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価値観

 翌日の昼頃、クノン王国から無事宿舎を受け取った恭也がユーダム村に顔を出すと、ノムキナとジュナが一緒に歩いているのが目に入った。

 珍しい組み合わせ、というよりノムキナがゼシアと一緒にいないところを初めて見た恭也だったが、いつも一緒にいるわけがないかと思い直して二人に近づいた。


「こんにちは。珍しい組み合わせですね」

「おお、恭也。もう宿舎持ってきてくれたのか?」


 恭也相手に村人程は遠慮しないジュナの返事を聞きながら恭也は今日の予定を伝えた。


「はい。ついでにコロトークさんたちに頼んでおいた魔導具作りの進み具合も確認するつもりですけど」

「魔導具って、あの遠くに声を届かせるってあれか?」


 恭也がコロトークたちに制作を頼んだ遠距離連絡用の魔導具については実験にクノン王国の兵士たちが同行することが多いので、ジュナも話には聞いていた。

 しかし今日の恭也の用は別だった。


「いえ、そっちに関してはすぐには無理だと思ってるんで急かすつもりはありません。コロトークさんたちには僕用の魔導具も頼んでて、今日はそっちの様子を見に来ました」

「今さらどんな魔導具が欲しいんだ?恭也、今でも何でもできるだろう?」


 心底不思議そうにしているジュナに恭也は近々ティノリス皇国に行き魔神と戦うつもりであることと、セザキア王国上空での飛行を遠慮しなくてはならないことを告げた。

 それらの問題を解消できる魔導具の制作をコロトークたちに頼んでいると恭也が説明したところ、ジュナは納得した様子だった。

 その後昨日までセザキア王国にいたことを恭也が告げると、ノムキナもジュナも驚いた様子だったがノムキナが気になったのは別のところだった。


「わざわざセザキアでお金をとって治療を?もしかしてお金に困ってるんですか?」


 自分たちの村を作る際はもちろん今でも多大な支援をしてくれている恭也が金策に走っていると聞き、ノムキナは焦りと罪悪感から思わず質問してしまった。

 ノムキナの表情が急変したことからノムキナの心配をすぐに察した恭也は安心させるように笑顔でノムキナの心配を否定した。


「別に今お金に困ってるってわけじゃありません。でもネースに後何ヶ所か村を作ろうと思ったら手持ちのお金だけじゃ足りないんで、暇な内に稼いどこうと思って」

「まだ村を作るつもりなのか?」


 ノムキナの隣でジュナが驚きとも呆れともとれる表情を浮かべていたが、ノムキナも同じ気持ちだった。


「恭也さん、助けてもらった私が言うのも何ですけど、少し働き過ぎなんじゃ……。もう奴隷の解放はほとんど終わってるって聞いてますし、もう少しゆっくりしてもいいと思います」

「そうだぞ。第一、そこまで恭也がする義理無いと思うぞ」

「まあ、義理とかじゃなくてやりたくてやってるだけですから。もう無理だと思ったらそこで止めますよ」


 これは何も言っても無駄だなとノムキナとジュナは思い、恭也も二人の呆れと心配が混じった気持ちを感じ取った。

 この話題をこのまま続けても分が悪いと判断した恭也は二人に何をしていたのか尋ねた。

 強引な話題の転換だったが、二人としても今この場で恭也を説得するのは無理だと分かっていたので自分たちが今行っていることを説明した。


「今ノムキナはアナシンとの物のやりとりを管理する仕事しているんだ。私たちも必要な物を頼むことがあるし、荷物が多い場合は私たちが運ぶのを手伝うこともある。というわけで最近はよく一緒にいるし今日もこれから仕事の相談だ」

「へぇ、今ノムキナさんそんなことしてるんですね」

「はい。力仕事は男の人たちにはかないませんし、村のために何かしたいってカムータさんに相談したら今の仕事を。ゼシアちゃんは村の人たちに読み書きを教えてるんですよ」


 自分が知らない内にノムキナとゼシアが村での役割を大きくしていることを知り、恭也はそろそろ潮時かなと考え始めていた。

 ユーダム村は今では恭也の力を借りなくても運営できる程に大きくなっていた。


 カムータたちが村を作り始めてから新たに村に移ってきた人間の数は三百人近くになり、彼らへの仕事の割り振りも順調だった。

 移住者の内、最初の五十人程は恭也が洗脳してサキナトの人間かを質問していたのだが、今ではカムータから止められていた。


 もちろん外聞が悪いという理由もあったが、カムータが恭也による村への移住者への質問を止めさせたのはそろそろ頃合いだと考えたからだ。

 問題を起こさないようにするのが理想ではあるが、村が大きくなった今は問題が起こってからどう対処するかを考えるべきとカムータに言われては恭也も納得するしかなかった。


『危機察知』があるため恭也がこの村に定期的に顔を出す必要はかなり薄れていた。

 さすがにジュナたちを呼んでおきながら、後は丸投げは悪いのでジュナたちがいる間は定期的に顔を出そう。

 そう決めた恭也は二人との会話を続けた。


「助かります。そういう頭を使う仕事は地味ですけどすごい大事だと思いますから。僕なんてとりあえずやってみて、後から慌てて何とかするってことばっかりですから。今度役に立ちそうな本があったら買ってきますね」

「はい。ありがとうございます。少しでも恭也さんや村の役に立てるようにがんばります!」

「訓練の方は私たちに任せてくれ。みんなやる気があってこっちとしてもやりがいがあるぞ」


 ノムキナとジュナが力強く発言するのを聞き、恭也は自分のしてきたことが報われた気がしてうれしくなった。


「じゃあ、僕はそろそろ行きますね」

「ああ、宿舎を置く場所はあっちにいる兵士たちに聞いて適当に決めてくれ」


 宿舎の設置場所についてはユーダム村とゴーズン刑務所の間の刑務所寄りに設置することだけが事前の話し合いで決まっていた。


「分かりました。多分来週以降は僕もちょっと忙しくなると思うのでよろしくお願いします」

「ああ、それにしても魔神二体目、本当に倒しに行くのか?」

「はい。仲間は多い方がいいですし、それに魔神がいなくてもティノリスには行くつもりでしたよ。僕が言うのも何ですけど、異世界人が好き勝手暴れてるようなら放ってはおけませんし。まあ、理想は魔神を仲間にして異世界人やティノリスとは話し合いで決着ですけど」

「そ、そうか。……まあ、気をつけてな」


 余程相手が目上でない限りはっきりものを言うジュナでさえ、魔神討伐を片手間でこなそうとしている恭也には一瞬口ごもってしまった。

 そしてノムキナにとって恭也が魔神と戦うというのは簡単に流せることではなかった。


「もう無理して魔神と戦う必要は無いんじゃないですか?今の恭也さんはすごく強いですし、今はウルさんもいるんですから……」


 恭也が魔神と戦うことを決めた経緯はこの村の人間なら誰もが知っていた。

 しかし今はあの時とは事情が違うので恭也には無理をしてほしくない。

 そう思ってのノムキナの発言だったのだが、当の恭也は気楽なものだった。


「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。魔神相手なら絶対に勝つ方法があるので」

「本当か?」


 恭也の発言を聞き、ジュナが恭也に疑いのまなざしを向けた。

 各国の軍隊が幾度となく敗れた相手が魔神だ。

 それに絶対に勝てる方法があるなどジュナはにわかには信じられなかった。


「はい。まあ、僕の切り札なんで詳しくは言えませんけど、実際

それでウルにも勝てましたし」

「へぇー」


 一応は納得した様子のジュナだったが、まだ何か言いたそうな表情をしているジュナに恭也はどうしたのかと尋ねた。


「いや、恭也に切り札を隠しておくっていう考えがあったことに驚いただけだぞ」

「僕のこと何だと思ってるんですか……」

「まあ、よく言えばお人好しだな」


 悪く言うと何なんだと聞きたくなった恭也だったが、深追いするのは止めておいた。


「この世界の人全員が僕の事歓迎してるわけじゃないのはさすがに分かりますよ。昨日もセザキアでにらまれましたし」


 恭也がテカドール伯爵の屋敷での件を二人に伝えると、ノムキナは不快そうに顔をしかめた。


「そんな理由で恭也さんを恨むなんて……。それに父親の態度も失礼じゃありませんか?」

「いや、まあ、弟さんの視線に関してはウルの考えですし、それにセザキアで世話になっている貴族の人によると貴族としては当然の考え方らしいですよ」

「それは、……ひどいですね」

「まあ、僕の担当を任されたその貴族の人も三男らしくて、さすがにはっきり口にしたわけじゃないですけど誰もしたくない仕事押し付けられたみたいです」


 ここまでの恭也の発言を聞き、ノムキナは衝撃を受けている様子だった。

 この村に住んでいる限り貴族などと話す機会は無いと思うので、ノムキナにここまで話したのはまずかったかもしれない。

 そう考えた恭也は自分の正直な気持ちを伝えた。


「これに関しては生まれつきの価値観ですからどうしようもないと思いますよ?ノムキナさんは貴族と話すことはまずないでしょうからそこまで気にしなくてもいいと思いますし」

「でも恭也さんはそうもいかないですよね?」


 自分より恭也の心配をしてくるノムキナの優しさに驚きつつ、恭也は笑顔で心配無いと伝えた。


「自分のことだからはっきり言っちゃいますけど、今の状況でうまくやってる人たちにとって僕が目障りなのは分かってます。でも自分が間違ったことしてるなんて思ってませんから周りからどう見られようとやりたいようにやるだけです」


 さすがに周りの視線なんて気にしないと言える程強くはなかったが、これが恭也の偽りない本心だった。


「恭也さんの考えはすごく立派だと思います。でも無理だけはしないで下さいね?お願いします」

「大丈夫です。僕も別に偉い人たちとけんかしたいわけじゃないですから」


 ノムキナを安心させるように笑いかけた恭也にジュナが呆れた様子で話しかけてきた。


「心配しなくても恭也とけんかしようなんて馬鹿な貴族いるわけがないぞ。異世界人相手に権力なんて意味無いからな」

「まあ、こっちも好き勝手やってるんでにらまれるぐらいは必要経費だと割り切りますよ」

「そうしてくれ」


 その後しばらくしてまだ仕事が残っているという二人と別れ、恭也はゴーズン刑務所へと向かった。

 恭也と別れた後、ノムキナとジュナは恭也について話していた。


「なんとなく想像はしてましたけどやっぱり恭也さんって苦労してるんですね……」

「それはまあ、そうだろう。恭也本人も言ってたけど恭也の事おもしろく思っていない権力者は多いだろうしな。でも大丈夫だ。さっきも言ったけど表立って恭也とけんかしようなんて権力者はいないから最終的には単なる取引相手ぐらいに収まるはずだぞ」

「それならいいんですけど……」

「ま、働き過ぎなのは気になるな。さすがに今はわざと死んで元気になるなんてことはしてないと思うけど」

「それ、どういう意味ですか?」


 ジュナの不穏な発言を聞き、ノムキナの表情は曇った。

 そんなノムキナにジュナはクノン王国で助けられた元奴隷たちから聞いた恭也の自殺による回復行為の内容を聞かせた。

 貴族相手の心配は不要と言われた直後にこれを聞かされ、ノムキナの心は晴れなかった。


 しかしノムキナがいくら恭也を心配しても実際にノムキナができることなど何も無い。

 とりあえず今回の件は後でカムータにも話しておこう。

 そう決めたノムキナは気持ちを仕事へと切り替えて現場へと向かった。


 恭也がセザキア王国内でアロガンの案内の下治療を行った二日後、セザキア王国の第一王子、オーガスは王城の自室にて怒りに顔を歪めていた。

 つい先程までこの部屋にはアロガンがおり、王国の首都内で恭也を活動させたことを理由にオーガスから叱責を受けていた。


 もちろん今回のアロガンの行動は事前に国王であるザウゼンの許可を取ってのものだ。

 そのためオーガスの今回の呼び出しはほとんど八つ当たりの様なものだったので、アロガンとしてはいい迷惑だった。


 十分以上アロガン相手に怒鳴り散らしたオーガスだったが、それでも怒りは収まっていなかった。

 いずれ自分のものになる国で異世界人が自由に振舞っているという現状はオーガスにとって我慢できないものであり、さらに異世界人に関する情報が自分に入ってきたのが遅れたということもオーガスの怒りに拍車をかけていた。


 オーガスが異世界人による治療が行われていると知ったのはテカドール伯爵の次男、サキットに相談を受けたからだった。

 テカドール家では伯爵の年齢を考えると数年以内に伯爵は息子に家督を譲るはずだった。


 内外問わずほとんどの者が病弱な長男でなく次男が後を継ぐと考えており、オーガスもそう考えてニオンではなくサキットと親交を深めてきた。

 現在テカドール伯爵は王家とは一定の距離を取っており、その家の次期当主ということでオーガスはサキットとの交流にかなりの時間を割いてきた。


 そんな中、異世界人のせいで自分の今までの行動の前提が崩されたのだ。

 いきなり伯爵の後継者の地位を失ってしまったサキットはもちろん、我が物顔でオーガスの国をうろつく異世界人にオーガスも怒りを通り越して殺意さえ感じていた。

 何度もザウゼンに異世界人と距離を取るように言ったのだが、ザウゼンは聞く耳を持たなかった。


「父上は完全に異世界人に心を折られている。相手が強いからこそ王家が毅然とした態度で臨まねばならないというのに。いや、あんな女を重用した時点でもう手遅れだったのかも知れないな」


 セザキア王国内でのミーシアの評判はサキナトへの協力者逮捕の際の活躍もあり悪くない。

 このままだとオーガスが王位を継いだ後でも目障りな存在になるかもしれなかった。

 そもそもセザキア王国は異世界人などいなくてもやっていけるのだ。

 これ以上自分の国が異世界人に蹂躙される前に行動を起こさなくてはならない。

 そう決意したオーガスは自国のために行動を起こすことを決めた。

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