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最終決戦(ケーチ)②

 百本近い剣が光を放ちながら自分に迫って来るのを見てもデナパスは慌てた様子を見せず、デナパスが『バフカル』を一度振っただけでライカが『統界輝粒』で創り出した剣は全て粒子となって霧散した。

 目の前の魔神が取り出した魔導具がどれ程のものかと一応警戒していたデナパスは、ライカの繰り出した攻撃のあっけなさに思わず嘲笑を浮かべてしまった。


「わざわざ魔導具を取り出して何をするかと思えばただ剣を創るだけとはな。部下がこの程度では能恭也の方も程度が知れるというものだ」


 デナパスは今の体を手に入れてからディアン以外に脅威を感じたことがない。

 デナパスはディアン直属の改造人間の中では比較的強者との戦いを望む方だったので、話に聞いていた魔神の不甲斐なさに拍子抜けすらした。

 こうなったら気持ちを切り替えて街の破壊を楽しむしかないとデナパスが考えていると、ライカが不敵な笑みを浮かべた。


「ほんとすごいっすね、その魔導具。自分の創った剣があんなにあっさり壊されるとは思わなかったっすよ」


 ライカが『統界輝粒』で創り出した武器は『アルスマグナ』には及ばないもののこの世界の通常の魔法では傷一つつかない程の強度を持つ。

 それ程の強度を持つ剣百本余りを一発で消す魔導具を持っているのだからデナパスが調子に乗るのも無理は無いとライカは思ったが、かといっていつまでも調子に乗らせておくわけにもいかない。


 そろそろ目の前のオーガに自分の置かれた状況を教えてやろうと考えてライカは再び『統界輝粒』を発動した。

 そして二度、三度とライカは剣の雨をデナパスに降らせ、それらの攻撃全てを『バフカル』で分解したデナパスはライカの狙いにようやく気づいた。


「なるほど目くらましが目的か。確かに『バフカル』ではこの粒子までは分解できないからな」


『統界輝粒』で創り出した何百本もの剣が分解された結果、デナパスの周囲には眩い光を放つ粒子が漂い数メートル先も見通せなくなっていた。

 その上この粒子はデナパスから上級悪魔たちへの魔導具による伝達を遮断する効果もあるらしく、デナパスがライカの創り出す剣を分解する度に上級悪魔への命令が出しにくくなっていった。


「師匠が言うにはちゃふって言うらしいっすよ。この粒子が少しでもあれば並の魔法はまともに飛ばなくなるっすけど、あなたの魔導具を防ぐのはさすがに無理みたいっすね」


 どれだけ周囲に『統界輝粒』の粒子が満ちてもその影響を感じさせずに分解の波動を放ってくる『バフカル』をライカは素直に称賛したのだが、先程からのライカの発言にはデナパスにとって気になる点があった。


「先程から『バフカル』ばかりほめているが俺がただのでくのぼうだとでも思っているのか?」


 先程からライカが『バフカル』の能力にしか触れないことが挑発だとは分かっていてもデナパスには我慢できなかった。

 魔導具を使っても吹けば飛ぶような武器を創り出すことしかできない魔神ごときがよくも自分を馬鹿にしてくれたものだ。

 そう憤りながらデナパスは自身の風属性の魔法を発動し、デナパスが魔法を発動した瞬間デナパスを中心に竜巻が発生して周囲の粒子を吹き飛ばした。


「見たか!俺がその気になれば貴様の小賢しい技などこの通りだ!そろそろ身の程を教えてやろう!」


 そう言うとデナパスは『バフカル』による分解の波動を五連続でライカに放ち、ライカはその攻撃を千本近い剣を創ることで防いだ。

 この攻防で『統界輝粒』で創り出した剣二百本近くが残り、それを見たライカは楽しそうに笑った。


「あれ、剣大分残ったっすね?身の程とやらを早く教えて欲しいっす!」


『バフカル』の攻撃を単純な質量で防いだ後、ライカは残った剣を全てデナパスに向けて撃ち出した。

 再び大量に発生した粒子に遮られてライカの表情はデナパスからは見えなかったが、それでも先程の笑い声を聞くだけでライカがデナパスを侮っていることは容易に想像できた。


 細かい魔法の制御は苦手なのでできれば避けたかったが、ここまで馬鹿にされた以上は魔神のお望み通り空中戦で魔神を叩きのめしてやるしかないだろう。

 そう考えてデナパスが飛び上がろうとした時、デナパスのすぐ後ろから声が聞こえてきた。


「無理しなくっていいっすよ」

「なっ!」


 既に何度も聞いたライカの声が自分のすぐ後ろから聞こえてきたためデナパスは慌てて振り向こうとしたが、それより先にライカがデナパスの頭目掛けて光線を放ちデナパスの上半身は跡形も無く吹き飛んだ。


 体の損傷自体はすぐに再生したデナパスだったが、いとも簡単に背後を取られたためデナパスのライカに対する慢心は完全に消え去っていた。

 しかしライカへの評価を改めて身構えているデナパスに対してライカはまるで緊張した様子を見せずにデナパスから三メートル程離れた場所で余裕の態度を取っていた。


「これだけ体格差あると体が吹き飛ばしやすくっていいっすね。人間相手だと加減が難しいっすから」

「……どうやって俺の後ろに回った?いくらお前が速くても動き出す気配までは消せないはずだ」


 いくら目の前の光の魔神が光速で移動できると言ってもその兆候ぐらいは捉えることができるはずだとデナパスは考えていた。

 相手がいくら速くても攻撃が来ると分かっていれば対処できると考えていたので、ライカの移動に気づくことすらできなかったことにデナパスは動揺していた。

 そんなデナパスを見てライカは安心した様な笑みを浮かべた。


「やっと怖がってくれたっすね。師匠から殺す前にできるだけ怖がらせろって言われてるっすから、このまま怖がらずに死んだらどうしようって思ってたっすよ。いやー、ほんとよかったっす」

「質問に答えろ!」


 自分の質問に答えるどころかこちらを見下す発言をしたライカを前にデナパスは激高し、そんなデナパスを見てライカは呆れた様な表情を浮かべた。


「あなたたちは戦いが好きなんじゃなくて弱い者いじめが好きなだけだから少し追い詰められたらすぐに余裕を無くす。ほんと師匠の言ってた通りっすね。はい、はい。そんな怖い顔しないで欲しいっす。ちゃんと教えてあげるっすよ」


 恭也が事前に魔神たちに言った通りに余裕を無くし始めたデナパスを見てライカはデナパスへの興味を急激に失い始めていた。

 しかし与えられた任務はきちんとこなさなくてはならないので、怒りに体を震わせるデナパスに更に恐怖を与えるためにライカは先程の奇襲のネタ晴らしをすることにした。


「今度は分かりやすく前からいくっす。ちゃんと構えてるっすよ?」


 この発言の直後、ライカは百本近い剣を創り出してデナパスに放ち、それに対してデナパスは『バフカル』から分解の波動を放って全ての剣を分解した。

 それによりデナパスの視界は光に覆われたが、光の魔神が予告通り前から攻撃を仕掛けてくるなら例え目をつぶっていても迎撃できるとデナパスは考えていた。


 そのため自分の視界が光の粒子に覆われたことを気にせずにデナパスはライカの攻撃を待ち構えていた。

 お互いに遠距離攻撃が決定打にならないことは相手も気づいているはずなので、間違いなく相手は接近戦を仕掛けてくる。

 そう考えていたデナパスは風魔法で粒子を飛ばそうともせずに全神経を前方に集中し、そんな中ライカの緊張感のかけらも無い声が聞こえてきた。


「準備できたっすかー?いくっすよー?」


 このライカの発言を聞きいつでも来いと身構えていたデナパスだったが、次の瞬間には再び上半身を光線で吹き飛ばされていた。

 再びすぐに体を再生してライカに鋭い視線を向けたデナパスを見てライカは安心した様子だった。


「おっ、まだやる気あるみたいっすね。いいっすよ。精神的にもぼこぼこにしろって言われてるっすから最後まで抵抗して欲しいっす」


 余裕の態度を崩さないライカを前に何とか虚勢を張ったものの、先程予告通り前から攻撃されたにも関わらず迎撃どころか反応すらできなかったことを受けてデナパスはかなり動揺していた。

 そんなデナパスの虚勢を見破ったわけでなかったが、ライカはデナパスが多少は自分に恐怖を感じ始めていることに気づき追い打ちをすることにした。


「もし光速で飛んで来る自分を返り討ちにしようとしてるなら無駄っすよ?だって自分、光速で移動してるわけじゃないっすから」


 デナパスはライカがデナパスの同僚、ダクタルの様に光速で移動できるのだと考えており、実際ライカは光速で移動できる。

 しかし『統界輝粒』を持ったライカは光速で移動する必要すらなかった。


「何か勘違いしてるみたいっすけど『統界輝粒』は光の粒子を創り出す魔導具で武器を創るのはおまけみたいなものっす。自分はその粒子さえある場所ならどこにでも転移できるっすよ」


 これはライカにとっても驚くべきことだったのだが、この世界の武術の達人は正面からの攻撃なら光速でも反応することができた。

 ライカが把握しているだけでもミーシアとエイカがこの域に達していたため、ディアンの部下にもこの域に達した武術の達人がいてもおかしくはないとライカは考えていた。

 実際デナパスはラインド大陸にいたオーガの中でも指折りの達人だったのだが、丸腰ならともかく『統界輝粒』を持ったライカにとってはデナパスも人間の子供も大差無かった。


「今あなたの周りにある粒子一つ一つが自分だと思って欲しいっす。フウみたいに同時に何ヶ所にもはいれないっすけどね」


 その後ライカは再びデナパスの上半身を前から吹き飛ばすと宣言し、デナパスは転移してきたライカの攻撃をなす術もなく受けるしかなかった。

 説明通り接近する予兆すら感じさせずに自分に攻撃を仕掛けて来たライカにデナパスは驚いたが、仕掛けさえ分かれば対処はできる。


 無制限の転移ならどうしようもなかったが周囲の粒子さえどうにかすればいいのだから、風魔法を使える自分と『統界輝粒』の相性はかなりいいはずだ。

 そう考えて自分の周囲の粒子を全て吹き飛ばすために風魔法を発動したデナパスを見てライカは『統界輝粒』から直接大量の粒子を発生させた。

 目の前の魔神の魔力も無限ではないはずだと考えてライカの発生させる粒子をひたすら吹き飛ばしていたデナパスだったが、そんなデナパスにライカが声をかけてきた。


「自分が心配することじゃないっすけど、そんなに粒子撒き散らしちゃっていいっすか?あなたの部下の上級悪魔、粒子のせいで魔法使いにくそうにしてるっすよ?」


 このライカの発言を聞きデナパスは周囲の戦況をまるで気にしていなかったことに気づき、そんなデナパスにライカは『キュウビ』と『イモータル』を通して把握している周囲の戦況を説明してやった。


「中級悪魔と戦ってるミーシアさんたちの方は互角ってところっすかね。もう少しでミーシアさんがオーガ二人に勝ちそうなんで、そうなったら後は時間の問題っすけど」


 ケーチにいると聞いていた異世界人の子供に自分の部下が負けそうだと聞きデナパスは動揺したが、その動揺を隠すためにすぐに声を荒げてライカをにらみつけた。


「その手には乗らないぞ!異世界人の血を引いているとはいえ、ここにいる女の力は大したことがないと聞いている。あの二人がそう簡単に負けるはずがない!」


 デナパスが今回連れて来た三人のオーガは全員が中級悪魔二、三体相手なら勝利できる程の実力を持っている。

 それだけの使い手が二人もいて一人の女に負けるはずがないとデナパスは考えていたのだが、そんなデナパスの楽観的な考えをライカは呆れた様な表情で否定した。


「どれだけ力が強くても結局魔法には勝てないっすよ。ミーシアさんは魔力だけは割とあるっすからちょっと強いオーガ二人程度じゃ話にもならないっすよ?」

「ほざけ!」


 どこまでも自分を見下してくるライカにデナパスはいらだちを募らせていたが、それで勝機を見逃す程愚かではなかった。

 調子に乗って無防備に立っていたライカの隙を突きデナパスは『統界輝粒』を破壊し、その後勝利の笑みを浮かべた。


「馬鹿め!調子に乗って隙を見せたな!その魔導具さえ無ければお前など俺の、」


 敵ではないと言おうとしたデナパスだったが、ライカが自分の体から新たに二本の『統界輝粒』を取り出したのを見て言葉を失った。


「ん?どうしたっすか?武器の予備ぐらい準備してるっすよ。ぶっちゃけ手に持つ必要無いっすけどせっかく師匠が形を考えてくれた魔導具っすからね。一応こうして、ってどうしたっすか?遠慮無く壊してくれていいっすよ?」


 自分が新たに取り出した『統界輝粒』を壊そうとしないデナパスにライカはわざとらしく声をかけ、それを受けてデナパスはライカ目掛けて走り出した。

 このデナパスの行動はやけになっての行動ではなく、『統界輝粒』を破壊できない以上転移能力持ちのライカには接近戦を挑んだ方がましと考えての行動だった。

 そんなデナパスの行動を見てライカは楽しそうに笑った。


「『統界輝粒』相手に接近戦っていうのは間違ってないっすよ。それで勝てるかは別の問題っすけど」


 ライカがそう言った直後、デナパスの足下の舗装を突き破り光り輝く刃数十本が生えてきてデナパスを串刺しにした。


「がっ……」


 ライカばかり警戒していたデナパスは足下からの攻撃をまともに食らってしまった。

 なまじ即死ではなかったばかりにこの攻撃を受けて苦しそうな表情を浮かべるデナパスを見ながらライカはデナパスに最終宣告を行った。


「さてと、あなたを倒した後ちょっとやることがあるっすからそろそろ終わらせるっす。刑務所に入ったら拷問か農作業の二択っすから、その前に最後の戦いを楽しむといいっすよ。足下だけじゃなくて全方位警戒しないと駄目っすよ?」


 そう言ってライカは自分たちの周囲の粒子から五百本以上の剣を創り出し、それらを一斉にデナパスに向けて撃ち出した。

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