

 考えてみれば今の男はほとんど不死身といっていい存在なのだから、ガーニスとやらが能力を解除しない限り自殺はできない。


 取り越し苦労だったことに胸をなで下ろしてから、恭也はその場を離れた。

 その後ミレズの時同様、『能力合成』を使って『雨乞』と『治癒』による街全体の治療を行いつつ、一時間もかからずに恭也はガーニスの部下二十人を捕えた。

 捕えた二十人を『埋葬』と『キドヌサ』で一ヶ所に捕え、ウルに見張りを頼んでから恭也は街の住人に話を聞くことにした。


「この度はありがとうございます。数年前に現れた異世界人が後ろ盾になってからというもの、ギズア族の連中が増長し始めて、迷惑していたところに今回のこの暴挙です。あなたが助けて下さらなかったら私たちは全滅していました。本当にありがとうございます」


 街の代表らしき男と他数名に礼を言われた恭也は、礼への返事もそこそこに本題に入った。


「ここからギズア族の住んでる所までかなり近いんですよね?異世界人が来たのが数年前ならみなさんの街攻めるまで時間かかり過ぎじゃないですか?」


 この街、トキクシの住民の話では、トキクシから今回の侵攻を行ったギズア族の住んでいる地域まで歩いて二日程の距離らしい。

 そんな近くの街まで攻め込むのにどうして数年もかかったのだろう。


 とりあえず恭也が思いつく理由としては能力の強さや有効距離が伸びるのを待っていたというところだが、仮にこれが事実ならギズア族の住んでいる地域から近い街は全て危ないということになる。

 今から他の街に行っても間に合わないだろうから、直接ギズア族の本拠地まで行きガーニスとかいう異世界人と交渉するしかない。


 今回の襲撃でトキクシには現在分かっているだけで五百人の死者が出ており、死者の数は千人を下回らないだろうとのことだった。

 この埋め合わせは必ずさせて見せる。

 そう決めた恭也は、捕えていた二十人を中級悪魔に運ばせてギズア族の本拠地へと向かった。


「まったく忌々しい異世界人どもめ」


 恭也たちの姿が見えなくなるなり、トキクシの人々は表情を一変させて恭也たち異世界人への罵倒を口にし始めた。


「数年前に異世界人が現れなければ、今頃オルガナ様たちがギズアの猿どもを根絶やしにして下さっていたというのに」

「まったくだ。どうして我々があんな化け物どもの戦いに巻き込まれないといけないんだ」

「精々共倒れにでもなってくれ」


 口々に恭也とガーニスへの不満を口にする彼らは、憎悪すらこもった視線を恭也が飛び去った方角へと向けた。


(ってな感じのこと言ってたぜ)

(なるほど。別にギズア族から始めた戦いってわけじゃないってことか)


 念のためトキクシを後にしてからしばらくの間、ウルに実体を解いてその場にとどまるように頼んだのだが、その結果興味深い話が聞けた。

 街にあれだけの被害を出した相手なので、ついさっきまで恭也はギズア族を当面の敵だと認識していた。


 しかし今回恭也が関わろうとしている問題は、そんな簡単な問題ではなさそうだった。

 とりあえずこれ以上考えるのはガーニスと話してからだ。

 そう決めた恭也が視線を向けると、本拠地にさえ着けば恭也などガーニスが軽く返り討ちにすると思っているらしく中級悪魔に運ばれるギズア族は大人しいものだった。


 現時点で四万近い魔力を消費している恭也としてはこの状況での異世界人との戦いは避けたかったが、トキクシと同様の攻撃が他の街にも行われているとすれば時間の猶予は無かった。

 一応話し合うつもりではあるが、相手側がすでにティノリス皇国の街へ襲撃を行った以上戦いは避けられないだろう。

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