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再会

 ジュナたちを村へと連れてきた翌日、恭也はさっそく刑務所のための土の壁作りに着手した。

 精霊魔法は使い手の想像力次第でできることはかなり広がる。

 さらにこの世界で一般的に精霊魔法と言われる魔法は通常の魔法の発動時と変わらない魔力を消費して発動した魔法に空気中の精霊の力を上乗せさせて発動されるものだ。


 しかし恭也の場合は能力などで大量の魔力を消費するのが当たり前だったことが幸いし、意識せずとも精霊魔法を使う際に大量の魔力を消費していた。

 そのため恭也の使う精霊魔法は一般的な精霊魔法と比べても出力が段違いで、しかも今回は攻撃に使用しているわけではないため加減の必要が無い。


 その結果次々と土が盛り上がり分厚い壁が出来上がる光景を目の当たりにし、ジュナたちは言葉を失った。

 結局恭也は一時間もかからずにジュナたちに言われた通りの壁を作り上げた。

 もちろん大まかな準備が終わっただけで人の手による細かい修正は必要だったが、それはジュナたちの指示を受けて囚人たちがやる予定だった。


「これで大丈夫ですか?」

「あ、ああ、後は私たちでやるぞ。それにしても昨日恭也の土魔法を見た時点ですごいとは思っていたけど改めて見るとすごいな」


 恭也と話しながら出来上がったばかりの壁を触り、ジュナは壁の強度を確かめていた。


「細かい制御が必要ってわけじゃなかったですから。後何かして欲しいことってありますか?」

「いや、今のところは無いぞ。後の仕上げは私たちと囚人たちでやるし、村の人たちの訓練はロップが担当する。工事と訓練に関してはどっちも慣れているから任せてくれていいぞ!」


 そう笑って言うジュナを見て、恭也は安心してユーダム村とここ、ゴーズン刑務所を任せることにした。

 すでにクノン王国から来た兵士たちの内、希望者には魔導具を配布済みだった。

 ウル製の魔導具は常人では一日に五回も発動すると魔力がなくなってしまう。


そのため中級悪魔との戦い以外では使わないことが話し合いで決まっていた。

 もちろんウルが加護を与えれば魔導具を使える数は跳ね上がるが、ウルの加護については誰にも与えるつもりが無いことはジュナたちに伝えてあった。

 工事に関しては軍事行動の際の陣地作成の訓練を普段から行っているため問題無いとのことだったので、恭也は安心してこの場を離れることにした。


「じゃあ、僕はアズーバの近くの村の方に行きますね。あさってにみなさんの住む宿舎持ってくるつもりなんでまたその時に」

「ああ、こっちのことは任せてくれ」


 そう言うジュナと別れた恭也はアズーバに転移する前にユーダム村にいるロップとカムータにも一言声をかけていくことにした。

 恭也が村に着くと、ちょうど午前の訓練が終わったところだった。

 訓練を受けた村人たちが疲れた体を引きずり家へと帰って行くのを見送った後、恭也はロップに話しかけた。


「お疲れ様です。村の人たちの調子はどうですか?」

「今日は初日ですので意識してかなり厳しくしました。予想通り何人かはかなり参っていたようですね。しかし最終的には中級悪魔を倒せるようになってもらわないといけませんし、村が大きくなれば同じ村人を捕まえる状況も出てくるでしょう。実力と意識のどちらも身に着けてもらわないといけません」


 悪魔は人の多い場所を狙うため、小規模な村を悪魔たちが積極的に狙うことはない。

 しかし悪魔たちの進路上にある村が襲われる可能性はあり、実際恭也がこの世界に来て初めて遭遇した悪魔の群れがそうだった。


 恭也がこの世界に来てから恭也が知っているだけでネース王国には四体の中級悪魔が現れていた。恭也が遭遇した一件以外は全て街が襲われ、いずれも街の兵士が撃退したらしい。

 ネース王国だけで三ヶ月足らずの間に四体も現れている以上、中級悪魔を確実に撃退できる戦力というのはこの世界における自衛のために最低限必要な戦力だった。


「恭也さんの魔導具があれば中級悪魔でも問題無く倒せるとは思いますが数が少ないですし、闇属性の人間しか対応できないというのでは騎士団としての行動も制限されてしまいます。恭也さんには申し訳ありませんが訓練の手を抜くわけにはいきません」


 ロップにこう言われて恭也は驚いた。

 きつそうに帰宅する村人たちを見て恭也が顔をしかめたのは事実だったが、気づかれているとは思っていなかった、


 恭也のロップを見た時の第一印象はエロいお姉さんだった。

 ジュナの出生を知った後でもお目付け役のメイドぐらいの認識だったのだが、本人や周囲の話によるとれっきとした騎士団所属らしい。


 今も午後の村人たちへの指導について兵士に指示を飛ばしているロップの姿を見て、恭也はロップへの認識を改めた。

 普通に考えて国から正式に派遣された部隊の副隊長が弱いわけないのだが、これに関しては恭也のゼルスに対する信頼の無さも影響していた。

 ロップの謝罪を聞いた恭也は謝罪と同時に気にしないで欲しいという自分の気持ちを伝えた。


「気を遣わせてしまってすみません。でもロップさんの言う通りだと思いますから気にしないで下さい」


 恭也の理想としては最終的にはネース王国全体が恭也無しでもやっていけるようにしたい。

 その手始めがこのユーダム村で、徐々にここに来る頻度を少なくしていきたいと恭也は考えていた。

 そのため訓練をもっと優しくして欲しいなど素人の恭也が言えるはずもなかった。


「それに安心もしましたし」

「安心ですか?」


 予想もしていなかった恭也の言葉にロップは首をかしげた。


「はい。失礼な言い方になりますけど、僕と大して年が変わらないロップさんに兵士の訓練なんてできるのかなと思ってたんで今日の様子を見て安心しました」

「ああ、そういうことですか」


 恭也の本音を聞き、少し考えてからロップは口を開いた。


「まあ、そうですね。恭也さんのおっしゃる通り私は部隊を任されたことはありませんし、村の人たちに教えることも当分は基本的なことになると思います。でもここに来ている兵士たちには長年騎士団に勤めてる人もいますし、クノンの名に恥じない様な、そして恭也さんたちの信頼を裏切る様な訓練をするつもりはありません。どうか安心して下さい」


 そう言って微笑んだロップに恭也は動揺しながら礼を言いその場を後にした。

 ロップと別れてカムータとの話を終えた恭也はその後すぐにアズーバに転移し、そのままアズーバの南にあるコーセス村へと向かった。


 コーセス村は三つの村から集まった二百人程と周囲から移ってきた百人程の人々が集まってできた村だ。

 コーセス村では現在三つの村の村長が指揮を執り村の開拓に励んでいた。


 恭也が村に降り立つと、村人たちは遠巻きに恭也に視線を送ってきた。

 恭也がこの村に来るのは今日で二回目のため、まだこの村の人々はユーダム村の人々程恭也に気軽には近づいてこない。


 そんな村人たちの視線を受けつつ、恭也は村の中心にある建物へと向かった。

 二階建てでそれなりに奥行きもあるこの建物は恭也がセザキアで購入したものだ。

 ユーダム村には屋敷を贈ったのにこの村には何も無しというのも悪いと思い恭也が用意した建物で、今では村役場として使われていた。


 恭也が建物に入るとすぐに受付の人物に二階へと案内された。

 恭也が案内された部屋に入ると、そこでは三人の男性が机に座り込み何やら話し込んでいた。

 彼らは恭也に気づくとすぐに立ち上がり、次々にあいさつをしてきた。

 それに返事をしてから恭也は何について話し合っていたのか尋ねた。


「この村は海に近いので農業には向いておりません。今は恭也さんからもらった食料や海で取れた魚などを食べていますが、私どもの中に海に慣れている者がいないため海産物はあまり多くは取れません。また海産物に慣れていない者も多く、一刻も早く畑を作ろうと今話し合っているところです」

「畑を作る場所を話し合ってるんですか?海から離れた場所に適当に作ればいいんじゃ……」


 恭也が何気なく口にしたこの発言に三人はお互いに視線を送り合った。

 また非常識な発言をしたことを察した恭也の前でしばらく視線のやり取りが繰り広げられ、その後村長の一人が口を開いた。


「畑を作る場所自体はいくつか目星をつけているのですが、それぞれチッスとニコズの領地になってしまいます。そこに勝手に畑を作るわけにもいかずこうして話し合っていたわけでして……」


 三人の話によるとアズーバの近くで耕地に適した場所はほとんどが使用済みとのことだった。

 海の近くのコーセス村の周辺にはユーダム村と違い、手つかずの土地がほとんど残されていない。

 またユーダム村の場合は一番近くの街のアナシンに恭也がにらみを利かせているため比較的好きに村の住民たちが土地を使えていた。


 もちろん恭也にアナシンに対してにらみを利かせている自覚など無く、恭也はアナシンの領主に会ったことすらない。

 しかし週に一度の頻度で異世界人がユーダム村に姿を見せるという事実はアナシンの領主を黙らせるには十分だった。


 この段階で恭也はアナシンの住人が土地の利用に文句を言ってこない理由には気づいていなかったが、コーセス村の問題解決に外部との交渉が必要なことは理解できた。

 また三人が何かを期待する視線を恭也に送っていることにも気づき、恭也は内心ため息をつきつつ口を開いた。


「うまくいくかは分かりませんけど、僕が土地を使えるように頼んできます。でもただで使うのは悪いので、使用料を払うってことで話をつけるつもりですけどそれでいいですか?」


 この村の住人達はネース王国に誘拐された被害者というわけではない。

 そんな彼らが無償で土地を使うのは図々しいと考えての恭也の提案だったが、三人はそれを承諾した。


「はい。もちろんです。何とお礼を言ったらよいか。ありがとうございます」


 こうして恭也は三人に見送られ、村に着いて早々コーセス村の西にある街、チッスへと向かうことになった。

 その道中、恭也はぐちをこぼしながら進んでいた。


(あー、気が重い。チッスの人たちに申し訳ないな)

(あ?何が?)


 恭也の立場と力なら交渉など楽に済むだろう。

 そう考えていたウルは今回の交渉は楽な仕事だと思っていたのだが、恭也は何故か気が進まない様子だった。

 不思議そうなウルに恭也はぐちを続けた。


(だって僕が土地使わせてくれって言った、あっち絶対嫌って言えないじゃん。こんなの脅しと大差無いよ)

(金払うんだろ?じゃあ、別にいいじゃねぇか)


 そもそも土地など無断で使い、文句を言って来たら力で黙らせればいいと考えているウルには恭也の悩みは理解できなかった。


(まあ、誰が悪いかって言えば全部暴力で解決した僕が悪いんだけどね。あー、気が重い)


 恭也が心底嫌がっているのが直接伝わってくるので、それが不快だったウルは何度か融合を解きたいと言いかけた。

 しかし悪魔ごときに自分の主人を運ばせるのも不快だったため、ウルは何も言わなかった。


 これからの交渉に意識が向いている恭也がウルの様子に気づくことも無く、結局二人は道中ずっともやもやしたままチッスへと向かった。

 その後チッスに着いた恭也は領主の屋敷を訪ねて土地の使用許可を求めたのだが、その際突然の恭也の訪問に動揺した領主は土地は無料で差し出すと言いながら命乞いをしてきた。


 自分のことを何だと思っているんだと少なからず怒りを覚えた恭也だったが、それを表に出しても領主が委縮するだけだ。

 恭也は無料で土地を借りる気は無いという自身の考えを伝え、その後領主が呼んだ役人を交えた話し合いで借りる土地とその使用料を決めた。


 何度も念押しして相場より安くなっていないことを確認してから恭也はチッスを後にした。

 チッスでの交渉を終えた恭也はすぐにコーセス村の役場へと向かい結果を伝えた。

 村長たちはあまりに早く交渉が終わったことと使用料の安さに驚いた様子だった。


 やはり使用料は恭也に気を遣って安くなっていたようだ。

 農地の使用料の相場など知らない恭也は交渉の場で何度か洗脳して交渉の結果が妥当なのか確認したいと思った。

 しかしそれをしてしまえば恭也の悪名が高まることは必至なので結局はしなかった。


 まあ、終わってしまったことはしかたない。

 早く済んだとは言ってもコーセス村とチッスを往復するのに四時間はかかっており、また四時間かけてわざわざ土地の使用料を上げろと言いに行くのも違う気がする。


 一応チッスの領主には今後のコーセス村の人間との交渉は直に行うように伝え、コーセス村の村長たちにもそれは伝えた。

 その際に村長たちにはチッス側が横暴なことをしてきたら恭也に言うように伝え、逆に村側が恭也の名を利用してチッス側に無茶を言うことも禁止しておいた。


 今後の交渉については彼らに任せるつもりだし、チッス側が暴力を使ってきた場合も『危機察知』があれば対処できる。

 一時間程度で帰るつもりだったところで予定外に時間を使ってしまったが、何とか今後の見通しはつけられた。


 恭也は早ければ来週にもティノリス皇国に行き魔神と戦うつもりだ。

 その前に二つの村の問題は少しでも解決しておきたい。

 恭也は村人たちに気を遣わせないように村で寝泊まりはしないようにしている。

 これからニコズに向かい宿をとろうと考えながら役場を出た恭也はそこで一人の青年と出くわした。

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