ルール違反
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魔神やバフォメカは斬られた程度の傷ならすぐに再生できるが、再生前に斬り離された部分を体から離されるとその部分の魔力を失ってしまう。
今回恭也に斬り離されたバフォメカの下半身には六千程の魔力が内包されており、下半身を再生したバフォメカはすぐに斬り離された下半身を取り戻そうとした。
斬り離されてすぐなら体の部位は比較的簡単に取り込めるからだ。
しかしバフォメカがたどり着くより早く、恭也はバフォメカの下半身に『埋葬』を発動し、その後地面に沈んでいく下半身とバフォメカの間に立ちふさがった。
「あなたが道路壊してくれたおかげで簡単に沈められました。ありがとうございます」
恭也の馬鹿にしたような発言を受けてバフォメカは恭也を殺そうとしたが、恭也を斬り殺しても撃ち殺してもバフォメカが『腐食血液』で体を溶かされるだけだった。
「どうしました?もっと攻撃してきていいですよ?」
どんな攻撃をしても自分が手痛い反撃を受けるだけの状況にバフォメカの心は完全に折れていた。
「今回あなたのことを精神的にぼこぼこにするつもりなんで、もっと無駄な抵抗してくれていいですよ?」
恭也のこの発言を聞きバフォメカは恭也が自分のことをまるで脅威だと考えていないことを思い知らされた。
しかしディアンが見ている以上逃げることは許されない。
そう考えたバフォメカは自分の体に混ぜ込まれている魔導具を使い近くに待機させていた中級悪魔を呼び出した。
それを見た恭也はバフォメカはやっぱり追い込まれたら約束を破ったかと呆れた。
今のバフォメカは『不朽刻印』をつけられるぐらい恭也に怯えていたので、そろそろ逃げ出すか仲間を呼ぶかするだろうとは恭也も予想していた。
そのため恭也はバフォメカが仲間を呼んだことにはそれ程驚かなかった。
しかし現れた中級悪魔が手に水筒の様な物を持っていることに恭也は気づき、それに対して『魔法看破』を発動した。
そして水筒の様な魔導具の効果を知った恭也は慌てて中級悪魔を倒すべく動き出したが、そこにバフォメカの妨害が入った。
恭也の体を剣で斬り裂き『腐食血液』により負傷しながらも、バフォメカは駆けつけた中級悪魔に命令を出した。
「壊せ!」
バフォメカの短い命令を受けて中級悪魔が手にしていた魔導具を破壊すると、その場に以前恭也が戦った鳥型の上級悪魔一体に加え、恭也が初めて見る蛇型とライオン型の上級悪魔が一体ずつ現れた。
『魔法看破』によると先程中級悪魔が破壊した魔導具はディアンが創った悪魔限定だが悪魔を小型化して収納できる魔導具らしい。
本来は壊さずに何度も使う魔導具なのだが、切羽詰まっていたこともありバフォメカは今回この魔導具を破壊して上級悪魔を解放した。
「一対一って約束だったはずですけど」
体長数メートルの上級悪魔が三体も現れたことでいくつもの家屋が破壊されたのを見て、恭也は不機嫌さを隠そうともしないでバフォメカをにらみつけた。
しかし既に恭也に追い込まれて逆上していたバフォメカには恭也の批判めいた視線も無意味だった。
「うるさい、黙れ!こうなったら試合など知ったことか!街を守りたければ精々がんばるんだな!」
そう言ってバフォメカは上級悪魔たちに街の破壊を命じたが、恭也もそれを黙って見てはいなかった。
「アロジュートさん!悪魔は全部僕と魔神たちで何とかします!街を守って下さい!」
そう言うと恭也はウォース大陸に残して来たアクア、フウを含む魔神全員を手元に呼び融合し、その後自分と上級悪魔三体、そしてバフォメカを入れる形で『隔離空間』を発動した。
「それはお前らなら簡単に壊せる!構わず突っ込め!」
バフォメカのこの指示を受けて三体の上級悪魔は『隔離空間』を突破しようとしたが恭也にそれを許す気は無く、恭也はバフォメカに『不朽刻印』を発動してから『テスカトリポカ』を発動した。
瞬く間に『隔離空間』の中に黒い気体が充満し、『テスカトリポカ』の気体に触れた途端上級悪魔たちは一斉に騒ぎ始めた。
もちろん『隔離空間』の中に上級悪魔と共に閉じ込められた中級悪魔は既に跡形も無く消え去っていた。
『テスカトリポカ』により発生した気体に侵食されて崩壊する体を再生しながら上級悪魔たちは力の限り暴れ回った。
『隔離空間』の障壁を軽々と貫き上級悪魔たちの放った光線や火球が周囲に降り注いだが、それらの攻撃は全てアロジュートが消したため街にこれ以上の被害が出ることはなかった。
自分に飛んで来る攻撃と違い『隔離空間』の中から出てくる攻撃はアロジュートが自分の意思で消すしかない。
そのため油断無く中の様子が全く見えない結界に意識を向けていたアロジュートにディアンが話しかけてきた。
「よう、ずいぶんと地味な仕事やらされてるな」
「あんたの部下が約束の一つも守れないせいでね」
イビルアイの方に目もくれずに返事をしたアロジュートに対し、ディアンは軽薄な口調で話を進めた。
「そりゃお互い様だろ。先に約束破ったのそっちだぞ」
「あたしに言われても困るわよ。そもそもあたしあいつの能力全部知ってるわけじゃないし」
アロジュートと主従契約を結んだ際、恭也はアロジュートに自分の能力を口頭で説明したが、その際に一つか二つぐらい伝え忘れているものがあるかも知れないとも伝えた。
手に入れたはいいが全く使う機会が無く、恭也自身も忘れている能力があるかも知れなかったからだ。
しかもアロジュートは恭也の能力の詳細にはそれ程興味が無かったので、恭也のこの説明すら適当に聞き流していた。
そのため恭也自身の能力と魔神の能力の境界に関してはアロジュートの理解は下手をするとディアン以下かも知れなかった。
もっともアロジュートのディアンへの評価自体が低かったので、恭也とバフォメカ双方の規則違反など有っても無くてもアロジュートのディアンへの対応はぞんざいになっていただろう。
実際ディアンに話しかけられてアロジュートはかなり不快そうにしていた。
「あんたにあいつの戦いを楽しませるのは必要なことだって言われてるからあんたを消すの我慢してるのよ。黙って見てなさい」
「そう言われてもあれじゃあな。あいつももっと見てる方のことも考えてくれりゃいいのに」
確かにアロジュートとディアンの視線の先の『隔離空間』の中の様子は黒い気体のせいで外からは一切分からず、時折外に出てくる上級悪魔の魔法と『隔離空間』の中から聞こえてくる音だけが戦いが続いていることを伝えていた。
「あいつも結界の中で戦うのは面倒だって言ってたから、あいつの全力が見たければ周りに誰もいないところで戦うのね」
「そういやお前もあいつと戦う時はそうしてたな。……よし、参考になった。この礼にお前の死体は有効活用してやるよ」
「好きに言ってなさい。どうせあんたはあいつには勝てないから」
「へー、そりゃ楽しみだな」
そう言うとディアンはアロジュートとの会話を諦め、少しでも結界中の様子が見やすい上空へと向かった。
一方の恭也は『隔離空間』内に『テスカトリポカ』の気体を充満させて後は待つだけといきたいところだったが、敵の上級悪魔に飛行能力を持つ鳥型の上級悪魔がいたためその相手に追われていた。
火属性のライオン型の上級悪魔と水属性の蛇型の上級悪魔は『埋葬』で動きを封じていたため放置しても問題無かったが、この鳥型の上級悪魔を一体逃がしただけでも街への被害が甚大なものになる。
『テスカトリポカ』での攻撃と言えども万全の上級悪魔を倒し切るには五分はかかるため、その間は恭也が鳥型の上級悪魔の相手をする必要があった。
ちなみにバフォメカは『隔離空間』内が『テスカトリポカ』の気体に満たされた瞬間から崩壊と復活を繰り返しており、痛みを感じないため悲鳴こそあげてはいなかったが身動きを取れずにいた。
(上級悪魔を小さくして持ち運びできる魔導具は面倒だね。これ使われると街のど真ん中にいきなり上級悪魔出されちゃうし)
(ええ、あれは驚きましたわ。あの大きさですと持ち込みを完全に防ぐのは不可能に近いですわ。マスターかアクアさんがいないと発見すら困難ですもの)
外に逃がしさえしなければ倒す必要は無いため、今回の鳥型の上級悪魔との戦いはわずかながら恭也にも余裕があった。
そのため各種精霊魔法を鳥型の上級悪魔に叩き込みながら恭也は今回の戦いで一番驚いた点、悪魔収納用の魔導具について言及した。
その恐怖についてホムラも同意する中、ライカが自分の意見を述べた。
(でも多分ディアンとかいう男、そういう地味なことしないと思うっすよ?目立ちたがりっぽいっすから、大量の悪魔を運ぶためには使っても師匠たちが心配する様な使い方はしないんじゃないっすかね)
(そう願いたいとこだけど、今回のバフォメカさんもそうだけどこういう人たちって追い込まれたらなりふり構わないからなー)
自分が恭也に負けることなど考えてもいない様子のこれまでのディアンの言動を思い返せば、恭也としてもライカのディアン像には同意できた。
しかし良識も誇りも無い人間というのは追い込まれたら何をしてくるか分からず、まして相手が自分と同じ異世界人となると恭也としても色々考えずにはいられなかった。
ガーニスやアロジュートとの戦いを考えるとディアンとの戦いも勝てたとしても楽には勝てないだろう。
しかもこの二人と違いディアンは人格も最低なので勝ち方にまで気を配らないと勝負の後で余計な被害が出てしまいそうだと恭也は心配していた。
少しでも余力を残してディアンに勝利したいとは思うが、恭也は自分のこれまでの行き当たりばったりの言動を思い返して考えるのを止めた。
バフォメカの様な部下をディアンが何人従えているのかもまだ分かっていないのだから、現時点であれこれ考えても無駄だと考えたからだ。
そうこうしている内に恭也の戦っていた鳥型の上級悪魔の動きが鈍り輪郭も崩れ始めていた。
それを見た恭也は『ヒュペリオン』で鳥型の上級悪魔を地面に叩きつけ、そこに『キドヌサ』を発動した。
地面から生えた鎖に縛りつけられ、やがて動かなくなった鳥型の上級悪魔は他の二体共々消滅していった。
上級悪魔三体の消滅を確認した後、恭也はウルの羽で『テスカトリポカ』の気体を吸収すると、『隔離空間』を解除してからアロジュートと合流した。
「ありがとうございました。おかげで戦いに集中できました」
「思ったより早かったわね」
「アクアとフウも呼んで力押しで終わらせましたから。これからすぐディアンさんと戦うことになると思いますけど大丈夫ですか?」
「もちろんよ。思ったより攻撃飛んで来なかったし」
ここでアロジュートの視線が鋭くなり、その後アロジュートが恭也に話しかけてきた。
「あいつとの話は任せるわ」
それだけ言うとアロジュートは体を解き、それを見たディアンは苦笑しながら恭也に話しかけてきた。
「ずいぶんと嫌われちまったな、傷つくぜ」
「それはしかたないんじゃないですか。僕もあなたのこと嫌いですし」
「まじかよ。もう何度も遊んだ仲なのにひでぇこと言うな」
発言内容とは裏腹に恭也に突き放されてもディアンに特に傷ついた様子は無く、そもそもディアンに気を遣うつもりも無かったため恭也は話を進めた。
「バフォメカさんとの勝負は僕の勝ちってことでいいですか?」
「ああ、もちろんだ。あいつにただの魔法は通用しないからどうやって勝つのか楽しみにしてたんだが、想像以上にグロい技持ってたんだな。これなら思ってたよりは楽しめそうだ」
恭也とバフォメカの勝敗などどうでもよさそうな話し振りのディアンを前に恭也はバフォメカの今後の扱いについて言及した。
「僕が勝った以上あの人は僕の戦利品なんだから僕の好きにしていいですよね?」
「ああ、もちろんだ。元々お前を試すためだけに使った使い捨ての雑魚だ。殺すなり刑務所に入れるなり好きにしてくれ」
「……分かりました」
ディアンの譲歩を引き出すために恭也は今回あえてディアンが喜びそうな言い回しをした。
しかし仮にも自分の部下を使い捨てと表現したディアンの発言を聞き、恭也は不快気に顔をしかめた。
そんな恭也の表情など気にも留めずディアンは話を進めた。
「どうせお前この街の人間蘇らせてからこっちに来るんだろ?だったら戦うの三日後にしようぜ。やるならお互い万全の状態で戦いたいからな」
「ずいぶんと気前がいいですね。何企んでるんですか?」
確かに恭也は今回被害に遭ったこの街の住人の蘇生・治癒を行ってからディアンのもとに向かうつもりで、蘇生による魔力の消費がディアンとの戦いに響かないか不安に思っていた。
そこにディアンの方から気を遣ってきたため恭也は警戒心を露わにしたが、ディアンはいつもの軽薄な笑みで恭也の警戒を笑い飛ばした。
「そう疑うなよ。まじで全力のお前と戦いたいだけだ。だって久し振りの異世界人だぜ?半端な状態で戦ってもつまらないだろ」
『真実看破』でディアンが純粋に自分との戦いを楽しみにしているだけと知り、恭也は驚きながらも口を開いた。
「じゃあ、三日後に。気を遣ってくれたお礼に必ず痛い目に遭わせてみせます」
「ああ、楽しみにしてるぜ。お前とあの女、二人もいれば暇潰しぐらいにはなるだろうからな」
ディアンがこう言った直後、恭也はイビルアイを斬り裂くとこの場から逃れようとしているバフォメカのもとに向かった。