表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/244

最終決戦(ゾアース)③

 ランがジューグス相手に空中戦を行っていた頃、ランが今回率いていた上級悪魔二体もゾアースを襲おうとするジューグス配下の上級悪魔たち相手に戦いを始めていた。

 ゾアースに向かっていた上級悪魔たちの視線の先には恭也側の上級悪魔の姿は一体も無く、ただ一本の大樹が生えているだけだった。


 少し離れた場所に街道があるだけの場所に高さ七メートル、太さ二メートル程の大樹が生えていれば今は戦闘中だということもあり普通は警戒するだろう。

 しかしジューグスが悪魔たちに出した命令は人間や街を手当たり次第に襲えという大雑把なものだったので、人間でも街の一部でもない大樹に上級悪魔たちは一切注意を払わなかった。


 そして風属性を持つ竜型の上級悪魔と光属性を持つ鳥型の上級悪魔が大樹の近くを通り過ぎようとした時、突然大樹の枝が伸びて二体の上級悪魔に絡みついた。

 気にも留めていなかった大樹から突然攻撃されて二体の上級悪魔は動きを止めたが、大樹を敵と認識してからの上級悪魔たちの行動は早かった。


 それぞれ竜巻と光線を体中から撃ち出して上級悪魔たちは自分たちの動きを封じる大樹の枝を破壊しようとし、竜型の上級悪魔は何とか大樹による束縛から逃れることができた。

 しかし鳥型の上級悪魔はいくら光線を撃ち出そうが大樹に全て吸収され、やがて鳥型の上級悪魔自体の魔力も全て大樹に吸収されて鳥型の上級悪魔は消滅した。


 ジューグス配下の上級悪魔たちを襲った大樹の正体は『降樹の杖』を使って恭也が作った上級悪魔、『スターブ』で、『スターブ』は触れた相手の魔力を吸収する能力を持っている。

『スターブ』は土、水、光属性の魔法は魔神の魔法でも無傷で吸収でき、その太い枝は上級悪魔といえども単純な力だけで引きちぎるのは難しい。


 そのため鳥型の上級悪魔は『スターブ』の枝に捕まった時点で詰んでいた。

『スターブ』は幹から五十本以上の枝を生やしていたので鳥型の上級悪魔の魔力を吸収しながら他の上級悪魔の捕食も行っており、そんな『スターブ』に対して先程『スターブ』の枝から逃れた竜型の上級悪魔は風の刃と竜巻を放った。


『スターブ』は普通の樹同様大地に根を張っているため敵の攻撃を一切回避できず、竜型の上級悪魔を含む上級悪魔数体の攻撃を受けて『スターブ』の幹のあちこちが傷ついた。

 しかし傷ついた次の瞬間には『スターブ』の傷は回復しており、『スターブ』は何事も無かったかの様に戦闘を続行した。


『スターブ』は敵や大地から魔力を吸収できる限り不滅に近く、上級悪魔たちが『スターブ』を倒そうと思ったら火属性と風属性の上級悪魔のみで攻撃を行うべきだった。

 しかし敵らしきに物に襲われたから反撃をしているだけの上級悪魔たちは『スターブ』には一部の属性の魔法しか通用しないことにすら気づかず、何も考えずに『スターブ』に魔法を撃ち続けた。


 属性だけを考えたら『スターブ』相手に勝機がある竜型の上級悪魔は、もう一体いた竜型の上級悪魔と共に『スターブ』の幹や枝を何度も斬り刻んだ。

 なお上空には他に三体上級悪魔がいたのだが、それぞれ水属性と光属性だったため『スターブ』にあっさり吸収されてしまった。


『スターブ』の周囲に複数魔力源があるこの状況では竜型の上級悪魔二体による攻撃も意味が無く、『スターブ』は自分につく傷などまるで気にせずに竜型の上級悪魔二体に攻撃を仕掛けた。

 大量に魔力を注ぎ竜型の上級悪魔の胴体程の太さにした枝二本を鞭の様に振り降ろし、『スターブ』は竜型の上級悪魔二体を地面に叩きつけようとした。


『スターブ』の操る枝の速さはすさまじく、一度や二度ならまだしも立て続けに振るわれる『スターブ』の枝をよけ切れず竜型の上級悪魔は二体共叩き落とされてしまった。

 しかしいくら『スターブ』の攻撃が強力だといってもただ叩かれた程度で地上まで落下する程竜型の上級悪魔たちもやわではなく、竜型の上級悪魔たちはすぐに風魔法で体勢を整えると自分たちを追って振り降ろされていた『スターブ』の枝を竜巻で破壊した。


 これにより竜型の上級悪魔たちは数秒の猶予を得たが、これまでの戦いで『スターブ』の枝がすぐに再生することは分かっていたので竜型の上級悪魔たちはすぐにこの場から離れようとした。

 しかし上からの攻撃しか警戒していなかった竜型の上級悪魔二体に地面から生えた『スターブ』の根十本以上が突き刺さり、竜型の上級悪魔たちの魔力はみるみる『スターブ』に吸収された。


 更に駄目押しとばかりに竜型の上級悪魔たちの背中に『スターブ』は枝を振り降ろし、上下どちらにも逃げられなくなった竜型の上級悪魔たちはあえなく『スターブ』に吸収された。

 この時点で『スターブ』の近くには火属性の上級悪魔二体と風属性の上級悪魔一体が残っていた。


 敵の属性が何であろうと『スターブ』は触れさえすれば悪魔から魔力を吸えるが、それでも攻撃を無効にできない相手ではそれなりに手こずってしまう。

『スターブ』は今回恭也が作った上級悪魔の中でも随一の燃費の悪さを持ち、既に砂漠と化した周囲の大地から魔力を吸収することができない今の状況で上級悪魔三体の相手は厳しかった。


 まだ『スターブ』の近くには目の前の三体の他に六体程戦闘可能な上級悪魔がいたのだが、これらの上級悪魔は恭也が作ったもう一体の上級悪魔が処理していたので『スターブ』も手が出せなかった。

 幸い『スターブ』に魔力不足で怯む様な知性や感情は無かったので『スターブ』は既に崩壊が始まりかけていた体で残る三体の上級悪魔たちに襲い掛かろうとした。


 しかしちょうどその時ランから差し入れが入ったので『スターブ』の注意はそちらに向き、ランが『スターブ』の近くまで運んだ三つの箱の中から猿型の上級悪魔が一体ずつ姿を現した。

 ランはその気になれば『錬城技巧』で叩くことで猿型の上級悪魔をただの金属の塊にできたが、今回は『スターブ』のえさにした方がいいと考えて最後まで取っておいた。


 そして『スターブ』の近くの上級悪魔が少なくなった頃合いを見計らってランは差し入れを行い、魔力が失われていく中目の前に現れた土属性の上級悪魔に『スターブ』はすぐに襲い掛かった。

 専用魔導具無しでは魔神ですら突破できない耐久力を持つ猿型の上級悪魔も属性が土である以上『スターブ』の敵ではなく、抵抗らしい抵抗もできずに猿型の上級悪魔たちは『スターブ』に捕食された。


『リベリオン』の様に体が硬くなりはしなかったが上質のえさのおかげで『スターブ』の魔力はすっかり回復し、そのまま『スターブ』は残る三体の上級悪魔たちに襲い掛かった。


『スターブ』が空を飛んでいる上級悪魔と戦い始めた時、まだ地上には十体以上の上級悪魔が残っており、これらの上級悪魔たちはこの場にいる唯一の敵、『スターブ』に一斉に魔法を撃ち出そうとしていた。


 そんな悪魔たちの一体、火属性を持つライオン型の上級悪魔が口から火球を放とうとした時、上級悪魔の足下の地面から金属製の鎖が二十本程生え、これらの鎖は上級悪魔の体に絡みつくとそのまま上級悪魔を地面の中に引き込もうとした。


 地中からの鎖に絡みつかれているのはライオン型の上級悪魔だけではなく、合わせて八体の上級悪魔たちが鎖に絡みつかれていた。

 地中へと引き込もうとする鎖の力は大変強く、その上上級悪魔たちの足下の地面が液状化したため空を飛べない上級悪魔たちはなす術無く地中へと引き込まれた。


 地中に引き込まれて動きを封じられた上に何も見えない状況に置かれ、上級悪魔たちは何とか状況を変えようとそれぞれの魔法を周囲に撃ち出した。

 しかしこの上級悪魔たちの攻撃は周囲の地面を少し揺らしただけで、上級悪魔たちの置かれた状況は何も変わらなかった。


 上級悪魔数体が地中に引き込まれたのは恭也が作った上級悪魔、『イザナミ』の仕業で、『イザナミ』は触れた土や金属を自在に操ることができる。

『イザナミ』は土や金属の操作能力のみに特化した上級悪魔で、『イザナミ』の本体は直径三十センチの球体に過ぎない。


 そのため直接戦うには不向きだがその分『イザナミ』は魔法の威力や範囲ではランをも上回り、数日かければ国一つを海の底に沈めることもできた。

 その反面『イザナミ』は土や金属が無いと何もできないのだが、今回『イザナミ』の周囲には『アルスマグナ』で創られた金属が大量にあった。


 この状況下で『イザナミ』に勝てる可能性があるのは恭也かディアンぐらいだったので、上級悪魔ごときが何体いようが今の『イザナミ』には勝てなかった。

 地中で動きを封じられたまま上級悪魔たちは体中を『アルスマグナ』製の刃で斬り刻まれ、一方的に魔力を削られていった。


 もちろん上級悪魔たちもただ攻撃を受けているだけではなく周囲に魔法を撃ち出して自由になろうとあがいたが、地中に引き込まれてすぐに上級悪魔たちは『アルスマグナ』製の箱に閉じ込められていた。

 そのため上級悪魔たちの攻撃は地表と地下どちらにも届かず、周囲の地面に何の影響も与えることができなかった。


 また仮に上級悪魔たちの攻撃が周囲に届いたとしても『イザナミ』は本体を『アルスマグナ』の箱で守っていたので『イザナミ』に上級悪魔たちの攻撃が届く可能性はゼロで、『イザナミ』には周囲の大地が砂漠化したことで足下が不安定になった『スターブ』を下から支える余裕すらあった。


 こうした事情も知らずにジューグス配下の上級悪魔たちは魔法を撃ち続け、上級悪魔たちがそれぞれ二十発程魔法を撃った頃合いを見測って『イザナミ』は上級悪魔たちを閉じ込めていた箱を徐々に小さくしていった。


 それに伴い上級悪魔たちの撃ち出した魔法は上級悪魔たちのすぐ近くで『アルスマグナ』製の箱とぶつかるようになり、その際の爆発で自分たちが傷を負うようになると上級悪魔たちは攻撃の手を止めた。


 しかし上級悪魔たちが魔法を撃とうが撃つまいが上級悪魔たちの最後は近づいており、内側に刃が大量に生えた『アルスマグナ』製の箱が板の様に薄くなってから数分後、地中には『イザナミ』以外の上級悪魔はいなかった。


『スターブ』と『イザナミ』がジューグス配下の上級悪魔と戦う様子を離れていた場所から見ていたエイカは恭也が作った上級悪魔二体の強さにあっけに取られていた。

 恭也が自ら作った上級悪魔が弱いとはエイカも思っていなかったが、敵の上級悪魔も恭也と同じ異世界人のディアンが作ったものだ。


 その上数は相手の方が圧倒的に多かったので、エイカは敵の上級悪魔がこちらに来る、あるいはゾアースを囲む外壁に近づく可能性も考えていた。

 そうなったら勝てないまでも上級悪魔相手に少しでも時間を稼ごうと死ぬ覚悟さえしていたエイカだったが、勝負が始まってみると『スターブ』と『イザナミ』は一方的に敵の上級悪魔を蹂躙した。


 敵の上級悪魔をえさとしか考えていない様な『スターブ』の暴れ振りにエイカは恐怖すら感じ、『イザナミ』などはあらかじめ存在と能力を聞いていなければどこから何をしているかすら分からなかったかも知れなかった。


『イザナミ』に地中へと引き込まれた上級悪魔の内、最後まで地表で抵抗していた上級悪魔が土で作られた腕四本で無理矢理地中に押し込まれるのを見た時、そのあまりの力の差にエイカは少なからず敵の上級悪魔に同情すらしてしまった。


 これだけの力を持つ上級悪魔を他に六ヶ所で二体ずつ作り、その上他の異世界人複数と連携も取っている恭也がディアンの様な性格でなくてよかったとエイカは心底思った。

 エイカと恭也の最初の出会いは最悪に近かったが今では恭也と会ってよかったとエイカは胸を張って言え、それと同時にとんでもない男を好きになってしまったものだとため息をつきながらエイカは襲い掛かってきた中級悪魔を『エルウィスカ』で斬り捨てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ