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人材探し

 しかしそう思っていたのは恭也だけだった。


「おい、恭也。真面目な話いいか?」

「うん、何?」


 今までになく真面目なウルに呼び止められて恭也はウルに近づいた。


「さすがに恭也一人じゃもう限界だろう。サキナトの連中は助けた奴らに武器持たせて見張らせればいいじゃねぇか。アズーバとかいうとこの近くにも似たような場所作るつもりなんだろ?恭也一人で全部守るなんて無理だ」


 ウルに言われるまでもなく恭也もそれは分かっていた。

しかし素人のカムータたちに見張りを任せ、もし死人が出たらと思うとウルの提案は受け入れられなかった。


「うーん。やっぱ戦いの指示とか訓練をしてくれる人が必要だね。しかもできるだけ早く」


 時間が経ちカムータたちの中で作業の割り振りができてからでは防衛や周囲の監視に従事する人員の確保は難しくなるだろう。

早い内に志望者を募り訓練をしてもらう必要があった。

 しかし問題は彼らを指導・指揮する人物だ。


「ミーシアさんに来てもらうのは無理だろうしなー」

「ミーシア?ああ、あの鳥女か。頼めば来てくれんじゃねぇの?恭也たくさんの奴隷たち助けたわけだし、頼めばあの女一人ぐらい貸してくれるだろう」

「いや、アズーバならともかくここに来てもらうのは無理でしょ。片道二十日以上かかるし、それにミーシアさん、セザキアでは結構偉いっぽいし」

「じゃあ、雑魚兵士百人ぐらいに家族ごと引っ越してもらうってのはどうだ?」


 ウルからこんなまともな意見が出たことに一瞬驚いた恭也だったが、ウルの考えを聞き別の考えを思いついた。


「どうせならクノンの人たちに力を貸してもらおう。セザキアの人たちにはアズーバの方で力を貸してもらうつもりだし、どうせクノンとは落ち着いたら貿易とかするつもりだったし」

「俺は留守番任せられるなら相手は誰でもいいけど、恭也クノンに知り合いいるのか?」


 ウルの指摘を受け、恭也は今後の行動方針を大雑把にまとめた。

 ウルの言う通り、恭也はクノン王国に知り合いなどいないためセザキア王国の時の様に、あちらから接触してもらうしかない。


 これに関してはクノン王国の首都で目立つように人助けでもすればいいので、それ程難しくないだろう。

 しかし仮にクノン王国の有力者に会えたとしてそこから兵士を派遣してもらうための交渉にはかなりの不安がある。


 恭也は仕事はもちろんバイトの経験すら無いため、まともな契約など自分一人で結んだことはない。

 クノン王国側が何か条件を出してきた場合、いいように騙される可能性があった。


 暴れていただけでよかった今までと違い、これからクノン王国でしないといけないことは、難しさの方向性が全く違う。

 慎重にいこうと思った恭也はウルの期待の視線を受けつつ、とりあえず比較的話が通りやすそうなセザキア王国に行くことにした。

 

 翌日、恭也はセザキア王国が恭也の転移先として用意した家に転移し、その家に常駐している使用人の用意したお茶を飲みながら担当者が来るのを待った。

 毎回『空間転移』で来ているため、当然事前の約束などしていない。


一時間以上待たされることなどざらで今回もそうだった。

 この世界の読み書きの勉強をして恭也が時間を潰していると玄関の鈴が鳴り、恭也も見知ったセザキア王国の役人、アロガンが現れた。


「お待たせしてすみません」


 部屋に入って来て早々恭也に謝罪してきたアロガンは今年で二十一歳の男性で、地方の貴族の三男だとミーシアに紹介された時に聞いた。

 アロガンは恭也とセザキア王国が交渉する時にあまり政務に詳しくないミーシアを挟む手間を惜しんだセザキア王国側が用意した人物だ。


 恭也は知らなかったが、協力的とはいえ異世界人と直に会っての交渉などしたくないという上司たちから仕事を押し付けられた形でアロガンはここに来ていた。

 恭也としても年配の役人よりは若いアロガンの方が話しやすいので、結果としてはうまくいっていた。


「気にしないで下さい。約束無しで来てるわけですから会ってもらえるだけでもありがたいです」

「そう言ってもらえると助かります。ところで今日はどんなご用事ですか?」


 アロガンに質問された恭也は自分がアズーバの近くに周囲から人を集めて村を作ろうとしていること。そしてそこにセザキア王国から兵士を回してもらいたいことを伝えた。


「なるほど、人を集めて村を…。助けた人たち五百人ぐらいの人たちとも同じようなことをされてるんですよね?それはどこでやっているんですか?」

「クノンとネースの国境から歩いて二、三時間のところです。セザキアともそんなに離れてないかな」

「なるほど、そちらの警備はどうされるおつもりで?」

「あっちはクノンから兵士を回してもらえないかなと思ってます」


 恭也のこの発言を聞き、アロガンは一瞬黙り込んだ。


「…正直言ってかなり難しいと思いますよ。恭也さんが先程おっしゃっていたような兵士としての指導をする人材ぐらいなら多分我が国は派遣できると思います。しかしクノンに関しては恭也さんは一切人脈が無いわけですから」

「やっぱり無理、というか失礼ですよね」


 一国の代表でもない恭也が国に向かって人材の派遣を要求しているのだ。

恭也が異世界人でなかったら話すら聞いてもらえないだろう。

 そう考えていた恭也だったがアロガンは恭也の考えを否定した。


「いえ、無理ということはないと思います。もちろんただの民間人なら無理ですが、恭也さんは異世界人ですしさらわれた人たちを助けたという実績もあります。クノンとしても恭也さんと関係を持ちたいと思ってはいるでしょうし、頼めば人材も派遣してもらえると思いますよ」

「そうですか。安心しました。今さら気づいたんですけど、一気に色々やり過ぎて僕一人じゃ手が回らなくて…」


 心底安堵した様子の恭也だったが、そこに水を差すような情報をアロガンが口にした。


「でも今クノンは情勢が落ち着いてないみたいなんで、今恭也さんが行っても会ってもらえないかも知れません」

「ん?何があったんですか?」

「恭也さんがサキナトから手に入れた情報で我が国はもちろんですがクノンでも多くの逮捕者が出ました。でもクノンでは逮捕を逃れた人たちが組織を作って抵抗してるそうなんです」

「へぇ、でもそれだとセザキアも大変なんじゃ…」


 何なら手を貸そうかと思った恭也だったがそれは余計な心配だった。


「わが国にはミーシアさんがいますからね。貴族が雇ったチンピラや不良兵士程度、相手になりませんよ」


 恭也の感覚が麻痺しているだけで中級悪魔はこの世界ではかなりの戦力だ。

魔導具で武装した兵士十人に匹敵し、魔導具無しで倒すとなると兵士二百人は必要となる。

 そんな存在を二体も召還できる上にそれと同時にセザキア王国最強のミーシアが襲ってくるのだから即興の組織程度相手にもならない。

 アロガンの話を聞きとりあえずは安心した恭也だったが、別に一つ気になることができた。


「クノンの騒ぎが長引いてるってことはクノンにはミーシアさん程強い人はいないってことですか?」


 クノン王国の中だけの争いに介入するのは恭也としてもできれば避けたい。

 無論死者も出ている状況を黙って見ているのはストレスが溜まるが、現状始めたばかりの村作りで手いっぱいだからだ。


 この状況でクノン王国相手にあまり出しゃばったまねはしたくない。

 ネース王国の件と合わせて侵略の意思があるなどと勘繰られても困るからだ。

 理不尽な死をなくしたいという自分の夢を叶える力が手に入ったと思ったら、次から次としたいことが増えてくる。


 今の心境に戸惑いやいら立ちを覚えていた恭也だったが、慌てて行動してあの市場の惨劇を繰り返すわけにはいかない。

 今はクノンに手を出すのは止めておこう。

 そう考えていた恭也だったが、アロガンの発言で考えを改めた。


「聞いた話では敵に精霊魔法の使い手がいるらしく結構手こずってるらしいですよ。まあ、軍を挙げて戦えばいずれは倒せるでしょうけど」


 大国に一人いるかどうかという精霊魔法の使い手がよりによって犯罪者側にいると聞き、恭也はクノン王国内での争いに介入することを決めた。

 最終的にクノン王国側が確実に勝つというのならまだしも、その確証が無いというのなら現状を見逃すなどあり得ない。


 各世界に異世界人を送り込んでいる神々も別にその世界を滅ぼしたいわけではないので、さすがに理性が全く無い人格破綻者を送り込むことはない。

 しかし理性と欲望で理性が勝つような人間もまた選ばれないので、恭也がこの結論を出すのは当然のことだった。


 人が死ぬのが嫌という自分の考えに従い、恭也はクノン王国に行くことを決めた。

 とはいえ現状魔力が二割を切っている現状で単身乗り込む程恭也も無謀ではない。

 恭也は一度ウルのもとに『空間転移』してウルを体の中に入れた。

 恭也の中に入った瞬間、ウルが恭也の予定を理解した。


(おっ、久々の遠出か。雑魚相手とはいえ、暴れられるのは嬉しいぜ。精霊魔法が使える相手なら遊び相手ぐらいにはなるだろう)

(勝負自体はすぐにすむだろうけど、ストレス発散も兼ねてウルが戦えばいいよ。でも間違ってクノンの兵士斬ったりしないでよ)

(…その辺りの判断は恭也に任せるぜ。殺さないようにするから最悪恭也が治せばいいだろ)

(魔力あんま使いたくないんだけど…。まあ、その辺は臨機応変にいくってことで)


 現地で負ける心配など全くしていない二人は『不朽刻印』を刻まれている者たちにしばらくここを離れるが、逃げたら一ヶ月埋められると思えと脅すとカムータたちのもとへ向かった。


「これからクノンにですか?」

「はい。何か内乱みたいになってて大変みたいなんで、恩売りがてらちょっと行ってきます。あ、サキナトの人たちがこっちに近づいたら僕はどんなに離れてても分かるんで、そこは安心して下さい」

「分かりました。気をつけて行ってきて下さい」

「はい。サキナトの人たちが何かしなくても二日後には一度顔を出すつもりです。ところで兵士になってもいいって人見つかりましたか?」

「はい。さすがに悪魔の相手まで恭也さんにさせるのは悪いってことで、三十人ぐらいが名乗り出てくれました。ただ他の作業もあるので兼業になってしまうと思います」

「ああ、そうか。それはそうですよね。申し訳無いんですけど、どういうローテーション、えっと、順番でやるかはそちらで決めて下さい」


 恭也をこの世界に送り込んだ青年の力によるものと思われる翻訳は恭也の話すカタカナ英語はなぜか通訳してくれない。

 聞いている側は大体文脈から理解できているのだが、それでも若干戸惑ってはいる。

 できるだけ横文字は使わないようにしようと決めた恭也だったが、あまりうまくいっていなかった。


「はい。現場のことは私たちで決めるつもりです」

「お願いします。ただ今回のクノンの件がうまくいったらちゃんとした兵士の人たちに訓練をつけてもらうことになると思うので、そのことは伝えておいて下さい」

「分かりました」


 現場のことは基本的にカムータたちに丸投げしているため、恭也はいつも通り今後の大雑把な方針だけ伝えてその場を去った。

 今の恭也の魔力は一割を切っているがウルの魔力は六割残っていた。


 さすがに精霊魔法の使い手が魔神以上ということはないだろうからこれで勝てるだろう。

 国に抵抗しているという犯罪者との戦いよりその後のクノン王国の有力者との話し合いを心配しながら恭也はクノン王国へと向かった。

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