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賠償請求

 オルフートの首都、ザマイルに光速移動で向かった後、恭也は『救援要請』でシュリミナをザマイルに呼び、その後予定通り王城へと向かった。

 城門で出迎えられた恭也が案内された部屋に入ると、文官らしき男たちを左右に二人ずつ従えたヘイゲスがこちらをにらんできた。


 本来国の交渉の場に王自ら出向くことはほとんどないそうだが、ヘイゲスは先日のトーカ王国相手の賠償を求める場にも顔を出したらしい。

 その際ヘイゲスはトーカ王国の人間はもちろん部下にも怒鳴り散らし、そのせいでホムラや両国の文官が一時間もかからないと考えていた交渉が四時間近くかかったらしい。


 この話をホムラから聞いていた恭也はできればヘイゲスに席を外して欲しかったのだが、仮にも一国の王に邪魔だから席を外して欲しいなどと言うわけにもいかない。

 恭也は今の気持ちを顔に出さないように気をつけながらヘイゲスの正面の席に座り、その横にホムラの眷属が座った。

 その後一通りのあいさつをしてから恭也は本題を切り出した。


「僕が領主を務めてるエブタにある金山が欲しいって話でしたけど、ホムラからも聞いているとは思いますけどお断りします」


 オルフートとトーカ王国が戦争をした際、恭也はトーカ王国から三つの街を奪ったのだが、その内の一つ、エブタの近くにある金山の所有権を最近になってオルフートが主張し始めた。

 正直な話恭也としてはそれで話が終わるなら金山の一つぐらいオルフートに渡してもよかったのだが、この件以外にもオルフートはホムラに難癖をつけているらしかった。

 そこで恭也が直接オルフートと話をつけるべくこの場を設けたのだが、金山を渡す気は無いという恭也の発言を聞くなりヘイゲスは激高した。


「ふざけるな!貴様が現れなければあの街は我々が手に入れていたのだぞ!横からしゃしゃり出て街を三つもかすめめ取るなど、火事場泥棒以外の何物でもないではないか!」


 いきなり怒鳴り声をあげたヘイゲスを前に恭也は特に動じることなく返事をした。


「一つ勘違いしてるみたいですけど、僕が前回の戦争でオルフートに味方したのはオルフートが被害者だったからです。もし戦争で利益を得ようっていうならそれはもう加害者なので、その場合僕はオルフートを敵とみなします」


 恭也のこの発言を聞きヘイゲスの左右に控えていた文官たちは恐怖の表情を浮かべたが、ヘイゲスだけは恭也を見て嘲笑を浮かべた。


「ふん。化けの皮がはがれたな!結局は力で脅して言うことを聞かせるつもりか!所詮は貴様もディアンとかいう異世界人の同類だったというわけだ!」

「はい。その通りです。聞いてたよりは物分かりいいんですね」


 恭也を嘲笑うヘイゲスの発言に恭也自身が全面的に同意したことにヘイゲスは拍子抜けした様子だったが、すぐにまた怒号を飛ばしてきた。


「貴様、私を馬鹿にしているのか!私は本来貴様の様な人間が直接言葉を交わせる様な人間ではないのだぞ!」


 先程から自分を前に全く動じない恭也を見てヘイゲスは怒りを露わにしたが、初対面ならともかく今回は既に恭也もヘイゲスがどういう人間かは知っていた。

 そのため恭也はヘイゲスが失礼な態度を取っても我慢するつもりだったが、さすがにこの辺りが限界だった。


「相手を馬鹿にしてるのはそっちですよね?さっきからずっと怒鳴ってますけど、僕のことを対等な相手だと思ってればそんな態度取らないでしょうし。よかったですね、トーカ以外の国が近くに無くて。あなたの態度だと相手の国がどんなにがんばっても仲は悪くなってたでしょうから」

「……貴様」


 ヘイゲスの横柄な態度を見た時点で恭也にこの場を丸く治める気は無く、そんな恭也の態度を見てヘイゲスは怒りに体を震わせた。

 そんなヘイゲスをなだめながら文官の一人が恭也に話しかけてきたのを受け、恭也はこの会議で初めて緊張した。


 お互いの戦力差を考えると言葉・武力を問わず相手の脅しは恭也には通用しないが、理路整然と話されるとこういった場での経験がほとんどない恭也は相手に言い負かされる可能性があったからだ。

 そんな恭也にオルフートの文官はランの件を持ち出してきた。


「我々がトーカの土地を手に入れると能様が我々と敵対するというのなら我々もそれについては諦めます。能様と敵対するのは我々としても本意ではないですから。ですが能様が我が国から無断で持ち出した魔神については我々に所有権があると考えています。どうかご返却を」


 これまで恭也は当たり前の様に魔神を倒して仲間にしてきたが、各地の魔神の所有者が誰かと言えば魔神が封印されていた国だろう。

 ラインド大陸に封印されていたライカとフウに関してはラインド大陸を支配しているディアンから許可をもらっており、他の四人の内ラン以外の魔神が封印されていた国は理由はそれぞれだが恭也が自分たちの国に封印されていた魔神を所有していることに表向きは文句を言ってきていない。


 しかしあからさまに恭也に敵意を見せているオルフートはトーカ王国との戦争の賠償の協議が終わるとすぐにランの所有権を主張してきた。

 ラインド大陸以外の魔神の所有権については正直恭也もいつの間にか気にしなくなっていた問題で、しかもオルフートに関しては他の国を相手にする時の様に『どうせ自分たちでは魔神を倒せないのだから恭也が仲間にしても構わないだろう』と突っぱねることもできなかった。


 オルフートは封印状態の魔神から魔力を吸い上げる技術を持っているからだ。

 そのためオルフートがランの所有権を主張すること自体は当然のことだったので、恭也は文官の発言を受けてすぐにランを刑務所建設の現場から召還した。


「この魔神がオルフートに封印されてた土の魔神です。さっきその人が言った通りこの魔神はオルフートのものだと思うのでお渡しします。これまで僕が使ったこの魔神の魔力は戦争直後にオルフートの人たちの傷を治した費用ってことで大目に見て下さい」


 そう言って恭也はランをオルフート側に差し出したが、ここまでの流れ自体はホムラの予想通りで事前にランにも伝えてあった。

 そのため恭也にオルフートへと引き渡されてもランは動じておらず、魔神のランの反応はともかく恭也が自分たちの要求をあっさり受け入れたことに文官たちだけでなくヘイゲスも不審そうな表情を浮かべていた。

 そんなヘイゲスたちに恭也は自分の協力者を紹介することにし、恭也が合図をすると今まで光属性の魔導具で姿を消していたシュリミナが姿を現した。


「なっ、この女は……」


 シュリミナを見て文官の一人が声を荒げ、他の文官たちやヘイゲスも驚きの表情を浮かべていた。

 そんな彼らにシュリミナは若干緊張した様子で話しかけた。


「お久しぶりです、ヘイゲス様。今日は私を二年近く牢に入れて私の能力や魔力を利用していたことに対する賠償請求のためにここに来ました」


 シュリミナのこの発言を聞き、ヘイゲスは殺意すら込もった視線を恭也に向けてきた。


「……貴様ら、最初からこのつもりだったな」


 この状況では恭也とシュリミナが手を組んでいることは一目瞭然だったが、ヘイゲスの質問を受けて恭也は素知らぬ顔をした。


「そんな、巻き込まれても困ります。僕はこの国から勝手に持ち出した魔神を返せって言われたから返しただけで、あなたたちとシュリミナさんとの問題には関係無いじゃないですか。みなさんの問題に口出す気無いのでどうか気にしないで話進めて下さい」


 恭也のこの発言を受けてヘイゲスは怒りに体を震わせ、そんなヘイゲスを横目にシュリミナはオルフートに賠償を求めた。


「私から奪った二年分の魔力と慰謝料として金貨五百枚を今すぐ用意して下さい」

「そんな大金を払えるわけがないだろう!」


 シュリミナの求めた賠償の内容を聞くなりヘイゲスは怒鳴り声を上げた。

 シュリミナが賠償金として求めた金貨五百枚とは今回オルフートがトーカ王国から受け取る賠償金の十分の一に当たる額で、二年間牢に入れられていた程度でこれだけの額の賠償金を求めてくる異世界人の浅ましさにヘイゲスは怒りを覚えずにはいられなかった。

 そんなヘイゲスをなだめながら文官の一人がシュリミナに話しかけた。


「我が国があなたにしたことは心からお詫びします。ですが金貨五百枚は一個人への賠償としてはあまりにも高過ぎます。金貨二十枚でどうでしょうか?」


 オルフートの文官が口にしたこの妥協案にすらヘイゲスは不機嫌そうにしていたが、シュリミナはこの妥協案を一蹴した。


「私は今自分の能力で病人や怪我人を治療して月に金貨五枚は稼いでいます。捕らわれていた二年間で私が稼げたお金に精神的な苦痛を考えたら金貨五百枚は最低限の額です。もちろん分割でもいいですよ」


 ヘイゲスもオルフートの文官たちも恭也にさらわれた時点でシュリミナのことなどすっかり忘れていた。

 もちろん彼らにシュリミナへの罪悪感などかけらも無く、そのためシュリミナからの賠償請求はオルフート側にとって不意打ち以外の何物でもなかった。

 結局オルフート側はシュリミナが求めた賠償の内容以上の条件を用意できず、そんな彼らにシュリミナはある提案をした。


「私の方から来るまで謝罪にすら来なかったあなたたちと長々と話す気はありません。だからどうでしょう?私が土の魔神をもらうってことで手を打ちませんか?」


 シュリミナがそう言った瞬間、オルフート側の人間全員の視線が恭也に集中したが、シュリミナはそれには構わずに彼らに駄目押しをした。


「私の魔力二年分を今すぐ弁償できるって言うならそれでもいいですけど無理ですよね?魔神をくれるならお金の方は我慢しますよ?」

「……陛下」


 シュリミナの発言を受けて恐る恐る文官がヘイゲスに声をかけると、しばらく黙り込んだ後でヘイゲスは恭也とシュリミナをにらみつけた。


「今回は魔神をくれてやる。だがこれで勝ったと思うなよ。必ず今日のことを後悔させてやる」

「話がまとまったみたいでよかったです。じゃあ、僕たち帰りますね」


 恭也がそう言うとランはシュリミナではなく恭也のもとに戻り、既にシュリミナとは話がついていたため恭也はランと融合した。

 そして恭也が席を離れると同席こそしていたが今回の交渉でほとんど口を開かなかったホムラがヘイゲスに話しかけた。


「今日は実りのある話し合いになってよかったですわ。マスターといえども同じ異世界人を相手にするとなると苦戦はまぬがれませんから、この世界の方々とは仲良くしていきたいですものね」


 常々他の魔神たち同様恭也がディアンに負けるわけないと言っているホムラがこの様な発言をしたのが恭也には意外だったが、それでも対外的な態度と仲間内でのノリが違うのは当然かと考えて恭也はホムラの眷属を残してシュリミナと共にイーサンへと戻った。


 イーサンに戻った後、恭也はすぐに『救援要請』を使ってシュリミナをイーサンに呼び戻して先程の交渉についての礼を述べた。


「今日はありがとうございました。シュリミナさんがいなかったらここまで交渉うまくはいかなかったと思うんで本当に助かりました」


 トーカ王国の領土の問題はともかくオルフートに無断でランを仲間にした件は正面から突っ込まれると恭也も反論できなかったので、言葉を選ばずに言うならシュリミナがオルフートからあの様な扱いを受けていなかったら恭也もあれ程強気には出れなかっただろう。


 最悪の場合ランは差し出さないにしても魔力を一万だけ持ったフウの分身を差し出すぐらいの覚悟はしていたので、ヘイゲスの短絡さのおかげもあり今日のオルフートとの交渉は恭也にとって好都合な結果となった。

 しかしこちらの世界に来てから知り合った家族と共に自分をオルフートから救ってくれた恭也に少しでも恩を返したいと思っていたシュリミナからすれば、今日の件は助かったぐらいだった。


「少しでも恭也さんの役に立てたなら嬉しいです。こう言っては何ですけどオルフートのみなさんの悔しそうな顔が見れてすっきりもしましたし」

「……じゃあ、お互い得したってことでこの話は終わりにしましょう。それとオルフートの元将軍のエイカさんとイオンさんがその内シュリミナさんに謝りたいって言ってました」

「イオンっていう人には会ったことがありますね。恭也さんには悪いですけど正直オルフートのことはあまり思い出したくないので、もうこの件でオルフートの人に会いたくはないんですけど……」


 シュリミナにこう言われて恭也は正直困った。

 このシュリミナの発言をエイカとイオンに伝えると、今度はエイカとイオンが困るだろうからだ。

 しかし二年以上も牢に閉じ込められて電池代わりにされていたという事実を早く忘れたいというシュリミナの気持ちも当然だったので、今のシュリミナの発言はそのまま二人に伝えようと恭也は決めた。


 突き放す様な言い方になるがオルフートがシュリミナにしたことを考えると、罪悪感を持ったままこれからも過ごすぐらいの罰は受けて当然だと恭也は考えたからだ。

 そのため恭也はこの話はここで終わりにし、そのままヘクステラ王国にランを送るために光速移動をしようとした。

 ちょうどのその時、衛兵の一人が慌てた様子で恭也たちのもとへと現れた。


「シュリミナさん!あ、能様もいたんですか、大変です!悪魔に襲われて同僚たちが何人も怪我を!」

「悪魔って上級悪魔ですか?」


 とうとうディアンの創った上級悪魔の四体目が来たかと身構えた恭也だったが、衛兵の話によると中級悪魔一体と下級悪魔数十体というごく普通の野生の悪魔の群れが現れただけとのことだった。

 衛兵のこの報告を聞き恭也は多少緊張を解いたが、中級悪魔を取り逃がしたと聞いてすぐに気を引き締めた。


 今はディアンの相手だけで手一杯なので、また何かのきっかけで中級悪魔が上級悪魔になっても困るからだ。

 恭也はウルの羽を生やすと、衛兵から悪魔が現れた場所を聞いてすぐに向かった。

 恭也が現場の城壁の上に着くと負傷した衛兵数人の姿があった。


 恭也が所有あるいは助力している街の衛兵たちには中級悪魔程度なら軽く返り討ちにできる魔導具が配備されているが、今回は悪魔の襲撃が見張りの交代の時間と重なったため想定以上の被害が出たとのことだった。

 死者は出ていないとの衛兵の報告を聞き、恭也は安堵しながら負傷した衛兵たちに『治癒』を使用した。


 その後衛兵たちから話を聞いたところ、逃げた中級悪魔は西の方に飛び去ったらしく、恭也はすぐに中級悪魔を追うことにした。

 今恭也に同行している魔神たちでは索敵に向いた能力が使えなかったので、恭也は人海戦術を取ることにした。


(アロジュートさん、天使をできるだけ、六百人とか出せますか?)

(余裕よ。ついでだから言っとくけど三千体まで召還できるわ)

(……とりあえず六百人でお願いします)


 まだ中級悪魔が逃げてからそれ程時間が経っておらず、時刻も正午を少し過ぎた頃のため探索にはそう苦労しないだろう。

 中級悪魔の発見と撃破があっさり終わった場合、あまり多くの天使を動員するとイーサンの住民たちに不要な恐怖を与えることになる。


 そう考えて恭也は天使の召喚を最低限に抑え、自分とアロジュート、そして今自分に同行しているウル、ホムラ、ラン、ライカの分の天使を百人ずつ召還してもらうことにした。

 アロジュートが天使を召還し終えると、恭也はアロジュートや魔神たちと大まかに担当する方角を決めてそれぞれの方角に散らばった。

 

 恭也たちが中級悪魔を追い始めて三十分後、無事中級悪魔を倒し終えた恭也がイーサンに戻ると、先にイーサンに帰っていたホムラが慌てた様子でこちらに向かって来た。


「どうしたの?」


 ホムラの慌てた表情を見て恭也は嫌な予感を覚え、残念ながら恭也の予感は的中した。


「大変ですわ!ユーダムに上級悪悪魔らしき悪魔が現れましたの!」

「は?ユーダムに?それってディアンさんの?」


 いきなりホムラが告げた報告の内容に恭也は自分の耳を疑い、そんな恭也にホムラは報告を続けた。


「それは分かりませんわ!けれどユーダムにいる眷属からこの知らせが入ったのが二十分程前のことですから、急いだ方がいいですわ」


 ディアン関連の事件が起きた際に備え、恭也はできるだけホムラかホムラの眷属を自分の近くに配置するようにしていた。

 しかし今回恭也は中級悪魔を探すためにホムラと別行動を取り、その上探索のためにあちこち移動したため眷属を近くに置いておくこともできなかった。


 よりによってこんな時に上級悪魔が現れるとはついていないが、今自分の不運を呪ってもしかたがない。

 恭也はすぐにまだイーサンに戻っていなかった魔神たちを呼び戻して手短に事情を説明した。


(アクアたち呼ぶか?)

(いや、ウルたちもいるしアロジュートさんもいるから今いるメンバーで何とかなるでしょ)


 他の魔神を呼ぼうというウルの提案を恭也はすぐに拒否した。

 自分と魔神四人に加えてアロジュートまでいるのだから上級悪魔の一体程度どうにでもなるだろうと考えたからだ。


 それよりもウォース大陸ばかり警戒していた状況でユーダムが襲われたことの方が問題で、もしユーダムに現れたという上級悪魔がディアン製ならディアンの様な男の言う事を真に受けてとんでもない失敗をしたことになる。

 自分のうかつさを恨みながら恭也はユーダムに向かった。

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