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エイカ

 恭也がエイカとイオンに加護を与えた翌日、恭也は予定通りヘクステラ王国内の盗賊の一斉摘発に取り掛かった。

 今回おとりの場所を走らせる街道の内、ゾアースから一番離れた街道に恭也が着くと、予定通り荷台に貴金属が積まれた馬車二台が街を出るところだった。

 恭也が姿を消してその馬車を追っていると、馬車が街から離れたところで二十人程の男たちが馬車を取り囲んだ。


「おい、今すぐ馬車から降りろ!大人しく従えば命までは取らない!」


 盗賊たちのまとめ役らしき男が手にした槍型の魔導具を突き付けて馬車の御者たちを脅すと、馬車の御者たちは両手を挙げて馬車から降りた。

 御者たちが馬車から降りるなり彼らの近くにいた盗賊たちは御者たちを殺そうとしたが、それを予想していた恭也は姿を現して周囲の盗賊たちを闇属性の魔法で洗脳した。

 洗脳されて棒立ちになった盗賊たちに目もくれず、恭也は御者たちに声をかけた。


「僕は異世界人の能恭也です。この人たちの相手は僕がするのでとりあえず街に帰って下さい」


 今回おとりとして用意した馬車は盗賊たちへの情報漏れを避けるためにヘクステラ王国や恭也の名前を使わずに用意した。

 そのため御者たちは何も知らされておらず、恭也が現れるまでは自分たちは盗賊に殺されると思っていた。


 そんなところに噂の異世界人が現れたのだ。

 彼らはわけも分からないままその場を後にし、慌てて街へと逃げていく御者たちを見送った後恭也は盗賊たちの手にした魔導具を見てため息をついた。


(ねぇ、この人たちの持ってる魔導具って……)

(えぇ、本来は正規の衛兵しか持っていないはずのものですわ)


 恭也の言葉の足りない質問を聞き、ホムラは正確に恭也の心配を肯定した。

 現在恭也の前にいる盗賊たちの恰好は統一こそされていなかったが、どう見ても衛兵ではなかった。

 衛兵がそのままの恰好で盗賊行為を行っていてもそれはそれで反応に困るが、目の前の盗賊たちが戦闘用の魔導具を持っている以上、彼らあるいは彼らへの協力者の中に衛兵がいることは間違い無かった。


 この事実自体はホムラから聞いて恭也は知っていたが、実際自分の目で確認すると思わず嘆かずにはいられなかった。

 しかし今日はこの後何ヶ所も回らないといけないので、恭也は気持ちを切り替えてホムラとの融合を解いた。


「じゃあ、後は頼むね。この人たちを刑務所に入れた後はホムラの好きにしていいけど、今日は逮捕優先でよろしく」

「はい。分かっておりますわ。一人も残さず捕まえてみせますのでご安心下さいまし」


 そう言ってホムラは洗脳された盗賊たちに先導され、アロジュートの召喚した天使たちと共に盗賊たちの隠れ家へと向かった。

 盗賊たちの隠れ家には奪われた金品の他に誘拐された人間もおり、その上盗賊たちの全員が毎回襲撃に参加するわけでもない。


 そのため盗賊たちによる馬車襲撃の現場を押さえた後も誘拐された人々の救出や隠れ家に残っている盗賊の身柄の確保などすることは多かった。

 今日中に全ての街道で盗賊を捕えて諸々の後始末をし、その後ここ最近盗賊たちの犠牲になった人々の蘇生まで行わなくてはならない。


 手早く済ませないととても今日中には終わりそうになかった。

 その後も各街道で盗賊たちの馬車襲撃の現場を押さえ、その場を魔神たちに任せて恭也はゾアースでエイカと合流した。


「思ったより早かったわね」

「まあ、現場のことは魔神たちに任せて来ましたから。どっちかというとこれからが忙しくなるでしょうし」


 ホムラ以外の魔神たちにもホムラの眷属をつけているので問題は無いと思うが、今回の盗賊の摘発は現場を押さえてからが本番だ。

 そのためこれまでは各街道に魔神たちを残してくるだけでよかった恭也も今は多少緊張していた。


 といっても最後の現場も恭也はアロジュートとエイカに任せるだけなので特に緊張する必要は無かったのだが……。

 見ているだけというのも疲れるものだなと感じながら恭也はマンタを召還してエイカと共に目的地の街道へと向かった。


 今日何度も見た盗賊たちによる馬車襲撃の現場を押さえ、御者たちを逃がしてから恭也はエイカとアロジュートと共に盗賊たちと対峙した。

 無力な相手に略奪をするだけのつもりだった盗賊たちの恭也に対する反応はどの街道でも変わらず、大きく分けて二通りだった。


 盗賊たちの大半は自分たちが罠にかけられたことに絶望するのだが、どの集団にも必ず数人は恭也への敵意を燃やす者がいた。

 その気迫を別の事に向けて欲しかったと嘆きつつ、恭也は盗賊たちに話しかけた。


「どうも異世界人の能恭也です。あなたたちを捕まえに来ました。先に言っておくと大人しく捕まれば手荒なことはしない、なんて言うつもりはありません。あなたたちにはここでかなり痛い目に遭ってもらうつもりですから」


 今回恭也たちが相手取った盗賊についての報告をホムラから聞き、恭也はまずその人数に驚いたのだが一番恭也を驚かせたのは各地の盗賊同士が無関係だったことだ。

 彼らは別にヘクステラ王国南部で暗躍する巨大盗賊団というわけではなく、全く無関係の各地の人間がそれぞれに職を失った後の食い扶持として盗賊を選んだ結果ヘクステラ王国南部の街道の治安が一気に悪化したらしい。


 この事実をホムラから聞かされた時、恭也はヘクステラ王国の国民の良識を疑ってしまった。

 また現在ヘクステラ王国南部で活動している盗賊たちの中には亜人も何人か含まれていると聞いた時には恭也は頭を抱えたが、いつまでも嘆いてばかりもいられなかった。


 そして今後同じ様な事態が起こらないようにするために恭也は今回の盗賊たちへの制裁は徹底的にやるつもりだった。

 恭也は今回魔神たちにも殺さなければ盗賊たちに何をしてもいいと伝えており、間違っても無傷での逮捕などしないようにと厳命していた。


 この指示を受けて他の魔神はともかくホムラがやり過ぎないかが不安ではあったが、ホムラは頭がいいので優先順位を間違えたりはしないだろう。

 そう考えて久々に魔神を一人も連れずに行動していた恭也に盗賊の一人が嘲笑を向けてきた。


「けっ、いつも女を侍らせてる正義の味方気取りの偽善者。話に聞いてた通りだな」

「ほんと、参っちゃいますよね。あなたたちみたいな悪人が多いから僕みたいな偽善者ががんばらないといけなくて」


 盗賊の口にした偽善者という恭也への評価はこれまでさんざん言われてきたことだったので恭也は全く気にせず、すぐに盗賊の発言の女を侍らせているという部分に触れた。


「僕に力を貸してくれてる人女の人ばっかりってわけじゃないんですけど、まあ普段の僕見てるとあまり説得力は無いですよね。もし女性相手だとやりにくいってことならこれなんてどうですか?」


 そう言うと恭也はガーニスからもらった鎧騎士を召還した。

 恭也の横に突如現れた巨大な鎧騎士を見て、盗賊たちばかりではなくアロジュートとエイカも驚いていた。


「それもあんたの能力?」

「いえ、これはこの前話した異世界人のガーニスさんからもらったものです。あんまり使う機会無いですけど」

「ふーん」


 アロジュートは恭也からガーニスとその能力について聞いてはいたが、ガーニスの鎧騎士を実際に見るのはこれが初めてだった。

 そのためか恭也が召還した鎧騎士をまじまじと見ていたアロジュートを横目に恭也はマンタを呼び出し、その後『隔離空間』を発動した。


 その後恭也の後ろに現れた体長数メートルの怪物を見て盗賊たちは一人残らず恐怖に言葉を失った。

 最後の怪物は『幻影空間』で創ったただの幻だったが盗賊たちにそれを知る由は無く、立て続けに巨大な存在を召還した恭也を前にしても反抗的な態度を取れる者は盗賊たちの中には一人もいなかった。


「どうします?その二人と戦うのが嫌なら僕が呼び出したこれと、」

「ちょっと待ちなさい」


 鎧騎士に目をやっていた内に恭也が妙な方向に話を進めていたことに気づき、アロジュートは慌てて恭也の話を遮った。


「あたしの活躍の機会奪うんじゃないわよ。魔力まで無駄使いして……」

「今使った能力はそこまで魔力使わないから大丈夫ですよ」


 そう言って恭也が能力や各種召還を解除した後、エイカが口を開いた。


「今回はあなたが出るまでもないわ。街から女性を何人もさらっておいて、今さら女とは戦えないなんて馬鹿な事言わないわよね?」


 そう言って『エルウィスカ』を創り出したエイカは盗賊たちに侮蔑の視線を向けながらアロジュートに話しかけた。


「じゃあアロジュートさん、お願いします」

「了解」


 エイカの指示を受けてアロジュートは飛び上がり、その後盗賊たちを挟んでエイカの反対側に降り立った。

 それに合わせてエイカは盗賊たちの左右に氷の壁を創り、その後アロジュートは天使数十体を召還して自分の左右に隊列を組ませて盗賊たち三十人余りの逃げ道をふさいだ。


 エイカも同様に自分の左右に氷の壁を創ったのを見て、『隔離空間』を使うぐらいはしようと思っていた恭也はこの場で自分が何かする必要が無いことにようやく気がついた。

 とりあえず二人の活躍をきちんと見届けようと考え、恭也はマンタを召還して上空から二人が盗賊たちを殲滅するのを見学することにした。


「言っておくけどあなたたちの様な人間にかける情けは持ち合わせていないわ。抵抗しないっていうならそれはそれでご自由に」


 そう言ってエイカは近くにいた盗賊の一人に斬りかかり、それを受けて盗賊は帯電した斧型の魔導具で『エルウィスカ』を受けた。

『エルウィスカ』は盗賊の持った斧をまるで紙の様に斬り裂き、続いてエイカが振るった『エルウィスカ』の一撃で盗賊の両腕はひじから両断された。

 腕を斬り裂かれた痛みと凍りついた傷口から伝わる痛みに悲鳴をあげる盗賊の腹部を蹴り飛ばし、エイカは次の標的に視線を向けた。


「こ、こいつ、オルフートの将軍だぞ!」

「どうしてこんなところにいやがる?」

「おい、あれをやれ!」


 話でしか聞いたことがないオルフートの将軍が自分たちの目の前にいることに驚きながらも盗賊の一人が叫ぶと、ラミア二人が前に出て来てエイカを挟む様に立ち闇魔法を発動した。

 ラミアが出て来た時点で相手が闇属性の魔法を使ってくることはエイカも予想しており、余程油断していない限り魔導具無しの闇魔法など効きはしない。


 丸腰のラミア二人を見てそう判断したエイカだったが、エイカの予想に反してラミア二人の魔法を受けてエイカの視界が暗くなった。

 予想外の状況に一瞬驚いたエイカだったが、以前恭也から聞いた話としてイオンが話していたゼキア連邦に住むラミアの結界の話を思い出した。


 方法までは分からないが先程のラミア二人はおそらくその結界と同じ効果を限定的に再現できるのだろう。

 そう判断したエイカは最後に見た互いの位置関係を頼りにラミア二人を地面ごと凍らせた。


「今すぐ魔法を解かないと全身氷漬けにするわよ」


 エイカのこの脅しを聞き、ラミア二人は慌てて魔法を解いた。

 その後すぐにエイカの視界は元に戻り、エイカの目に下半身が地面ごと氷漬けになっているラミア二人が映った。

 またその時に巻き込まれたらしい人間の男三人が胸まで氷漬けになっていたが、死んではいないようだったのでエイカは彼らを放置した。


「……そんな、どうしてこの魔法が効かないんだよ?」


 精霊魔法の使い手といえども所詮は人間でこの闇魔法にかかれば簡単に操れるはずだ。

 そう考えて笑いながらエイカに近づいた男たちはあり得ない反撃を受けて自分たちが氷漬けにされていることに絶望した。


「ふー、加護もらってなければやられてたわね」


 エイカはイオンからラミアの結界は特に防がなくても魔力が高ければある程度は抵抗できると聞いていた。

 そのため自分が助かった理由をエイカは正確に理解しており、とても自分の無事を喜ぶ気にはなれなかった。


 恭也もアロジュートも自力でこの程度の魔法には抵抗できるはずで、それを考えると水の魔神の加護を与えられていたおかげで何とか助かった現状はエイカにとってとても喜べるものではなかったからだ。


 昨日恭也と別れてからエイカは『エルウィスカ』と強化された自分の精霊魔法について散々試した。

 その結果少しは異世界人たちに近づけたと思った矢先にこの結果だ。


 恭也は自分が異世界人最弱だと言っているが、それでも同じ異世界人のアロジュートを相手に何度体を斬り裂かれてもひるむことなく戦い続けて勝利を収めた。

 あの時の恭也の戦い振りはエイカの恭也、ひいては異世界人への評価を変えるには十分過ぎるものだった。


 イオンの手も借りて少しでも恭也の力になれるようにがんばろう。

 そう改めて決意したエイカは落胆を振り切ると残る十人程の盗賊たちとの戦いに再び意識を向けた。

火曜に用ができたので今日投稿します。

これからは曜日と時間が不定期になると思いますが、ペース自体は落ちないと思います。

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