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二度目の敗北

「何度殺しても蘇るなんてうっとうしい野郎だぜ。そいつ怪我させたことは許してやるからもうどっか行ってくれ。俺たちが戦う必要なんてないだろ?」


 この場にいる奴隷商人たちのボス、パラガは目の前の異世界人の少年に心底うんざりしていた。

 滅多にお目にかかれない異世界人を見つけ、高値がつけばもうけものと思い捕まえてみればとんだ厄介者だった。

 パラガが把握しているだけで目の前の少年は二度死んで蘇っており、得体が知れないことこの上ない。


 戦闘能力自体は一般人並みの様だが、これ以上関わっても損害の方が大きいと考えたパラガは少年にこれ以上の戦いは止めるように提案した。

 しかし異世界人の少年はパラガが到底飲めない条件を出してきた。


「そうですね。そっちからそう言ってくれて助かりました。あなたたちがさらってきた後ろの人たちとついでに慰謝料として馬車ももらっていきます。あなたが話の通じる人で助かりました」


 恭也は目の前の男の発言に便乗し、勢いでこの場を奴隷たちと共に立ち去ろうとした。

しかしそれはさすがにパラガが許さなかった。


「ふざけんな。誰がそいつらまでやるって言った。異世界人のお前は知らないだろうが、この世界では奴隷の売買は合法なんだ。俺たちは金を払ってそいつらを買った以上、邪魔してるお前の方が犯罪者なんだぜ?それとも銀貨百枚、あんたが払ってくれるのか?」


 やはり戦闘は避けられないかと思いつつ、恭也は男の発言を一蹴した。


「僕はこの世界のことは詳しくないですけど、この世界に来たばかりの僕に奴隷として首輪つけた時点であなたの言うことに説得力無いですよ」


 恭也が引くつもりが無いことを悟ったのだろう。

 パラガは舌打ちをすると本性を露わにした。


「こっちが下手に出りゃ調子に乗りやがって!てめぇは死んで復活するまでに時間がかかるんだろう?もう一度てめぇを殺してすぐに街を出りゃ、それで済む話だ。お前ら、やれ!」


 パラガの指示を受け、部下六人が一斉に恭也に襲い掛かった。

 恭也は他の男には目もくれず、最初に目に映った男の鼻に右ストレートを叩き込んだ。

 男二人に剣で斬りつけられるが、それらの攻撃は硬質化で防いだ。


 そのまま恭也に殴られて鼻血を流す男の右脚にローキックを食らわし、ついでとばかりに右足を踏みつけた。

 うめきながら崩れる男を背に、恭也は次の男に狙いを定めた。


 男の持つ剣が自分の顔面に振るわれるのを確認しつつも恭也は意にも介さなかった。

 顔面に多少の衝撃が走るが、それと引き換えに全体重を乗せたエルボーを男の左肩に食らわせた。

 そのままの流れで男の顔面に裏拳を食らわし、二人目も戦闘不能にした恭也だったが、さすがにここで恭也に剣が通じないことに男たちも気がついた。


「おい、こいつに武器は通用しないぞ!魔法使え、魔法!」

「くそったれ!こいつの能力復活じゃないのかよ!」


 男たちの一人のこの発言に一瞬気を取られた恭也だったが、すぐに戦闘に意識を向けた。

パラガの部下四人は恭也をののしりつつも、それぞれに恭也に向けて魔法を放った。

 火球、あるいは水や風の刃が恭也目掛けて飛来した。

 硬質化した恭也の体は水や風の刃は防げたが、火球によるやけどは防げず動きが止まってしまった。


 数度魔法が放たれ、火球が恭也に有効と分かると他の男たちは攻撃を止め、火球を放つ男の支援に専念し始めた。

 恭也が火球の使い手を真っ先に倒そうとしても他の男たちが進路を阻んでしまう。

 完全に役割分担を行って連携してくる男たちを崩すことができず、恭也の動きは火球を受ける度にぎこちなくなっていった。


 そうして恭也が火球を十発程受け、もはや動くことすらままなくなった頃、火球使いが恭也に近づいてきた。

 その時の恭也は視界も定まらない状況だったので、男の接近に気づくことができなかった。


「正義の味方気取りで来たのにざまあねぇな、あばよ」


 男は恭也の喉に直接火炎を押し付けて恭也の喉を焼き払った。

 その攻撃で恭也は絶命し、再び蘇った時には奴隷商人たちの姿は影も形も無かった。

 

 恭也が六歳の時に、当時二歳だった妹が交通事故で死んだ。

 この時感じた恐怖と怒りを恭也は今でも覚えている。

 人はいずれ死ぬということをまだ理解していなかった幼い時に、妹が目の前で死んだ恭也が感じたのは強烈な怒りだった。


 もちろん恐怖もあったが、それよりもどうして妹が死ななくてはいけないのかという怒りがその時の恭也の中を渦巻いた。

 それ以来報道などで事件や事故を聞く度に誰かが死ぬという理不尽さに怒りを感じ、そして自分もいつ唐突に不幸に見舞われるか分からないという事実に恐怖した。


 事故から一年程は部屋の外に出るのすら恐怖していた程だ。

 そんな恭也だからこそこの様な能力を獲得したのだろう。

 先程の敵の一人の発言から考えると、蘇るのが異世界人全員の共通能力という恭也の考えは間違っていた可能性が高い。


 死んで蘇る度に新しい能力を獲得するというのが自分が獲得した能力だと恭也は今回蘇ったことで確信した。

 今回も恭也は自分の中に新たな能力を感じたからだ。


 今回得た力を試しに使ってみると、恭也の前に緑色に薄く光る半透明の板が現れた。

 念のため硬質化した状態で触れてみると、恭也の手はその板を素通りしてしまった。

 その後、何度か触り、近くに落ちていた石を投げてみたりとしたのだが、全て素通りしてしまった。

 

 全く使い道が分からない能力を前に途方に暮れた恭也だったが、これはまだ発動しただけましかもしれない。

 恭也は自分の中にもう一つ、奴隷商人を尾行中に刺殺されて蘇った際に得た能力があることも感じていた。


 しかしこの能力は発動しても何も起こらず、恭也を困らせていた。

 その後もしばらく自分の能力を確認していた恭也だったが、落ち着いたためか急に空腹を覚えた。

 衣服もどうにかしないと今後の活動にも差し障るだろうし、何とかしなくてはならない。


 何度死んでも蘇る力。

 これさえあれば奴隷商人たちにどこまでも食らいついてやれる。

 せっかく手に入れた力とそれを生かせる環境だ。


 とことんやってやろうと考えながら、恭也はとりあえずこの場を離れることにした。

 自分の能力についての勘違いに気づかぬまま、恭也は奴隷たちを救うための戦いに身を投じるのだった。

 

 恭也が奴隷商人たちとの初めての戦闘に敗れて十日が経った。

 その日の昼下がり、恭也は白昼堂々と街の表通りで街を巡回していた衛兵たち相手に戦闘を繰り広げていた。


「異世界人だ!殺しても無駄だ!殺さずに取り押さえろ!」


 すっかりこの国、ネース王国でも有名になった恭也相手に、衛兵たちは衛兵間で共有された情報による対策を取ろうとしていた。

 殺しても無駄なため取り押さえようとしており、武器による攻撃はそもそも行ってこない。


 恭也は奴隷商人たちに負けた翌日から、奴隷を連れている人間を次々に襲い金品を巻き上げていた。幸いというと語弊があるが、奴隷は首輪をつけているのですぐに分かり、奴隷を連れて歩いている人間もかなりの数がいた。


 できればその場で奴隷の所有者を脅して奴隷の解放までさせたかったのだが、騒ぎを起こして少し時間が経つとすぐに衛兵が駆け付ける。

 そのことは奴隷の所有者も分かっているため、恭也の脅しにも所有者は屈せず、結局毎回戦いになっていた。


 今回は手早くすませる自信があったのだが、運悪く衛兵が近くを巡回していたようだ。

 ネース王国では奴隷の売買は公認されており、誘拐されて首輪をつけられた人間を助けても、助けた方が犯罪者となる。


 そもそも国の一機関に人材派遣を担当するという名目で奴隷を扱う部署があるそうなので、この国で奴隷が公的な保護を受けるのは不可能だった。

 この十日間で解放した奴隷からそういった事情を聞いたため、恭也はこのような強硬手段に出ていた。


 金品を奪って衣服や食事に使っており、そちらの目的も決して無いわけではなかったが、恭也はこの十日間で二十人近い奴隷を解放していた。


「火属性の魔法を叩き込んでやれ!」


 衛兵は五人一組で街を巡回しており、今回戦っている五人の中で火属性の魔法を使えるのは一人だけのようだった。

そのため他の四人は恭也に襲われた人間を守っているようだったが、戦いが長引いて敵に増援が来たら面倒だ。

 恭也は火属性の魔法の使い手を無視し、奴隷の所有者を守っている四人の衛兵に突っ込んだ。


 恭也の動きを見た衛兵は、ためらうことなく恭也に向けて火球を二発放った。 

 一発は外れたが、もう一発は恭也に直撃するコースだった。

 しかし恭也は迫りくる火球を全く気にせずに走り続け、実際火球は恭也に当たる前に空中に現れた緑色の半透明な障壁に防がれた。


 この障壁は魔法のみを遮断する障壁で、一枚しか出せないが火属性の魔法だけ警戒していればよい恭也にとって十分過ぎる防御手段となっていた。

 この魔法にしか反応しない能力を恭也は連日の戦いで完全に使いこなしていた。


 四人の衛兵の前にたどり着いた恭也は、昨日手に入れたばかりの能力を使い、守られている市民の首に奴隷用の首輪を転移させた。


「なっ、」


 突然自分の首に奴隷用の首輪が現れて困惑する男相手に、恭也は交渉を始めた。


「その首輪は僕がつけたもので当然番号も知っています。奴隷の皆さんを渡してくれますよね?」


 突然男を人質に取られた衛兵たちは、どうすればいいのか分からずに互いに視線を向けるだけだった。

この物質の転移能力は奴隷を人質に取られ、身動きができないところに火球を叩き込まれて死んだ時に手に入れた能力だ。

 生物には使えないが、視界内にあるものなら自由に転移できる。


 転移できる物体の重さには限界があるようで、きちんと調べたわけではないが恭也が片手で持ち上げられる程度が限界らしい。

 当然この場の奴隷たちの首輪はすでに外してあり、後はこの場を逃げるだけだった。

恭也はこの十日の間に二度殺されており、転移能力の他にもう一つ能力を獲得していた。


「ついでに今持ってるお金も全部下さい。五秒以内に出さなければ首輪発動させますから」


 有無を言わさぬ恭也の発言に、男はすぐに懐から金を取り出した。

恭也はそれを受け取ると、衛兵五人の首にあらかじめ持っていた首輪を転移させた。


「分かってるでしょうけど、追ってきたら発動させます」


 突然自分たちの命が目の前の少年に握られてしまい、衛兵たちは恐怖で動けなくなってしまった。

ここ最近行っている奴隷の解放は、解放そのものより奴隷を連れて宿まで無事たどり着くことの方が大変だ。

 実際途中で毎回戦闘になり、一度など宿への道中で恭也は殺されてしまった。


 今回は衛兵たちを首輪で牽制できるので難易度はかなり下がっているが、それでも油断はできない。

 今回恭也が衛兵たちにつけた首輪はこれまでの戦いで恭也が手に入れたものだ。


 急いで回収だけしたため、恭也はこれらの首輪の番号を知らない。

 そのため恭也の先程の発言は脅し以上の効果は無いのだが、衛兵たちには知る由も無かった。

 奴隷の所有者だった男につけた首輪だけは回収し、恭也は解放した奴隷三人を連れて急いでその場を離れた。

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