最終決戦(ケーチ)④
ライカが自分に大量の剣を撃ち出したのを見て、デナパスはライカが自分の動きを封じるつもりなのだと判断した。
リリノートや猿型の上級悪魔と同等の耐久力を持つ今のデナパスなら手足を振るっただけで『統界輝粒』で創られた剣の二、三十本は折ることができたが、さすがに何千本もの剣で押さえつけられては身動きが取れなくなってしまう。
仮にそうなったとしてもディアンが恭也に勝てばライカは消えるのでデナパスはその後で余裕で脱出できたが、ライカが消えてもライカが創り出した剣が消えなかった場合は面倒なことになる。
そう考えたデナパスはライカの目論見通りに事が運ぶのがしゃくだったこともあり、ライカの放った大量の剣をよけることにした。
今回ライカが上空から撃ち出した剣は速くこそあったが光速には程遠く、距離も離れていたため今の体に慣れていないデナパスでも余裕で回避できるものだった。
デナパスの動きを封じたいなら空から剣を降らせるなどといった派手なことはせずに単純にデナパスの周囲に剣を創ればいいだけだったので、不必要に派手な技を使って敵に考察や回避の時間を与えてしまったライカにデナパスは嘲笑を向けた。
とりあえず今自分目掛けて飛んで来る剣の群れをよけた後で中級悪魔の群れと戦っているケーチの兵士たちに攻撃を仕掛ければライカも彼らを助けるために地上に降りて来るだろう。
兵士たちの近くにいれば『統界輝粒』による攻撃もしにくくなるはずなので、そうなれば後は能恭也が負けてライカが消えるまで適当に暴れていればいいだけだ。
ライカさえ消えればデナパスに対抗できる者などケーチにはいないので後はゆっくりと楽しむとしよう。
そう考えて移動しようとしたデナパスだったが、足下から生えてきた数十本の剣に足下をすくわれてしまった。
突然足下が崩れたことで移動を邪魔されたデナパスはライカの撃ち出した剣の群れをまともに食らってしまった。
「くっ」
予想していた通りライカの創り出した剣数十本に突き刺されてもデナパスには傷一つつかなかったが、それでも数十本の剣が同時に突き刺さる衝撃を何度も受けてデナパスは動くことができなかった。
ライカの創り出した剣はデナパスに当たるとすぐに粒子となり消え、その後矢継ぎ早に別の剣数十本がデナパスを襲い続けた。
「何を考えている?」
デナパスがライカの創り出した剣の波状攻撃で動けなくなっていることは事実だったが、これだけの数の剣を創り続けるとなると消費する魔力もそれ相応に多くなるはずだ。
デナパスを一ヶ所に抑え込んでおきたいのならわざわざデナパスに当たった剣を消す必要は無く、デナパスにはライカの狙いが分からなかった。
しかしこのまま大人しく攻撃を受け続けることだけは避けたかったので、デナパスは一度ライカの創り出した剣から離れるために後退しようとした。
ライカは剣をデナパスの正面の他に左右からも角度をつけて飛ばしていたため後ろ以外逃げ場が無かったからだ。
自分の金属の体を操る能力で加速して後退すれば二秒ぐらいなら時間を稼げるはずなので、その時間を使って地中に逃げてケーチの兵士たちを襲おう。
そう考えてデナパスがライカの創り出した剣から距離を取った直後、ライカの創り出した剣の速さが上がり、後退したデナパスに襲い掛かった。
大量の剣に遮られてライカもデナパスもお互いの姿を直接見ることはできなかったが、ライカは姿を消してデナパスの横に待機させていた『キュウビ』を通してデナパスの行動を逐一把握していた。
そして自分の狙い通りデナパスが後退したところを狙ってライカはわざと速さを抑えていた剣を加速し、自分から後退してしまったデナパスは高速で迫る剣の勢いに逆らえなかった。
ここでようやくデナパスはライカの狙いがデナパスの動きを封じることではなくデナパスを海に追いやることだと気づいたが、一度勢いがついたデナパスの体はもはやデナパス自身でも制御ができなくなっていた。
せめて風魔法が使えれば飛んで来る剣を吹き飛ばしてこの状況を打破できるものをとデナパスが後悔している間にもデナパスはどんどんケーチから離され、十分程剣に押され続けたデナパスはケーチの沖合六十キロの地点にいた。
目的地についたライカが剣を消すとようやくデナパスは止まることができ、その後デナパスはライカをにらみつけた。
「俺をこんな所まで連れて来てどうするつもりだ?まさか俺が海に沈められたぐらいで死ぬと思っているのか?」
確かに体重が四トン近くある今のデナパスの体は泳ぐのに適してはいなかったが、デナパスは金属でできた自分の体を操ることができる。
現にデナパスは今も空中に浮遊してライカを見上げており、海流が激しい場所ならともかく見たところ平穏そのもののケーチの沖合に落とされても全く困らなかった。
窒息することもない自分を海に落とすぐらいで倒せると思っているのかとデナパスはライカに嘲りと警戒が入り混じった感情を抱き、そんなデナパスにライカは自分がこれから何をしようとしているのかを伝えた。
「さすがに海に沈めたぐらいであなたが死ぬとは思ってないっすよ。餓死も窒息死もしないなんてほんと便利な体っすよね」
囚人の何人かを改造人間にしようと進言して恭也に本気で怒られていたホムラのことを思い出しながらライカは話を続けた。
「あなたの言った通り今からあなたを海に沈めるつもりっす。本当はあの猿の悪魔をここに連れて来るつもりだったっすから一回で済んで助かったっすよ」
これまでの言動からデナパスが自分の体を自由に操れることも窒息も餓死もしないこともライカが知っていることは明白だった。
それにも関わらずデナパスを海に沈めさえすれば勝てると考えているライカを見て、デナパスは理屈抜きに恐怖を感じてライカに襲い掛かろうとした。
しかしここに連れて来られた時点でデナパスに勝ち目は無く、ライカはここに来た時点で用意を始めていた『統界輝粒』の粒子を使いデナパスに全方位から剣を撃ち出した。
上下左右全てから襲い掛かる大量の剣により再び動けなくなったデナパスに本命の頭上からの大量の剣が襲い掛かり、抵抗しながらも海に向かって落下するしかないデナパスにライカの声が届いた。
「戦いが全部終わったら師匠と自分たちであなたを袋叩きにするつもりっすから少し待ってて欲しいっす。多分明日には来ると思うっすから」
「おい!ちょっと待、」
このまま海に沈められてはまずいと判断したデナパスはライカに話しかけようとしたが、ライカにこれ以上デナパスと話すことは無かった。
そのためライカは黙々と『統界輝粒』で剣を創り続け、数分かけてデナパスを海底に用意した特設の牢獄に送り届けた。
『統界輝粒』で創られた剣に押される形で海中をひたすら降下したデナパスは海底に着いたことを確認するとすぐにこの場を離れようとした。
先程までは『統界輝粒』で創られた剣の放つ光で眩しいぐらいだったのだが、今のデナパスの周囲には光一つ無かった。
しかし何も見えなくても上に進むだけなのだから問題無いと考えてデナパスは浮上しようとした。
しかしデナパスが今いる場所は恭也がランとアクアと協力して作った深さ二百メートルの穴の底で、深海の水圧に押されてデナパスは数十センチ上に進むのがやっとだった。
リリノートや今のデナパス以外の改造人間が同じ状況に置かれたら深海二百メートルにたどり着く前に体が潰れていたので、死なずに脱出の努力ができるという点では今のデナパスは恵まれていた。
水圧という概念を知らなかったデナパスは何らかの魔法や能力による束縛を受けていると勘違いしていたのだが、デナパスには対処できないという意味では水圧も魔法や能力による束縛も変わらなかった。
しばらく水面に向かって浮上しようとあがいたデナパスだったが思うようにいかなかったので海面に向かうのは諦めるしかなかった。
地中を進もうにも今デナパスがいる穴は足下も側面も『アルスマグナ』製の金属で覆われていてデナパスに逃げ場は無かった。
その後も水面への脱出や周囲の金属の破壊などを試みたデナパスだったがそのどちらも失敗に終わり、この状況からの自力での脱出が不可能だと気づいた瞬間デナパスは絶望した。
ディアンが恭也を殺したら今デナパスがここにいると知っている者はいなくなり、仮にディアンが戦争後にデナパスの現状を知ったとしてもわざわざ苦労してまでデナパスを助けてはくれないだろう。
またあり得ないことだがもし恭也がディアンに勝った場合、デナパスは恭也の支配する刑務所に入れられて拷問と労働の日々を送ることになる。
どちらに転んでもデナパスは終わりで今の体の耐久力は魔法によるものではないので解除して死ぬこともできない。
自分の今後が未来永劫ここに取り残されるか刑務所で悲惨な日々を送るかの二択だと気づいた瞬間、デナパスは足下から崩れてそのまま力無く横になった。
投稿一回分のつもりで書いていた部分が書き直していたら半端に長くなったので二回に分けることにしました。
この後すぐに続きを投稿します。