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最終決戦(ゾアース)②

 身長が百二十センチもないランと体長十メートルを超えるジューグスの戦いははたから見たらジューグスが一人で暴れている様にしか見えず、実際ジューグスとぶつかる度にランは一方的に吹き飛ばされていた。


 ランが新たに追加した物も合わせて刃渡り五メートルの刃二十枚をジューグスの左右から飛ばすとジューグスはそれを風魔法で吹き飛ばし、その隙を突いてランはジューグスの脇腹に『錬城技巧』を叩き込んだ。


 しかし改造人間には斬撃より打撃の方が効果的とはいえこれだけ体格差があるとランの攻撃はほとんどジューグスに傷を負わせられなかった。

『錬城技巧』に打撃の威力を上げる効果は無いので『錬城技巧』を使ってのランの攻撃はジューグスにとって文字通り蚊が刺した様なものだった。


 そのためジューグスはランに何度も叩かれないとランの攻撃に気づけないことすらあり、今回も数回脇腹を刺激されてからジューグスはランの居場所に気づいた。

 ランのささやかな攻撃に気づいたジューグスは下半身を鞭の様にしならせ、迫り来るジューグスの体に『錬城技巧』を叩き込んだランはそのまま吹き飛ばされてしまった。

 吹き飛ばされた直後に体を解いて減速したランが近くに待機させていた金属に着地してジューグスに視線を向けると、ジューグスは面倒そうな表情をしていた。


「ちょっと小突いたぐらいで吹き飛ぶんだから参っちゃうわね。これだけ体格差があるとこっちもやりにくいわ。この姿になる必要無かったかしら」


 巨大化したジューグスの体は街を破壊する際や上級悪魔と戦う際には効果的だったが、人間大の敵と戦う際には不便な点の方が多いようにジューグスは感じた。

 そのため自分の攻撃を受ける度に遠くに吹き飛ぶランを見てジューグスは嘲りより面倒さを強く覚えたのだが、そんなジューグスにランは鋭い視線を向けた。


「……調子に乗らない方がいい。あなたが元の大きさだったらとっくに私が勝ってる」

「あら、怖い。私にまともに傷もつけられていないくせにずいぶん強気ね」


 ランににらみつけられても余裕の態度を崩さなかったジューグスだったが、巨大化する前の自分の魔法では簡単にランの作り出した巨大な刃を防げないことは分かっていた。

 そのためランの発言を余裕の態度で聞き流したジューグスは無いものねだりをしてもしかたがないと考え、防御一辺倒だった姿勢を改めて攻勢に出た。


 ジューグスの胴体から四体の大蛇が生え、それらの大蛇はジューグスの意思を受けてランに襲い掛かった。

 ジューグスの体から生えた大蛇はいずれもランを軽く飲み込めそうな大きさだったが、自分に迫り来る大蛇を見てもランは動じずに一番近くにあった金属の刃で大蛇の首を四体まとめて斬り落とした。


 ジューグスが胴体から生やした大蛇全てを瞬く間に始末したランだったが、ジューグス本体を叩かなくては意味が無いためランはすぐにジューグスのもとに向かおうとした。

 しかし斬り落とした大蛇の首が爆発し、次の瞬間にはランの周囲全てが闇に包まれてしまったのでランは動きを止めてしまった。


 一方自分の差し向けた大蛇に任意で発動できる闇魔法を仕込んでいたジューグスは直径五メートル程の闇の空間に突っ込み、そのままランに体当たりを食らわした。

 巨大化したジューグスの体当たりをまともに食らったランは体が粉々になってしまい、何とか地上に逃げて体を復元した後周囲に先程まで同様に日光が降り注いでいるのを見て不快気に眉をひそめた。


 改造人間や並の上級悪魔ごときに周囲一帯を闇に包み込む力などあるはずがないにも関わらず、少し視界を塞がれたぐらいで動揺した自分のうかつさにランは怒りを覚えた。

 しかし敵の強さがこちらの予想を多少上回っていたことを除けば戦いは当初の予定通りに進んでいるので慌てる必要は無い。


 落ち着いて戦って勝利を恭也に捧げよう。

 そう自分に言い聞かせながらランは『錬城技巧』で足下の地面を叩いて金属に変え、追加で作り出した金属で大きさは通常の物と変わらない大量の武器を作り出した。

 風魔法で武器を吹き飛ばせる自分に質より量で攻めようとしている魔神の頭の悪さにジューグスは嘲笑を浮かべる気すら起きなかったが、それでも『錬城技巧』の能力には素直に感心した。


「へー、あなたはともかくあなたの魔導具は本当に便利そうね。叩いただけでただの土を金属に変えれるなんてツビイラが欲しがりそうだわ」


 ディアンから研究所の所長を任されている同僚の名を口にしながらジューグスは『錬城技巧』の能力を素直にほめた。

 そんなジューグスの発言を聞き、ランは誇らし気な表情を浮かべた。


「……この『錬城技巧』は私の考えをごしゅじんさまが形にしてくれたものだから強くて当然。さっきの闇魔法は少し驚いたけど、それでもあなたは調子に乗り過ぎだからそろそろ『錬城技巧』の本気を見せてあげる」


 実際に『錬城技巧』を作り上げたのはヘーキッサを始めとするソパス研究所の所員たちだったが、ヘーキッサたちは恭也が所有している研究所の一部というのがランの認識だった。

 そのためランは『錬城技巧』を恭也からもらったものだと考えており、『錬城技巧』を使っての戦い、それも初陣で負けるなど論外だとも考えていた。


 敵を精神的にも叩きのめせという恭也の命令を実現するためにもそろそろ反撃を始めようと考えたランはジューグスと共に上空にあった巨大な刃も全て通常の大きさの武器に変えた。

 そしてランが地上と上空の武器全てをジューグスに向けて全方位から撃ち出すと、ジューグスは全方位に向けて突風を起こしてランが撃ち出した武器全てを弾き飛ばした。


「そんな武器いくら作っても私には通用しないわよ?どうする?今からディアン様に忠誠を誓うって言うなら私たちの研究所で下働きとして雇ってあげるわよ?」


 ランの撃ち出した武器を全て防いだジューグスは自分の勝利を確信しつつランに降伏を勧めたのだが、ジューグスの視線の先にランはいなかった。


「なっ、いつの間に?」


 全方位に向けて突風を起こしている間、ジューグスは周囲の状況を確認できなかったがその時間は五秒にも満たなかった。

 先程魔神が見せた金属操作の精度を考えるとそんな短い間に地上から自分の近くまで魔神が来られるとは思えなかったが、ジューグスは念のために周囲を警戒した。


 しかしジューグスに近づくどころかジューグスの頭上を取っていたランは魔法で足場となる土を創り出し、その後能力の『怪力』を使いながらジューグスの背中を『錬城技巧』で強打した。

 その結果突然背中に強い衝撃を受けたジューグスは何が起きたかも分からないまま五メートル程高度を落とした。

 それでもすぐに体勢を立て直したジューグスは上に目をやり、『錬城技巧』を手にしながら自分を見下ろすランをにらみつけた。


「……さっきまでの金属操作は手を抜いてたのね。まさかあの短時間でそんなに移動できるとは思ってなかったわ」


 今も金属製の板に乗っていることからランが単独で飛べないということ自体は嘘ではないとジューグスは判断したが、それと同時に目の前の魔神がこれまで手を抜いて自分と戦っていたという事実に怒りを覚えた。

 そんなジューグスの怒りに満ちた視線を受けてもランの表情は変わらなかった。


「……あなたごときに最初から本気を出すわけがない。そろそろ終わらせるけどそのままだと死体持って帰れないから少し魔力を削らないと。あ、戦いが終わったらちゃんとごしゅじんさまが蘇らせるから安心して殺されて欲しい」

「ずいぶん上から目線じゃない。殺せるものなら殺してみなさい!」


 まるで既に戦いが終わったかの様に話すランを前にしてジューグスは怒りを露わにし、自分にまとわりつく大量の武器を無視してランに突っ込んだ。

 小細工無しで突っ込んで来たジューグスに対してランも正面から応じ、ランは『怪力』を発動しながら『錬城技巧』をジューグスの顔面に叩き込んだ。


 さすがにランの『怪力』でも今のジューグスの体全体を持ち上げることはできないが、先程の背中への攻撃の様に打撃を叩き込む際に使われるとジューグスもかなりの傷を負ってしまう。

『怪力』を発動した自分に顔面を殴られれば普通は即死だが、敵が改造人間となるとそうはいかないだろう。


 しかし死にはしないにしてもジューグスは大きく体勢を崩すはずで、そうなったら無防備なジューグスの胴体に攻撃を立て続けに叩き込んでやろうとランは考えていた。

 しかしランが殴り飛ばしたジューグスの頭部が首元から切り離されたのを見てランは自分の失敗に気づき、その直後には頭部を失ったジューグスの胴体から大蛇が生えてランを胴体ごとくわえ込んでいた。 

『怪力』で大蛇の頭部を吹き飛ばしてもすぐに大蛇の頭部は再生したためランは大蛇から逃れることができず、そんなランに頭部を再生したジューグスは嗜虐的な笑みを向けた。


「金属操作に手を抜くだけじゃなくてあんな馬鹿力まで隠してたなんて見た目によらず小賢しいのね」


 殴られた頭部を自ら切り離すことでランの攻撃の影響を最小限に抑えたジューグスは、多少手こずったもののようやく自分の勝利を確信した。

 本体の頭部を切り離したせいか多少魔法が使いづらくなっていたがジューグスは大蛇の頭部ぐらいならまだいくらでも再生することができ、自分を巻き込むことを考えると魔神も大蛇やジューグスに大規模な攻撃は行えないだろう。


 そうなると目の前の魔神が力技で自分の束縛を逃れるのは不可能で、魔神が体を解いて束縛から逃れようとしたら強力な風魔法をお見舞いしてやればいい。

 このまま魔力が切れるまで蛇に潰され続けるか体を解いて魔法を受けるか。


 どちらにしても魔神に勝ちの目は無いと考え、ジューグスはゾアースに攻め込んだ後のことを考え始めていた。

 そんなジューグスの目の前で大蛇が力を加える度に崩壊と再生を繰り返していたランは特に慌てた様子も見せずにジューグスに話しかけた。


「……もしかしてもう勝ったと思ってる?」


 心底不思議そうな表情で自分に話しかけてきたランを見て、ジューグスは余裕と嘲りが混じった笑みを深めた。


「ええ、思ってるわよ。あなたの武器による攻撃は確かにうっとうしいけど気にする程じゃないし、あなたの魔力が後いくら残ってるか知らないけどこのまま握り潰してればその内死ぬでしょ?」


 今もランが作り出した大量の武器はジューグスの体のあちこちを斬り、刺し、叩いていたが、今のジューグスにとってこの程度の攻撃は取るに足らなかった。

 さすがにずっと攻撃を受け続ければジューグスの魔力も切れるろうが、どう考えても目の前で大蛇に握り潰され続けている魔神の方が先に魔力の限界を迎えるのでジューグスは全く慌てていなかった。

 そんなジューグスの見ている前でランは足の先から『錬城技巧』三本を出し、その後ランの操る三本の『錬城技巧』はランを捕えている大蛇に攻撃を始めた。


「剣で斬ったがいいと思うわよ?」


 自分から生えた大蛇相手にひびすら入らないかわいらしい攻撃を続ける『錬城技巧』を見てジューグスは憐れむ様な表情でランに助言をした。

 しかしその表情も長くは続かず、ジューグスはようやく自分の体に起きている異変に気づいたが既に手遅れだった。


「な、何をしたの?」


 突然自分の体の動きが鈍くなった上に魔法も使いにくくなったことを受けてジューグスは引きつった表情をランに向け、そんなジューグスにランは淡々と『錬城技巧』の説明をした。


「……何か勘違いしてるみたいだけど『錬城技巧』は叩いた物なら何でも金属に変えられる。さすがに魔力がたくさんある物は何度も叩かないといけないけど」

「そ、そんなむちゃくちゃな……」


 ランの説明の意味を正しく理解したジューグスが恐怖に顔を引きつらせる中、ジューグスの意思に反してランを捕えていた大蛇が口を開き、自由の身となったランは『錬城技巧』により半分以上の部分が金属になっていた大蛇を操った。


 その結果ジューグスから生えていた大蛇が根元から折れ、まだ完全に金属になっていなかった大蛇を『錬城技巧』で完全に金属に変えてからランは元大蛇の金属を巨大な刃に変えた。

 その後ランは巨大な刃をジューグスの胸元に向けて飛ばし、それを見たジューグスは胴体の方に意識を逃がそうと試みた。


 しかし大量の武器に紛れ込んでいた二十本の『錬城技巧』に何度も叩かれたことで金属化していたジューグスの体に意識を逃がすことはできず、結局ジューグスは何もできずにランの飛ばして来た刃で胸元を両断された。


 胸元から上はほとんど金属化していなかったのでジューグスはすぐに体を再生できたが体長は五メートル程に縮んでおり、何より体の大部分と共に十万近い魔力を失ったのが致命的だった。

 上級悪魔と融合する前より弱体化した今の状態で魔神に勝てると思う程ジューグスもうぬぼれてはおらず、すぐにランに命乞いをしようとした。


 しかしこれまで同様強敵と戦えるという高揚も弱者をいたぶれるという暗い喜びも見せずに自分に近づいて来るランを見てジューグスは口を開けず、そんなジューグスを前にしてランは不思議そうな表情を浮かべていた。


「……あれ?どうしたの?こういう時あなたみたいな人間はみっともなく命乞いをするってごしゅじんさまが言ってた」


 恭也の予想通りにジューグスが振る舞わなかったことにランは強い不満を感じた。

 そんなことを知る由も無いジューグスは地上に降りてランに降伏を伝えたのだが、その後ランが振り降ろした『錬城技巧』により頭部を潰された。


 ランが『怪力』と共に怒りに任せて振り降ろした『錬城技巧』はジューグスの頭部から胸元までを力任せに潰し、その後すぐに体を再生したジューグスは命乞いが聞き入れられないだけならまだしもランが怒っている理由が分からなかった。


「ちょっと待って!もう降伏するって言ってるでしょう?お願い!助けて!」


 今日初めて見る感情的なランを前にしてジューグスの命乞いは生き延びるための演技から本心からによるものへと意味合いを変えていた。

 しかしランが何に怒っているのか分からないジューグスにランを止められるわけもなく、仮にジューグスがランの考えを正しく理解できたとしても恭也が魔神全員に改造人間を殺すように命じている以上ランにはジューグスを見逃す理由が無かった。


「……考えてみればごしゅじんさまの支配してる街を襲うような相手なんだから無礼なのは当然。持ち運びやすいようにもう少し小さくなってもらう」


 自分なりにジューグスの態度に折り合いをつけたランはその後無言でジューグスに近づき、ランに命乞いが通じないと判断したジューグスは飛んで逃げようと考えて時間稼ぎのため闇魔法でランの視界を奪うと上空へと飛び立った。

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