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謝罪

「その金属は魔神の力で創った金属です。要するにすごく硬い金属なんですけど、それ単純に重いんですよ」


 以前『アルスマグナ』製の金属の重さを量ったところ一辺が一センチメートルの立方体で五十キロの重さがあったので、今ゴーザンドの脚にはまっている輪の重さは少なくとも三百キロはあるだろう。


 これが脚に着いている間は歩くどころか立ち上がるのも困難で、火を噴き出して飛ぼうとしてもバランスが取れずいつも通りに飛ぶのは無理だろう。

 恭也が倒れ込むゴーザンドに近づき脚に着いていた輪を『格納庫』にしまうと、ゴーザンドは立ち上がってもう一つの疑問を恭也にぶつけた。


「どうやって俺の動きを見切った?先程まで全く反応できていなかったではないか?」


 また何らかの便利な能力で自分を捕まえたとしても、どうしてその前に何度も自分に殴られる必要があったのか。

 ゴーザンドのこの疑問に答える前に恭也は観客席に視線を向け、『物質転移』を使って先程試合開始の太鼓を叩いた獣人の手からばちを拝借した。


「ん?それは……」

「あの人から借りた物です」


 そう言った恭也につられる形でゴーザンドは突然手にしていたばちが消えたことに驚いている獣人に目をやり、そんなゴーザンドの見ている前で恭也は『物質転移』を使ってばちを獣人の足下に転移した。

 恐る恐る足下に現れたばちを拾う獣人から視線を外し、ゴーザンドは恭也に更なる説明を求めた。


「確かにすごい能力だがこれが俺の能力を見切ったことと何の関係がある?」

「持ってる能力にもよるんで異世界人全員ってわけではないんですけど、異世界人って能力を使う時に能力の対象がそこにあるってことが見なくても分かるんですよ」


 恭也のこの説明を聞いても要領を得ていない様子のゴーザンドを前に恭也は説明を続けた。

 アロジュートとディアンは消滅と分解という違いこそあるが、能力の発動の際に対象を指定して能力を発動する。


 もちろん適当に指定した範囲の物全てを能力の対象にすることもできるが、支配している土地の建物や住民をむやみに分解してもしかたがないのでディアンですら能力発動の際には対象の指定は細かく指定していた。


 そしてアロジュートとディアンは透明になっている、あるいは体をほどいた存在が近くにいると、そこに能力の対象にできる相手がいるということに意識しなくても気づけるらしい。

 これについて恭也はアロジュートには聞いて確認し、ディアンについては本人には聞きようが無いが確認自体は済んでいた。


 体を解いてディアンの本拠地に向かっていたホムラの眷属が偵察用とは見た目が違う目玉の悪魔に発見されて体を分解されたからだ。

 直接見たわけではないので断言はできないが、おそらくその目玉の悪魔は限定的にディアンの能力を再現できるのだろうと恭也は考えていた。


 この様にして異世界人の一部は見えない相手も感知することができ、恭也も『物質転移』や『強制転移』を使う際に周囲に何かがあるということを認識することができた。

 といってもアロジュートやディアンと違い、恭也がこれを行おうと思ったら相当集中する必要があった。


 特定の能力を使うのではなく能力で周囲に干渉しようとしているというあやふやな状態を恭也が保つためには相当集中する必要があり、この間恭也は能動的に能力を使うことができない。

 この能力のおまけと言える感知を特に意識しなくても行えた二人と違い、恭也はソパスの衛兵たち相手に能力の訓練をしている時にたまたま気がついた。


 そのためこの技術に関しての恭也の練度はまだ拙く、使用時には目を閉じて棒立ちになるという隙だらけの姿を敵にさらす必要があった。

 こうした恭也の説明を聞き、ゴーザンドは感心した様子だった。


「なるほど、強力な力に頼るだけでなく修練も怠らないとは、……正直な話あまり異世界人にいい印象は持っていなかったのだが能殿なら大丈夫そうだな。ディアンという異世界人との戦いでは力になれそうもないが、俺たち獣人は能殿とうまくやっていきたいと思っている。これからよろしくな」

「はい。みなさんの期待を裏切らないようにがんばりたいと思います」


 こうして恭也はゴーザンドとの試合を終え、ウル製の魔導具やアクア製の水を獣人たちに渡してから魔神たち及びアロジュートと合流した。


(さすがマスター、すばらしい戦い振りでしたわ!)


 恭也が魔神たちと融合してすぐにホムラは恭也の戦い振りを称賛した。

 おそらく恭也が火属性の魔法を使って勝利したためだろうがホムラのテンションは若干高かった。


(魔法など使わなくてもマスターならゴーザンド様に勝てたでしょうにあえて相手と同じ属性で戦うだなんて。私たちのマスターにふさわしい器量を見せていただき大変感激しましたわ)

(ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。少し不安はあったけどアクアを見習ってみんなの魔法と僕の能力の組み合わせは色々試したいと思ってたからね。うまくいってよかった)


 今回ゴーザンドと魔神の力無しで戦うにあたり、勝つだけならともかく力を示して勝とうと思ったら恭也は精霊魔法を使うしかなかった。

 ただ勝つだけなら相手を傷つけずに無力化できる闇属性の魔法を恭也は使いたかったのだが、力を示すための試合で洗脳してはい終わりではゴーザンドも納得できないだろう。


 また『六大元素』を使っての魔法を発動した場合、恭也は一つの属性の魔法しか使うことができない。

 その場合自分の属性を使われなかった魔神たちは個人差こそあれ不機嫌になる。

 そう言った意味では今回の試合は相手が火属性の魔法の使い手だからあえて同じ火属性の魔法で戦ったという言い訳ができたので、恭也としては助かった。


 それでもホムラ以外の魔神たちは多少の不満を持っている様子で、それを予想していた恭也はアクアを褒める内容の発言をした。

 実際恭也の先程の発言を聞いてアクアはわずかながら喜んだ様子だったが、さすがに毎回魔神全員を褒めるのはわざとらしいのでこの辺りはうまくやる必要があった。


(さてとゼキア連邦の人たちの意見がまとまるのはまだ先になるだろうから、その間にヘクステラの方を済ませようか)


 恭也はホムラからの報告でヘクステラ王国でいくつかの問題が発生していることとオルフートの王が面倒なことを言ってきていることを知っていた。

 恭也は今の内にそれらの問題を片づけたいと考えており、まずはヘクステラ王国西部の街、ゾアースに光速で移動した。


 ゾアースにはライカの魔導具を置いていたので恭也は瞬時にゾアースに着くことができ、ライカの魔導具が置かれたギルドのゾアース支部の一室ではエイカとその妹、イオンが緊張した表情で恭也を待っていた。


 ゾアース及びゾアースのギルドで問題が起こっているとは恭也は聞いていなかった。

 そのため何やら神妙な表情で恭也を出迎えた二人を見て恭也は戸惑ったが、とりあえず二人にあいさつをした。


「お久しぶりです。ギルドに関してはエイカさんに任せっきりですみません。イオンさんももう色んな発明をしてるってホムラから聞いてます。本当にありがとうございます」


 丁寧ながらもどこか事務的な恭也のあいさつを聞きイオンが委縮する中、エイカが口を開いた。


「これから盗賊への対処に向かうと聞いてるわ。忙しいところ悪いんだけど少しいいかしら?」

「はい。別に構いませんよ。盗賊退治自体は明日以降にする予定ですし」


 恭也の介入によりヘクステラ王国で亜人の売買が行えなくなった結果、ヘクステラ王国、特にゼキア連邦と隣接していた南部では亜人売買に携わっていた人間が大量に職を失った。

 彼らの再就職について恭也はヘクステラ王国の新たな王、ソアロと協力し、彼らのギルドへの優先的な採用やヘクステラ王国の南部の街への大規模な工事の発注などを行っていた。


 もちろんこれらについての采配を実際に振るったのはホムラで、恭也はホムラからの報告を聞いただけだった。

 しかしネース王国でサキナトを潰した時同様、今さら汗水流して働きたくないという者がかなりの数現れ、彼らは盗賊へと身を堕として各地の街道で通行人相手に強盗や殺人を行っているらしい。


 最初恭也は各街の衛兵たちに彼らへの対応を任せようと考えたのだが、衛兵の中に盗賊たちに協力する者が多く結局恭也の出番となった。

 しかしおとりの馬車を複数の街道に向かわせるのは明日の予定になっており、これから恭也はヘクステラ王国の首都、ヘクスに向かうことになっていたがエイカとイオンの話を聞くぐらいの時間はあった。

 しかしわざわざ二人が恭也に話したい要件というと恭也には一つしか思い浮かばず、一応別件の可能性もあったので恭也はホムラに確認をした。


(ゾアースで特に問題って起こってないんだよね?)

(ええ、私もエイカ様とイオン様がマスターに個人的な話があるとしか聞いていませんわ)


 ホムラに確認を取った後とりあえず二人の話を聞いてみようと考えた恭也にエイカがあることを頼んだ。


「ランさんを召還してもらっていい?」

「……ちょっと待って下さい」


 以前封印されていたランから魔力を吸い上げていた件でエイカたちがランに謝ろうとしていることは恭也にも予想がついていた。

 恭也がイオンを嫌っている理由など少し考えれば分かるからだ。


 しかし当のランが全く気にしていない以上、今回のエイカたちの謝罪は無意味に終わる可能性が高かった。

 とはいえエイカたちとはこの先も仕事上の付き合いはあるので、恭也もこのことでエイカたちとの間にしこりを残すのは避けたい。

 そう考えた恭也だったがこの件に関してはランの気持ちが一番大切だと考えてランにどうしたいかを尋ねた。


(どうする、ラン?エイカさんたち、多分謝りたいんだと思うけど)

(……前にも言ったけどあのことは別に気にしてない。けど言いたいことはあるから出して欲しい)


 含みのあるランの発言を聞き多少迷った恭也だったが、恭也はランの意思を尊重してランを召還した。

 ランが召喚されるとエイカとイオンが並んでランに謝罪した。


「謝るのか遅くなってごめんなさい。あなたを魔力の塊としか見ていなくて、多くの人間を殺させてしまったわ。謝って済むことではないと分かってはいるけど、それでも一言謝っておきたくて」

「私も研究のことしか考えていませんでした。本当にすみません」


 エイカとイオンの謝罪を受け、ランは自分の考えを素直に伝えた。


「……ごしゅじんさまにも言ったけど魔力を取られたことは別に気にしてない。人を何度も殺すのは嫌だったけど」


 別にランは送り込まれてくる人間を次々に殺すことも魔力を延々と吸われることも大して気にはしていなかった。

 しかしランもさすがに恭也の覚えがいい発言の傾向ぐらいは把握していたので、かつての殺人に心を痛めている振りはしておいた。

 そしてランは今日エイカとイオンに本当に伝えておきたかったことを二人に話した。


「……さっきあなたも言ってたけど謝られてもどうにもならないからこれからがんばって。あなたたちがごしゅじんさまのために働くというならそれで許す」

「ええ、分かったわ。あなたへの償いのためにも能様の野望のためにもギルドの支部長としてがんばらせてもらう」

「私も今開発中の船を始めとして少しでも能様の御力になれればと思っています!」

「……それならいい。これからがんばって」


 そう言うとランは二人の返事も聞かずに体を解き、そんなランと融合してから恭也は二人に視線を向けた。


「……この前は言いたいことだけ言って逃げてすみませんでした。ラン本人がああ言ってるので僕ももう気にしないことにします。これからよろしくお願いします」

「ええ、妹共々これからよろしく。本当はシュリミナさんにも謝りたいんだけど、ホムラさんを通してだとどうしても謝ってるって感じがしなくて」


 ホムラの眷属を通しての連絡はホムラの眷属が間に入るためどうしても個人的な連絡には不向きだ。

 しかしこの世界の従来の船の倍以上の早さを出せる新型の船をイオンと彼女が率いるチームが開発中で、二ヶ月もすれば試運転が可能とのことだった。


 その船ならゾアースからシュリミナのいるトーカ王国まで数日で行けるらしく、船が完成したら二人でシュリミナに謝罪に向かうとのことだった。

 イオンは既にゾアースでの魔導具・悪魔の研究者たちの代表として活躍しており、先程エイカが言っていた通りエイカはギルドのゾアース支部の支部長に就任することになっていた。


 精霊魔法を使えるだけでなく『情報伝播』による痛みに耐える精神力を持ったエイカはイオン共々きっと魔法技術やギルドの発展に貢献してくれるだろう。

 そう考えた恭也は前々から考えていた贈り物を目の前の姉妹に贈ることにした。

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