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成長

 恭也が新たに手に入れた能力について考えていた頃、ウルはミレズの上空で上級悪魔を誘導していた。

 上級悪魔の中にいる闇の精霊に働きかけて上級悪魔を街の外まで誘導するというウルの目論見自体はうまくいっていた。

 しかし巨体ゆえの移動の遅さのせいで街への被害が収まっているとは言い難かった。

 今も上級悪魔の体中から複数の精霊魔法が街に放たれて轟音と悲鳴が響いた。


「ちっ、うぜぇな。大人しく俺狙えばいいのに……」


 誘導自体はうまくいっていてもその間に上級悪魔が行う破壊行為まではウルでも止められない。

 ウルが支配できるのはあくまで闇の精霊だけだからだ。

 しかも面倒なのはウルが闇の精霊への支配を強くし過ぎると、上級悪魔から闇の精霊が分離しそうになることだった。


 もしそうなったら誘導すらできなくなるので、ウルは精密な能力の制御という不慣れな作業に神経をすり減らしていた。

 そうしている間にも上級悪魔による破壊は続き街が焼き払われていった。


「あ、馬鹿、まじでやめろ!これ以上街が壊れたら俺が恭也に怒られる!」


 上級悪魔が放った流れ弾で上半身が吹き飛んでも意に介さず、ウルは今も自分を無視して街への攻撃を行っている上級悪魔への文句を口にした。

 普段なら恭也の支配領域でない街やその住民がどうなろうとウルの知ったことではない。


 しかしウルが上級悪魔を誘導中の今は街への被害は全部ウルの失態になってしまう。

 人間がいくら死んでもウルは何とも思わないが恭也に見限られるのは困る。

 恭也という人間はウルにとって悪くない契約者だった。


 ウルと互角に渡り合える戦闘力を持っているだけでなく、能力で様々な場所に行きウルが知らなかった多くの物を見せてくれる。

 もちろんウルは他の人間と契約したことはないので、恭也よりウルを楽しませてくれる相手はいるだろう。


 実際破壊も虐殺も行わない恭也に対してウルは今も不満を持っていた。

 しかし恭也と出会って以来退屈だと思ったことは一度もなく、今も街全体に癒しの雨を降らせた恭也にウルは驚いていた。


「へぇ、今回は能力手に入ったのか。このデカブツも少しは役に立ったな。後は俺がこいつ倒すだけだな」


 先程恭也と融合していた時にウルが知らされた恭也の作戦は恭也が隔離した空間でウルが『ミスリア』を使うというものだった。

 恭也の『隔離空間』による障壁は『ミスリア』を受けた場合恭也本人と同じ扱いになり、破壊も侵食もされない。


 そのためウルが上級悪魔をミレズの外に誘導さえできればその時点で戦いは終わったも同然だった。

 しかしそれではウルが活躍したとは言えない。

 こんな上級悪魔程度ウル一人で倒して見せる。


 もちろん恭也の望み通り街への被害を出さずにだ。

 恭也たちは『危機察知』のおかげで上級悪魔がミレズに現れてすぐに現場に駆けつけることができた。

 そのため上級悪魔はミレズの比較的外側におり、ウルが街から引き離すのに思ったより時間はかからなかった。


 しかしウルと上級悪魔がミレズの外に来た頃には恭也もその場に到着していた。

 闇の精霊を通して引き合いをしながら移動していたウルたちと雨を降らしてすぐに中級悪魔に運ばれてきた恭也では移動速度が段違いだったのでこの結果は当然だった。


「ウル、ありがとう!じゃあ、僕がウルと悪魔を包むから、」

「大丈夫だ!いらねぇ!」

「え?」


 恭也の作戦が伝わっているはずのウルのこの発言を聞き、恭也は戸惑った。

 そんな恭也にウルは上空から自分一人で倒すつもりだと伝えた。


「街に被害が出なけりゃいいんだろ?俺を信じろ!」

「…分かった!でも悪いけど一応街は守らせてもらうね」


 ウルの発言に一瞬考え込んだ恭也だったが、結局はウルを信じて引き下がった。

 それでも念のために『隔離空間』でミレズを覆う恭也を見て、ウルはため息をついた。


「やれやれ信用されてねぇな。まあ、この技なら恭也も文句無いだろ」


 そう言うとウルは上級悪魔への干渉を止めて上級悪魔の足下へと移動しようとした。

 そこにもう何度目になるか分からない上級悪魔の精霊魔法が飛んできた。

 自分の身長の三倍以上の太さの雷撃が直撃しようとしているにも関わらずウルに慌てた様子は無く、ウルはただ手をかざして闇の精霊を集めて壁を創るだけで上級悪魔の攻撃を難無く防いだ。


 同じ精霊魔法でもウルが使うものと今回の上級悪魔が使うものではまるで精度が違った。

 水に例えるならウルの魔法がウォーターカッターなら上級悪魔の魔法はただの大雨だった。

 一見上級悪魔の魔法の方が派手に見えるが威力は比較にならず、まともにぶつかると勝負にならなかった。


「少しは期待してたんだけどな。あの雑魚よりはましって程度か……」


 上級悪魔への興味を完全に失いながらウルは以前戦った精霊魔法の使い手のことを思い出していた。


「いや、泣き叫ぶだけあっちの方がましか」


 明らかな脅威であるウルに目もくれない上級悪魔に視線を向け、ウルはこんな動物以下の存在で遊ぼうと思っていた自分が恥ずかしくなった。

 さっさと終わらせよう。


 そう考えたウルは急いで上級悪魔の足下に向かった。

 ウルからの干渉がなくなったため上級悪魔は再びミレズに向かおうとしたが、それは叶わなかった。

 上級悪魔の足下でウルが新技を発動したからだ。


 上級悪魔の足下に到着したウルは自分の体を解くなり周囲の闇の精霊を吸収しながら地面に溶け込んでいった。

 一体ウルは何をする気なのかと思いながら恭也が見ている中、上級悪魔の足下の地面が黒く染まり始め、その後上級悪魔は足が地面に張り付いたかのように動かなくなった。


 そして次の瞬間起こった変化は劇的だった。

 一瞬で地面に直径二十メートル程の黒い渦が発生して上級悪魔を吸い込み始めたのだ。

 ここでようやく異変に気付いた上級悪魔だったがすでに手遅れだった。

 瞬く間に上級悪魔の体の半分程が黒い渦に飲み込まれ、苦し紛れに放った精霊魔法もほとんどが渦へと飲み込まれていった。


 上級悪魔の放った魔法の内、数発はミレズへと向かったが、恭也が『精霊支配』で弱らせた上で『隔離空間』で防いだ。

 最後の悪あがきが何の被害も出せずにそのまま上級悪魔は黒い渦へと消えていった。

 やがて渦は収束し始め、渦を構成していた闇が集まりウルが姿を現した。


「引き立て役と実験台ありがとよ」


 嗜虐的な笑みを地面に向けながらウルは自分の勝利を喜び、そこに恭也が駆け付けた。


「何?今のブラックホールみたいな技」

「『ミスリア』って魔力の無駄が多いだろ?俺が恭也に負けたのもそのせいだし。だから魔力の消費が少ない大技を新しく作ったんだよ」

「へぇ、今のはほんとすごいね」


 恭也が『魔法看破』で見たところ、先程のウルの新技は地面に立っている敵だけでなく空を飛んでいる相手にも有効らしい。

 その上『ミスリア』と違い、技の使用後一切の痕跡が残っていなかったのも恭也にとっては嬉しかった。


「『ミスリア』使ったらしばらくここを動けないと思ってたけど今回の技は特に問題無いみたいだしね。これから忙しくなるだろうしほんと助かった。今の威力で周囲に影響無し。文句無しだよ」

「そうだろ、そうだろ。もっと褒めていいぞ!」


 今までの経験からウルは周囲への被害を減らした方が恭也からの評価は良くなると考えていた。それゆえの今回の新技だったのだが、期待以上の称賛を受けてウルはご満悦だった。

 しかもウルには別の用意もあった。


「ほんとは恭也の言ってたとりっきーな技も考えてたんだけど、これは人間用だからな。まあ、お披露目は次の機会ってことで」

「うん。期待させてもらうよ」

「ところでさっきの雨なんだ?恭也ってあんなことできなかったよな?」


 恭也はウルに自分の持っている能力ついて一通り説明していた。

 そのためウルのこの質問は自然なものだったのだが、ウルがこの質問をした途端、恭也の表情が変わった。


「……うん。さっきの時間止める能力以外も二つ能力ゲットした。まあ、超使いにくい能力だけど……」


 そう言って恭也はウルに『能力合成』の内容を説明した。


「へぇー、すげぇじゃん。つまり能力が何個も増えた様なものだろ?」

「まあね」


 恭也も『能力合成』は便利な能力だとは思う。

 できることの幅も広がったし、能力内容がかみ合っていない『硬質化』と『空間転移』を合成するとどうなるのかなど疑問も尽きない。


 しかし手に入れた過程を思い出すと手放しでは喜べなかった。

 とはいえいつまでもここにいてもしかたないので、恭也はウルと融合してその場を飛び立った。

 その際にウルの人間用の新技が何かを探ってみたのだがはぐらかされた。


(へへっ、だめだめ。新技の内容は教えねぇよ)


 融合時の恭也とウルの会話は本人が隠したがっていることは伝わらない。

 そのため今回恭也はウルの言う対人間用の技の内容を知ることができなかった。

 ウルが新しい力を手に入れた恭也との模擬戦を楽しみにしているのが伝わってくるため、正直まだウルの性格に対しての不安はある。


 しかしそれと同時に周囲への被害を抑えようとウルが考えていることも伝わってきた。

 このように考えが変化したのならウルのことをもっと信用してもいいかも知れない。

 そう恭也が考えていた時、ウルが何かに気づいた様子だった。


(あ、しまった。上級悪魔倒すんじゃなかったな……。上級悪魔って弱ったところに魔導具刺せば強い魔導具が手に入るんだろ?)


 先程の浮かれ具合から一転してウルは恭也の反応をうかがっていた。

 せっかくの一点物の強力な魔導具が手に入る機会をふいにして怒られると思ったのだろう。


(構わないよ。あの悪魔の生まれた経緯考えるとろくな能力にならないだろうし)


 奴隷として無念の死を遂げていった人々の怨念を取り込んだ悪魔由来の魔導具など恭也は所持したくなかった。

 ただでさえ能力のせいで人の死を背負わされて精神的にきついというのに、それを見える形で体験するなど恭也はごめんだった。

 融合しているため恭也が気にしていないことは直にウルに伝わり、ウルは安心した様子を見せた。


(そうだよな。今日三つも能力が手に入ったんだし、魔導具の一つぐらいどうってことないよな)

(……まあね)


 恭也が他人の死で能力を獲得していることを気にしていることはウルにも以前伝えた。

 それにも関わらずのこのウルの発言を聞き、抜本的な考え方を変えるのは難しそうだと恭也は悟った。

 それにしてもと恭也は思う。


 上級悪魔との戦い自体はあっけなく終わったがこれからが大変だ。

 まず先程の雨での治療が行き届いていない被害者がいないかを確認し、その後どうしてあれだけ巨大な悪魔の存在に気がつくのが遅れたのかを確認しないといけない。


 街の復興自体には恭也ができることはないが、まだ各地に残っているサキナトの残した産業廃棄物の捨て場への対応も行わないといけない。

 国中を回るとなると『空間転移』は使えないので一ヶ月がかりの作業となるだろう。

 ティノリス皇国行きは延期だなと考えながら恭也は現状を把握するためミレズの領主の屋敷へと向かった。


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