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仕上げ

 アズーバで助け出した人々をセザキア王国に送り届け後、恭也はその場でサキナトの構成員たちと別れてピクトニへと飛んだ。

 恭也がピクトニを襲撃した事実は情報の伝達が遅いこの世界ではまだネース王国のほとんどの地域に伝わっていない。


 これを知ったサキナトの構成員が事前の指示通り奴隷たちを殺す可能性は十分あったので、それが伝わる前に各街を恭也が襲い奴隷たちを解放する必要があった。

 ネース王国で奴隷の市場及び彼らが働いている農場がある大きな街は首都を除くと十三ヶ所だ。


 その内の一つアズーバは攻略済みで、国のほぼ中心にあるピクトニから遠い海岸沿いの街は船を使って一気に回ればいい。

 そう考えた恭也はピクトニ周辺の街五つを制圧することにした。


 周辺といってもそれぞれの街がピクトニから片道四日以上かかるが、それは馬車での話だ。

 最高速度が時速百キロ近いウル内蔵の恭也なら数時間で到着する。

 恭也はそれぞれの街でサキナトの幹部二十人を捕えるとそのまま街を『隔離空間』で覆い、その後市場と農場で奴隷として扱われていた人々を解放してサキナトの幹部共々『隔離空間』の外に連れ出した。


 そのままサキナト幹部と解放した人々をピクトニに集め、元々ピクトニにいた奴隷たちとまとめて送り出す。それが恭也の考えだった。

 助け出した彼らに食料とサキナトから奪った戦闘用の魔導具を渡し、恭也はピクトニを目指すように彼らに伝えた。


『隔離空間』を解除した恭也はウルに街に留まり街から出ようとした人間は問答無用で洗脳して家に帰すように命じた。

 一応護身用の魔導具は助け出した人々に渡したが、そもそも戦闘をさせないのが理想だ。

 サキナト所有の馬は全て取り上げたので二時間も時間を稼げば追撃も難しいだろう。

 現状でとれる最善の策だと思った恭也だったが、ここでウルが文句を言ってきた。


「え、二時間もここにつっ立ってるのかよ?あんだけ脅したんだから誰も来ねぇって!見張りなんていらねぇから一緒に行こうぜ!」


 自分を倒した相手に従うという自分の存在意義を初めて満たせるようになり、ウルはウルが言うところの『雑魚狩り』にも今ではそれなりの意欲を見せるようになっていた。

 しかしいまいち働いているという実感が湧かない見張りという仕事がウルには不満のようだった。


「退屈なのは分かるけど助けた人たち置いていくわけにもいかないし、他に頼める相手がいないんだよ。だってウル、新しい街に乗り込んでサキナト相手に交渉とかできないでしょ?」

「ぐっ、それを言われると…」


 交渉と言っても洗脳ありきの乱暴なものだったが、それすらこれまでのウルを見ているとできるかどうか疑わしかった。

 そう考えての恭也のこの発言で、ウルにも自覚はあるようだった。


「ウルのおかげで予定より早く済みそうだけど、それでも半月はかかると思う。ウルが今回の作戦の要なんだ。頼むよ」


 頭を下げて頼む恭也にウルが根負けした。


「ったく、おだてればいいと思ってるな」


 そう言うとウルは羽を伸ばして恭也に攻撃してきた。

ウルの羽が恭也の胴体にまともに当たり『物理攻撃無効』が発動した。

 一瞬焦った恭也だったが続く攻撃も無く、ウルの表情にも戦意が無かったことから緊張を解いた。


「落ち着いたら遊んでくれよ。恭也に従うとは言ったが、あんまり暴れられないとむしゃくしゃするからよ」

「オーケー、三日で周辺の街の制圧は終わる予定だからそれが済んだら相手をするよ」


 こう言われてとりあえず引き下ったウルは街全体を見下ろせる上空へと飛んでいった。


「やれやれ、まあ、さすがにこれぐらいは聞かないとね」


 恭也は『魔法看破』で今のウルが恭也の命令に逆らえないことを理解していた。

事ある毎にウルが文句を言うのはただのストレス発散だ。

 しかしストレスがあること自体は事実だし、従順に従うだけの存在をただでこき使っているという今の状況は恭也の精神衛生上あまりよくなかった。


 十分ぐらいはサンドバックになるのもしかたないと思いながら恭也はピクトニで用意させた木の箱に入った。

そして中級悪魔を召還すると箱ごと恭也を運ばせ、恭也は空飛ぶ中級悪魔に運ばれて街道を進んだ。


 その後無事に二つの街を解放してウルと共にピクトニに戻った恭也は王と妃、そして大臣やサキナト幹部といった『不朽刻印』をつけた面々を集め、奴隷たちの解放と移送の準備の進捗状況を尋ねた。

 順調に進んでいると答える担当者の説明を聞きながら恭也はサキナトの幹部の一人に唐突にある質問をした。


「僕に逆らうための準備を何かしていますか?」

「はい」


 恭也の質問に即答したサキナトの幹部は慌てて口元を抑えたが無駄だった。

『不朽刻印』を刻まれている以上、恭也の質問には全て正直に答えるしかないからだ。


「それは王様や大臣たちも知っていましたか?」

「はい」

「それは奴隷の人たちに危害が及ぶものですか?」

「はい」


 恭也のサキナト幹部への質問が進むにつれ、恭也の質問に正直に答えさせられている幹部はもちろん他の面々の顔もどんどん青ざめていった。

 彼らを疑っていたからこそ質問した恭也だったが、ここまで早く反旗を翻すとは思っていなかった。


 ため息をつきつつ恭也はその場にいた全員を洗脳した。

『不朽刻印』で無理矢理答えさせられる質問は、はい・いいえのどちらかで答えられる質問だけだ。

 そのため彼らの具体的な説明を聞くために恭也は彼らを洗脳した。


 その後聞き出したところによると、サキナトは同じ属性の魔力を持った人間二百人を生贄にすることで中級悪魔以上の力を持った存在を召還する技術を開発済みとのことだった。

 それを使い集められた元奴隷たちを死なせるというのが彼らの計画で、後数時間で実行というところまでこぎつけていた。


 それを聞いた恭也は慌ててその儀式の準備をしている場所に急行して即刻儀式を中止させた。

 その後彼らの再犯を防ぐためにどうするべきか恭也は考えた。

 初めに思いついたのはピクトニのサキナトの構成員を全て洗脳し、組織の魔導具と資材を全て取り上げるという案だった。


 よい考えだと思ったのだが、前提のサキナトの構成員全員の洗脳に時間がかかり過ぎる。

 明日の朝には別の街の制圧に向かわなくてはならない恭也としてはそこまで時間をかけていられない。


かといって恭也の出発の時間を遅らせると、周辺の街に恭也のピクトニ襲撃が知られて奴隷の人々が見せしめに殺される可能性が高くなる。

 どうしたものかと考えていた恭也に恭也の中にいたウルが話しかけてきた。


(恭也、俺にいい考えがあるぜ)


 ウルが恭也の中にいる間、二人は言葉無しで意思のやり取りができる。

 それを利用して自分たちに下される罰が決まるのを顔を青ざめながら待っているネース王国の幹部たちの前で恭也とウルは話し始めた。


(いい考えって何?)


 どうせまたサキナトの構成員皆殺しとか言い出すのだろうと思っていた恭也にウルの怒りの声が伝わってきた。


(おい!今は恭也の考え、全部伝わるんだからな!失礼なこと考えてるんじゃねぇよ!)

(ごめん、ごめん。で、いい考えって何?)


 この時点で恭也が大して期待していないことがウルには伝わっていたが、それをぐっと飲みこみウルは自分の考えを告げた。


(俺の加護をサキナトの連中に与えればいい)

(どういうこと?)


 いきなり加護を与えると言われて戸惑う恭也にウルは自分が人間に加護を与えられること。

 そして加護を与えられた人間は闇の上級魔法が使えるようになることを伝えた。

 そこまで聞き恭也もウルの考えが分かった。


 この場のサキナト幹部に目に入ったサキナトの構成員を次々に洗脳するように命じればよい。

 もちろん加護を与えた後で洗脳してだ。

 洗脳した構成員に魔導具の回収を命じればよく、これなら恭也がサキナトの構成員の顔を知らなくても実行できる。

 完全にゾンビ映画だなと思った恭也だったが、案自体は悪いものではなかったので恭也は早速その場にいたサキナトの幹部に洗脳を施して解放した。


(おい、ゾンビ映画ってなんだ?)

(後で説明するよ)


 場違いにのんきなウルの質問を受け流し、恭也は残された面々に視線を向けた。

 さすがにこの場にいたサキナトの幹部たちだけに任せておくと洗脳が浸透するのに時間がかかり過ぎるので恭也もサキナトの施設をいくつか回ってサキナトの構成員を洗脳するつもりだが、その前に残された王や大臣たちに罰を与えなくてはならない。

 恭也は彼らを城の外へ連れ出すと街の中心まで連れて行った。


「さてと、僕が助け出した八千人以上の人たちを殺そうとしたことへの罰ですけど、見せしめになってもらうことにしました」


 恭也のこの発言に身をすくめる王たちに恭也は『埋葬』を発動した。

 対象となった人々のほとんどが地面に沈んでいく中、二人だけ『埋葬』の餌食にならない者たちがいた。


 自分たちだけが無事で済んだことに当の二人が驚いていたが、恭也だけは『魔法看破』でその理由を把握していた。

『魔法看破』によると、『埋葬』は土属性の人間には効かないらしく、二人は無意識の内に抵抗していたのだろう。


 効かないといっても抵抗できるというだけなので、それ以上抵抗するなら手足を斬り落としてその辺りに転がすと恭也が脅すと二人も大人しく地面に飲み込まれていった。

 全員が首まで埋まったところで恭也は彼らの代表として王に話しかけた。


「この状態で八日間埋まってて下さい。それが今回の罰です」

「そ、そんな…」

「痛みを与えても意味が無いみたいなんで今回は見せしめになってもらいます。多分五日ぐらいで餓死するでしょうけどその時は生き返らせるので安心して下さい」


 自分たちが死んでも恭也から解放されないということをようやく実感できたのか彼らの表情は暗かった。


「ちょっと待ってくれ!もう二度と逆らわない!だから、許してくれ!」


 サキナトの幹部の一人が必死に助けを求めてきたが、それを聞いても恭也の表情は変わらなかった。

「そうですか。逆らわないでいてくれるなら助かります。でもこれ、奴隷だった人たちを殺そうとしたことへの罰なんでこれからどうするかなんて関係無いんですよ」


 切り捨てるようにそう言った恭也に今度は妃が助けを求めてきた。


「私だけでも助けて!私はこの人に嫁いできただけなのよ!政治にもサキナトにも関わってないし、こんなことをされるような覚えはないわ!」


 この状況で恭也相手に食ってかかれる気概は大したものだったが、恭也は落ち着いて妃にある質問をした。


「あなたは奴隷を死なせたことがありますか?」

「はい」


 恭也の質問に即答した妃は恭也から視線をそらした。


「助け出した人々から色々話は聞いてるんで、あなたたちがどういう人間かは分かってます。ねぇ、もうやめませんか?」


 穏やかな口調で埋められた人々に語りかける恭也に彼らの視線が集まった。


「僕別にこの国を滅ぼしたいわけじゃないんで、奴隷を助け出したらこの国に用なんてありません。まあ、もらうものはもらっていくつもりですけど。僕がいなくなってから奴隷無しでやっていく分には僕も口出しませんし、もう僕に逆らうの止めませんか?お互い不快な思いするだけですよ」


 そう言うと恭也は羽を生やして浮かび上がった。


「一応言っておくと、誰かに助けられたら一ヶ月間街から離れたところに埋めますからそのつもりでいて下さい。じゃあ、見せしめの仕事頑張って下さい」


 それだけ言うと恭也は彼らに視線を向けることなくその場を飛び去った。


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