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ルール説明

「俺はもう一対一の戦いには大して興味が無い。だから戦争をしてみたいと思ってる」

「戦争をするってどういうことですか?」


 笑顔で荒唐無稽なことを言い出したディアンを前に恭也は怪訝そうな表情をし、そんな恭也にディアンは自分が考えている遊びの具体的な内容を説明した。


「十日後にこの大陸以外の二つの大陸、確かダーファ大陸とウォース大陸だったか?に攻撃を仕掛ける。俺が用意した部下がそれぞれ悪魔を連れてあちこちで暴れる予定だ。好きに暴れていいって言ってあるし、もちろん俺も参加する。お前らだけで迎え撃つなりこの世界の連中と手を組むなり好きにしてくれ」


 ラインド大陸のどこかに拠点を作ってゲリラ戦を仕掛けようとしていた恭也はディアンに主導権を握られたことに顔をしかめた。

 戦いの場が想定より広範囲になってしまいそうだったことも恭也は不満だったが、自分よりずっと先にこの世界に来ていたディアンに先手を取られるのはしかたがないと考えて話を進めた。


「どこを襲うつもりですか?」

「そこまで教える義理はねぇよ。ただお前の管理してる街、ソパスには俺が行くつもりだ。お前の婚約者は大して強くないって聞いてるが、街滅ぼした記念に創る悪魔の飾りぐらいにはしてやるよ」


 ディアンの非道な発言にいちいち反応してもディアンを楽しませるだけだと考えて恭也は表情を変えないように努めたのだが、続くディアンの発言には思わず表情を変えてしまった。


「俺の部下たちには上級悪魔の他に中級悪魔二千体を与えてある。お前が魔神たちと一緒にソパスを守れば他の場所は悲惨なことになるだろうな。殺した相手の死体は残さないように言ってあるから、自分の街とこの世界の人間好きな方を守りな」


 上級悪魔に加えて中級悪魔の軍勢、それも複数を相手にしなくてはならないと聞き恭也はかなり動揺したが、ディアンの馬鹿げた遊びで犠牲者を出すつもりは無かったのですぐにディアンに視線を戻した。


「当然どっちも守ってみせます。十日後って約束は守って下さいよ」

「ああ、これは戦争だからな。宣戦布告した以上約束を破ったりはしねぇさ」


『真実看破』を発動してディアンの発言に嘘が無いことを確認し、恭也は自分の計画が変更を余儀無くされたことを痛感した。

 ディアンが何ヶ所に戦力を送りこむつもりか分からないが、二ヶ所や三ヶ所ということはないだろう。


 どこが襲われるか分からない以上どうしても恭也たちは後手に回るしかなく、しかも一ヶ所にそれだけの戦力が送り込まれるとなると各地を担当することになる魔神たちは恭也の援軍には来られなくなる。


 数体の上級悪魔に加えて二千体もの中級悪魔を相手にするとなると魔神たちでも全ての悪魔を倒すのにはかなりの時間がかかるからだ。

 数的優位に立ってディアンと戦うという自分の作戦の前提が崩されてため息をついた恭也を見てディアンは嬉しそうに笑った。


「襲撃はどの場所も十日後の朝八時きっかりに始めるつもりだ。精々がんばってくれ」


 ご丁寧に全ての場所の襲撃開始時刻が同じだと伝えてきたディアンの笑顔を前に恭也は舌打ちしたくなったが、この怒りは十日後にぶつければいいと考えてディアンとの会話を続けた。


「十日後の戦いまでに見つけた悪魔は倒しますけどいいですよね?こっちもこの辺りに眷属大量にばらまいていいならイビルアイは見逃しますけど」

「……ちょっと悩むな。まあ、いいか。十日後には全部俺のものになってるんだ。最後の時間ぐらいゆっくりさせてやるよ」


 そもそもダーファ大陸とウォース大陸に送りこんだイビルアイの四割程が既に現地の人間に倒されており、十日後には大々的に部下や悪魔を送り込むのだから数日程度諜報活動を止めても大丈夫だろう。

 そう考えてディアンは恭也に決戦前に見つけた悪魔は倒して構わないと伝え、恭也はそれに対して礼を述べた。


「ありがとうございます。野生の悪魔は割と出るんでこういうことはちゃんと決めとかないと後で揉めますからね。じゃあ、十日後にソパスで会いましょう」

「ああ、今度はしっかり殺してやるから精々残り十日の人生を楽しみな」


 最後まで不快な笑みを浮かべるディアンに別れを告げると、恭也は前日に発見していたある悪魔を倒しに向かった。


 恭也と別れた二十分後、ディアンはセジバガにある王城に戻り自分が改造した六人の部下と会っていた。

 人間だけでなく巨体が目立つオーガや複数の亜人の特徴を併せ持つ女などもいる自分の部下たちにディアンは先程の戦いの感想を尋ねた。

 先程恭也とアロジュートがディアンと行った戦いの様子をディアンの部下たちはイビルアイを通して見ており、ディアンの質問を受けて人間と思しき男が口を開いた。


「確かにあの二人は強いですが私たちもディアン様から力を頂いた身。一対一なら決して遅れは取りません」

「そうですとも。ディアン様から頂いた力と軍勢で他の異世界人共を必ずや倒してみせます」


 十日後の戦争でディアンの部下たちは適当な場所を襲うわけではなく、恭也と縁がある場所と異世界人がいる場所を襲うことになっていた。

 ディアンの部下のオーガ、デナパスはガーニスと戦うことが決まっており、そのためデナパスは息を荒げながら同僚の発言に同意した。


 今ディアンの前にいる六人は全員が十五万前後の魔力を保有しており、一日に回復する魔力の量も二千程のディアンの改造人間の最高傑作だった。

 自分以外の異世界人が相手なら彼らにも勝機は十分あるとディアンは考えており、仮に彼らが異世界人や魔神に負けたとしても彼らもそうたやすくは負けないだろう。


 ディアンがソパスを滅ぼすまで魔神や恭也以外の異世界人の相手をする以上のことをディアンは彼らに求めていなかった。

 勝てばよし負けたらまた新しく別の部下を作ればいいとしかディアンは考えておらず、そうとは知らずに六人は十日後の戦いへのやる気を見せていた。


 使い捨てにするには惜しい程度には彼らの製造には手間がかかっているので、ディアンとしても別に彼らに負けて欲しいわけではない。

 そのためディアンが適当に彼らのやる気をねぎらっているとラインド大陸各地に配置しているイビルアイの一体から連絡が入り、ディアンは苦笑した。


「なるほど、さっきのはこういうことか。うぜぇことしてくれるぜ」


 ここから遠く離れた海岸にディアンは以前恭也が戦ったアンモナイト型の上級悪魔五体を配置しており、これらの上級悪魔たちは海水からひたすらに中級悪魔を創り出していた。

 既にデナパスたちに配る分の中級悪魔は創り終えてセジバガに待機させていたので、ディアンとしてはこの上級悪魔たちが恭也に倒されても別に困らない。

 しかし自分の支配する大陸で恭也が好き勝手に暴れているのを放置するのもおもしろくなかったので、ディアンは部下の一人、ダクタルに指示を出した。


「さっき俺が戦ってた異世界人が北の海岸で暴れてる。あの上級悪魔が倒されるのは別に構わねぇけどあんま好き勝手やられるのもうぜぇ。ちょっと行って来い」


 ここから現在恭也がいる海岸まで千キロは離れており、いくらディアンでもこの距離を短時間で踏破することはできなかった。

 そのためディアンは六人の中で唯一短時間で現場に駆けつけられるダクタルに声をかけ、ディアンの指示を受けてダクタルはすぐに現場へと向かった。


 一方ディアンと別れた直後、恭也はすぐにアンモナイト型の上級悪魔複数がいる海岸へと向かった。

 先程の戦いでかなりの魔力を消費したため『空間転移』ではなく光速移動で向かう必要があり、初めての場所だったこともあり多少時間はかかったが恭也は無事目的地に到着した。


 今回のラインド大陸訪問初日に放ったホムラの眷属がアンモナイト型の上級悪魔数体を発見したと聞き、恭也はすぐに対処することを決めた。

 ディアンとの戦いの前に余計な騒ぎを起こしたくなかったので今日まで放置したが、野生の悪魔は倒していいとディアンからも許可をもらったので遠慮無く倒すことができる。

 そう考えながらアンモナイト型の上級悪魔たちを上空から見下ろす恭也にウルが話しかけてきた。


(いいのかよ?こっちから攻撃しちまったらあっちも約束破るかも知れねぇぞ?)

(うん。この悪魔だけは放っておけない。これがいる限り中級悪魔がいくらでも生まれちゃうから今の内に倒しておかないと)


 この場でアンモナイト型の上級悪魔たちに攻撃を仕掛けることの危険性は恭也も当然分かっていたが、無限に中級悪魔を生み出すこの上級悪魔だけは今の内に倒しておかなくてはこちらが不利になる一方だ。


 海岸沿いにいるとても千や二千ではきかない数の中級悪魔の群れを見ながら恭也はそう考え、眼下の上級悪魔たちをまとめて倒すために『ウラノス』を発動した。

 アクアとライカの合体技、『ウラノス』は空中に巨大な円形の水晶を創り出す技で、この水晶は恭也たちがその場を離れてもその場に残り続ける。


 アクアとライカ、及び二人のどちらかと融合した恭也はこの水晶を通して周囲の状況を見ることができ、この水晶は敵の攻撃を受けても多少の傷なら空気中の水分を使い自動で復元される。

『ウラノス』の主な用途は遠く離れた場所の監視だが、太陽が出ていれば攻撃に使用することも可能だった。


 アンモナイト型の上級悪魔一体につき二枚ずつ創られた水晶は恭也の意思を受けて太陽光を吸収し、やがてそれを一斉に放出した。

 前後から強力な光線に挟まれた上級悪魔たちは戦闘手段を持っていないこともあり『ウラノス』の光線によりあっけなく焼き尽くされた。


 その後恭也は中級悪魔の群れの周囲に水晶を展開して中級悪魔を次々に焼き払っていった。

 地上にいる中級悪魔の群れに『テスカトリポカ』を使うと地上への悪影響が怖かったので、今が昼間で本当によかった。

 そう考えながら恭也が『ウラノス』を使用していると、アロジュートが恭也に話しかけてきた。


(あたしたち並の魔力持った存在がこっちに来てる。いや、もう真上に、)


 アロジュートが恭也に警告した次の瞬間には恭也に巨大な光の柱が降り注ぎ、それを恭也は『アルスマグナ』製の板を頭上に出現させることで防いだ。

『アルスマグナ』製の板に遮られて周囲に散らばった光線により周囲の地形が変わり中級悪魔が次々と消滅していく光景を見ながら恭也は不意打ちを仕掛けてきた相手に話しかけた。


「いきなり不意打ちとはやってくれますね」

「それはこっちのセリフです。ディアン様との約束を反故にして我々の悪魔に攻撃を仕掛けるとは」


 自分の最大火力の攻撃を受けて無傷の恭也を見てダクタルは内心驚いていたが、仮に十日後に恭也と戦うことになってもその時の恭也は魔神たちとは別行動を取っているはずだ。

 そう考えてダクタルは余裕を取り戻して恭也との会話を再開した。


「ディアン様はあなたの行動に大変怒りを覚えていましたが、今すぐこの場を離れるなら今回に限り許すとおっしゃっていました」

「そうですか。てっきり野生の悪魔だと思って攻撃したんですけどすみませんでした。ところでどうして姿を見せないんですか?」


 先程からダクタルは恭也の視界に決して入ろうとしなかった。

 それを不思議に思った恭也は素直にダクタルの行動の真意を尋ね、恭也の白々しい謝罪に呆れながらもダクタルは恭也の質問に答えた。


「あなたは見ただけで相手の能力が分かるのでしょう?ディアン様からも余計な情報は与えないようにと言われています」

「ああ、なるほど」


 道理で先程から忙しそうに恭也の周囲を飛び回っているはずだと恭也は納得した。

 普段ならともかく周囲に『ウラノス』の水晶を展開している現状ではダクタルの行動は意味が無かったが、それを教える義理も無かったので恭也は『ウラノス』を通してダクタルに対して『魔法看破』を発動した。


 ダクタルは十五万程の魔力を保有して他にもバフォメカ同様多くの魔導具により強化されていた。

 ダクタルの能力で一番恭也が驚いたのは光と水の二属性の精霊魔法を使える点で、『魔法看破』によると元々光属性の精霊魔法の使い手だったダクタルにディアンが水属性の精霊魔法の使い手の死体を混ぜた結果が今のダクタルらしい。


 これだけ短時間でこの場に駆けつけたということは今自分の目の前にいる男はライカと同じ様に光速で移動できるのだろう。

 これはただの光属性の精霊魔法の使い手ではできない芸当で、この男と同等の存在が他にも複数ディアンのもとにいると考えるだけで恭也はうんざりした。


 まだこの場には数百体の中級悪魔が残っていたが、これ以上この場に残ってディアンを刺激しても恭也に得は無い。

 十日後にどこが襲われるのかすら分かっていない以上、十日の間にやらなくてはならないことは山積していたので、恭也は今後の対策を落ち着いて話し合うために急いでソパスへと光速で移動した。

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