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荒療治

 いつもの様にセザキア王国が用意した家に転移した恭也はアロガンが来るなりネース王国の北東の街、アズーバの近くに作るつもりの村に鍛冶職人を派遣してもらえないか尋ねた。


「職人をですか?」

「はい。新しくネースの東の方にも村を作ろうと思っていて、そこで鍛冶の技術を教えてくれる人を探してるんです。もし家族ごと移住したい場合は家ごと運べます」

「家?もしかして恭也さんの物をどこかにしまっておく能力でですか?」

「はい。一回大きな屋敷を家具ごと収納したことがあるんで引っ越しについては手伝えると思います。移動も数人なら悪魔に運ばせることができますし」


 恭也は『格納庫』による荷物の運搬が可能なことやミーシアの使用している中級悪魔を召還できる指輪の改良版を持っていること、クノン王国からは兵士を派遣してもらうことになっていることなどをアロガンに伝えた。


 国に報告すべき恭也の情報が増えたことを確認しつつ、アロガンは恭也に返事をした。


「数人なら職人の手配は可能だと思います。人数の上限などはありますか?」

「いえ特には。ただ村自体は今から作るので職人の派遣自体は早くても一ヶ月後ぐらいになると思います」


 すでに人口が百人にも満たない村三つの住人たちと話をつけてあり、二週間以内に彼らがアズーバに来ることになっていた。


「分かりました。兵士が送れなかったことは陛下も気にしていたので今回は大丈夫だと思います」


 恭也がネース王国内に作る村にセザキア王国から兵士を派遣するという話はセザキア国内で反対があったらしく結局無かったことになった。

 そのことを改めて口にしたアロガンに恭也は気にしないように伝えた。


「大丈夫ですよ。今回作る村には刑務所ありませんし、村の守り自体は村人たちにやってもらうってことで決まりましたから」

「そうですか。そうしてもらえると助かります。では私はさっそく城に戻って上司に今回の件を伝えます」


 恭也との話を終えるとアロガンはすぐに退室し、それと入れ替わる形でこの家に常駐している使用人の女性が入ってきた。


「ミーシア様がお待ちです。男性とご一緒ですがお通ししてもよろしいでしょうか?」

「ミーシアさんが?」


 この家でアロガンと打ち合わせをするようになって以来、恭也はミーシアと会っていなかった。

 わざわざミーシアの方から来るとは何か面倒事だろうか。

 同行者がいるということも合わせて不思議に思いつつ、恭也は二人に入ってもらうことにした。


「お久しぶりです。今日はお忙しい中、ありがとうございます」

「いえ、特に急ぎの用も無いので。何か頼み事ですか?」

「はい。こちらのフオッグさんが以前から恭也さんにお会いしたいと言っていたので、恭也さんが来ていると聞いて駆け付けました」


 それを聞いた恭也はミーシアの隣に立つ中年男性、フオッグに視線を向けた。

 恭也の視線に一瞬たじろいだ様子のフオッグだったが、すぐに気を取り直して恭也に話しかけてきた。


「初めまして、セザキアで商人をしているフオッグと申します。私は貴族の方とも仕事をさせていただいておりまして、その縁でミーシア様とも面識がありました。それで今回はミーシア様に無理を言い、こうしてお邪魔した次第です」

「はあ、……商人の人が何の用ですか?もしかして僕が新しく作る村との取引をしたいってことならまだ村自体を作ってないので当分先の話になると思いますけど…」


 てっきり荒事を頼まれると思っていたところに商人を紹介されて恭也は戸惑ってしまった。

 そんな恭也にフオッグは用件を伝えてきた。


「いえ、今回は仕事で来たのではありません。恭也様は他人の体を治すことができると聞いております。そのお力で治して欲しい人間がいるのです」

「ああ、そういうことですか」


 ここ最近ですっかり思考が物騒になっていたことに気づき、恭也は内心苦笑しながらフオッグの話を聞いた。


「私の妻が二年前に病気にかかりまして、体調自体は落ち着いたのですが、その時に目が見えなくなってしまったのです」

「事故で目を怪我したとかじゃなくて病気の結果そうなったんですか?」

「え、ええ」


 わざわざ怪我ではなく病気の結果ということを再確認してきた恭也に戸惑いながらも、フオッグは恭也の質問に答えた。

 恭也としては残念だが今回のフオッグの頼みは断るしかなかった。


 恭也の『治癒』は怪我にしか効かないからだ。

 これは『魔法看破』で確認済みの事実であり、それを伝えようとした時、恭也は一つの考えを思いついた。

 成功するかは分からないがやるだけやってみよう。


 そう考えた恭也はフオッグに自分の能力について説明した。


「僕の能力は怪我しか治せないので奥さんの目を治すことはできません」


 それを聞いたフオッグの顔には落胆の表情が浮かんだが、恭也の話はそこで終わりではなかった。


「でも一つ試したいことがあります。言い方は悪いですけど駄目元で試してみませんか?」

「お願いします!妻の目さえ治るならお礼はいくらでも!」

「まだ治るか分からないんでそんなに期待しないで下さい。とりあえず奥さんのところに行きましょう」


 興奮気味に近づいてくるフオッグをなだめてから恭也はミーシアとフオッグと共にフオッグの家へと向かった。

 二人ぐらいなら箱に入れて中級悪魔で運んだ方が早いのだが二人がここまで馬車で来ていた。

 そのため恭也は久しぶりに馬車に乗りフオッグの屋敷へと向かった。


 屋敷についてすぐに恭也はフオッグの妻、レマに汚れてもいい服に着替えるように頼んだ。

 レマの着替えが終わるのを待ち、恭也たち三人は部屋へと入った。

 正直なところ恭也としてはこれからすることを考えると自分とレマ以外は部屋にいないで欲しいのだが、実際にそう伝えたところ不審そうな目で見られた。


 恭也は純粋に親切で言ったのだが、フオッグからすれば恭也は今日会ったばかりの人間だ。

 そんな男と妻を二人きりにするのがフオッグは不安なのだろうし、別に恭也も自分の能力がばれるのが嫌だという理由でフオッグとミーシアの立ち合いを嫌がったわけではない。


 恭也はフオッグとミーシア、他二人の使用人が見ている中、レマの治療に取り掛かった。

 まず恭也は何もせずにレマに『治癒』を発動したのだが、『治癒』は怪我にしか効果が無いのでレマの視力は戻らなかった。

 この結果は予想通りだったので、恭也は嘆くことなくウルと分離した。

 突然現れたウルに恭也とウル以外の面々は動揺を隠せなかった。


「それがあなたの倒した魔神ですか?」


 フオッグたちが言葉を発することができない中、ミーシアが少し声を震わせながら恭也に質問してきた。


「あれ、見るの初めてでしたか?はい。ウルっていいます。闇属性使える人間が二人必要なんで今回はウルにも手伝ってもらいます。じゃあ、ウルお願い」


 そう言うと同時に恭也は『六大元素』で自分が闇魔法を使えるようにした。

 恭也の中にさっきまでいたウルは恭也がこれからしようとしていることを分かっていたので、すぐに恭也に加護を与るとそのままレマの横たわるベッドを恭也と挟む位置に移動した。


「ちゃんと防いでよ?」

「分かってる。さっさと終わらせようぜ」


 恭也の発言に対してつまらなそうに返事をするウルから視線を外し、恭也はレマに視線を向けた。


 これから恭也がしようとしていることは事前に説明したらフオッグたちが止めかねない行為だった。

 これから実際にそれを見るフオッグたちに騒がれても面倒なので、恭也はすぐにレマの顔スレスレを通る形で『キュメール』を放った。


 顔と『キュメール』が触れ合ったため、レマの目と鼻が消失した。

『キュメール』により体の一部が消えた場合、『キュメール』を受けた者はほとんど痛みを感じない。

 実際レマは『キュメール』使用後にすぐに恭也が『治癒』を使ったので、出血こそしたが痛みはほとんど感じていなかった。


 また出血の量も恭也が心配していた程ではなく、これなら服を着替えてもらう必要は無かったかもしれなかった。


「ありがとう。無事終わったよ」


 驚きながらもはっきりと恭也に視線を向けるレマを確認し、恭也はウルをねぎらった。


「ったく、またつまんねぇ仕事させやがって。外でやればわざわざ俺が『キュメール』防ぐ必要無かっただろ」

「奥さんにわざわざ外に出てもらうのも悪かったからね」


 今回のウルの仕事は恭也に加護を与えることを除けばレマの眼を消し去った後に部屋の壁に当たってしまう『キュメール』を受け止めることだけだった。

 今回の恭也の計画はレマの眼を治すのではなく、一度今の眼を消して怪我を負わせてから『治癒』を使おうというものだった。


 別にレマの眼を除去するだけなら他に方法はいくらでもあった。

 恭也はレマが一番苦痛を感じない方法を選んだだけだったが、ウルとしてはフオッグの屋敷の壁に穴が空いても構わなかったためそれを防ぐためだけに自分が使われたのがおもしろくなかった。


 とりあえず自分の役目は終わったと判断したウルは体を解き恭也の中に戻って行った。

 恭也とウルの治療行為を目の当たりにしてしばらく呆然としていたフオッグに恭也は治療が終わったことを告げた。


 それを聞いたフオッグがレマに近づいた。


「おい、レマ、私が見えるか?」

「はい。あなた、はっきりとあなたの姿が見えますわ!」


 涙ぐみながら抱きしめ合うフオッグとレマを見ながら恭也は内心ほっとしていた。

 今回の恭也の治療行為では眼を消した後で『治癒』を使っても今まで通りの失明状態の眼が再生されるだけの可能性があったからだ。


 もしそうなったら恭也を紹介したミーシアの評価も下がるのではと恭也は心配していたので、そういう意味でも成功して本当によかった。

 そう考えていた恭也にミーシアが話しかけてきた。


「今日は本当にありがとうございます。フオッグさんは母の遠縁にあたる人で、私もこの国に来てから何度もお世話になりました。これで少しは恩が返せました。ありがとうございます」

「気にしないで下さい。言い方は悪いですけどアロガンさんに会ったついでですし、ちゃんとお礼ももらうつもりですから」


 そう言う恭也を前にもう一度だけ礼を言うと、ミーシアは頭を上げた。


「しかしどうしてわざわざレマさんの眼に攻撃を?あの魔法が治療に必要だったのですか?」

「いえ、そういうわけでは。そのまま僕の能力使っても駄目みたいだったんで一工夫しただけです」


 そう言って恭也はミーシアに今回の行動の意味を詳しく説明した。

 それをうなずきながら聞いているミーシアの様子を見て、ウルが恭也に話しかけてきた。


(おい。恭也の能力、そんなにペラペラしゃべっていいのかよ?いつ裏切るか分かったもんじゃねぇぞ)

(大丈夫だって。そもそも僕が逃げるだけならワープでどうにでもなるし、仮に戦争になったらネースの時みたいにいきなり王様抑えればいいだけだから)

(そうなってくれりゃ言うことないけど、こっちから手の内明かすこともないだろ?)

(これは僕がこういう事できますよっていう売り込みだよ。生かしとけば便利と思われればあっちも乱暴なことはしてこないと思うし)

(それはそれでつまらねぇな)


 支離滅裂なことを言うウルに呆れつつ、恭也はミーシアとの会話を続けた。


「魔神が人に加護を与えられるということはあなたがその気になれば精霊魔法の使い手をいくらでも生み出せるということですか?」

「はい。やろうと思えば。まあ、今のところそのつもり無いですけど」


 探るように聞いてきたミーシアに恭也は自分の正直な気持ちを伝えた。

 恐怖を隠しきれていないミーシアだったが、恭也としても無理は無いと思ったので何も言わなかった。


 周囲の敵を次々に洗脳してどんなものでも『キュメール』で消し去る集団をその気になれば恭也は作れるのだ。

 警戒するのも当然で、これ以上は恭也を信用できるかという相手側の問題になる。


 もちろん信用されるように恭也も振舞うつもりだが、結局は相手次第だった。

 恭也とミーシアの話が終わった頃合いを見計らい、フオッグが恭也に話しかけてきた。


「恭也様、今日は本当にありがとうございました。国中の医者が治せなかった妻の眼を治していただき、何とお礼を言えばよいか…」

「気にしないで下さい。それに、僕からも一つお願いがありますから」

「はい。私にできることでしたら何なりと」


 レマと共に恭也に頭を下げてきてフオッグに恭也は物資の調達を頼みたい旨を告げた。

 現在カムータたちが作っている村が外から何かを仕入れようと思ったらネース王国内の街、アナシンから調達するしかない。


 しかしアナシン及び周辺の街の住民にも彼らの生活があり、彼らばかりに頼るのは避けたいと恭也は前々から考えていた。

 そんな時に商人との伝手ができたのだから、利用しない手は無かった。


 住んでいる屋敷の大きさから見て、細々とやっているという感じでもないので多分大丈夫だろう。

 そう考えた恭也は、手持ちの硬貨を取り出してフオッグに欲しいものを伝えた。

 謝礼を渡すどころか自分の商売先が増えただけのフオッグは恭也の提案に恐縮しきりだったが、信用できる商人を探すあてなど無かった恭也としても助かったので問題無いと言って恭也が押し切った。

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