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改造人間

 恭也がバフォメカと対峙してすぐにディアンがイビルアイを通して恭也に話しかけてきた。


「言っとくけどこの悪魔、イビルアイは魔法の波動を感じ取ることができる。あの魔神たちや女がこっそりお前を手助けしようとしても分かるからな」

「そっちが一対一の約束破らない限りこっちも守りますよ。ディアンさんこそ、この人に助言とかしないで下さいね」


 先程『魔法看破』で見た限り、目の前の男は攻撃手段こそ豊富だったが、『魔法看破』やアロジュート、ディアンの様な能力の副産物による魔法の感知といった能力は持っていなかった。

 そのためディアンと同様の感知能力を持っているらしいイビルアイの口出しさえ無ければ今回の勝負は問題無く勝てるだろうと恭也は考えていた。

 そんな恭也の視線を受けてディアンはおもしろそうに笑った。


「心外だな。勘違いしてるみたいだけど、俺こう見えても紳士なんだぜ?正々堂々の一騎討ちに野暮な横槍入れたりはしねぇさ」

「そうですか」


『真実看破』によるとこのディアンの発言は本当のようだったが、仮にディアンが一対一の約束を破ったとしてもそれならそれで恭也も魔神たちやアロジュートの手を借りるだけだ。

 そのため恭也はディアンの紳士発言を適当に聞き流し、改めてバフォメカに視線を向けた。


「能恭也です。名前を聞いてもいいですか?」

「ディアン様からこの街を任されているバフォメカだ。大人しく殺されて俺の一部になりな」

「一つ言っておきますけど、ディアンさんの改造であなたの寿命かなり短くなってますよ?」


 この事実は改造を受けた本人も知らない可能性がある。

 そう考えて恭也はバフォメカにこの事実を伝えたのだが、恭也の発言を聞いてもバフォメカは笑みを浮かべるだけだった。


「ああ、知ってるぜ。そもそもディアン様の改造を受けたらほとんどの奴は死ぬからな。生き残った俺たちも無事じゃ済まねぇだろうよ。で、それがどうしたって言うんだ?これだけの力と引換えだ。俺の寿命の二十年や三十年安いもんだ」


 自分の命を軽視するバフォメカの発言を聞き、これまで恭也がバフォメカに多少は持っていた憐みの気持ちは完全に消え失せた。


「そうですか。だったら今からあなたがどれだけ下らない物のために人生を犠牲にしたか教えてあげます。精々後悔して下さい」


 不快気に眉をひそめながら恭也はバフォメカに近づき、それを受けてバフォメカは獰猛な笑みを浮かべた。


「俺に偉そうなこと言った奴は全員俺に殺されるか奴隷になったぜ!精々後悔させてくれよ!」


 そう言うとバフォメカは右手を大砲に変えて恭也に雷撃を放ち、恭也はその攻撃を『高速移動』で回避した。

 恭也がバフォメカの雷撃を回避したことで雷撃は恭也の後ろにいた魔神たちに向かったが、ライカが光線で迎撃して事無きを得た。


「どこに行きやがった?」


 突然恭也の姿が消えたことにバフォメカが驚く中、『高速移動』でバフォメカの頭上数メートルに移動した恭也はバフォメカに声をかけた。


「ここですよ」


 恭也の声を聞きバフォメカが視線を上に向けたが、その時には恭也は既にバフォメカの背後に立っていた。

 恭也の着地の音を聞きバフォメカはすぐに振り向こうとしたが、それより早く恭也は『格納庫』から『アルスマグナ』製の剣を取り出してバフォメカを頭から一刀両断にした。


 ホムラともランとも融合していない今の恭也では振り下ろす形でしか『アルスマグナ』製の剣は使えないため、攻撃後恭也はすぐに剣を『格納庫』にしまった。

 常人なら間違い無く致命傷となる一撃を恭也はバフォメカに与えたが、バフォメカの体は次の瞬間には何事も無かったかの様に元に戻っていた。


「残念だったな!俺は魔力がある限りいくらでも体を再生できる!そんな攻撃いくら当てたところで無駄だ!」


そう言うとバフォメカは笑みを浮かべながら恭也目掛けて雷撃を連発してきた。

 ディアンの能力で多くの魔導具を混ぜ込まれたバフォメカの体は生物というより魔神や悪魔に近くなっており、単純な物理攻撃で倒すのは不可能に近い。


 そのためバフォメカは恭也に体を斬り裂かれても余裕の表情を崩さなかったが、今の攻撃でバフォメカが殺せないことなど『魔法看破』を持っている恭也には分かっていた。

 バフォメカがどれだけ非道でも恭也にバフォメカを殺すつもりが無い以上、バフォメカの再生能力は恭也にとってそこまで問題ではなかった。


 バフォメカの体質で一番恭也が面倒だと思ったのは闇属性の魔法による洗脳が効かない点で、これはバフォメカに混ぜ込まれた魔導具の効果だった。

 この魔導具をバフォメカが装備しているなら奪い取れば済んだのだが、今のバフォメカの様に魔導具と完全に一体化していると恭也ではその魔導具だけを取り除くことができなかった。


 一番簡単な方法でバフォメカを無力化できなかったことは恭也にとって残念で、その上今のバフォメカは味覚と痛覚も無いため痛みによる制裁を与えるということもできなかった。

 バフォメカの強さはそれ程でもなかったのだが、これらの性質をディアンが改造した部下全員が持っているとしたらディアンとその部下との戦いは思ったより面倒なことになりそうだった。


 ディアンの部下全員がバフォメカと同等だと楽なのだがと思いながら恭也はバフォメカとの戦いを続け、既に何度も『アルスマグナ』製の剣でバフォメカを斬り裂いた恭也にディアンが話しかけてきた。


「おい、その金属魔神の力で創った物だろ?この戦いで使うのは反則だぞ」

「……分かりました」


 何も言わずに使えばばれないかと思ったがルール違反をディアンに指摘され、恭也は『アルスマグナ』製の金属の使用を諦めるしかなかった。


「ちょこまか逃げ回るしか能がねぇのか!さっさとかかってこい!」


 先程からバフォメカに攻撃を仕掛けてはすぐに『高速移動』で逃げるということを繰り返していた恭也の戦い方にバフォメカは怒りを露わにしながら周囲に雷撃を振り撒いた。

 既に周囲には恭也とバフォメカを除けば魔神たちとアロジュート、それにイビルアイしかいなかったため、バフォメカがいくら雷撃を放とうと人的被害は出なかったがこれまでのバフォメカの攻撃で周囲の建物にはかなりの被害が出ていた。

 そのため恭也は『高速移動』での移動を止めるとバフォメカに周囲への攻撃を止めるように言った。


「さっきから考え無しに雷撃撃ってますけど建物壊し過ぎですよ。さっき見た感じだとこの辺りの建物って今でも使われてるんですよね?」


 自分たちの戦いが始まるまでこの辺りにいた住民たちの姿を思い出しながらバフォメカの行動を非難した恭也を見て、バフォメカは忌々し気に表情を歪めた。


「何偉そうに言ってやがる!お前がはえみたいに飛び回るからだろうが!そんなに街を守りたいならこれを防いでみな!」


 そう言うとバフォメカは両腕を融合させてこれまで腕から生やしていた大砲より一回り大きな大砲を創り出した。


「これは俺の作れる最強の武器だ!お前がよければ遠くに隠れてる奴らが何十人と死ぬだろうな!さあ、どうする?」

「分かりましたよ。受けます、受けます」


 怒り狂いながら恭也を挑発するバフォメカに対し、恭也は面倒気な表情で軽く返事をした。

 最大七万程まで魔力を保有できるバフォメカの魔力は恭也との戦いを始める前の時点で三万を切っていた。


 ディアンの改造により魔力の保有量こそ増えたものの、バフォメカが一日に回復できる魔力の量は精々二百といったところだった。

 それにも関わらずバフォメカが思うままに虐殺や破壊を楽しんだ結果、今のバフォメカの魔力は最大値の半分にも満たなかった。


 具体的な数値こそ把握していなかったがバフォメカも自分の魔力の消費に回復が追い着いていないことは気づいており、最近は遊ぶ際には極力魔力を消費しないようにしていた。

 そんな時にディアンと同じ異世界人と戦える機会を得てバフォメカは喜んだ。


 ディアンの話によるとその異世界人は死んでも蘇る能力こそ厄介だが強さ自体は大したことがないらしい。

 ディアンもちょうどいい餌が来たぐらいに考えればいいと言っていたので、バフォメカは自分の魔力を増やすための作業ぐらいのつもりで恭也との戦いに臨んだ。


 事前の打ち合わせ通りディアンが敵対している異世界人に魔神の力を使わずに戦うように命じ、相手がその命令に従った時点でバフォメカは自分の勝利を確信していた。

 これで自分の魔力も増え、あわよくば異世界人の能力すら手に入れられるかも知れない。


 そう考えていたバフォメカだったが、いざ恭也と戦いを始めるとすぐに怒りに顔を歪めた。

 相手が逃げてばかりだったからで、これなら人質の一人でも用意しておくのだったとバフォメカは後悔した。


 実際バフォメカが人質を用意していれば結果はともかく戦い自体はすぐに終わっただろう。

 自分の敗北など考えてすらいなかったバフォメカはこれでようやく恭也との戦いを終わらせることができると考えながら大砲から雷撃を放った。

 

 一方の恭也はバフォメカの保有魔力が少なかったため魔力切れを狙っていたのだが、バフォメカが街への被害など気にせずに暴れ回るため方針を変えた。

 魔力の節約と手の内を隠すためにできれば攻撃用の能力は使いたくなかったのだが、このまま逃げ回っていては辺り一帯が焼け野原になってしまう。


 戦いの前にアロジュートに大口を叩いたこともあり、恭也はバフォメカを正面から打ち負かすことにした。

 バフォメカ渾身の雷撃を『魔法攻撃無効』で難無く防いだ後、恭也はゆっくりと歩いてバフォメカに近づいた。


「さすが言うだけあってさっきの攻撃はかなり強かったですね。街守る必要が無かったら死んでよけてたと思います」


 自分の最大の攻撃を受けて火傷すら負っていない恭也を見て、バフォメカは初めて恭也に恐怖を感じた。

 しかしここで戦いを止めようとしたら相手の異世界人が手を下すまでもなく自分はディアンに殺されるだろう。


 そう考えたバフォメカは何とか自分を奮い立たせて恭也に立ち向かった。

 まだ魔力は二万程残っていたが今の雷撃で殺せなかったとなるとこれ以上うかつに魔力の消費が大きい飛び道具は使えない。


 そう考えて無防備に近づいて来た恭也の腹部をバフォメカは帯電した剣で貫いた。

 この剣で貫かれたら並の人間なら瞬く間に炭化し、中級悪魔ですら内部から体を焼かれて十秒も持たずに崩壊する。


 そんなバフォメカの攻撃を受けても恭也はまるで動じることなく、それどころか『腐食血液』により恭也の体を貫いたバフォメカの剣の方が崩壊していた。

『痛覚遮断』により腹部を貫かれても全く表情を変えない恭也を見て驚きながらも、バフォメカはすぐに剣を復元して恭也に攻撃を仕掛けた。


「平気な顔をしているが俺と違って体を再生できるわけじゃないだろう?蘇られる数にも限界があるはずだ!貴様が本当に死ぬまで何度だって殺してやる!」


 そう叫びながらバフォメカは恭也の首をはね飛ばした。頭部を鈍器で打ち砕いた。体中の急所を槍で貫いた。恭也に抱き着き体中から刃物を生やして恭也を穴だらけにした。

 何度も斬り裂き、貫き、焼き尽くした。


 しかしバフォメカがどんな攻撃を仕掛けても次の瞬間には恭也は無傷で立っており、バフォメカの体は攻撃をする度に『腐食血液』で傷ついていった。

 恭也が血で攻撃をするためにわざと自分の攻撃を受けていると気づき、バフォメカは恭也に命乞いを始めた。


「お、俺が悪かった!降参する!だから許してくれ!」


 そう言って両手を上げたバフォメカを前に恭也は『埋葬』を発動した。

 左足が沈みバフォメカの体勢が崩れたところを狙い、恭也は自分の腹部を剣で斬り裂いた。

 その後恭也は『六大元素』により水魔法を発動し、『腐食血液』を発動した自分の全身の血液をバフォメカに浴びせた。


 この攻撃によりバフォメカの腹部が大きく損傷し、予想以上の攻撃を受けたことと『埋葬』により隙ができていたこともありバフォメカの再生が一瞬遅れた。

 その隙を見逃さずに恭也はバフォメカの下半身を蹴り飛ばし、バフォメカの命乞いを不機嫌そうな表情で切り捨てた。


「好き勝手暴れて勝てなくなったら命乞いなんてべたなことしないで下さい。こっちも今まであなたが殺した相手の命乞いをあなたは聞いたんですか?なんてべたなことを言わないといけないので」


 自分の命乞いを受けてもまるで取り合わなかった恭也を見て、バフォメカは戦うしかないと決意して斬り離された下半身の回収に向かった。

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