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最後の上級悪魔

 恭也たちが逃げた中級悪魔を追ってイーサンを離れた直後、ユーダムにある牧場で働いていた男たち四人の前に一体の悪魔が現れた。

 体長二メートル程のその悪魔は右手にかぎ爪の様に四本の指を生やし、左腕は肘から先が剣の様な形をしていた。


 ギノシス大河の方から来たその悪魔は全身を水で濡らしており、遠目にその悪魔の姿を確認した男たちは仕事道具を放り投げた。

 男たちの内一人がジュナたちに悪魔の襲撃を知らせるために『エアフォン』がある場所へ向かった後、残された男たちは目の届く場所に置いていた魔導具を手にし、中級悪魔らしき悪魔を倒すため動き出した。


「気をつけろ。こいつ、普通の中級悪魔と様子が違うぞ」

「分かってる。魔法に気をつけろ」


 ユーダムの住民の内居住区から離れた場所で働く者は全員が最低限の戦闘訓練を受けており、今悪魔たちと対峙している三人の内二人は中級悪魔と実際戦ったこともあった。

 そのため男たちは多少形が違うとはいえ中級悪魔の一体ぐらいなら自分たちだけで倒す自信があった。


 実際男たちが手にしている魔導具は他の場所では国に所属している衛兵しか手にできないような魔導具だったので、彼らの前にいる悪魔がただの中級悪魔なら問題無く倒せただろう。

 ジュナたちに知らせに行った同僚には悪いが自分たちだけで片づける。


 そう考えながら男の一人がウル製の剣を手に悪魔に斬りかかり、それを受けて悪魔は左腕の剣で男の剣を防ごうとした。

 しかし男が振り下ろしたウル製の剣は悪魔の左腕をたやすく斬り裂き、その後男は悪魔の左わき腹を斬り裂いて悪魔の後ろへと移動した。


 同僚が悪魔の前から去り射線が通ったことを確認した後、残る二人の男たちはそれぞれ手にした魔導具で悪魔に火球と雷撃をお見舞いした。

 二人のこの攻撃で悪魔の腹部は大きく損傷し、そのまま後ろに倒れ込んだ悪魔の背中にウル製の剣を持った男が剣を深々と刺した。

 そのまま男は剣を悪魔の頭部まで走らせてから剣を抜いた。


「終わってみればあっけなかったな」

「恭也さんの魔導具があればこんなものだろう」


 頭を斬り裂かれて倒れた悪魔を見ながら男たちは思い思いに戦いの感想を口にした。

 後は男たちの同僚が呼んで来るクノン王国の人間に報告をしてから仕事に戻るだけだと男たちは考えていた。

 しかし男の一人があることに気づき、慌てて他の二人に声をかけた。


「おい!様子がおかしい!どうしてこの悪魔消えないんだ?」


 同僚のこの叫び声を聞いて他の二人も再び緊張した表情で倒れた悪魔に視線を向け、ようやく異変に気づいた。

 下級悪魔や中級悪魔は魔力で体を修復することはできず、頭を破壊するか体の大部分を破壊すると消滅する。


 それにも関わらず男たちの倒した悪魔は一向に消滅する気配が無く、それどころか腹部から頭にできた傷がふさがり始めていた。

 こんなことは男たちが話でしか聞いたことが無い上級悪魔にしかできないはずで、男たちはすぐに逃げ出すことにした。


 目の前の悪魔が本当に上級悪魔なら自分たちはもちろん恭也の部下の魔神から加護をもらったというジュナやロップでも勝てないだろうからだ。

 すぐにホムラの眷属に知らせて恭也を呼ばなくてはと考えていた男たちだったが、そんな男たちの前に突然別の悪魔が姿を現した。


「おー、こえー、こえー。まじでそこら辺の奴が魔神の創った魔導具持ってるんだな。まさかたった三人に俺の悪魔がやられるとは思わなかったぜ」


 そう言って自分たちの前に姿を現した巨大な目玉が特徴的な悪魔を見て男たちは絶望した。

 この目玉の悪魔(恭也たちの間での通称、イビルアイ)が恭也と敵対している異世界人、ディアンの創った悪魔であることを男たちはホムラの眷属を通して知っていたからだ。


 この時点で自分たちの後ろにいる悪魔が上級悪魔なことが確定し、男たちは急いで目の前のイビルアイを倒すことにした。

 イビルアイは大した戦闘力は持っていないと聞いていたので、男たちはイビルアイを突破してそのまま居住区に逃げ込むつもりだった。


 恭也に連絡さえつけば後は恭也が何とかしてくれる。

 そう考えてイビルアイに攻撃を仕掛けようとした男たちだったが、男たちの見ている前でイビルアイは再び姿を消した。


「わりぃな。こいつは戦闘用じゃないんだ。遊ぶならそいつと遊んでくれ」


 ラインド大陸のディアンの本拠地の近くを巡回しているイビルアイと違い、ディアンが他の大陸に派遣しているイビルアイは姿を消すことしかできない大量生産の簡易版だ。

 そのため魔導具を持った男たちに襲われたら一たまりもなかったので、ディアンはイビルアイに姿を消させるとイビルアイを通して男たちに話しかけた。


「ここに来る途中で殺した連中は魔神の創った魔導具持ってなかったから助かったぜ。お前らご自慢の能恭也のくれた魔導具、自分の体で味わってみな」


 そう言われて男たちが振り向くと、先程男たちが倒した悪魔が何事も無かったかの様に立っており、元通りになった左腕から生えた剣はウル製の魔導具と同じ黒い魔力を纏っていた。

 先程とは逆に今度は悪魔が先手を取り、悪魔は使えるようになったばかりのウル製の魔導具の力を使って男二人を真っ二つにした。


「ひっ……」


 自分の隣にいた同僚二人が反応すらできずに斬り裂かれたのを見て、残された一人は悪魔に背を向けて一目散に逃げだした。

 それを受けて悪魔は右腕を大砲に変形させ、そこから雷撃を放ち男を焼き殺した。


「いやー、さすがあいつの管理してる街。いい魔導具がそろってるぜ」


 自分の創った悪魔のできに満足しながらディアンはユーダムの人間の持っていた魔導具の質を素直に称賛した。

 ディアンも自分直属の部下には強力な魔導具を渡しているが、自分が支配する街の一般人にまで魔導具を配布したりはしていない。


 これに関しては恭也の管理している街の方が異常で、ほとんどの国が一般人には戦闘用の魔導具の配布など行ってはいない。

 ディアンが今回ユーダムまで誘導してきた四体目の上級悪魔はユーダムに来る途中でギノシス大河沿いにいた二十人近いクノン王国の人間を殺したのだが、実際彼らは一人も戦闘用の魔導具など持っていなかった。


 元々は自分の遊びにちょっかいを出してきた後輩の異世界人を少し驚かす程度のつもりでディアンはこの悪魔をユーダムに連れて来た。

 上級悪魔由来の魔導具を使用して創ったこの上級悪魔は体に受けた六属性全ての魔法を再現することができ、受けた魔法をそのまま動力にして暴れ回る。


 イビルアイを介しての悪魔への命令は簡単なものしか行えず、この上級悪魔をユーダムに連れて来るのにディアンはとても苦労した。

 上級悪魔がディアンの指示に従わず見当違いの場所に出て船を何隻も沈めたりもしたが何とかユーダムに着いた今となっては笑い話で、目的地に着いた以上細かい命令を出す必要など無いため後は上級悪魔を思い切り暴れさせるだけだ。


「さあ、思う存分暴れて来い!あいつの管理してる場所なら魔神の加護持ってる奴もいるだろう!精々勉強させてもらいな!」


 ディアンの指示を受けた上級悪魔は背中から翼を生やすと先程人間の一人が逃げ去った方角へと向けて飛び立ち、イビルアイもすぐにその後を追った。

 空を飛んで移動した上級悪魔は二分とかけずにユーダムの居住区へと到着した。


「こいつが連絡にあった悪魔か!」

「ジュナ様、気をつけて下さい!牧場からの報告によると魔導具を持った男性三人が殺害されたとのことです」

「……くっ、よくも」


 先程『エアフォン』で入ったばかりの知らせをロップがジュナに知らせると、ジュナは悔し気な表情で上級悪魔をにらみつけた。


「ホムラさん!まだ恭也さんと連絡はつかないんですか?」

「今あちらでも別の悪魔が現れてマスターは取り込み中ですの!あの悪魔がディアンという男の送り込んだ悪魔なら、私たちだけでは勝ち目はありませんわ!すぐに避難を!」


 奇妙な悪魔が現れたという牧場からの報告を受け、ジュナとロップは部下を連れて牧場へと向かうところだった。

 そのためジュナの後ろにいた兵士の一人がホムラの眷属に恭也の状況を尋ねたのだが、ホムラの眷属と兵士のやり取りに横から口を挟む者がいた。


「何だ、あいつ今取り込み中なのか?」


 上空から聞こえてきた声にジュナ、ロップ、ホムラ、それに周囲の兵士たちは一斉に上空を見上げた。

 なお既に周囲の非戦闘員の避難はカムータやゼシアの指揮の下終了しており、自分たちの前に姿を現したイビルアイにホムラは話しかけた。


「上級悪魔は全てウォース大陸に送ったと言っておきながらユーダムを襲うとはあなたらしい卑劣なやり方ですわね」

「そうにらむなよ。怖くて話しにくくなっちまう。俺の悪魔が暴れる度にお前の主が得してるのが気に入らなかったから、ちょっと襲う場所を変えただけじゃねぇか」


 ホムラに嘘をついたことを非難されてもディアンは全く悪びれた様子を見せず、ホムラはそんなディアンの発言に怒りを覚えつつ話を続けた。


「先程話していた通りマスターは取り込み中ですの。後で出直してもらえると助かりますわ」

「調子いいこと言ってんじゃねぇよ。他の場所守るのはあいつが勝手にやってることだろ?俺がそれに付き合う義理は無ぇよ。お前らを見捨てたあいつと俺。好きな方恨みながら死んでいきな」


 ディアンの発言が終わると同時に上級悪魔はジュナに襲い掛かり、それを受けてジュナは精霊魔法で地面から鉄の槍数本を生やして上級悪魔を串刺しにした。

 しかしこれで異世界人が創った上級悪魔を倒したと考える程ジュナも馬鹿ではなく、すぐに周囲に指示を出した。


「私たちが勝てる相手じゃないが、今すぐ私たちが逃げたらカムータさんたちが危ない!少し時間を稼ぐぞ!できるだけ接近戦は避けろ!」


 ジュナが部下たちに指示を出す中、上級悪魔はジュナの使った土属性の精霊魔法すら再現し、地面から鉄の槍二十本以上を生やしてジュナたちに向けて撃ち出した。

 上級悪魔がジュナ同様土属性の精霊魔法を使ったことに驚きながらも、ロップはすぐにジュナや自分たちの前に風の防壁を作り出した。

 ロップの風属性の精霊魔法で作り出された風の防壁は上級悪魔が地面から撃ち出した鉄の槍を全て防いだが、ジュナたちに安堵する余裕は無かった。


「どういうことだ?まさか食らった魔法を自分で使えるのか?」

「どうやらその様です。左手の剣にウルさんの魔導具と同じ闇の魔法を宿しています」

「ウルの魔導具まで……。そんなのどうやって倒せって言うんだ」


 目の前の上級悪魔の理不尽な能力に驚いていたジュナとロップの前で上級悪魔は魔力を高め、左の剣からは風の刃を、口からは火球を、そして右の大砲からは雷撃を放ってきた。

 それらの攻撃をジュナとロップは鉄の防壁と風の防壁を作ることでそれぞれ防いだが、いつまでも守ってばかりでは魔力が持たない。

 そう考えてジュナは部下たちに指示を出した。


「魔法での攻撃は絶対にするな!多分あの悪魔は食らった魔法を動力に動いてる!こっちが魔法を使わなければその内消えるはずだ!左の剣に気をつけろ!」


 ジュナたちは恭也からディアンの創った悪魔は外部から動力を得て動いていると聞いていた。

 その際恭也が言っていた太陽電池や風力発電という単語の意味はジュナたちには分からなかったが、それでも今自分たちの前にいる上級悪魔が何から魔力を得ているかはすぐに分かった。


「ジュナ様はここでお待ち下さい。ここは私たちが。ホムラさんも決して前に出ないで下さい。恭也さんとの連絡が取れなくなります」


 遠くから攻撃する程度ならまだしも保護対象であるジュナに上級悪魔との接近戦などさせられない。

 そう考えたロップはジュナが返事をする前に兵士たちと共に上級悪魔に戦いを挑んだ。


「魔法さえ当てなければその内消えます!やられないことを優先しなさい!」


 部下たちにそう指示を出した後、ロップは腰から短刀二本を抜いて上級悪魔に斬りかかった。

 上級悪魔が振るってきた帯電した大砲を回避しながらロップは上級悪魔の右肩と腰を斬りつけ、上級悪魔の動きが思ったより遅いことに気づき少なからず安堵した。


 この程度の相手ならユーダムの住民は無理でも自分たちなら時間稼ぎ程度はできるかも知れないと考えたからだ。

 ロップを含むクノン王国から派遣された兵士たちは上級悪魔相手に一歩も引かず、上級悪魔の左腕の剣に気をつけながら上級悪魔に傷を負わせ続けた。


 その間上級悪魔も黙ってはおらず闇以外の五属性の攻撃魔法を周囲に撒き散らした。

 自分たちが使っていない光や水の属性まで上級悪魔が使ってきたことにはロップたちは驚き、最初に上級悪魔が大砲から光線を放った際に兵士数人が殺されてしまった。


 防御になら魔法を使っても問題無かったのでロップは無事だったが、このまま戦いが続くとロップはともかく防御に向いていない属性の兵士たちは長くは持たないだろう。

 正直ロップとしてはすぐに逃げ出したいところだったが、まだカムータたちがそれ程遠くまで逃げていないため倒せないまでももう少し上級悪魔の相手をする必要があった。

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