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防壁作り

 メーズの屋敷に戻った恭也は城を去る前に城内に放ったホムラの眷属四体の調査結果を待ちながら魔神たちと今後の予定について話していた。


「最悪少し暴れることになるかもね」


 ジュナがもし牢にでも入れられていたら恭也も黙って帰るつもりはなく、現在ジュナが置かれている状況次第では実力行使の必要があるかも知れなかった。

 そんな恭也の考えを聞きウルは楽しそうに笑っていた。


「まーた、これだ。恭也が短気なのかこの世界の連中が馬鹿なのか分からなくなってきたな」

「……できるだけ穏便に済ませたいんだけど」


 呆れた様な表情を浮かべるウルの発言に恭也は強くは反論できずただ苦笑いをするしかなかった。


「でもよろしいんですの?今後の展開次第ではマスターとクノン王国の仲にも悪影響が出ますわよ?」


 ホムラとしてはジュナ一人のためにクノン王国との関係が悪化するのは避けたかったので、できれば恭也にはこのままクノン王国を去って欲しかった。

 ウルが先程言った通りディアンが襲わないクノン王国でいつまでも時間を無駄にはできないからだ。

 しかしこういった状況で恭也が何と言うかホムラは経験から分かっており、ホムラの予想通り恭也はクノン王国との関係よりジュナ一人を優先すると魔神たちとアロジュートに伝えた。


「ジュナさんが『獣化』使ってくれなかったらユーダムの被害はかなり大きくなってたと思う。だからとりあえずはそのことをゼルスさんに伝えて、それでもゼルスさんがジュナさんに罰を与えるって言うならこっちからクノン王国なんて願い下げだよ」

「分かりましたわ。ではそうなった場合のことも考えて準備を進めますわ。ただしその場合クノン王国でのギルドの普及が遅れることになりますけれどよろしいんですの?」

「全然問題無い。ジュナさんを自由にする。それ以外は後回しでいいよ」


 恭也のこの発言を聞き了解の返事をしながらホムラは内心喜んでいた。

 恭也の命令だから我慢していたが獣人風情に何度もギルドの支部設立の件で頭を下げることにホムラは嫌気が指しており、こちらがどれだけギルドの利点を説明しても感情論で否定してくるクノン王国上層部にホムラは殺意すら覚えていた。


 そんな中恭也の方からクノン王国と敵対しても構わないと言い出したのだからホムラとしてはこの機を逃すわけにはいなかった。

 既にホムラの頭の中ではクノン王国の方からギルドの支部を設置して欲しいと言わせる計画が完成しつつあり、後はジュナの受けている待遇に合わせて計画を微調整するだけだった。


 恭也たちがメーズの王城を後にしてから一時間後、姿を消した状態で城内の調査をしているためホムラの眷属による調査はとても今日中には終わらないという結論になった。

 ジュナのことは気になったが詳しい状況が分からない状態で城に乗り込むわけにもいかず、かといってホムラの眷属をこれ以上城内に送り込む余裕は無かった。

 ディアンの襲撃までまだ少しは時間があるのでどこかからホムラの眷属を引き上げようかと恭也が考えていると、アロジュートが恭也に話しかけてきた。


(これ以上ここで悩んでてもしかたないでしょ。あたしが天使二百体召還して城や街を調べるからあんたはその間に戦いの準備進めておきなさい)

(そうですね。そうしてもらえると助かります。ありがとうございます)

(……気にしなくていいわよ。その代わり火の魔神の眷属一体置いて行って。集めた情報をどうするかまではあたしじゃ決められないから)

(ホムラ、お願いできる?)


 魔神たちとアロジュートの関係は決して良好と言えるものではないと恭也は考えていたので、アロジュートとホムラだけを(ホムラは眷属だが)クノン王国に残して行くことに一抹の不安を覚えた。

 しかし調査結果が出るまで時間を無駄にするわけにもいかなかったので、ホムラが問題無いと答えたこともあり恭也は二人を残してクノン王国を去った。


 恭也たちがクノン王国を去ってから二時間後、恭也はオルルカ教国の港街の一つ、ジルビオの周囲に街全体を囲む程の防壁を作っていた。

 この世界の大きな街には巨大な城壁を備えている街が多くジルビオもその一つだった。


 しかし石造りの城壁では上級悪魔相手では心許無いので、恭也はディアンの襲撃に備えて特注の防壁を作ることにした。

 オルルカ教国には九日後のディアンたちの襲撃を受ける場所は無いので守りを固める必要は無かったが、パムリンの占いで出た七ヶ所だけの守りを固めるとディアンたちに恭也たちが襲撃場所を知っていることがばれてしまう。


 そうなった場合ディアンたちが襲撃場所を変える可能性があったので、無駄になると分かっていても恭也たちはパムリンの占いにあった七ヶ所以外の守りを見た目だけでも固める必要があった。

 現在ランはティノリス皇国で、アクアはセザキア王国でそれぞれ恭也と同様の作業を行っており、今日中に三人でクノン王国を除くダーファ大陸の全ての国の港街に防壁を作ることになっていた。


 ウォース大陸での作業は明日で終える予定で、恭也は二時間程でジルビオでの作業を終えると次の街へと向かった。

 やがて恭也はそれぞれの持ち場での作業を終えたランとアクアと合流し、その後三人で手分けをしてネース王国の港街とユーダム、コーセスでの作業を終わらせた。


 事前の説明を行ったとはいえ突然自分たちの街が巨大な防壁に囲まれたことに加えてディアンたちによる襲撃の話を聞き、全ての街の住人は不安を隠せない様子だった。

 一応作業の合間に『魔法看破』で確認はしているがどこにイビルアイ、あるいは同類の悪魔が潜んでいるか分からないため、恭也たちは街の住人はもちろん各国の王や各街の領主にも本当はほとんどの街が襲われないことを伝えていなかった。


 自分たちが戦いやすくするためだけに多くの人々に不要な不安を与えていることに罪悪感を覚えながら恭也はラン、アクアと合流した。

 その後ユーダムに作った防壁にランによるとある仕上げを行ってから恭也は防壁作りのためにソパスにランを配置し、その後セザキア王国の港街、ケーチへと向かった。

 既に日は完全に暮れていたがあらかじめホムラの眷属で連絡を入れていたため、ミーシアが恭也たちを出迎えた。


「夜遅くまでお疲れ様です!既に寝室の準備はさせていますけどどうしますか?」


 恭也は今日はケーチの屋敷で就寝するつもりだったが、その前に少しでも作業を進めておきたかったのでその旨をミーシアに伝えた。


「これからアクアが防壁の仕上げをしてくれることになってるんで僕ももう少しだけ作業してから屋敷には戻るつもりです。それで頼んでいた件はどうなりましたか?」


 恭也は昨日ノムキナに頼んだ街全体を巻き込むある頼み事をミーシアやシュリミナにもしており、恭也の質問を受けてミーシアは笑顔を浮かべた。


「もちろん街のみなさんは喜んで協力してくれるそうです。自分たちの街を守るためですもんね。行う日時はこっちで決めていいんですか?」

「はい。どうせ移動は一瞬で済みますし」


 そう言って恭也はライカを召還してミーシアに紹介した。


「もう何度か会ってると思いますけど当日のケーチの守りはライカに任せるつもりです。戦力の方はこっちで何とかしますけど、街の地形とかは全然分からないんでそういうことは教えてもらえると助かります」


 恭也は当日実際に襲われる場所の上層部には既に自分たちの住んでいる場所が襲われることを伝えており、ケーチでもミーシアを中心に戦いの準備が進められていた。

 そんな忙しい中わざわざ恭也を出迎えに来たミーシアにライカは一応あいさつをした。


「よろしくお願いするっす。当日は中級悪魔の方までは手が回らないと思うっすから当てにしてるっす。できるだけ風が吹かない場所で戦いたいと思ってるっすけどいい場所あるっすか?」


 形式的なあいさつの後のライカの質問を受け、数秒考え込んでからミーシアは口を開いた。


「風が吹かない。……いくつか案内できますけど今からどうですか?街からそんなに離れてませんし」


 ミーシアのこの提案を受けてライカは恭也に視線を向け、それを受けて恭也はライカにこの場を離れても構わないと告げた。

 ライカがミーシアと共に恭也の前を去った後、恭也は街の郊外で上級悪魔創りに取り掛かることにした。


(もう夜も遅いですし明日にしても構わないと思いますわよ?)


 休息も睡眠も必要無い魔神たちは夜間もそれぞれの作業を進めることになっていたが恭也はそうもいかない。

 恭也がまた死んで体調を治すことを前提に行動しているのなら何としてでも止めようとホムラは考えており、そんなホムラの考えを感じ取った恭也はホムラに心配無いと伝えた。


(悪魔を二体創ったら寝るから大丈夫だよ。多分十分もかからないと思うし、それにジュナさんの件次第では明日忙しくなると思うから朝バタバタする方が嫌だから悪魔だけは創ってから寝るよ。それにアクアもまた戻って来るの面倒でしょ?)

(……はい。そうしてもらえると助かります)


 アクアの専用魔導具、『凍魔蒼玉とうまそうぎょく』はこの世界の魔法や異世界人の能力で創られた物を凍らせることができる魔導具だ。

『凍魔蒼玉』で凍らされた能力や魔法はアクアが解凍するか外部から強力な攻撃を受けない限り一切変化せず、ディアンたちとの戦いまでに恭也が各地で創る予定の上級悪魔は全てアクアが『凍魔蒼玉』で一時的に凍らせることになっていた。

 こうしておかないと恭也が『悪魔召還』で創った悪魔は一時間も持たずに消えてしまうからだ。


 高速で移動している物やアクアの凍結能力以上の威力を持つ能力は凍らせられないため直接的な戦闘には向かないが、『凍魔蒼玉』が無かったら当日までに各地に上級悪魔を創り置きしておくことはできなかった。


 そのためやはりこういった支援向きの能力や魔導具の方が有用性は高いと恭也はしみじみと実感した。

 恭也は『格納庫』から『アルスマグナ』製の剣とライカの専用魔導具、『統界輝粒とうかいきりゅう』を取り出し、それぞれを核とした上級悪魔を十分程で創り上げた。


(よし、これでいいかな。アクアお願い)


 こう言って恭也がアクアを召還するとアクアは体から『凍魔蒼玉』を二つ取り出して恭也が創り上げたばかりの上級悪魔にかざした。

 相手が抵抗したら『凍魔蒼玉』は上級悪魔どころか中級悪魔すら凍らせることはできないが、今回『凍魔蒼玉』の対象となっている上級悪魔二体は恭也の制御下にある。

 そのためアクアによる上級悪魔二体の冷凍保存は一分とかからず終わり、それを見届けた恭也は改めてアクアに礼を述べた。


「アクアがいてくれてほんとに助かったよ。『凍魔蒼玉』が無かったらいくら上級悪魔創っても当日まで持たなかったし。明日以降もよろしくね」

「はい。お任せください。『凍魔蒼玉』はヘーキッサさんたちが追加で三十個作ってくれるそうですから他にも凍らせたい物があったら遠慮無く言って下さいね」

「うん。その時はお願い」


 恭也は今回『悪魔召還』で上級悪魔を創る際に核として魔神たちの専用魔導具を使おうと考え、ヘーキッサたちに各魔導具を一個ずつ余分に作るように頼んだ。

 並の魔導具で創った上級悪魔ではディアンたちを相手取るのに不安があったので恭也はこの様な手段を取ったのだが、まさかアクアがヘーキッサたちに追加で仕事を頼んでいるとは思わなかった。


 恭也がヘーキッサを許すことは決してないだろうがかといってヘーキッサたちを奴隷扱いする気も無かったので、ディアンとの戦いが終わったらヘーキッサたちに一週間程休暇を与えようと恭也は考えた。

 その後恭也はソパスでの作業を終えたランを呼び戻し、全ての魔神を召還してからホムラに怒られない内に屋敷に戻った。


 翌朝、朝食を終えた恭也がミーシアにあいさつをしてからウォース大陸に向かおうと考えているとクノン王国のホムラの眷属から連絡が入った。

 ホムラの眷属からの情報によるとジュナはここ数日城内での軟禁状態が続いており、今日クノン王国がジュナに下す罰を決めるとのことだった。

 恭也が城を訪れたことでクノン王国の動きが早くなったらしいとホムラから聞かされ、恭也はミーシアに出発のあいさつをすると急いでクノン王国に向かった。

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