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聞き取り

 恭也はミレズの領主の館に着くとすぐに門番に領主に会いたい旨を伝えた。

 恭也はノムキナを助けた時とミレズの領主が失脚しそうになった時の二回、ミレズの領主、セデイン・ワンクス・ミレズに会っている。

 そのため門番も恭也の顔は知っており、すぐに恭也はセデインと面会できた。


「この街で上級悪魔が?それは本当ですか?」


 恭也がミレズに上級悪魔が現れたことを伝えるとセデインは驚いた様子だった。

 ウルたちが戦った場所が街の外側だった上に上級悪魔討伐がかなりの短時間で行われたため、セデインは自分が治める街で起きていた大事件に気がついていなかった。


「何やら街の方が騒がしいと思い使用人を走らせてはいたのですが……」

「とりあえず悪魔の方は僕が対処したんで問題無いんですけど、あなたには二つ調べて欲しいことがあります」


 自分が街への被害に気づくのが遅れたことが原因で恭也に叱責されるのではと今も怯えているセデインの気持ちには恭也も気づいていた。

 しかし今はそれどころではなかったのでセデインの不安を無視して恭也は話を進めた。


「はい。何なりとおっしゃって下さい」


 媚びるを通り越して怯えた様子のセデインに恭也は自分の要望を伝えた。


「建物の復旧とかはそちらに任せるしかないですけど怪我人の治療は僕がします。街の何ヶ所かに集めて下さい。怪我が重い人が手遅れになるといけないのでこれは最優先でお願いします」

「かしこまりました!おい、すぐに手配を!」


 セデインがそばで控えていた使用人に指示を出した後で恭也は二つ目の要望を伝えた。


「今回の悪魔はサキナトの残したごみ捨て場が原因で上級悪魔になったらしいんですよ。でも中級悪魔が街を無視していきなりそっちに行くようならもっと早く今回みたいになってたと思います。だから街を襲って追い払われた悪魔が偶然ごみ捨て場に逃げちゃったんじゃないかと思うんです。でも僕この街を襲った悪魔は全部倒されたって聞いてるんですよね」


 ここで一度発言を止めた恭也を前にセデインは何とか言葉を絞り出した。


「つまり恭也様に間違った情報が伝わった原因をお知りになりたいわけですね?」

「はい。でも悪魔の群れからはぐれた悪魔が気まぐれでごみ捨て場に行った可能性もゼロではないので、もしかしたら僕の考え過ぎ、それか勘違いかも知れませんけど…」

「かしこまりました!それも含めてすぐに調べさせます!しかし軍や騎士団全体を調べるとなるとかなり時間がかかりますが……」


 調査に時間がかかることで恭也の不興を買うことを恐れている様子のセデインに恭也は必要以上に急かすつもりは無いと伝えた。


「それはそうですよね。じゃあ、僕は一回村に帰ってここであったことを伝えてきます。明日のこの時間に顔を出すのでその時に分かってることだけでいいので教えてもらえれば……」

「かしこまりました。すぐに調べさせます」

「じゃあ、お願いします」


 それだけ言うと恭也は『空間転移』でゴーズン刑務所へと転移した。


 恭也が刑務所に転移するとコロトークが出迎えた。


「お疲れ様です。ご無事で何よりです」

「僕は大丈夫なんですけどね……」


 恭也は何も言わず『情報伝播』を使いコロトークにミレズに現れた上級悪魔の姿を見せた。

 今回はコロトークだけでなく周囲にも『情報伝播』の効果範囲を広げたので、コロトークのもの以外にも驚きの声が恭也の耳に届いた。


「こ、これがついさっきミレズに現れたのですか?」

「はい。ミレズは今大騒ぎですよ」


 動揺した様子のコロトークだったがそれとは別に恭也に視線を向けてきた。

 ここ最近すっかり慣れっこになった恐怖の込もった視線に恭也は内心ため息をつきながらコロトークに話しかけた。


「安心して下さい。今回の上級悪魔が現れたのはサキナトが原因ですけど、それでみなさんを責める気はありません。あれは予測できないでしょうし」

「ありがとうございます。……いえ、すみません」


 多少は安心した様子のコロトークだったがまだ動揺している様子だった。

 しかし恭也は先程口にした通り、今回の件でコロトークたちを責める気は恭也には無かった。

 邪魔になった廃棄物を人里離れた場所に適当に捨てる。

 恭也のいた世界でも大なり小なりやっていたことだ。


 もちろん廃棄物を適当に捨てればその場所の環境は大きく破壊される。

 恭也のいた世界でも度々問題になったことでそれがこの世界では最悪の形で現れたというだけだ。

 一度目は不運と受け入れるしかないだろう。

 自分にそう言い聞かせると恭也はコロトークに今後の予定を伝えた。


「とにかくそういうわけで僕はしばらくネース中にあるサキナトのごみ捨て場を処理して回るのでしばらく顔を出せません。今すぐ魔導具の実験って気分でもないので途中になってた実験は落ち着いてからということでお願いします」

「分かりました。私たちの後始末をしていただく形になり申し訳ありません」

「またあんなのに出られても困るからしかたないですよ。とりあえず今回みたいなことにならないようにごみの処分はちゃんとして下さいね」


 もっとも過去数百年以上に及ぶ死者の怨念などそうそう用意できないだろうから、今回の件がそのまま再現される可能性はほぼ無い。

 しかし中級悪魔以上上級悪魔未満の存在が現れただけでも十分脅威なので、一応恭也はコロトークに釘を刺しておいた。


 コロトークに別れを告げた後、恭也はユーダム村へと向かった。

 ちょうど夕飯時だったが恭也は今回の一件はすぐに共有しておくべきだと考え、カムータに頼み、の各部署の担当者をすぐに集めてもらった。

 ジュナやロップにノムキナ、そして村の警備を担当している人々などが集まるのを待ち、恭也は『情報伝播』でミレズでの出来事を見せた。


「…これが上級悪魔、こんなに大きいのか?」


 いきなり見せられた予想外の光景に誰もが息をのむ中、ジュナが驚きの声をあげた。


「はい。十メートルぐらいはあったと思います。正直言うとみなさんにまでこれを見せる必要は無いかとも思いました。でも今は半端に中級悪魔なら倒せるって感じになってるので、もし逃がしたらこうなるってことは知っといてもらった方がいいかと思って見せました。

「はい。見せてもらえて助かりました。もし中級悪魔を見つけたら確実に殺します」


 恭也にとっては今回が初対面となる村の警備を任された男性が若干青ざめた様子を見せながらもそう口にした。


「はい。お願いします。特に街と違って今の村では悪魔が逃げた場合追っ手を出すのは難しいと思うのでよろしくお願いします」


 恭也は男性に向かい合うと深々と頭を下げた。

 その横からジュナが話しかけてきた。


「しかし今回恭也がいなかったらミレズだけじゃなくて他の街も犠牲になってただろうな。最悪の場合他の国まで被害が出ていたかも知れない。恭也がいて助かったぞ」

「いえ今回の上級悪魔は、僕が何もしなくても三時間も暴れれば魔力を使い切って消えてましたから、言い方は悪いですけど被害はミレズだけで済んでたと思います」

「三時間?妙に具体的だな?」

「そういうのが分かる能力を持ってるんです。詳しくは聞かないでもらえると助かります」


 恭也のこの発言を受け、クノン王国の諜報員としての役目まで果たす気は無かったジュナはそれ以上の追及を避けた。


「そうか。じゃあ詳しくは聞かない。でも今ここにいるってことは悪魔自体はすぐに倒せたんだな」

「はい。ウルのおかげで戦い自体はすぐに終わりました。僕一人だと負けはしなかったでしょうけど、戦いが長引いてミレズの被害が大きくなってたでしょうからほんとに助かりました」


 自分の中でウルが得意気にしていることを感じながら恭也は話を進めた。


「とはいっても家屋の被害はすごかったですし、僕が治療しきれなかった怪我人もまだいると思います。だからしばらくは村に帰って来れないと思うのでそれを伝えようと思って今回帰って来ました」

「治療だけなら数日で終わるんじゃないですか?」


 今まで恭也とジュナの話を黙って聞いていたノムキナが恭也の口にした予定に対して疑問を口にした。


「はい。治療だけなら二日もかからないでしょうけど今回の原因になったサキナトのごみ捨て場ってネース中にあるんで、それの処理もしようかなと思って。あれに何回も出られても困りますし」

「でも今まで上級悪魔がネースに現れなかったことを考えるとまた同じ様な悪魔が現れる可能性は低いだろう?そこまで恭也がしなくてもいいと思うぞ」


 負傷者の治療までなら人助けの範疇だが、サキナトが出した廃棄物の片づけまで恭也がやる義理は無い。

 そう思ってのジュナの発言だったが恭也はそれを否定した。


「別に必要どうこうじゃなくてやりたいからやってるだけですから。それにこの言い方は卑怯ですけど、しなくていいなんて言い出したら僕奴隷のみなさんを助ける必要なんて無かったですし」


 恭也にこう言われてはこの場の全員は押し黙るしかなかった。

 それでもジュナは何か言いたげな表情をしていたが、結局そのまま引き下がった。


「すみません。一応お金は取るつもりですし、仕事の一つだと思えばそう悪いものでもないと思います」

「分かった、分かった。好きにしろ。それにしてもあれだけ巨大な悪魔をいくら魔神とはいえ、よく短時間で倒せたな」

「はい。それに関してはウルががんばってくれました。やっぱ自分以外に戦いを任せられる相手がいるって便利ですね。そういう意味ではティノリスの魔神早く仲間にしたかったんですけど、しばらくは無理そうですね」

「お前は何と戦うつもりだ?」


 呆れた様子のジュナに恭也は苦笑した。


「別に戦力だけじゃないですよ?魔神は僕と同じぐらいたくさんの魔力を持ってるので、それ使わせてもらうだけでも助かりますし」

「ふーん。まあ、確かに恭也の言う通りこの場にいる全員が恭也に助けてもらった身だからな。文句は言えない。好きにしろ」

「そこまで恩に着られても困りますけどとりあえずやるだけやってみます」


 その後しばらくカムータ達からの現状報告などを受けてから恭也はユーダム村を後にした。

 今から全速力で飛べば約束の時間までにはミレズに着くだろう。

 魔力を節約するために『空間転移』は使いたくないし、順調にいけば数時間はミレズに着いてから眠れるはずだ。


 それでも疲れが残っていた場合は一度死んで回復すればいい。

 これからの大まかな予定を考えながら恭也が飛んでいるとウルが話しかけてきた。

 ウルの口調にはわずかながら不満がにじみ出ていた。


(おい、最近別の魔神のことばっかり考えてるけど俺に不満でもあるのかよ?)

(まさか、さっきみんなの前でも言ったけど今回はウルがいなかったらミレズの被害しゃれにならないことになってただろうし、今もこうして空飛べてる。不満なんて無いよ)

(だったらどうして……)


 融合しての会話のため恭也がウルに不満を持っていないことはすぐにウルに伝わったが、それでもウルの不安は消えなかった。

 魔神とその主人との契約は主人の方からなら一方的に破棄できる。


 そのため恭也が急いで別の魔神と契約をしようとしていることにウルは焦っていた。

 恭也がウルに不満を持っているのではと不安になったのだ。

 恭也は魔神との契約を破棄できるという事実を知らなかったため、ウルのこの心配はただの取り越し苦労なのだがウルにそれを知る術は無かった。


(僕が他の魔神とも契約したいと思ってるのは単純にできることを増やしたいからだよ。ウルと契約しただけで空を飛べるようになったし、洗脳魔法も使えるようになった。他の魔神とも契約すればもっと色々できそうじゃない?)

(色々って?)

(ティノリスの魔神が水や土の魔神なら工事を手伝ってもらえるだろうし、もし風の魔神を仲間にできたらコロトークさんたちに頼んでる魔法の開発に応用できると思う。そうすればこの世界の技術も発展して色んなことができるようになると思う)

(まあ、確かに俺の能力じゃ飛行機とかいうやつ作るのの役には立たないな)

(役に立たないというより向き不向きってだけの話だけどね。他の魔神じゃ相手を洗脳して質問なんてことはできないわけだし)

(向き不向きか……)


 どうやら納得してもらえそうなウルに恭也は駄目押しの要望をした。


(もしかしたら自分の居場所がなくなるのを不安に思ってるのかも知れないけど、これから先どれだけ魔神を仲間にしてもウルが僕の最初の相棒だって事実は変わらないんだからもっと自信を持ってよ。他の魔神たちの先輩としてがんばってもらおうと期待してるんだから)

(…そうだな。わりぃ、俺らしくなかった。恥ずかしいところ見せちまった詫びにごみの後始末はがんばるぜ!)

(うん。お願い)


 すでにサキナトの残した廃棄物は全てウルの新技『アビス』(恭也命名)で消し去ることが決まっていた。

 ウルの不安が完全に消えたことを確認した恭也はそのまま速度を緩めずにミレズへと向かった。

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