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コロシアム

獣人たちの居住地区へと向かう道中、恭也はウルとランにしつこく文句を言われていた。


(気軽に死なないようにしようって決めてすぐに自殺するんだから参っちまうぜ)

(……自分の決めたことぐらいちゃんと守って)

(いや、ほんとごめん。結構まじで癖になってるね)


 ウルだけならまだしも滅多に恭也に文句を言わないランにまで苦言を呈され、恭也は謝るしかなかった。

 そんな中ライカが恭也が思ってもいなかった方向からの苦情を入れてきた。


(自分は師匠が一回ぐらい死ぬのに文句を言う気は無いっすけど、自分の魔法で死ぬのは止めて欲しいっす。闇とか土は難しくても火とか風でも死ねるじゃないっすか)


 ライカは恭也が能力の実演目的で一回死ぬぐらいなら大目に見るつもりだったが、自殺に自分の属性の魔法を使われるのは愉快ではなかった。

 そのためのライカの発言だったのだが、これにホムラとフウが嚙みついた。


(変な事を言うのは止めて下さいまし。私だって嫌ですわよ、マスターが火で死ぬなんて)

(私だって嫌)

(ちょっと待って。話が変な方向行ってない?)


 安易に死ぬことを批判されていたはずがいつの間にか自殺の手段の話になっていて、恭也は困惑した。

 しかし今も口論を続けている魔神たちを放っておくわけにもいかなかったので、恭也は自分の考えを伝えた。


(分かった、分かった。今度から死ぬ時は魔法は使わないで死ぬから、もうこの話終わり!)


 口にしながら自分の発言の内容に違和感を覚えた恭也だったが、恭也のこの発言により魔神たちの口論は一応収まった。

 ホムラとしてはもう少しこの話を続けたいところだったが、恭也の能力の説明に自殺以上に最適な手段が無いことも事実だったので不満を持ちながらもホムラは話題を変えた。


(本当にミウ様の力は借りなくて良かったんですの?あの様子なら頼めば眷属の一体ぐらいは貸してくれそうでしたわよ?)

(僕の生き返れる回数みたいに回復するならそれも考えたけど、ミウさんの場合寿命を犠牲にしてるからね。眷属借りた時点で僕がミウさん殺したも同然になっちゃうからミウさんの異世界人としての力を借りる気は無いよ)

(そうですか……)


 ホムラとしてはせめてミウに魔力の供給源としての役割ぐらいは果たして欲しかったが、恭也のこの方針だとそれも難しそうだった。

 ホムラとしては残念ではあったが、寿命を削って発動するという特異な能力を持つミウについて話していると知らない内に恭也の地雷を踏んでしまいそうだ。


 そう考えたホムラはミウ個人との協力についての話を一旦取り下げた。

 恭也がミウとの協力を諦めたことを残念そうにしているホムラの気持ちを感じながら恭也はミウの今後について考えていた。


 ミウの能力は方法こそ違うが恭也の能力同様死を繰り返す度に強くなることができる能力だ。

 転生先が女に限られるという制限こそあるがミウは死んだ際に自ら死を望まない限り無限に転生を繰り返すことができ、新しい体に生まれ変わってもこれまでの体の能力を使うことができる。


 今はミウ本来の体の能力とアルラウネの能力しか使えないが、強くなるために手段を選ばなければミウは際限無く力を増すことができる。

 二十回も自殺と転生を行えば複数の種族の能力と複数の属性の魔法が使える体を手に入れることができるだろう。


 仮にその過程で一度でも精霊魔法の使い手になれば、ミウはその体質すら最新の体に持ち越せる。

 また魂に直接干渉できない限りミウを完全に消滅させようと思ったら世界中の女を殺すしかないのだが、これに関してはウルの『ミスリア』やアロジュートの能力で対応できるので仮にミウと戦うことになっても問題無かった。


 もっとも今の恭也は体を奪った相手に悪いので今の体での生活は続けたいというミウの発言を信じたかったので、自分からミウと事を構えるつもりはなかった。

 自分が楽をしたいからという理由で静かに暮らしたがっている異世界人を戦いに巻き込むわけにはいかない。

 ミウは強力な能力を持っただけのアルラウネだ。

 自分にそう言い聞かせながら恭也は獣人たちの居住地区に向かった。


 それ程時間をかけることなく空路で獣人たちの居住地区に着いた恭也は、恭也を出迎えに来ていた獣人の案内ですぐに獣人たちの長を務める虎の獣人、ゴーザンドに会うことができた。


「やあ、能殿!会いたかったぞ!ヘクステラでは同胞が世話になったな!」

「どうも、初めまして。異世界人の能恭也です」


 会って早々大声であいさつをしてきたゴーザンドに多少驚きながらも恭也はゴーザンドとの話を始めた。


「もう話は聞いてもらってると思いますけど僕はギルドという組織を作っていて、もうこの大陸、ウォース大陸でもいくつかの国でギルドの支部を作っています。できればゼキア連邦のみなさんにもギルドに参加してもらいたいと思っているんですがいかがでしょうか?」

「ああ、ギルドとやらには喜んで参加させてもらおう。異世界人に守ってもらえるというなら願ってもないし、おそらく他の種族も参加するだろう。我らだけ遅れを取るわけにはいかないからな」


 ゴーザンドとの話があまりにうまくいったので恭也は拍子抜けしてしまった。

 もっともギルドへの参加はゼキア連邦の国民にとっていいこと尽くめなので、こうなるのは当然かと恭也は考え直した。

 後はウル製の魔導具とアクア製の水を置いて帰るだけだなと恭也が思っていると、ゴーザンドが意味ありげな笑みを浮かべた。


「ところで一つ個人的な頼みがあるんだが聞いてもらえるか?」

「……内容によりますけど」


 ハーピィの時の様に子種が欲しいとか言われたら面倒だなと恭也が考えている中、ゴーザンドは要求を口にした。


「魔神抜きで俺と戦って欲しい。ゼオグとは戦ったのだろう?」

「はい。まあ、一応」


 ゴーザンドのこの頼み自体は恭也の予想の範囲内だった。

 しかしゼオグの時と違いゴーザンドからは既にギルドへの参加に前向きな返事をもらえていたので、恭也はゴーザンドとの戦いに積極的になれずにいた。

 理由までは分からないまでもゴーザンドは恭也が自分との戦いに乗り気ではないことに気づき、すぐに戦う理由を追加してきた。


「個人的な頼みという言い方が駄目なら能殿の力を見せて欲しい。自分たちの上に立つ異世界人がどれぐらい強いのか確かめておきたいからな。これならどうだ?」

「……分かりました。そういうことなら一回だけ」


 そう言うと恭也はゼオグと戦った時同様に魔神たちとの融合を解き、アロジュートに実体化してもらった。


「ん?魔神は六体だろう?何故七体いるんだ?」


 魔神たちにアロジュートを合わせた七人を見て不思議そうにしているゴーザンドに恭也はアロジュートの説明をした。


「あの鎧を着てる女の人は僕と同じ異世界人です。聞いたことありませんか?ここから西で氷漬けになってたんですけど」

「ああ、水の魔神に負けたというあの」


 魔神に負けて氷漬けになったとされる異世界人の話はウォース大陸では有名だったので、氷漬けになっていたという恭也の説明であまり他国の情報が伝わってこないゼキア連邦に住むゴーザンドにもすぐにアロジュートのことは伝わった。

 しかし当のアロジュートはその説明が不満の様だった。


「ねぇ、さっきアルラウネとエルフと話してた時もそうだったけど、あたしのこと説明する時いちいち氷漬けになってたって言う必要ある?」


 アロジュートは自主性は無いがプライドは高いという大変面倒な性格をしているので、自分の紹介の度に氷漬けになっていたことを言及されて不快に感じていた。

 何故か自分が水の魔神に負けたことになっていることもアロジュートが不機嫌な理由だったのだが、恭也はそのことに気づいていなかった。

 しかし無視もできなかったので、恭也は何故か不快そうにしているアロジュートを見て困惑しながらも口を開いた。


「そう言われてもウォース大陸の人に伝わってるアロジュートさんの特徴って氷漬けになってたってことぐらいしかないですし。アロジュートさん犯罪組織潰したり戦争止めたりしたわけでもないですから」


 アロジュートはアクアと戦う前に主を求めてオルフート、トーカ王国、タトコナ王国の各地を巡ったことがあった。

 しかしその時はほとんどの時間を体を解いて過ごしていたため、アロジュートはウォース大陸の人間に姿をほとんど知られていなかった。

 恭也の指摘を受けてこの事実に気づき、アロジュートは愕然とした。


 自分の主にふさわしいと思える相手に出会えなかったからほとんど人前に姿を現さなかったのだが、こんなことなら少しは姿をウォース大陸の人間に見せておくのだったとアロジュートは後悔した。

 そんなアロジュートを見て恭也は一応はアロジュートも納得したようだと判断し、ゴーザンドに視線を戻した。


「お待たせしてすみません。じゃあ、始めましょうか」

「ああ、この先に訓練などに使っている舞台がある。そこなら多少派手にやっても構わない。案内しよう」


 そう言うゴーザンドに案内されて恭也たちは舞台へと向かった。

 ゴーザンドの言う舞台とは土を盛り上げただけの簡素なもので、周囲に用意された観客席から数メートル程掘られた穴の底に舞台が設置されるというコロシアムの様な構造になっていた。


 これなら舞台上で大規模な技を使っても観客席を埋め尽くしている獣人たちに危害が及ぶことはないだろうと思いながら恭也は舞台と観客席を細部まで眺めた。

 その内似た様な施設をソパスに作ろうと考えていたからで、細かい仕上げはともかく大掛かりな工事の大部分はランの魔法を使えば省略できるだろう。


 模擬戦に関しても恭也は万が一に備えて魔神たちとアロジュートにはそれぞれ観客席の離れた場所で恭也とゴーザンドの戦いを見るように頼んでおり、いざという時は観客席への流れ弾への対処を頼んでいた。


 ゴーザンドには悪いが恭也が負けることはありえないので、余計な被害を防ぎつつできるだけ得るものがある戦いにしたい。

 そんなことを考えていた恭也が階段を下りて舞台に着くとゴーザンドは既に準備を終えており、自分と対峙した恭也を見て楽しそうな笑みを浮かべていた。


「もう知っているだろうが俺は火の精霊魔法が使える。殺す気でいかせてもらって構わないな?」

「はい。相手を五秒以上動けなくしたら勝ち。それでいいですね?」


 あらかじめ相談していた勝利条件を恭也が口にするとゴーザンドは黙ってうなずいた。

 そして観客席で試合開始の合図の太鼓が叩かれて試合が始まった。

 試合が始まるとすぐに恭也は『情報伝播』でゴーザンドに体中を焼かれる痛みを与え、ゴーザンドは突然自分を襲った痛みに苦しみ膝をついた。


 ゴーザンドは恭也との戦いを楽しみにしているようだったので、恭也としてもこれで戦いを終わらせるつもりはなかった。

 適当なところで能力を解除しようと恭也が考えていると突然ゴーザンドが笑い始めた。


「くっくっくっ、さすが異世界人。妙な技を使ってくれるな。だがこの程度で俺を止められると思うな!」


 そう言うとゴーザンドは舞台に倒れながらも魔法を発動した。

 以前エイカと戦った時もそうだったが、仮にも異世界人の自分の能力に気合一つで耐えるのは止めて欲しいと恭也は嘆かずにはいられなかった。

 恭也が嘆いている間にゴーザンドは魔法の準備を終え、恭也とゴーザンドの間には縦横共に五メートルを優に超える炎の虎の顔が現れた。


「うおっ、やばっ」


 想像以上に規模が大きい攻撃魔法を使われて恭也は驚いてしまい、そんな恭也に構うことなくゴーザンドは魔法を恭也に向けて放った。

 いくらゴーザンドの魔法の規模が大きいといっても『高速移動』を使えば簡単に回避はできた。


 しかし魔神以外の精霊魔法に自分の魔法の無効化がどこまで通用するのか確認するために恭也はあえてゴーザンドの魔法を受けた。

 その結果恭也は『魔法攻撃無効』でゴーザンドの魔法を無効にできたが、ゴーザンドの魔法で焼かれた十秒足らずの間に三百近い魔力を消費した。


「ん?今のは防がれたのか?それとも一回は殺せたのか?」


 自分と恭也双方の視界を埋め尽くす程の大技を使ったため、ゴーザンドは恭也に自分の魔法が当たった瞬間を見ることができなかった。

 そのためこの様な発言をしたのだろうが、どこかのんびりした口調のゴーザンドとは対照的に恭也は大変焦っていた。


 この世界に元々住んでいる種族に種族間での魔力量の差は無いので、ゴーザンドの魔力の保有量はこの世界に住む人間同様十だ。

 そのゴーザンドの攻撃を一回食らっただけで魔力を三百消費してしまったのだから恭也の驚きは相当なものだった。


(精霊魔法ってこんなコスパいいんだ)


 これまで恭也が戦った精霊魔法の使い手はエイカだけで、あの時は氷漬けにされただけで攻撃らしい攻撃は受けなかった。

 そのため恭也はゴーザンドの魔法を食らって想像以上の魔力を消費したことに驚いていたのだが、恭也のこの感想は微妙に間違っていた。


 今回の攻防における恭也とゴーザンド双方の魔力の消費量の差の理由は、精霊魔法の効率がよかったからと言うよりは恭也の能力の効率が悪かったからと表現した方が正確だったからだ。

 しかしそれを知る由も無い恭也は、あまり余裕を見せていると余計に魔力を消費してしまいそうだと気を引き締めて改めてゴーザンドに視線を向けた。

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