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ギルド

 このまま順調にいけば後十日程でネース王国内の掃除は終わり、その後はセザキア王国とクノン王国に行き自治区設立後初めてのあいさつを行う予定だった。

 とりあえず表面的なあいさつで終わるだろうとは思うが、ミレズに現れた上級悪魔のことも伝えるつもりなので若干気が重い。

 この上級悪魔についてはネース王国内で不穏な噂が流れているのだ。


(それにしてもどうしたら恭也があの悪魔召還したって話になるんだ?)


 恭也の心配が伝わったウルが若干不機嫌そうに恭也に質問してきた。


(まあ、しょうがないよ。あの悪魔の発生理由、僕が見て確認しただけで証明のしようが無いんだから)


 ネース王国内に流れている噂とはネース王国との同盟締結を有利に進めるために恭也があの上級悪魔を呼び寄せたというものだ。

 要するに自作自演を疑われており、ウルが上級悪魔を誘導しているところを目撃した人々が一定数いることがこの噂に信憑性を持たせていた。


 何より致命的だったのが恭也が他人の死により能力を獲得できるということをネース王国の国民の多くに知られていることだった。

 恭也がサキナトを潰す際にサキナトの構成員たちに脅しの一環として伝えたのが原因で、この事実を知っているネース王国の国民はかなりいた。


(恭也と俺がそろってて何でそんな面倒なことしないといけないんだよ?ネースの連中に言うこと聞かせるなんてちょっと脅せばそれで済む話だぜ?)

(別に面と向かって言われたわけじゃないんだからほっとけばいいよ。僕が得したのも事実だし)


 実際恭也はあの事件で新たに三つの能力を獲得し、その後ネース王国との交渉を有利に進めることもできた。

 ネース王国の国民が疑惑を抱くのも当然で、これに関しては文字通り悪魔の証明なので恭也はこの件について弁明する気は無かった。


 しかしセザキア王国とクノン王国の首脳部に同じ疑惑を持たれると、今後の付き合いに悪影響が出るだろう。

 説明の際の恭也の振る舞いに全てはかかっており、今から気が重かった。


(何度も言ってるけど俺と融合してる時にうだうだ悩まないでくれ。こっちまでうぜぇ気持ちになる)

(ごめん、ごめん。話題変えようか。そう言えばさっきのウルの新技、おもしろいのばっかりだったけど何かを創るのばっかりだったよね。闇の魔法って物を消すのと精神とかに影響与えるのが特徴だと思うんだけど効率悪くない?)

(物消すのは『アビス』以上のは無理だし、雑魚の頭いじるのは恭也が嫌がるだろ?頭をいじるのは恭也には効かねぇしあんまり興味ねぇなー)

(確かに相手の心をずっと壊すのは止めて欲しいけどでも幻術とかはかっこよくない?)

(恭也の考えてる幻術って光属性の魔法だぞ)


 一口に幻術と言っても周囲の人間全員に同じ映像を見せる方式と特定の相手のみに映像を見せる方式の二つがある。

 前者は光属性の魔法で、後者は闇属性の魔法でそれぞれ行え、恭也の想像している幻術が光属性の魔法によるものに近いことを恭也と融合しているウルは理解していた。

 ウルの説明を聞いた恭也は残念そうに嘆いた。


(ちえっ、幻術使って相手を騙すって一回やってみたかったんだけどこの世界の魔法ってほんと融通きかないよね)

(何と比べて言ってるのか知らねぇけどこればっかりはなー。あの研究所の奴らに期待するか、それか今度戦う魔神が光属性なら問題解決だな)

(五分の一かー。この大陸には魔神が封印されてる場所、ウルがいた場所を入れても二ヶ所しかないみたいだし、自分で光の精霊魔法訓練した方が早いかもね)


 恭也本人が各属性の精霊魔法の腕を磨くという案はこれまで何度も考えた案だった。

しかしウルと融合する度に『六大元素』が解除されてしまうため、精霊魔法の修行を効率的に行うのは難しかった。


(とりあえず次までに恭也殺す技考えとくから恭也も新しい戦法の一つや二つ考えといてくれよ?)

(……努力はするよ)

 ウルの物騒な頼みを聞きながら恭也は頼まれた通りにウルに通用しそうな戦法を考え始めた。


 一ヶ月近くかけてネース王国内のサキナトの出した廃棄物全てを処理した後、恭也はセザキア王国訪問を三日後に控えた日アズーバにいた。

 透明になってアズーバ上空を飛行中の恭也はお忍びでアズーバのギルドの職員たちの働き振りを見学するつもりだった。


 ギルドの職員は初めの内は実験的な意味合いが大きいので、アナシン、アズーバ共に十人に留めた。

これに事務処理をする一人を加えた十一人で当分はやっていく予定で、実働部隊はサキナトが潰れて職を失っていた人々を優先して採用した。


 サキナトにいい印象を持っていない恭也は彼らがまじめに働いているかと不安に思っていたのだが残念ながら恭也の不安は的中した。

 今日ギルドにはアズーバ近隣の山中での狩りの依頼があり、四人が山へと入っていた。

しかし恭也が現場に顔を出すと、まるでやる気を感じられない彼らの姿がそこにはあった。


「あー、めんどくせぇ。こんな昼間から狩りなんてやってられるかよ。あんな給料で俺たち雇おうなんて何様のつもりだ」

「まったくだ。勝手にサキナト潰しといて仕事が無いなら働いてみませんかだとよ。殺してやろうかと思ったぜ」


 中身が入った酒瓶を手に男が同僚に相槌を打った。


「まあ、いいじゃねぇか。こうして適当に時間潰してるだけで金が手に入るんだ。仕事が失敗してもあの異世界人が恥かくだけ。依頼人も異世界人様の部下の俺たちに文句言えるわけ無いしな」


 男の一人が高笑いをあげた。


「あのガキのせいで俺たちは仕事なくしたんだ。せいぜい利用させてもらおうぜ」


 短くなったたばこを捨てた男は嘲笑を浮かべながら近くの木にもたれかかった。


「俺ちょっと寝るわ。適当に時間経ったら起こしてくれ」


 そう言って男が目を閉じようとした時、男たちに頭上から声がかかった。


「覚悟はしてたつもりだったんですけど、思ったよりひどい状況ですね」


 突然聞こえてきた声に驚いた男たちは一斉に上空に視線を向けた。

 彼らの視線の先には背中から黒い羽を生やした少年がおり、彼らはすぐにその少年の正体を悟り表情を一変させた。

 恭也は無言で彼らの近くに降り立つと、『隔離空間』を発動して彼らの逃げ道をふさいだ。


「安心して下さい。いくら何でも仕事さぼってたぐらいで危害加えませんよ」


『不朽刻印』の発動条件を満たす程に怯えている彼らを安心させるべく恭也は危害を加える気が無いことを伝えたのだがあまり効果は無かった。

 無理も無いかと思いながら恭也は彼らに解雇を告げた。


「どうやらみなさんやる気が無いみたいなんで今日でくびってことで。もうギルドには顔を出さないで下さい。ギルドで二度と雇わない以上のことをする気は無いので安心して下さい。今日の仕事は僕が代わりにします。受けた仕事の内容教えて下さい」

「い、猪か鹿を合わせて三頭狩るのが今日の仕事です」

「三頭か。一人で解体は面倒だな」


 ユーダムの住民に習ったので恭也も今では動物の血抜きから解体までできるようになっていたが、三頭を一人で解体するのは流石に面倒だ。

 依頼人には悪いがそのまま持って行き、料金を値引きにするということで話をつけよう。

 そう考えた恭也は背中から羽を生やすと今も恐怖で動けずにいる男たちに別れを告げた。


「本当に今回の件でみなさんをどうこうする気はありません。でも気をつけて下さいね。次に会った時、みなさんが犯罪に手を染めてたら僕我慢できないと思うので」


 それだけ言うと恭也は男たちを一瞥すらせずにその場を後にした。


(いやー、まいっちゃうよね。いきなりあんなやる気無い人たち雇っちゃうとか)

(洗脳して働かせればいいじゃねぇか)

(いや、戦闘中ならまだしも普段から洗脳する気はないよ。それにギルドは最終的にはセザキアとクノンでもやれればと思ってるから、できるだけ僕の能力抜きでやっていきたいし)

(さっきの調子じゃ先が思いやられるけどな)


 ギルドに採用した人間にやる気が全く無かったのは確かに困った事態ではあった。

 しかしこの事態は恭也としても想定していたのでそこまで驚いてはいなかった。

 恭也がサキナトを潰すまではサキナトはネース王国内でも人気の職場だった。


 給料がいいのはもちろん奴隷をさらってくる際に様々な役得もあり、採用倍率はかなりのものだったと聞いた。

 そんな職場で働いていた彼らが地道に働けるかは恭也も疑っていたので、言い方は悪いが彼らを採用したのは駄目元だった。


 実のところユーダムの近くの街、アナシンではギルドは順調にいっていたので少しは期待していたのだが……。

 アナシンのギルドがうまくいっているのはアナシンの住民たちの中に恭也の庇護を受け入れる土壌ができていたからだ。


実際自治区を設立する時もアナシンの領主が自分たちも自治区に組み込んで欲しいと言ってきた。

 その頼み自体は結局断ったのだが、こういった理由からユーダムとアナシンの仲はうまくいっていた。

 すでに地域ぐるみでユーダムと付き合いのあるアナシンとそれ程恭也たちと付き合いの無いアズーバを同様に考えたのは失敗だったようだ。


 しかし失敗したのならまた新しい人材を採用するだけだ。

 自分を奮い立たせた恭也は山での狩りを終えるとそのままギルドに向かい、事務職員に先程の四人の解雇を伝えた。


そして新しい職員の募集をかけるように事務職員に頼んだ後、恭也は今回の依頼を出した人物のもとに謝罪に行った。

 依頼人への謝罪を終えた恭也はその後セザキア王国との国境に近い街、カイナに向かった。

 恭也がカイナに着いた頃には日はとっくに暮れていた。

 近くの宿に部屋を取った恭也はため息をつきながらベッドに倒れこんだ。


「あー、疲れた。まったく、いくら働いてもすることがなくならなくて嫌になるよ」

「恭也が何でもかんでも手ぇ出し過ぎなんだよ。さすがに同時に色々やり過ぎじゃねぇか?」


 恭也の横でベッドに腰掛けるウルは呆れた様子で恭也との会話を続けた。


「死人の数減らしたいっていう目標がそもそもでか過ぎるんだよな。もっと地味にいこうぜ」


 さすがにウルも今さら恭也に殺戮や破壊をするようにそそのかすようなことはしない。

 いくら言っても無駄なことは分かっているし、現在行っている模擬戦でも十分楽しめている上近々恭也以外の異世界人とも戦えるかも知れないのだ。

 今のウルの生活はウル本人としてはかなり充実したものだった。

 そのためこのウルの意見は下心の無いものだったのだが、恭也はそれに反論した。


「せっかくすごい力手に入れたんだから地味にやっていくなんて嫌だよ。それにカムータさんたちもがんばってるみたいだし」


 恭也は相談役に就いて以来、週に一回ユーダムとコーセス、そしてコロトークたちの研究所から報告書をあげてもらっていた。

 今後の方針を決める際や他国との交渉の際に役立てようと思って提案したものだ。


 報告書と言っても自治区とは名ばかりの村と小規模の研究所からあがったものなので枚数自体は少ない。

しかし初めての報告書に書いてあることだけでもカムータやコロトークたちのがんばりは伝わってきた。


 ユーダムではアナシンと共同出資で牧場を作る計画が進んでいるらしく、その他にもノムキナやゼシアと同年代の若者たちも各部署の要職に就いて頑張っているらしい。

 ユーダムはその成り立ちから最年長のカムータが四十後半の若い集団だった。


 今では周りの村からの移住者も増えたのでカムータが最年長ではないが、それでもユーダムの中心となっているのはユーダムに初期からいる面々だ。

 そのためユーダムの要職には十代も珍しくなく、読み書きがかなりできるゼシアを中心にユーダムの人材育成も進められているらしい。


 コロトークたち研究所の面々からの報告で恭也の印象に残ったのは『精霊珠』と連絡用魔導具の一件だった。

 恭也に頼まれたコロトークたちが開発中だった連絡用魔導具、『エアフォン』の有効距離はここ最近一気に伸びたらしい。


 この風魔法を利用した魔導具が音を伝えられる距離をコロトークたちは今まで四百メートル、五百メートルと地道に伸ばしていたのだが、それを一気に四キロメートルまで伸ばせたらしい。

 出力だけなら『精霊珠』の数を増やせば上げられるので、今の技術なら二十キロメートル先までなら音を届けられるとのことだった。


 問題は魔法の制御で四キロメートル先に音を届けた際も魔法が届いた方向自体は全く見当外れの方向だったらしい。

当日実験していたコロトークたちもその日は実験が失敗したと思い、翌日地面がえぐれているのを発見した住民の報告で勘違いに気づいたとのことだった。


 こういったわけでまだ問題は残っているが、十キロメートル離れているユーダムとアナシンの間で連絡を取り合うという当面の目標も達成が見えてきた。

 ユーダムとアナシンの間に中継地点を設けても構わないので、とりあえず五キロメートルを目標に頑張って欲しいものだ。

 自治区にいるみんなも頑張っているのだから恭也も負けていられない。

 改めてそう思った恭也は報告書を『格納庫』にしまうとウルに断ってから眠りについた。

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