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命名

 そして三日後、恭也とジュナたちは無事村にたどり着いた。

 村に着いた時はすでに夕方だったため、実際に仕事に取り掛かるのは明日からということになった。

しかしコロトークたちがいる刑務所を一目見ておきたいとのことだったので、ジュナやロップを含む数人を伴い恭也は刑務所へと向かった。


 刑務所と言っても寝泊まりする小屋の他は畑と家畜のいる小屋があるだけの状態を目の当たりにしてジュナたちは驚いていた。

 今の刑務所は『不朽刻印』での監視が前提になっており、刑務所らしき設備は何一つない。

 それは事前に説明していたのだが、現場を実際に見てジュナたちは改めて驚いている様子だった。


「うーん。困ったぞ。壁も無いとなると見張りも多めに置かないと駄目だな」

「村の人たちの訓練については十人もいれば十分でしょうから何とかなるかと。ただ私たちが帰った後が心配ですね」


 ジュナとロップが明日からの計画を話し合っているのが聞こえてきたので、恭也は『格納庫』からいくつか魔導具を取り出した。


「どうぞ。これ土の壁を作れる魔導具です。四つありますし、明日でよければ僕も手伝います。どういう風に壁を作ればいいかだけ指示してもらえれば」


 実際に魔導具を受け取り使ってみたジュナは出来上がった壁の薄さが不満なようだった。


「これじゃ薄過ぎて簡単に逃げられるぞ」


 実際ジュナが創った土の壁はジュナの蹴り二発で穴が空いてしまった。


「工事用の魔導具じゃないですからね。じゃあ、これならどうですか?」


 恭也はウルとの融合を解くと『六大元素』で自分の魔法の属性を土にし、それと同時に『精霊支配』も発動して土属性の精霊魔法を発動した。

 これにより厚さ二メートル、長さ十メートル程の土の壁がジュナたちが見ている中で創り出された。


 その光景を目の当たりにしていた面々は囚人たちもクノンの兵士たちも関係無く驚き、しばらく言葉を失っていた。

 その後真っ先に口を開いたのはジュナだった。


「これは精霊魔法か?どうして恭也が精霊魔法を使えるんだ?異世界人は私たちの魔法は使えないって聞いてるぞ」

「僕は六属性全部使えるんです。普段はウルがいるんであまり使いませんけど」


 驚くジュナの質問に答えた恭也はジュナ同様驚く周囲を横目に話を進めた。


「とにかく見ての通り、僕は土の壁創れるので指示さえもらえれば刑務所向きの壁を創れます。ただできれば一日で終わらせたいので、明日はまずその作業を優先してもらっていいですか?」

「ああ、分かった。でもいいのか?恭也直々に手伝ってもらって」


 今回ジュナたちは刑務所の警備と村人の訓練のために派遣された。

 それなのにいきなり依頼主の恭也の手を借りてしまうことをジュナは申し訳なく思っている様子だった。


「今回みなさんを派遣してもらったのは今後の事を考えて村とここの警備を強化するためです。そのためならいくらでも協力しますし、ここの人たちにつけてる刻印外せるなら魔力の節約って意味では長い目で見れば僕も得しますから」


 現在ここの囚人たちにつけている『不朽刻印』は維持だけで毎日六千もの魔力を消費する。

 それを今後なくせると言うのなら一日消費するぐらいは恭也としても大したことではなかった。


「…そうか。じゃあ、明日までに大体の予定は立てておく。ところでこの刑務所の名前、何て言うんだ?」

「えっ、名前ですか?」


 予想外の質問をされて恭也は思わず聞き返してしまった。

 この刑務所の名前など考えたことも無かった。

正直に言えば聞かれた今ですら名前などいらないと思っている。

 しかしジュナの考えは違った。


「名前が無いと不便だぞ。それに恭也は別のところにも村を作るつもりなんだろう?あの刑務所とかその刑務所とかじゃ説明される方も困るし、他の場所と交流するなら名前は必要だぞ」

「なるほど、言われてみればそうですね。じゃあ、僕の方も明日までに考えておきます」


 ジュナにそう伝えながら恭也はカムータ達の村についても考えていた。

 ジュナの言うことはもっともで、今後アナシン以外とも人や物のやりとりをしようと思ったら名前は必要だった。


村の名前自体はカムータ達に決めてもらうつもりだが、今日帰ったらすぐにこのことは伝えておこう。

 そう考えながら恭也はコロトークに作って欲しい魔導具の内容をいくつか伝えてから村へと帰った。


 そして村へと帰った恭也は再びノムキナの家に招かれていた。

 恭也の前の食卓には三人分の夕飯が用意されていた。

 ウルは暇だからその辺りを飛んでくると言って出て行った。


「それにしても村の名前、すぐに決まってよかったですね。ユーダム、素敵な響きだと思います」

「でも残念です。私としてはアタエ村も素敵だと思ってたんですけど……」

「いや、それはさすがに恥ずかしいので……」


 ゼシアとノムキナに相槌を打ちながら恭也はつい先程行われたばかりの村の命名について思い出していた。

 恭也は村に帰るとすぐにカムータの家に向かい村の名前について相談した。


 すると村人たちの間ではすでに話が進んでおり、そこで内定していた名前が先程ノムキナが口にした『アタエ村』だ。

 それを聞いた時の恭也の正直な感想は『勘弁して欲しい』だった。


 恭也の中でそれを聞いていたウルすら乗り気だったので、このままでは押し切られてしまうと慌てて恭也が考えた名前が『ユーダム』だった。

 自由とフリーダムの語尾をとっさに足しただけなのだが、これが意外と好評だった。


 名づけの際に恭也が初めに考えたことはこの村の人に自由に生きて欲しいということだった。

 そう考えてとっさにつけた名前だったが、即興にしては我ながら悪くないかも知れないと恭也は思い始めていた。

 フリーダムのダム自体に自由という意味は無いが、どうせこの世界の人間には由来は分からないのだから大丈夫だろう。


「明日までにサキナトの人たちがいる刑務所の名前も考えないといけないんですよね。何かいい名前無いですか?」

「えっ、それを私たちが決めるのはまずいんじゃ……」

「そうですか?村と違って何の思い入れも無いですし、別に誰が決めてもいいかなってのが本音です」

「でもどうして急に名前をつけようなんて思ったんですか?」


 恭也とノムキナが話すのを黙って聞いていたゼシアだったが、突然の恭也の行動が気になり口をはさんできた。

 ゼシアに質問された恭也は特に隠すことでもなかったのでジュナに勧められた結果だと伝えた。


「ジュナさんですか。兵士の人が何十人も来るって聞いてたので、てっきり男の人ばかり来るんだと思ってました」

「ああ、それは僕も思ってました。でもセザキアのミーシアさんは例外にしても、セザキアとクノンの両方を見た感じだと数は少なくてもどっちにも女の人はいましたよ」

「でも聞いた話では国の騎士団や軍に女性が入ろうと思ったら、偉い人に口を利いてもらわないと駄目みたいですよ。そんな伝手があるならもっと楽な仕事があるんじゃ……」

「まあ、ジュナさんの場合は軍に入る前も森で狩りをして暮らしてたそうなので、戦うことに抵抗が無かったんじゃないですかね」

「へぇ、私たちとあまり年違わないように見えるのにすごいですね。もしかしてものすごく強かったりするんですか?」

「僕が聞いた話ではクノンでも十本の指に入る強さだそうです」

「へぇー」


 何気無くした質問に予想外の答えが返ってきて、ゼシアは驚いた様子だった。

 ジュナはコートネスに手も足も出ずにやられていたが、あれは相手が悪かっただけだ。

 実際ジュナに魔導具無しで勝てる者などこの大陸に二十人もいないだろう。


 しかしこれ以上ジュナについて説明すると、ジュナの個人的なことまで話さなくてはならなくなる。

 そろそろ話題を変えないといけないと恭也が考え始めた頃、何やら思いつめた様子のノムキナが恭也に質問をしてきた。


「あのっ、恭也さんって強い女性が好きなんですか?」

「は?」


 会話の流れを無視したノムキナの唐突な質問に恭也は戸惑ってしまった。

 そんな恭也を見たノムキナも言葉を発せなくなり、二人はしばらく無言で見つめ合ってしまった。

 そうしてきまずい空気ができつつある中、ゼシアが口を開いた。


「ほら、恭也さんが他の国での話をする時ってミーシアさんの話が多くて、それに今回クノンから連れてきた人たちも責任者は女の人じゃないですか?だからもしかして恭也さんって強い女性が好みなのかなってさっきノムキナちゃんと話してたんですよ」

「ああ、なるほど」


 ゼシアのこの説明を聞き、恭也はこれまで自分がノムキナたちと話す時に出した話題について思い出していた。

 基本的にこの三人で話す時の話題は村の現状についてやお互いの世界の違いについてなどが多い。


 しかし恭也が話に出す個人名で一番多いのは誰かと言えばミーシアだった。

 これはノムキナたちに各国の王たちとどんな話をしたかを話してもしかたないと思ってのことだったのだが、妙な誤解を与えてしまったようだった。


「別にミーシアさんとはそういうのじゃありません。ミーシアさんが仮に男だったとしても今と同じような関係になってたと思いますし」

「じゃあ、恭也さんってどんな女性が好みなんですか?」


 ゼシアが当然の様にしてきたこの質問に恭也は考え込んだ。

 そもそもどうしてこんな流れになっているのかが分からなかったからだ。


(王族以外だとミーシアさんぐらいしか知り合いがいない僕が悪いの?でも知り合いなんて作るひまなんてこの世界に来てから無かったし)


 どう答えたものか悩んだ恭也だったが、異性相手に気の利いた返しなどできなかったので思いついたことをそのまま伝えた。


「今までそういうこと考えたことないですけど、でも最近自分が要領が悪いってことに気づいたんでそういったところを支えてくれる人がいいかなとは思います。ってこれ、仕事相手の条件ですね」


 そう言って苦笑する恭也にゼシアも笑い返し、その後も三人の会話は続いた。

 その後あまり夜遅くなっても悪いので、それ程長居はせずに恭也は二人の家を後にした。


 恭也が帰った後、ノムキナとゼシアは先程の恭也と話した内容について意見を交わしていた。


「結局恭也さんの女性の好み分からなかったね」

「でもよかったじゃん。あの兎の獣人さん、ロップさんだったっけ?あの人みたいなのが好みって言われて困ったし」

「うん。……あの人はすごかったね」


 ノムキナとゼシアは半年村に滞在するというジュナたちの姿を他の村人たち同様遠くから眺めていた。

 兵士のほとんどがサキナトの元幹部たちがいる刑務所に移動したため、実際に村に残った兵士は十人程だったがその中で彼らに指示を出すジュナとその後ろに控えるロップは目立っていた。


 ノムキナより一歳だけ年上だと聞いているジュナは見た目の若さとは裏腹に部下たちに堂々と指示を出している姿で目立っていた。

 正確に言うなら離れてクノン王国の兵士たちの様子を見ていたノムキナたち村人からすれば、実際に声を出していたジュナ以外の兵士はほとんど同じに見えた。


 唯一の例外がロップで、遠くからでも目立つロップの胸は村の男性陣の間でも話題になっていた。

 それを思い出しながらノムキナは自分の胸に目をやった。

 特に小さいとも思っていなかった自分の胸だが、ロップを見た後ではかなり心もとなく感じた。


 もちろんロップは恭也からすれば村の警備のために連れてきた人材の一人に過ぎず、それはノムキナにも分かっていた。

 しかしそれはそのまま恭也にとって村人の一人に過ぎないノムキナにも言えることなので、ノムキナにとって何の慰めにもならなかった。


 それにロップ以上にノムキナにとって衝撃的だったのがジュナの存在だった。

 自分とそれ程変わらない年齢で他国に派遣される程大人たちの中で認められている。

 恭也にとって特別な存在になりたいと思っているノムキナからすれば、ジュナはまさに憧れの存在と言えた。


「とりあえずカムータさんに村のことで何か手伝えないか聞いてみる。うらやましがってるだけじゃ駄目だよね。もっとがんばらないと」


 そう意気込むノムキナに、ゼシアは笑いながら近づいた。


「そうそうその意気、その意気。じゃあさっそくがんばってみようか。おっぱいは揉むといいらしいよ」

「えっ、ちょっ、……ゼシアちゃん?」


 突然の笑みを浮かべて自分に近づいてくるゼシアにノムキナは困惑した。

 そんなノムキナにゼシアは後ろから抱き着き、その後二人の家にはノムキナの悲鳴が響いた。

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