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上級悪魔

 恭也がセザキア王国で治療を行ってから四日後の昼下がり、恭也はコロトークとしていた約束通りゴーズン刑務所近くの研究所へと顔を出した。

 恭也が研究所に入るとすぐにコロトークが二つの魔導具を持ってきた。


「こちらが恭也さんのおっしゃっていた姿を消す魔導具と大砲型の魔導具です。申し訳無いのですがこの場で試してもらえませんか?恭也さん以外使えないもので……」


 今回恭也がコロトークたちに作らせた魔導具の特徴は恭也がウルと融合していても使える、より正確に言うなら使用者の持つ魔法の属性に関係無く使えるという点だ。

 姿を消すという元々あった光属性の魔道具を魔力を流すだけで使えるようにしてもらった。


 その秘密は魔導具にはめ込まれたガラス球にあった。

 このガラス玉自体はただのガラス玉だが、恭也の『精霊支配』により光の精霊が入れられていた。

 恭也がこのガラス玉の様な仕組みの物を作ってもらおうと思ったのはウルと融合して飛んでいる時に闇属性以外の魔法を使いたいと思ったことがきっかけだった。


 攻撃自体は闇属性の魔法でも行えるが、姿を消そうと思ったら光属性の魔法を使う必要がある。

そこでウルとの融合と闇以外の属性の魔法の使用を同時に行いたいと考えた恭也はコロトークたちに魔力の代わりに精霊を利用することを提案した。


 電池の様な物ができれば便利ぐらいの軽い気持ちでの提案だったのだが、空気中の精霊の使用という恭也の提案はコロトークたちにとって驚くべきものだった。

 最初にこの世界で精霊という言葉を聞いた時恭也は漫画やゲームで得た幻想的な印象を持ったが、『魔法看破』や『精霊支配』を獲得した今ではそれが間違いであることを恭也は知っていた。


 この世界の精霊というのはただ空気中にあるだけの物質だ。

 人間、魔神を問わず、誰かが精霊魔法を使う際に消費されるだけの存在で、意思など一切持っていない。


精霊が意思など持っていたら精霊魔法を使うことに抵抗があっただろうから恭也としては助かった。

 恭也が知ったこの事実の何にコロトークたちが驚いたのかというと、精霊が空気中に常に存在しているということが驚きだったらしい。


 これまでの通説では精霊は精霊魔法使用時に悪魔同様どこかから召還されているとされてきた。

この誤解は精霊魔法の使い手の少なさはもちろん精霊魔法の使い手も空気中の精霊の存在自体は認識していなかったことが原因だった。


 実際恭也も『魔法看破』や『精霊支配』を獲得していなければ空気中の精霊の存在に気づくことはなかっただろう。

 この事実を知った時のコロトークたちの興奮ぶりから察するにこの事実はかなり画期的な発見らしかった。


 そういったわけで恭也の提案で精霊入りのガラス玉、通称『精霊珠』が作られることになったのだが、今まで存在すらしなかった考えに基づいた道具などすぐに作れるわけもなかった。

 そのため『精霊珠』はとりあえず恭也の『精霊支配』で用意し、コロトークたち独力での製作は今後の課題ということになった。


 動力源さえあれば後は円滑に進み、わずか数日で恭也の頼んだ魔導具は完成した。

 コロトークとその部下たちと共に研究所を出た恭也は一応『魔法看破』で魔導具に妙な細工が無いことを確認してから早速ウルと融合した状態で首から下げる形になっている魔導具を発動させた。


 まだ試作段階のため魔導具に刻まれた術式は無駄な部分が多く消費する魔力が通常の魔導具の比ではなかったが、恭也にとっては問題無い量だった。

 魔導具の効果自体は問題無く発動して恭也の姿が消えた。


 それと同時に恭也の足下の地面も半球状に消え、その空間に異常があるのは外から一目瞭然だったが別に構わない。

 これはウルと融合して空を飛ぶ際に使うための魔導具だからだ。

 直径三メートルの球体を創り、その中の様子が外から見えなくなればそれでよかった。

 実験がうまくいき胸を撫で下ろすコロトークを見ながら恭也はウルに感想を尋ねた。


(大丈夫?気持ち悪くなったりしてない?)

(いや、全然問題無い。これどれぐらい持つんだ?)

(精霊の補充自体は僕ができるから二時間でも三時間でも平気だよ)


 空気中にある精霊の量は通常の精霊魔法の使い手が精霊魔法を連発しても枯渇しない程度にはある。

 一ヶ所に長時間留まるといったことでもない限り、精霊魔法が使えなくなる心配は無かった。

 その後姿を消したまま飛行を行ってみたが、恭也にもウルにも特に異常は出なかった。

 とりあえずの実験を終えて地上に降りた恭也にコロトークが近づいてきた。


「使い心地はどうでしたか?」

「はい。特に使いにくいってことも無かったんで、これはこのままでもいいと思います。ただ結構魔力使ったのでそこは改善してもらえると助かります」


 五分程使っただけで恭也は三百近い魔力を消費していた。

 これでは普及は無理だろう。


「分かりました。では今度は大砲型の魔導具の方を、」


 お願いしますと言おうとしたコロトークだったが、そこで何か言いたげな恭也の視線に気がつき口をつぐんだ。

 コロトークの視線に促される形で恭也は口を開いた。


「クノンの人たちから聞いたんですけど、通信用の魔導具の研究、最近行き詰ってるみたいですね。これって技術的な問題ですか?もし人手が足りないってことならネース中から募集かければ新しい人雇えると思いますけど」


 恭也のこの提案を受け、少し考える様子を見せた後でコロトークは現状を伝えてきた。


「恭也さんの方からそう言っていただけると助かります。正直、現時点で人手は足りていません。転移魔法の研究はほとんど進んでいませんし、魔導具は思いついても実際に作るのにかなりの時間がかかりますので。それに人数が少ないと出る発想も限られてしまいますし……」

「なるほど。だったら新しい人の採用については前向きに考えてみます。その人たちの教育についてもコロトークさんたちに任せることになるので条件や人数について一度みなさんで、」


 相談して欲しいと恭也が言いかけた時突然『危機察知』が発動し、恭也はコロトークとの会話を中断した。


「すいません!急用ができました!話はまた後で!」


 それだけ言うと恭也は『空間転移』を使いコロトークの前から消えた。

『危機察知』の仕様についてはユーダム村とゴーズン刑務所の者みんなが知っていた。

 そのため突然恭也がこの場から姿を消してもコロトークたちが慌てることはなかった。

『危機察知』を理由に姿を消した恭也がすぐに帰ってこないこともコロトークたちは分かっていたので、この場はとりあえず解散ということになりコロトークたちはそれぞれの仕事に戻った。


『危機察知』の発動を感じた恭也が転移した先はネース王国のミレズだった。

 転移を終えた恭也は目の前にいる『危機察知』発動の原因となったと思われる人物に話を聞こうとした。


しかしすぐに街中から聞こえてくる悲鳴や何らかの巨大な音に気づき、恭也は慌てて音のする方を振り向いた。

 今回呼ばれた際に恭也が想像していたのは中級悪魔の出現や民衆同士の衝突だった。

 しかし恭也の眼に飛び込んできたのは体長十メートルを超える異形の怪物が街を破壊している光景だった。


「は?何あれ?」


 想像を超える事態に恭也が思考停止に陥っている間も怪物は前進を続けて街と人々を蹂躙していった。

 その長い腕が振るわれる度に家屋が吹き飛び、怪物の前進に伴い悲鳴が響いた。


 さらに怪物の体に走った複数の亀裂が口の様に開くと、そこから各属性の精霊魔法が撃ち出されて瞬く間に街を焼き払った。

 闇属性の精霊魔法はウルの『キュメール』と同様の性質を持っているらしく、ウルの創り出すものの何倍もある黒い球体が軌道上の物を次々と消滅させていた。


 慌てながらも『魔法看破』を発動した恭也は目の前の存在が上級悪魔であることを知った。

 中級悪魔が魔導具の残骸や弔われずに死んでいった奴隷たちの怨念を吸収して強化された姿で、強化の過程で周囲の精霊も吸収して膨大な魔力を手に入れたらしい。


 しかし体が完成した今は魔力を放出する一方なので後三時間も暴れたら消滅するらしい。

 サキナトが魔導具の残骸を捨てた場所がネース王国の各地にあることは恭也も知っていた。

 しかし奴隷以外の問題にまでは関わっていられないと放置していたのだが、まさかそれがこんな結果になるとは……。


「とにかくあいつを止めないと」


 後悔や自責など後ですればいい。

 とりあえず今はあの上級悪魔を倒さなくてはいけない。

 今の調子で目の前の上級悪魔に暴れられたらミレズは二時間と持たないだろう。

 そう考えていた恭也にウルがある提案をしてきた。


(とりあえず俺が街の外に誘導しようか?)

(そんなことできるの?)

(あいつ闇の精霊も混ざってるんだろ?他の属性の精霊も混ざってるから操ることはできねぇけど誘導ぐらいならできるはずだ)


 恭也と融合していたためウルは即座に恭也が『魔法看破』で知った情報を知ることができ、それに基づく作戦を提案してきた。

 特に問題無い提案だったため恭也はウルの案を採用した。


(じゃあ、お願い。後、)


 今も上級悪魔が暴れているため焦りながらウルに指示を出そうとした恭也だったが、ここで更なる異変に気づいた。

 上級悪魔の暴れる音や逃げ惑う人々の悲鳴といった周囲の音が全て聞こえてこなくなったのだ。


 そして同時に自分の魔力が減っていることに気がつき、恭也が『魔法看破』で自分の体を見ると新しい能力『時間停止』を獲得していた。

『魔法看破』によると魔力を一万消費して五秒間時間を止める能力で、恭也本人と契約している魔神以外の時が止まるらしい。


「魔力一万で五秒って……」


 確かにウルと話し合う時間が欲しいとは思ったが、別に能力が欲しいと思っていたわけではない。

 新しい能力の燃費の悪さにぼやきつつも、恭也はせっかく手にした時間を使ってウルへの指示を続けた。


(じゃあ、ウルはさっき言ってた通りあいつを街の外に誘導して。僕は街の人たち治療してから行くけど、僕が着く前に倒す分にはもちろん構わないよ。ちゃんと誘導する方向は考えてよ?)

(りょーかい)


 ウルが恭也との融合を解くのとほぼ同時に時間が動き出し、恭也とウルはそれぞれ動き出した。


「さてと治療して回るにしてもさすがに街全部は無理だよな。どうしようか」


 恭也がそうつぶやいた途端、恭也の中に二つの能力が発現した。

 どちらも目の前の惨状を見て自身の力不足を感じた恭也の怒りから発現した能力だったが、これらの能力を手にした恭也は不快感を隠さなかった。


「あー、うざい、うざい!そう意味で言ったんじゃないよ!」


 また勝手に能力が発現したのを感じて恭也は頭をかきむしった。

 また何百、何千という命を背負わされてしまった恭也は瞬時に自身の能力への不満を抱き、それと同時に今まで助けてきた人々の笑顔、戦ってきた人々や各国の王たちからの視線など様々なことを思い出して何とも言い難い感情に襲われた。


 ここで怒りや絶望に身を任せられればまだ楽だっただろう。

 しかし恭也は数度息を吐くだけで何とか気持ちを落ち着けて新しい能力を確認した。

 どちらも恐ろしく魔力を消費する能力だったが、その内の片方は今の状況にはぴったりだった。

 恭也はさっそく新しい能力の一つ、『能力合成』を使い『雨乞』と『治癒』を合成した。


 その後すぐに恭也が合成した能力を使うとミレズ全域に雨が降り出した。

 ウルが上級悪魔を街の外に誘導し始めたことにより、ミレズの人々はわずかながら落ち着きを取り戻していた。

 そんな中突然降り出した雨に人々は驚き、さらにその雨を浴びた人間の切り傷や火傷が癒える様を見て人々は言葉を失った。


「これで少しは落ち着くかな。……それにしても一気に二割はきついな」


 癒しの雨が降り注ぎ騒ぎが多少は落ち着いた街の様子を確認した後、ウルのもとに向かい始めた恭也は『能力合成』の消費魔力について考えていた。

『能力合成』はこの能力の発動自体に一万の魔力を使う。


 その上合成した能力の発動にも一万の魔力を使い、合成した能力は十秒で元に戻るという使いづらさだった。

 今回は、『雨乞』が一度使えば効果が持続する能力だったので問題無かったが、合成して作った能力の内容次第では非常に忙しい思いをすることになる。


 使いどころを考えなくてはならない能力で、今回手に入れたもう一つの能力も似たような能力だったため恭也は今回手に入れた能力の多用は無理だなと思った。

 ミレズに転移するために使った『空間転移』で消費した魔力との合計で恭也はわずかの間に四万もの魔力を消費している。

 これ程の大事件が起こっていると思っていなかった恭也は上級悪魔出現の予防の大切さを痛感しつつ、召還した中級悪魔に運ばれてウルのもとに向かった。

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