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謁見

 ウルを体内に入れた状態の恭也は、兵士たちに向けて闇魔法による洗脳を行った。

 恭也は言いなりとなった兵士たちに城門を開けさせ、そのまま家に帰り朝まで家から出ないように命じた。


 恭也の指示に従いこの場を離れる兵士たちを意識から外し、恭也は兵士たちが使っていた魔導具二つを『格納庫』にしまった。

 その後城の中に入った恭也は『隔離空間』を使い、城の出入りをできなくした。


 その後恭也は城内を回り、逃げ場を無くして慌てふためく貴族たちや兵士を全て洗脳してから玉座の間へと向かった。

 玉座に座りその場に集められた王と妃、そして大臣やサキナトの幹部たちに視線を向ける恭也を前にその場にいる全員が恐怖で青ざめていた。


 洗脳状態の人間が相手ではまともに会話ができないので、洗脳はすでに解いてある。

 一般の兵士やメイドなどには一階で待機するように命じたので、今恭也の前にいるのは三十人程のネース王国の有力者たちだけだった。

 そんな彼らを前に恭也は口を開いた。


「そんなに怖がらないで下さい。必要以上の危害を加えるつもりはありませんし、それにサキナトの人は知ってますよね?僕は誰も殺すつもりはありません。みなさんが僕の言うこと聞いてくれればお互い不愉快な思いしなくてすみますよ」

「分かった。金ならいくらで出そう。アズーバでの件は聞いている。あの件で貴公に不快な思いをさせたというなら謝る。だから我々を解放してくれないか?」


 集められた人々を代表し、ネース王国の国王、イーツイ・グドガ・ネースが恭也との交渉を始めた。

この期に及んで身の保身が真っ先に出てくる図太さに呆れつつ、恭也はイーツイに返事をした。


「許す気は無いので謝らなくていいです。謝罪はいいので僕の頼みを聞いて下さい。頼みさえ聞いてくれたらすぐにみなさんを解放しますよ」

「頼みとは何だね?」


 平静を装いつつ恭也と話していたイーツイだったが、続く恭也の答えを聞きその平静も吹き飛んだ。


「簡単です。この国にいる奴隷全員を元いた国に帰して下さい」


 当然の様に恭也が口にしたこの頼みにそれを聞いた全員が表情を変えた。

 生殺与奪の権を恭也に握られているため大声こそ誰もあげなかったが、全員が動揺しているのは明らかだった。

 しばらく部屋が騒然とした後、再びイーツイが恭也に話しかけた。


「ちょっと待って欲しい。いくら貴公の頼みでもそれは無理だ。国内にはすでに何万人もの奴隷がいる。それを解放するのは難しいし、我が国の国民たちが困ってしまうだろう。何とか考え直してはもらえないか?」


 サキナトからの報告で目の前の異世界人が自分たちを殺す気が無いと知っていたイーツイは、恭也の提案をやんわりと断った。

その後一部の奴隷を国に帰し、これから段階的に奴隷を帰していくと口約束をした上でその約束を破るつもりだった。

 どうせ何百、何千の奴隷全てを把握するなど無理なのだから約束などいくらでも破れる。

 そう考えていたイーツイを見て恭也は深いため息をついた。


「やっぱ素直に分かりましたなんて言うわけないですよね」


 そう言うと恭也は目の前の人間全員に『情報伝播』を発動した。

 伝える情報は自爆用、正確には投げて使う爆弾の様な魔導具で焼かれる痛みだ。

 突然皮膚、目、そして気道といった体の内外が焼かれる痛みに襲われ、イーツイはもちろんこの場にいる恭也以外の全員が悲鳴をあげながらのたうち回った。


 その様子を見ながら恭也は彼らが感じている痛みを思い出していた。

 あの時市場で彼らが感じた苦しみを元凶の連中にも与えたい。

 そう考えた恭也は『空間転移』でセザキア王国に行き、あの時使われたのと同様の魔導具をミーシアに用意してもらった。


『情報伝播』は恭也が経験したことしか伝えられない。

 自分への戒めの意味もあり恭也は自分の体を焼いたのだが、結局三十秒も耐えられずに『魔法攻撃無効』を発動してしまった。


 今苦しんでいる彼らは実際に攻撃を受けているわけではなく、直接痛みを体に送り込まれている状態だ。

防御も何もできず、彼らは三十秒足らずの痛みを二回経験させられた。

 実際なら焼け死ぬような痛みを与えられ、息も絶え絶えなイーツイたちが落ち着くのを見計らって、恭也は話を再開した。


「自分たちの状況が分かってないみたいだから分かりやすく教えたつもりです。僕の言い方も悪かったですね。できるかどうかなんて聞いてないんですよ。やれって言ってるんです。自分たちが魔神を従えてる異世界人に侵略されてるという状況をもっとまじめに受け止めた方がいいと思いますよ?」


 これ見よがしにウルを外に出した恭也にイーツイたちの顔が恐怖にゆがんだ。

 そこで恭也は駄目押しに能力を使い、その後イーツイたちに隣の人間の首を見るように言った。

 恭也のこの命令に戸惑いながらもイーツイたちは隣に視線を向けて愕然とした。

 その場にいる全員の首に赤黒い刻印が刻まれていたからだ。

 驚くイーツイたちに恭也はこの能力、『不朽刻印』の説明をした。


「自分の首は見にくいかもしれませんけどこの場にいる全員にその刻印はついてます。そしてその刻印の効果は三つです。一つ目はその刻印が刻まれている間、どこにいても僕に居場所が分かります」


 それを聞き、イーツイたちはざわめいた。


「はい。つまり僕がこの城の結界を解いたとしてもどこにも逃げられないということです」


 人により程度の差はあったが、イーツイたちはこの場さえ乗り切れば大丈夫だと考えていた。

 それがこの刻印のせいで逃げることはもちろん隠れることすら出来なくなったと知り、イーツイたちは自らの甘い考えを捨てるしかなかった。


「そして二つ目は僕の質問には正直答えるようになるって効果なんですけど、これはまあ、おまけみたいなものです。大事なのは三つ目の方でこれは実際にやってみますね。王様、ちょっとそこ立ってもらえますか?」


 恭也に促されたイーツイが他の者たちと離れた所に移動した。

そしてイーツイが立ち止まった直後、恭也はイーツイに近づくと火属性の魔法を発動した。

『精霊支配』を使って発動した精霊魔法で起こされた火柱は携帯型の魔導具をはるかにしのぐ威力で、イーツイは魔法発動直後に短く声をあげただけでほぼ即死状態だった。


 突然イーツイが殺されたことにその場の全員が次は自分たちの番かと恐怖したが、その直後に起きたことでその恐怖は消し飛んだ。

 イーツイが消し炭となった後の灰が落ちた空間に傷一つないイーツイが突然現れたからだ。


 何が起こったか分からずに視線を泳がそうとしたイーツイだったが、それより早く恭也の指示を受けたウルがイーツイの首と胴体を羽で斬り落とした。

 再び死んだイーツイだったが、その直後何事も無かったようにその場に蘇った。

 短時間に二度殺されたイーツイ本人よりも傍からその光景を見ていた他の者たちの方が、目の前で起こったことに驚いていた。


「もう分かってもらえましたよね?この刻印をつけられた人間は、僕が生きてる限り何度でも復活させることができます。今の状況に絶望しての自殺なんて許す程僕甘くないので、全ての奴隷解放に向けて全力で頑張って下さい。それが終わったらその刻印解除してあげます」


 城門の守りはたやすく突破され、その上逃走も自殺も禁じられた。

 もはやイーツイたちは恭也の命令にただひたすら従うだけだった。

 自分の能力の説明のために人をあっさり殺して見せた恭也を見て、イーツイたちは恐怖を抱くと同時に違和感も覚えていた。


 実際に目の前の異世界人と対峙したサキナトの構成員からの報告によるとこの少年は相手を殺すのを避けているということだった。

 それを聞いた誰もが今回の異世界人の少年は甘いと判断していたのだが、それは誤りだった。


 恭也はあくまで人が死ぬのが嫌なだけで、この世界に来たばかりの頃と違い今の恭也は暴力の行使には大して嫌悪感を持っていなかった。

 そもそも暴力はいけないなどという当たり前の価値観を持った『優等生』が異世界に送り込まれる対象に選ばれるはずもなかった。


 そんな事情を知る由も無く怯えるイーツイやサキナトの幹部たちに恭也はいくつかの指示を出した。

 ピクトニにいる奴隷たちを一ヶ所に集め、セザキア王国とクノン王国それぞれに送る準備をさせ、ネース王国の幹部たちにはネース王国が彼らに払える賠償金の額を算出させた。


 またピクトニにあるサキナト本部から幹部を上から順に二十人連れて来るように命じた。

 さらにこれに加えて奴隷用の首輪の開発に大きく貢献したコロトークという人物も連れて来させ、二十一人全員を恭也が迎えに来るまで牢屋に閉じ込めておくように命じた。


 そして最後にネース王国が持っていた上級悪魔の力が封じ込められている魔導具二点も押収した。

 このうちの一つ、『降魔の壺』は最低二百人、最大で四百人の生贄を捧げることで上級悪魔を召還・使役できるという魔導具だった。


恭也が因縁のあるアズーバから制圧していたら、必ずどこかでネース王国は奴隷を使ってこの魔導具を使ってきただろう。

 そう言った意味でも首都をいきなり抑えたのは正解だった。


 もう一つの魔導具は戦闘向きではないが、その分今後重宝しそうだった。

 これらを終えた恭也は数時間ピクトニ上空を飛び回り、国の出したお触れに逆らうサキナトのメンバーや貴族たちを見つけてはイーツイたちに行った『情報伝播』による洗礼を行った。


 それを何十回もした頃には表立った反対も収まり、最初にサキナトの上層部の身柄を抑えたこともありサキナトも組織立った動きは見せなかった。

 国として周辺の街に奴隷解放の方針を告げるのに数日はかかると言われ、恭也は二日後に来ると言い残してアズーバへと転移した。


 アズーバへと転移した恭也は即座にアズーバ全域を『隔離空間』で包むと、そのままサキナトのアズーバ支部へと向かった。

 支部の入り口から堂々と乗り込んだ恭也は一階の出入口のほとんどを『格納庫』から取り出した岩でふさぐと、唯一開けたままにした正面の入り口をウルに任せて自身は建物の奥へと乗り込んだ。


 一階を見て回ろうとした恭也だったが、それより早くサキナトの戦闘員たちが恭也を出迎えた。

 恭也の『物質転移』対策として強力な魔法が刻まれた首輪をつけていた彼らだったが、今の恭也にそんなものは無意味だ。


 恭也は『情報伝播』ですぐに彼らを無力化して奥へと進んだ。

 単に家事手伝いとして雇われていると思しき数名やいざという時の人質であろう奴隷を除き、一階にいる全員を無力化した恭也は、二階も難無く制圧して最上階の三階へと向かった。


 もはや邪魔する者など誰もいない通路を恭也は進み一番奥の扉を開けた。

 恭也が中の様子をうかがうと室内には誰もいなかった。

逃げたかと恭也が思った時、一階で何やら言い争う声が聞こえた。


 恭也が急いで降りると一階にはウルと彼女に洗脳されて無防備で立っている男三人の姿があった。その内の一人はあの時市場で恭也が会った男なので、おそらくこの三人がサキナトの幹部なのだろう。


 この場所の制圧が終わったと確信した恭也は奴隷たちを連れてアズーバの郊外に向かった。

『隔離空間』による障壁は恭也が許可した者なら自由に通ることができる。

 恭也は奴隷として捕らわれていた人々を障壁の外に逃がした。


「すみません。後この街で捕まっている人たちを助け出してまとめて送り出そうと思っているのでもう少し待ってて下さい」


 恭也のこの言葉に助け出された人々は返事をしなかった。

 例の市場の一件はサキナトにより広く知れ渡っていたため、奴隷たちの恭也への信頼があまりなかったためだ。


ここまで彼らを連れて来る際にも洗脳して無理矢理連れてきた程で、彼らの顔には助けられた喜びではなく不安の表情が浮かんでいた。

 しかし『隔離空間』の説明を聞き、そもそも他に頼る相手もいなかったことで彼らは恭也の指示に従った。

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