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死の超克者の世界征服(おかげさまでPVが14万を超えました。ありがとうございます)  作者: 紫木翼
帰省編

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技比べ

 恭也はゴーザンドから視線を外さないまま『六大元素』と『精霊支配』を発動し、両手に直径一メートル程の火球を創り出した。

 恭也が魔法、それもゴーザンドと同じ火属性の魔法を使ったことを受けて観客席にどよめきが走る中、ゴーザンドは驚きながらも笑みを浮かべて恭也に話しかけた。


「驚いたな。魔神と離れていては魔法は使えないと思っていたんだが」

「魔神たちの魔法と比べると威力は落ちますけど、僕だけでも精霊魔法は使えます。僕の力を見たいってことだったんで同じ火属性の魔法の方がいいかと思って」

「その言い方だと他の属性の魔法も使えるということか?」

「はい。魔神がいないと自由自在とまではいきませんけど」


 恭也は手短に『六大元素』の説明をゴーザンドに行い、それを聞いたゴーザンドは笑みを深めた。


「くっくっく、六属性全て使えるというのにあえて俺と同じ火属性の魔法で戦うとはな。おもしろい!だが火属性の魔法なら俺の方が経験は上だ!お手並み拝見といこう!」


 そう言うとゴーザンドは恭也と同じく両手に火球を創り出して恭也に向けて撃ち出した。

 それを受けて恭也も火球を撃ち出し、恭也とゴーザンドの目の前で四つの火球がぶつかり舞台の中央は火の海となった。


 火属性の魔法の使い手も火を体に受ければ火傷を負うため、それぞれの火球が衝突する前にゴーザンドは後退して火の粉や爆発による負傷を免れた。

 当然恭也も同じ様に退がっているとゴーザンドは思っていたのだが、恭也は火球を放つと同時に前進していた。


 そして火球がぶつかり辺りに爆発音と炎が広がった直後、舞台の上に恭也の姿は無かった。

 恭也の『空間転移』を知っていたゴーザンドは、恭也が火球がぶつかった際の隙をついて自分の近くに転移したのではと考えた。


 また悪魔を召還して上に逃げた可能性もあったが、どちらにしても接近戦を恭也が挑んでくるのならゴーザンドとしては望むところだった。

 ゴーザンドは恭也が正面からの魔法の撃ち合いを挑んできたと思っていた。


 そのため力を見せると言っておきながら恭也が魔法を目くらまし程度にしか使わなかったのをゴーザンドは残念に思ったが、いくら異世界人といえどもさすがに二十年以上火属性の精霊魔法を使っている自分に同じ属性の魔法で勝つのは無理だろう。


 そう考えたゴーザンドは自分が接近戦でも強いということを恭也に見せてやろうとすぐに気持ちを切り替えた。

 しかしゴーザンドのこの気持ちの切り替えは早過ぎた。


 先程の火球の衝突で生じた炎は燃え移る物が無いため徐々に消えていったのだが、ゴーザンドの近くで燃えていた炎が突如として勢いを増してゴーザンドに近づいて来たのだ。

 これが恭也の仕業であることは明らかだったが、一度手から離れた火を操ることはゴーザンドにもできない。


 ましてや近くにいないにも関わらず火の勢いを増幅させるなど一体どんな手を使ったのか。

 ゴーザンドは思いもしなかった恭也の攻撃に慌てたが、とりあえず後退することにした。

 しかし先程突然勢いを増した炎から生じた三本の炎が蛇の様に舞台を這い自分を追って来るのを見て、ゴーザンドは後退ではなく迎撃を選択した。


 ゴーザンドも自分が異世界人に勝てるとは思っていなかったが、例え負けるにしても同族たちに見られている以上負け方というものがある。

 決して無様な姿は見せまいと決め、ゴーザンドは自分に迫る三本の炎にそれぞれ一発ずつ火球を撃ち出した。


 ゴーザンドの火球を受けて三本の炎の内一本は吹き飛んだが、残る二本は吹き飛ぶどころかまるでゴーザンドの火球を取り込んだかの様に勢いを増しながら前進を続けた。

 それを見たゴーザンドはやみくもに攻撃をしても無意味だと判断し、何が起きても対応できるように魔法の発動準備をして舞台を這う二本の火を待ち構えた。


 そして二本の火の先から火柱が生じ、二本の火柱は同時にゴーザンドに襲い掛かった。

 この状況で半端な小細工は無意味と考えたゴーザンドは、先程恭也に放ったのと同じ巨大な虎の顔を炎で創り上げた。


 仮に恭也の生み出した火がこちらの火を取り込めるとしても、自分の最大の技を取り込めるものなら取り込んでみろ。

 そう考えてゴーザンドは自分の最大火力を前方へと放った。

 この攻撃で何らかの方法で姿を消している恭也の発見までできればいいのだがとゴーザンドは考えており、ゴーザンドは目的の一つ、迫り来る火の迎撃は達成することができた。


 ゴーザンドの目論見通り、ゴーザンド最大の技は恭也が一人で制御できる程ちゃちなものではなかったからだ。

 しかしゴーザンドのもう一つの目的、恭也の発見は果たせなかった。

 なぜなら恭也はずっとゴーザンドの前に姿を見せていたからだ。


 ゴーザンドが前方で激しく燃える炎を油断無くにらんでいた中、ゴーザンドの足下に落ちた火がゆっくりとゴーザンドに近づき、急激に大きさを増して恭也へと姿を変えた。

 突然目の前に現れた恭也にゴーザンドは反応できず、ゴーザンドが恭也に気づいた時には恭也はゴーザンドの顔の前に手をかざして手のひらに炎を発生させていた。


「驚いたな、まさか火そのものになれるとは」


 完全に不意を突かれたゴーザンドは、若干の悔しさをにじませながらも自分の負けを認めた。


「それも火の魔神の能力ではないのか?」

「はい。これは火の魔神関係無く使える僕の能力です」


 そう言うと恭也は右腕の肘から先を炎に変え、その後『炎化』と火属性の精霊魔法を併用して上空目掛けて直径数メートルの火柱を放った。

 突然自分たちの前に現れた巨大な火柱を前に観客席の獣人たちが言葉を失う中、自分の最大の技をはるかに上回る技をいともたやすく披露した恭也を見てゴーザンドはしばらく放心状態だった。


「……すごいな。魔神抜きでそれ程の火を生み出せるとは。能殿の力を試そうなど身の程知らずだったな」

「いえ、たまたま僕が火に関係ある能力を持ってたからこうなっただけで、ゴーザンドさんの使う魔法が他の属性だったら多分打ち合いにすらならなかったと思います」

「体を水や風には変えられないのか?」

「はい。相手を地面に沈めたり雨を降らせたりはできますけど、この世界の魔法の属性に少しでも関係有りそうなの精霊魔法を使うための能力二つ以外だとこれぐらいですね」


 恭也が戦いで魔法を使う時はあまり自分の能力との併用はせず、基本的に魔神由来の高威力の魔法を力任せに撃ち出すだけだ。

 アクアを見習いその辺りも訓練中ではあるが、現段階ではまだ実用段階とは言えない。

 恭也がそうゴーザンドに説明するとゴーザンドはしばらく考え込んでから恭也にある提案をしてきた。


「あれ程の魔法を見せられた後で何だがもう一度だけ戦ってもらえないか?後一つ見せたい技がある。能殿の役に立つかは分からないが」

「はい。分かりました。じゃあ、後一度だけ」


 そう言って恭也とゴーザンドが距離を取った直後、ゴーザンドは恭也目掛けて火球を撃ち出した。

 ゴーザンドが今回放った火球は大きさこそ通常の火属性の魔法により創られる火球を上回っていたが、わざわざ再戦を申し出てまで放つ攻撃としてはあまりにお粗末だった。

 そのためゴーザンドの本命は別にあるのだろうと察しつつ、恭也は『魔法攻撃無効』を発動した状態の腕で火球を横に弾いた。


 恭也が火球を弾く直前に謎の轟音が聞こえ、それを不思議に思いながら恭也が火球を弾くと先程まで前方にいたはずのゴーザンドの姿が消えていた。

 予想外の状況に恭也は慌てて周囲を見回したが舞台上にゴーザンドの姿を発見できず、どうしたものかと考えていた恭也にホムラの声が届いた。


「マスター、上ですわ!」

「上?」


 ホムラの声に従い恭也は上空に視線を向けたが、何やら轟音が聞こえただけで上空にもゴーザンドの姿は無かった。

 ゴーザンドが何をどうしているのか見当もつかず恭也は途方に暮れたが、恭也の困惑は長くは続かなかった。


 先程から聞こえる謎の轟音が恭也の後ろから聞こえ、『自動防御』が発動したからだ。

 それにより『格納庫』から『アルスマグナ』製の剣が取り出され、恭也はわけも分からない内に後ろを振り向かされた。

 そのまま恭也は『自動防御』に操られるまま剣を構えて視線の先にゴーザンドがいるのを見て驚き、それと同時に納得もした。


「ああ、なるほど。それは考えなかったな」


 恭也の視線の先では恭也の剣を難無く回避したゴーザンドが両手の先に炎を纏っており、その炎の推進力で消えた様にしか見えない高速移動を実現したのだろう。

 そう考えながら恭也はゴーザンドの高速移動に対する素直な感想を口にした。


「かっこいいですね、それ」

「これでも手を焼かないように気を遣っているんだぞ?それにしてもいきなり反応されるとは思わなかったな。それも能殿の能力か?」


 自分の背後からの奇襲に反応したとはいえ、これまでの恭也の動きを見る限り恭也に武術の心得があるとはゴーザンドには思えなかった。

 戦闘中の動きと動きの間にぎこちなさが散見し、先程もまるで剣に振り回される様に下半身がふらついていたからだ。

 今さら自分が戦いに関して能力に頼り切りであることを隠す気は無かったので、恭也は『自動防御』についてゴーザンドに正直に説明した。


「はい。簡単に言うと防御だけなら体が勝手にしてくれるんです」

「ほう、それはまたずいぶんと便利な能力だな。しかしそんなに簡単にばらしてよかったのか?」


 質問したゴーザンドが指摘するのも何だが恭也がこれ程あっさり自分の手の内を明かしたことにゴーザンドは驚いた。

 しかし恭也にとってこの程度のことは隠す程のことでもなかった。


「この能力はばれても特に対策らしい対策取れませんから別にばれても困りません。そもそも能力知られたくなかったらこの勝負自体受けてませんし」


 この勝負の前にこの近くにディアン製の目玉の悪魔が隠れていないことは確認済みだ。

 そのため恭也は口頭で自分の能力をゴーザンドに伝えるぐらいは問題無いと考えており、それを聞いたゴーザンドは楽しそうに笑った。


「確かにこの勝負を挑んだ俺が心配することではなかったな!では戦いの続きといこう!」


 ゴーザンドがそう言った次の瞬間には再び恭也の視界からゴーザンドは消え、恭也が轟音を頼りにゴーザンドの姿を追ってもその影すら見ることはできなかった。


「これ僕が早く動いても意味無いな」


『高速移動』を使えば今のゴーザンドと同等の速さを出せるかも知れないが、それをしてもお互いが相手を発見できなくなるだけで意味が無い。

『強制転移』を使ってゴーザンドを恭也の前に転移すればゴーザンドの動きを見切る必要も無いが、今回の様な親善目的の試合で魔力を一万消費する大技など使う気は恭也には無かった。


 単純にゴーザンドが近づいてきたところを捕まえよう。

 そう考えた恭也は剣を『格納庫』にしまうと『自動防御』も発動しないようにし、そのまま目を閉じて周囲に意識を向けた。


「何の真似だ?」


 戦いのさなか突然目を閉じて棒立ちになった恭也の考えが分からず、ゴーザンドは轟音だけを響かせて高速で移動しながら恭也にその真意を尋ねた。

 そんなゴーザンドに恭也は自分の考えと現状を素直に伝えた。


「速さ勝負をしてもいいんですけど思ったより魔力使っちゃったんで、小細工無しで手っ取り早くゴーザンドさんを捕まえようかなと思って。すみませんけど集中したいので話は僕がゴーザンドさんを捕まえた後にしてもらっていいですか?」

「おもしろい!捕まえられるものなら捕まえてもらおう!」


 挑発と受け止められてもおかしくない恭也の発言を聞いてもゴーザンドは笑みを浮かべたままだったが、それでも目だけは真剣なまま恭也に視線を向けていた。

 その後しばらくゴーザンドは恭也の周りを飛び回っていたのだが、探り合いに飽きて恭也に殴りかかった。


 恭也に背後から迫ったゴーザンドは途中で急に進行方向を変え、恭也が自分の背後にゴーザンドがいることを感知した次の瞬間には恭也はゴーザンドに左ほおを殴られていた。

 普通なら死んでもおかしくない速度と力で殴られたにも関わらず恭也は倒れるどころか微動だにせず、その後もゴーザンドは恭也に高速移動からの打撃を何度も当てたのだが攻撃する度にゴーザンドの表情からは余裕がなくなっていった。


 恭也の顔がとても勝負を捨てた者のものではなかったからだ。

 ゴーザンドの炎を噴き出しての高速移動は人間の反射神経では反応できないという程の速度ではなく、ある程度武術の心得があれば技術や経験で対応できる。


 実際今の恭也の様に神経を集中させてゴーザンドの動きに対応できる者はゼキア連邦の獣人の中にも何人かいた。

 しかし恭也がそういった技術を持っていないことはこれまでの戦い振りから明らかで、ゴーザンドは恭也が今度はどんな能力を見せてくれるのかと楽しみにしていた。


 先程の恭也の口振りからしておそらく接近戦用の能力を使ってくると予想しながらゴーザンドは恭也への攻撃を続けた。

 そしてゴーザンドがもう何度目になるか分からない蹴りを恭也の腹部に入れた時だった。


 既に何度も経験した人の体と金属の入り混じった様な感触を脚に感じつつ、ゴーザンドは恭也から離れるために脚を動かそうとした。

 しかしこれまでと違いゴーザンドの脚はしっかりと恭也につかまれていたため、ゴーザンドは恭也から離れることができなかった。


「馬鹿な、いった、」


 一体どうやって俺の動きを見切ったと言おうとしたゴーザンドだったが、恭也がゴーザンドの脚から手を放した途端ゴーザンドは倒れ込んだ。

 別に恭也がゴーザンドを突き飛ばしたわけではなく、右脚に突然とてつもない負荷を感じてゴーザンドは倒れてしまったのだ。


 別に体のどこかに傷を負わされたわけでもなく、何らかの束縛を受けている様子も無い。

 それにも関わらず突然自分が倒れ込んでしまったことを不思議に思いつつ、ゴーザンドは先程から違和感を覚える右脚に視線を向けた。

 ゴーザンドが自分の右脚に視線を向けると、そこには金属製の輪がはめられていた。


 魔導具特有の紋様が刻まれているわけでもないただの金属製の輪をはめられたぐらいでどうして自分が動けなくなっているのか、それ以前に魔法で飛ぶ自分に全く反応できていなかった恭也がどうしてこうも的確に自分を捕えることができたのか。

 恭也に何から尋ねればいいのか分からなくなったゴーザンドに恭也はネタ晴らしをした。

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