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意識の変化

「お疲れ様です」


 盗賊たちを倒して自分のもとに戻って来たアロジュートとエイカに恭也はねぎらいの言葉をかけ、それを受けてエイカはばつが悪そうにしていた。


「さっきのラミアの魔法には驚いたわ。イオンから聞いてなかったら多分何されたかも分からずに負けてたと思う」

「ああ、途中で動き止めてましたけど何かあったんですか?」


 さすがに戦闘中ずっと『魔法看破』を発動しているわけにもいかなかったので、恭也は今回の戦闘中に起こったことをほとんど把握していなかった。

 そのためエイカから負けていたかも知れないと聞かされて恭也は驚き、その後エイカから詳しく話を聞きラミアの使ったという魔法に興味を持った。


「たった二人で今のエイカさんの意識を一瞬奪う魔法ですか。ラミア以外でも使えたら結構便利そうですね」


 この魔法がラミア以外の種族でも使えたらギルドへの加入者をもっと増やせるかも知れないと恭也は考えた。

 ギルドへの加入希望者の内、魔導具無しではまともに戦えない闇属性の人間の割合が少なかったからだ。


 詳しい話はそのラミアたちに話を聞いてからになるが恭也はその辺りの諸作業はホムラに任せることにし、歩けない程の重傷を負った盗賊たちの治療を終えると盗賊たちの隠れ家に向かうことにした。


「じゃあ、エイカさん、この人たちのことお願いします」

「ええ、任せておいて」


 そう言うとエイカは魔導具でマンタを召還して刑務所の建設予定地へと盗賊たちを連行した。

 今回捕えた盗賊たち、及び彼らへの協力者は二ヶ所に建てる刑務所に収容する予定で、今回建てる刑務所はハーピィの逃亡を防ぐ必要がある上にギルドの支部も兼ねているためいつもより大掛かりな建物になる予定だった。


 そのためそれぞれの現場でランとアクアが作業の支援を行うことになっていたが、それでも今回の刑務所の完成には一ヶ月以上かかる見込みだった。

 アロジュートとエイカに打ちのめされて心を折られた盗賊たちをアロジュートが召還した天使たちと共に連行するエイカを見送った後、恭也は盗賊たちの隠れ家に向かう前にアロジュートにある質問をした。


「今日たくさん天使召還してますけど神聖気とかいうの持つんですか?」


 先程の戦いでアロジュートは盗賊たちの逃亡を防ぐためだけに二百体もの天使を召還しており、アロジュートの天使としての能力は『魔法看破』の対象外だったこともあり恭也はアロジュートに無理をさせているのではと心配になった。

 そんな恭也を見てアロジュートは不敵な笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。座天使や主天使ならともかく天使ぐらいなら千体召還しても大して神聖気は使わないわ。今日は神聖気二割も使ってないし今も回復してる。これはあんたが多くの人間から感謝されてる証拠よ。胸を張りなさい」

「はあ、どうも」


 神聖気の回復具合はアロジュートにしか分からないのでそれを根拠にほめられて恭也は反応に困ったが、とりあえずアロジュートに礼を述べると盗賊たちの隠れ家に向かった。

 その後恭也は隠れ家で盗賊たちを捕え、捕らわれていた人々の救出と盗品の回収も終えるとアロジュートに盗賊たちの連行を頼み自分は隠れ家に捕らわれていた人々を連れて街へと向かった。


 恭也が近くの街、ドパミアに着いた頃には他の場所での作業も終わっており、恭也は既に刑務所建設に取り掛かっているランとアクア、そして分身を総動員して各地で天使たちの指揮を取っているフウ以外の魔神と合流し、盗賊たちへの協力者を捕えるために兵士たちが集められている場所へと向かった。


 結局全ての街で盗賊たちの協力者を捕え終わった時には夜八時を回っており、肉体的にも精神的に疲れていた恭也はそのまま宿へと向かった。


 ヘクステラ王国南部で盗賊たちを捕えた翌日、午後にオルフート訪問を控えた恭也は午前中に刑務所建設を行っているランのもとを訪れた。

 ヘクステラ王国南部に恭也が新しく建てる刑務所の内、西側の刑務所をアクアが、東側にある刑務所をランが担当することになっており、ここに来る前にアクアが担当している現場にも恭也は顔を出していた。


 恭也が現場に着くと現場にはランとホムラの眷属、それに天使二十体程がいた。

 この現場に人間の姿が無いのは昨日の盗賊たちの一斉検挙を秘密にしていたため、それに伴う刑務所の建設を前もって知らせることができなかったからだ。

 今頃はヘクステラ王国南部の各街でこの刑務所建設のための人手を募集しているところで、本格的な工事の開始は数日後になるだろう。


 実際ランも正式な刑務所が完成するまでに使う間に合わせの刑務所を作った後は魔法でひたすらレンガや鉄を作っているだけで本格的な作業には入っていなかった。

 ここに連行されてくる盗賊たちは徒歩での移動のため到着は早くてもあさってになり、今回の刑務所建設に参加する予定のヘクステラ王国の人間も同様だった。


 盗賊たちの連行を終えたらそのままゾアースに帰るエイカはともかくアロジュートとの合流は早くてもあさって以降になる予定で、今ディアンの悪魔が現れたら色々と面倒なことになってしまうがこればかりはしかたがなかった。


「……ごしゅじんさま、おはよう」

「うん。おはよう。しばらくは暇だと思うけどここに作る建物すごい大切なものだからよろしくね」

「……任せて。ごしゅじんさまの助けを待ってる人はたくさんいるからギルドのために立派な建物を作ってみせる」

「……急にどうしたの?」


 恭也の指示に従っているだけで魔神たちのほとんどがギルドの活動自体には大して興味が無いことは恭也にも伝わっていた。

 そのためいきなりギルドについて言及した上にやる気も出しているランの態度を見て恭也は驚き、恭也同様ランの発言を聞いて魔神たちも驚いているようでウル、ホムラ、ライカと融合していた今の恭也にこの三人の驚きが伝わってきた。


 しかしランの発言を聞いた魔神たちが抱いた感情は驚きというよりは動揺だった。

 数日前の魔神たちの会議で恭也が寿命で死ぬという話になった時、ギルドを大きくしてこの世界の人間の恭也への依存度を上げれば恭也が死なずに済むかも知れないという結論になった。

 しかし魔神たちとしてはこのことを伝えて恭也に余計な気苦労をさせるのは本意ではなかったので、魔神たちは自分たちのこの考えを恭也には伝えないことにした。


 ランもこのことに同意していたのだが、つい口を滑らせてしまったのだろう。

 実際ランも自分の発言を聞いた恭也の反応を見て焦っている様子だった。

 とりあえず何とかごまかそうとしたホムラより早く、ウルが恭也に話しかけた。


(恭也の思ってる通り、俺やランは別にこの世界の人間助けたいなんて思ってねぇし、ギルドにも別に興味はねぇよ。でも恭也に面倒な仕事なんて止めて欲しいとは思ってる。でもこう言っても恭也は聞かないだろ?で、この前俺たちだけで話し合った時、さっさとギルド大きくすれば恭也のすることも減るんじゃねぇかってことになったんだ。ランがやる気出してるのはそういう理由だ)

(ああ、なるほど)


 分かっていたとはいえここまで正面からギルドに興味が無いと告げられて恭也は少なからず落ち込んだが、理由はどうあれ魔神たちがギルドの普及に力を入れてくれること自体は大歓迎でその理由も恭也のためだ。

 そのため恭也はウルの発言に対して何も言わなかったのだが、ウルの発言についてホムラが謝罪してきた。


(申し訳ありません、マスター。私たちは別にマスターのしていることを軽視しているわけではありませんの)


 先程のランのギルドに関する発言についてホムラがすぐに取り繕えなかったのは事実だが、かといってウルの様にあけすけに自分の考えを伝えられても困る。

 また魔神たちに地道な仕事より戦闘を好む傾向があるのは事実だったが、ホムラやアクアの様にギルドの普及を含む恭也の活動を支えている現状に満足している魔神がいることも事実だった。


 そのため今のウルの発言が魔神たちの総意だと恭也に考えられるのだけはホムラとしては避けたかった。

 ホムラは自分の気持ちを融合時にもあまり恭也に伝えないようにしており、今回もそうだった。

 しかしホムラが何やら心配していることを感じ取った恭也はホムラに安心するように伝えた。


(そこまで気にすることないよ。みんなが僕のこと馬鹿にしてないのはよく分かってるから)


 恭也はどちらかと言えば魔神たちは主である自分を過大評価することが多いと考えていたので、ホムラの今回の心配は杞憂に過ぎなかった。

 しかし自分の発言を聞いてもホムラが安心できていない様子だったので、恭也は茶化す様な口調でホムラに話しかけた。


(みんなの性格とか趣味が違うのは当然だし、それをどうこう言う気は無いよ。ほらホムラだって強い相手と戦ってる時、めんどくさいと思ってるけど手は抜いてないから僕別に何も言ってないでしょ?)


 恭也のこの発言を聞きホムラは動揺してウルは噴き出した。

 そんな二人の反応を受けて恭也は自分の考えを伝えた。


(できるだけみんなの望みは叶えたいと思ってるけど、これからも苦労をかけることの方が多いと思うけどこれからよろしくね)

(おう、任しとけ)

(はい。お任せ下さいまし)

(了解っす)


 恭也の発言を聞き恭也と融合していた魔神たちが三者三様の答えを返すのを聞いた後、恭也はランにも同様のことを伝え、その後『降樹の杖』をランに渡してからトーカ王国へと向かった。

 シュリミナに管理を任せているトーカ王国の街、イーサンの領主の館にはライカの移動用の魔導具が設置されているので、恭也はランと別れた直後イーサンにいた。


 まだ約束の時刻まで時間があったこともあり、恭也は昼食がてら久し振りに来たイーサンを歩いて回った。

 その後恭也は領主の館を再び訪ね、イーサンの領主代行を務めているシュリミナに会った。


「久し振りです。今日は忙しい中ありがとうございます」

「いえ、今日は一日予定を空けていたから大丈夫ですよ。それに特別な用でも無いとこうして恭也さんとも会えませんし」


 今回の訪問は事前に約束していたものだったが、それでも恭也はシュリミナにわざわざ時間を作ってもらったことを申し訳無く思った。

 先程の恭也がシュリミナに言った忙しい中というのは決して社交辞令で言ったわけではなかったからだ。


 現在シュリミナはトーカ王国内の恭也が領主を務めている街以外の街でも能力による治療を行っており、イーサンにいることの方が少ないぐらいだった。

 そんな多忙なシュリミナに今日時間を作ってもらったのはこれからオルフートで行うヘイゲスとの会談にシュリミナの力が必要だったからだ。


 この件については既にシュリミナにも伝えてあり、出かける準備をしてくると言ってシュリミナは部屋を出ていった。

 することが特に無かった恭也はシュリミナが残していった書類を見て顔をしかめた。


(……また来てる。しかも四人も)


 恭也が手にした書類はトーカ王国の貴族や資産家からの結婚や見合いについてのもので、ホムラによるとこの手の手紙は恭也が領主になってしばらくしてからひっきりなしに来ているらしい。


(僕に恋人、というか婚約者がいるってトーカの人も知ってるんだよね?)


 自分にトーカ王国の貴族や資産家から結婚や見合いの話が来ていると聞き、恭也はホムラに頼んで既に恭也には婚約者がいるという事実をトーカ王国中に知らせていた。

 それにも関わらずこの手の手紙はその後も来続けて恭也を悩ませていた。


(この世界ってお金持ちは一夫多妻が多いから一人婚約者がいるって発表しても意味が無いのかな?)

(それもあるとは思いますけれどマスターの場合は婚約者がノムキナ様ということで諦めない人間が多いんだと思いますわ)

(どういうこと?)


 ホムラの発言の意味が分からず戸惑った恭也にためらいがちにホムラは説明を続けた。


(ノムキナ様が庶民の出だと知って侮っている人間が多いんですの)

(ああ、そういうこと)


 ホムラの説明を聞き恭也はようやく現状を正しく理解して不快気に顔をしかめた。


(どうしようかな。トーカ王国の人間と結婚する気は無いって発表するのも何か違うよね?)

(はい。その言い方だとただの差別発言だと取られかねませんし、そもそもダーファ大陸でも同じ様な話は何件も来ていますわ)


 以前ならともかく今の恭也は複数の相手と結婚すること自体に抵抗は無かったが、かといって積極的に複数の相手と結婚する気も無かった。

 政略結婚ともなるとなおさらで、自分を好きになってくれる人間がノムキナ以外にいるとは思えない恭也からすれば現状はひたすら面倒なだけだった。


 なおホムラがその気になれば恭也に来ている結婚や見合いの話を恭也に伝えずに断ることもできた。

 しかしそれをホムラがしなかったのは恭也に政略結婚への忌避感を持たせるためだった。


 実際恭也の結婚に対する考えはここ最近の貴族や資産家からの手紙を受けて一夫多妻など無理という考えから政略結婚など無理という考えに変わり、今では恭也は相手次第では一夫多妻は別に問題無いと考えるようになっていた。


 そんなホムラの企みも知らずに恭也が今もどうやってこの問題を解決するか悩んでいると、扉を叩く音がしてシュリミナが部屋に入って来た。

 とりあえずこの問題は後で考えることにして恭也はシュリミナと共にオルフートへと向かった。

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