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追加報告

 ジュナを王城から連れ出した翌日、恭也はユーダムでの諸作業を終えるとティノリス皇国へと戻った。

 この日恭也はガーニスとティノリス皇国首脳部と会う予定になっていたからだ。


 七日後にディアンたちの襲撃を受ける国の中でティノリス皇国は唯一複数の場所を襲われる国で、襲われるソパスとギズア族の居住区は比較的近い位置関係にある。

 そのため本来なら当日に連携が取れるようにしておくべきだったが、ギズア族のティノリス皇国への恨みは根強く今も消えてはいない。


 恭也がソパスからギズア族の居住区に援軍を送ろうとしても実際に送り込まれるのはティノリス皇国の兵士で、ギズア族の反感を無視して援軍を強行してもデメリットの方が大きいと恭也とガーニスは数度の話し合いを経て結論付けた。


 しかし当日にギズア族の居住区に近い街で兵を全く動かさないというわけにはいかなかったので、この日恭也はその辺りを直接ガーニスと話すためにギズア族の居住区を訪れた。

 恭也がギズア族の居住区を訪れると多くのギズア族が遠巻きに恭也に視線を向け、こういった視線に慣れていた恭也は彼らの視線を気にすることなくガーニスのもとに向かった。


「お久し振りです。ティノリス皇国の兵士を動かす件はどうなりましたか?」


 恭也はティノリス皇国に頼み当日はギズア族の居住区の北にある街、ナーベンダと南にある街、トキクシの周囲に兵士を展開してもらうつもりだった。

 この兵士たちはギズア族の居住区への援軍ではなく当日にガーニスが撃ち漏らした悪魔への備えとして展開し、決して街から打って出ることはないと恭也はガーニスたちに説明していた。


 正直な話ガーニスに加えて当日はホムラまで防衛に加わるギズア族の居住区がディアンの部下に攻め落とされるとは恭也は思っていなかった。

 しかしガーニスとホムラに勝てないと判断したディアンの部下が当日どう動くかまでは分からなかったので、恭也としてはこの二つの街で最低限の備えはしておきたかった。

なおガーニスとホムラから逃げて来た敵がソパスに来た場合は恭也かアロジュートがホムラと共に対応することになっていた。


 昨日までのホムラからの報告ではナーベンダとトキクシでの兵士の展開にギズア族は難色を示しているらしかった。

 そのためガーニスに会って早々質問をした恭也の表情は若干硬く、そんな恭也にガーニスは今朝ギズア族の間で出たばかりの結論を伝えた。


「何とか彼らも兵士の動員には納得してくれたよ。ティノリス皇国の人間はともかく君のことなら信用するとのことだった。ただし決してここには近づけないでくれ。もしそうなった場合は私の鎧騎士で近づく兵士に対応する。この条件で彼らに納得してもらったので悪いが頼む」

「はい。大丈夫です。元々ナーベンダとトキクシの兵士ここに近づける気は無かったですから。その辺りは僕の方からも徹底させるので安心して下さい」


 ナーベンダとトキクシの近くに展開させる兵士はあくまでガーニスとホムラが討ち漏らした中級悪魔への防御のためだ。

 言葉を選ばずに言えば精霊魔法が使えるといってもそこらの兵士が何千人来ようと上級悪魔とディアンの作った改造人間が相手では役に立たないだろうと恭也は考えていた。

 いくら後で蘇生できるとはいえ兵士たちに特攻させるつもりは恭也には無かったので、むしろ恭也は当日の外部からの援軍は期待しないで欲しいとガーニスに伝えた。


「当日はホムラと上級悪魔二体をここに配置するつもりで、悪いですけどこれ以上の戦力はこっちも割けません。もちろん負けるつもりは無いですけどソパスの方も結構ぎりぎりだと思うので」

「ああ、構わないよ。むしろそれだけの戦力を貸してもらえて感謝しているぐらいだ。当日は私も持てる力の全てを出し切るつもりだ。こちらの心配はいらないから君も思う存分戦ってくれ」

「ありがとうございます。それじゃ早速上級悪魔創りますね。多分次に会うのは戦いが終わった後になると思います。お互いがんばりましょう」


 ギズア族の居住区での戦いはただ戦うだけでなくまだ外部の人間に強い警戒心を持つギズア族への配慮も行わなくてはならず、ここを担当する魔神には臨機応変な対応が求められる。

 そのためここを担当する魔神はホムラ一択で、既にガーニスは眷属を通してホムラと何度も話していたので今さらホムラをガーニスに紹介する必要は無かった。


 ガーニスと別れた恭也はギズア族の居住区から少し離れた場所で手慣れた様子で上級悪魔二体を創り出した。

 恭也は今回の戦いのために創り出した上級悪魔に十万の魔力を注いでおり、その上これらの上級悪魔の核になっているのは魔神たちの専用魔導具や『アルスマグナ』製の金属といった規格外の代物だった。

 当日はこの上級悪魔二体がガーニスの能力で強化されるので、自業自得だと分かってはいても恭也は当日ガーニスと戦う羽目になるディアンの部下に同情せずにはいられなかった。


(やっぱここにホムラ置く必要無くね?)


 恭也の考えを感じ取ったウルは恭也に自分の考えを伝え、それを聞いた恭也は自分が考えるガーニスの弱点を魔神たち全員に伝えた。


(確かにガーニスさんは強いけど中級悪魔の群れみたいな大勢の敵相手にするのは向いてないと思う。結界で捕まえれば時間かけて倒せるだろうけどディアンさんの作った改造人間の能力も分からないから念には念を入れておかないとね。ホムラなら言わなくても分かってると思うけど、当日は中級悪魔逃がさないこと優先してね。ガーニスさんなら上級悪魔や改造人間は余裕だと思うから)

(はい。お任せ下さいませ。中級悪魔はもちろん当日この場所からは悪魔を一匹たりとも逃がしはしませんわ)

(うん。お願い。狙われた場所守り切るっていうのは大前提だけど、もし逃がした中級悪魔二、三体がどこかの村襲ったりしたらその場合もこっちの負けだと思う。そのつもりで当日はみんながんばってね)


 恭也のこの発言を受けて魔神の何人かが気を引き締め、それを確認した恭也はアクアに『凍魔蒼玉』で上級悪魔を凍らせてもらってからティノリス皇国の首都、ノリスに向かった。


 恭也がノリスの王城を訪れるとすぐに会議室に案内され、会議室にはフーリンを始めとした見慣れた面々の姿があった。

 フーリンたちとのあいさつを終えた恭也はすぐにナーベンダとトキクシの兵士動員についての礼をフーリンに述べた。


「ナーベンダとトキクシの件はありがとうございました。ガーニスさんに許可は取ったので当日はよろしくお願いします。もちろん兵士のみなさんが戦わなくて済む様にはするつもりですけどいざという時にはお願いします」

「はい。ホムラさんの眷属を通してナーベンダとトキクシの兵士たちには八日後の件は連絡済みです。当日まで決して国民に知らせないように命じているので安心して下さい」


 ディアンたちへの情報操作として恭也と協力関係にないクノン王国とオルフート以外の国では全ての街でディアンたちの襲撃への備えをさせていた。

 しかしこのことが外部に漏れたらディアンたちも襲撃場所を変える可能性があり、そうなったら恭也たちは今以上に苦戦を強いられることになる。

 そのため恭也は実際にディアンたちに襲われる場所の王や領主には他の街と同じ様に振る舞って欲しいと強く念押しをしていた。


「ティノリス皇国は二ヶ所も襲われることになりましたけど、戦いに関しては僕とガーニスさんでどうにかするので心配しないで下さい。ガーニスさんは僕より強いですし、僕も最悪の場合は他の場所見捨てて魔神たち呼べば負けることはないですから」

「……ディアンという異世界人の侵略については私たちは恭也さんやガーニスさんに頼るしかありません。微力ではありますが我が国としても協力は惜しまないつもりです」


 最悪の場合は他の場所を見捨てるという恭也の発言は魔神たちやアロジュートだけでなく言われたフーリンも信じていなかった。

 しかしそれを指摘しても恭也は誤魔化すだけだろうと考え、フーリンはそれについては指摘せずに恭也にある提案をした。


「ノムキナさんから聞いたんですけど今回の戦いのためにソパスの住民に協力を求めているそうですね。でしたらノリスの住民にも協力させてもらえないでしょうか?」

「……いいんですか?かなり迷惑をかけることになりますけど……」


 協力は惜しまないというフーリンの発言を恭也は単なる社交辞令だと考えていたので、フーリンから具体的な助力を提案されて驚いた。

 しかもその協力の内容が恭也が領主を務めているか強い影響力も持っている街でしか行っていない大規模なものであることにも恭也は驚いた。

 そんな恭也の態度を見てフーリンは穏やかに笑い、その後近くに控えていた宰相、ミゼクに視線を向けた。


「能様が驚くのも無理はありませんが、仮に能様が敗れた場合次に狙われるのはここノリスです。それを伝えれば住民たちも嫌とは言わないでしょう。もし能様さえよろしければ今日にも通知を出そうと思っているのですがいかがいたしますか?」


 ティノリス皇国側から思わぬ提案を受けて恭也はしばらく考え込んだが、やがてティノリス皇国側の提案を受けることにした。

 今までの戦いと違い次のディアンとの戦いは逃げることができないからだ。


 自分の最大の弱点を補うための作戦への協力をティノリス皇国側から申し出てくれたのだからここは素直に甘えよう。

 そう考えた恭也はミゼクに礼を述べた。


「じゃあ今回はお言葉に甘えさせてもらいます。いつできるかが決まったら知らせて下さい」

「分かりました。ソパスでは二回行うと聞いているのでそのつもりで話を進めますがよろしいですか?」

「はい。もちろんです」


 至れり尽くせりのティノリス皇国側の態度に恭也は恐縮しきりで、周囲の面々に何度も頭を下げてからフーリンに視線を向けた。


「昨日もっと周りを頼るように言われたばかりだったんですけど、やっぱり助けてもらえるっていいですね。この借りはディアンさんとの戦いが終わったら必ず返しますね」

「そんな、借りだなんてとんでもないです。私たちの方が恭也さんにたくさん助けてもらってますし。……でも恭也さんがそう言うなら期待して待ってますね」


 こう言って笑みを浮かべたフーリンを見て恭也はすぐにホムラに質問をした。


(ホムラ、オルガナさんの刑期短くしてって言われた場合大丈夫?)

(……オルガナ様一人ぐらいなら問題ありませんわ)


 ホムラから返事が返ってくるまで少し間が空いたことに恭也は首をかしげた。

 しかしこちらからもティノリス皇国側に伝えないといけないことがあることに気づいたため、恭也はすぐにホムラの不可解な態度については忘れてしまった。


「今回の戦いには直接関係無いんですけどクノン王国のことでちょっと言っておかないといけないことがあります」

「何ですか?」


 今回のディアンたちとの戦いでティノリス皇国は主戦場とも言える場所だが、ティノリス皇国が国として戦力を派遣するわけではなかったので恭也とティノリス皇国の打ち合わせはガーニスとのものよりも早く終わった。

 そんな中恭也に軽い口調で伝えたいことがあると言われ、ティノリス皇国の誰もが大した心構えも無く恭也の報告を聞いた。


 そして恭也が彼らに昨日クノン王国首脳部と揉め事を起こして王城から先代国王の子供を連れ出したと伝えると室内は騒然とした。

 ミゼクを始めとする周囲の者が恭也に何と話しかけるべきか悩んでいる中、フーリンが恭也に話しかけた。


「恭也さんとクノン王国の関係に口を出すつもりはありません。そのジュナという女性もきっと喜んでいると思いますよ。今そのジュナという女性はどこにいるんですか?」

「今はユーダムにいて七日後の戦いにも参加してくれることになってます」


 特に隠すことでもなかったので恭也はジュナを助け出した際と助け出した後の顛末てんまつをフーリンを始めとするティノリス皇国の面々に伝えた。


「……そのジュナという方はとても恭也さんに感謝していると思いますよ。私はもちろん同じ様に恭也さんに助けられたノムキナさんも恭也さんには感謝してるって言ってましたから」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 この世界に来てから老若男女問わず多くの人間を助けてきた恭也はこの手の賞賛には慣れていたので、フーリンが笑顔で口にした賞賛を素直に受け取った。

 その結果笑顔で自分と話しているフーリンに他のティノリス皇国の面々が気まずそうに視線を向けていることに気づかないまま恭也は王城を後にした。

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