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もう一人の超克者

『魔法看破』によるとミウの持つ能力は転生で、死んだ際に無作為にその世界の住人として生まれるという恭也とは違う方法で不死を体現した能力だった。

 以前恭也がディアンに聞いた話ではウォース大陸にいる異世界人は二人で、恭也がウォース大陸で会った異世界人はシュリミナとアロジュートで数は合っていた。


 ダーファ大陸には恭也とガーニスしか異世界人はおらず、ディアンの性格を考えるとラインド大陸にディアン以外の異世界人が生き残っている可能性も低いだろう。

 そのため恭也は六人目の異世界人がいる可能性など考えてもいなかったのだが、こうして目の前にいる以上無視もできなかった。


 しかしディアンもミウの存在を把握していなかった以上ミウが異世界人だと周りに知られていない可能性がある。

 そう考えた恭也はミウとキザンに探りを入れることにした。


「僕は今三人の異世界人の力を借りてディアンという異世界人と戦う準備をしてるところなんですけど、ヘクステラかこの国に異世界人はいないんですか?」


 こう言って恭也が意味ありげにミウに視線を向けるとミウの表情が硬くなり、その直後ミウの様子に気づいていない様子のキザンが口を開いた。


「この大陸では魔神に負けて氷漬けにされたっていう羽の生えた女性以外で異世界人の話は聞いたことがありません。むしろ能様とディアンという男以外に三人も異世界人がいたと聞いて驚きました」

「そうですね。ヘクステラで異世界人が一人殺されたって話を前に聞きましたから、今も生きている異世界人は能様たち五人だけだと思います」


 表情を硬くしながらキザンの発言に同意したミウの発言を聞き、恭也は少しの間考え込んだ。

 恭也は特に『魔法看破』の存在を隠していないので、ダーファ大陸でもウォース大陸でもその存在と能力の内容は広く知られていた。


 既にディアンにすら内容が知られている『魔法看破』だったが、恭也が活動を始めてまだそれ程経っていない上に他国との関係を絶っているゼキア連邦ではまだ『魔法看破』の詳細は知られていないようだった。

 ミウとキザンの発言からミウの正体が知られておらずその上ミウが自分の正体を隠したがっていると知り、恭也はミウと個別に話す機会が必要だと考えた。


「すみません。僕こういう魔導具を持ってて、これについてミウさんに聞きたいことがあるんですけど少し時間をもらえませんか?」


 そう言って恭也は『格納庫』から『降樹の杖』を取り出し、ミウとキザンに『降樹の杖』の説明をした。


「へー、そんな魔導具があるんですね。もしかして上級悪魔由来のものですか?」

「はい。僕が最初にいたダーファ大陸にもヘクステラ王国みたいなことをしてる国があって、そこと戦った時に奪ったものです」


 恭也は自分のこれまでの功績を知らせつつ話を進めた。


「これを使って木材を売ったりしようと考えてるんですけど、アルラウネはそういうのに抵抗あったりしますか?」

「いえ、別にそれは気にしません。エルフのみなさんの家にも木が使われていますから」

「なるほど、さっきも言いましたけどアルラウネについてはあまり詳しくないので、その辺りの話をもう少しさせてもらえませんか?そんなに時間はかけませんし、それが終わればすぐに帰りますから」


 恭也の頼みにあまり乗り気ではない様子のミウだったが、それを感じ取った恭也が話が終わればすぐに帰ると伝えるとミウは恭也の頼みを聞き入れた。

 その後キザンがこの場を離れると、恭也は光の精霊魔法を発動してから音を通さない設定にして『隔離空間』を発動した。


 光の精霊魔法による幻術で周囲からは『隔離空間』による結界は見えなかったが、結界の中にいるミウは別だった。

 二人きりになった途端自分を結界に閉じ込めた恭也にミウは鋭い視線を向け、それを受けて恭也は突然の行動を謝った。


「驚かせたことは謝ります。でもこれで僕たちの会話は外に聞こえません。ミウさんが正体を隠したがっているみたいだったんでこういう形を取らせてもらいました」

「……何のことですか?」


 明らかに表情が硬くなりながらもなお自分の正体を隠そうとするミウに恭也は『魔法看破』についての説明をした。

 恭也の説明を聞き黙り込んでしまったミウに恭也は自分の考えを伝えた。


「心配しないで下さい。このことを誰かに言う気はありません。ただ僕が今後この国でも活動することになったら僕の眼のことはその内みんなに知られます。その時に知られるよりは早めに伝えておいた方がいいと思って今伝えました」


 恭也の真意を聞き観念したのかミウは口を開いた。


「もし私が死んで別の体に生まれ変わっても能様はすぐに気づけるんですか?」

「僕から逃げるために自殺するつもりですか?」

「そこまでは考えていません。ただの確認です」


 死んで逃げようと考えていなければこの様な質問はしないだろう。

 殺人程ではないが恭也にとっては自殺もかなり不快な行為で、気づかない内に恭也の表情は険しいものになっていた。

 その後恭也はミウに恭也から逃亡するための自殺を思い留まらせるために話を続けた。


「そうですね。眼の能力は割と使いますし、僕に力を貸してくれてる異世界人の内、さっき話に出た氷漬けになってた女性は魔力の高い存在に気づけます。だから死んでも逃げるのは無理だと思います。そもそもそんな理由で死ぬなんてふざけてると思いますし」


 恭也から逃げるためだけに自殺しようとしているミウを見て恭也は不快に感じ、今さらながら実験などのために死のうとしていた自分を止めていた魔神たちの気持ちを理解した。

 なおこの恭也の発言を聞き魔神たちだけでなくアロジュートまでが恭也に何か言いたそうにしていたので、恭也の罪悪感は増す一方だった。

 後で魔神たちはもちろんノムキナにも謝らないといけないなと思いつつ、恭也はミウとの会話を続けた。


「ディアンさんとの戦いは今の時点で戦力は足りてますからミウさんが嫌だって言うなら無理矢理戦わせるつもりはありません。もしアルラウネのみなさんがギルドに参加することになってもミウさんのことはすごいアルラウネとして扱います。だから心配はいりませんよ」


 恭也が去った後でミウに恭也から逃げるためだけに自殺されても困るので、恭也は努めて穏やかな口調でミウに心配いらないと伝えた。

 その後ミウは恭也にある質問をしてきた。


「私の能力を知ったということは私の眷属のことも知っているんですよね?それでも私を戦わせないって言うんですか?」

「はい。戦いって無理矢理させることじゃないと思いますし」


 ミウは自分の寿命を物に与えて眷属を創り出すことができ、ミウの眷属は与えられた寿命が尽きない限りは不滅でミウの指示に従う。

 ミウがその気になれば数十年間暴れ回る火や風の巨人を創り出すことができ、この眷属を一体だけでも借りることができれば恭也はディアンとの戦いを有利に運べるだろう。


 しかしミウの寿命を縮めてまで戦力を確保する気は恭也には無く、恭也は直接ミウに自分の考えを伝えた。

 それを聞き恭也が本当に自分を戦力として数えていないことをミウは悟り、その後声を震わせながら恭也にさらに質問をしてきた。


「私のことを卑怯だと思わないんですか?戦うのが怖いからディアンとかいう人との戦いをあなたに押し付けてるんですよ?」


 涙ながらにそう尋ねたミウを見て、しばらく考え込んだ後恭也は口を開いた。


「ミウさんは真面目過ぎると思います。さっき三人の異世界人の力を借りてるって言いましたけど実際に戦ってくれるのは二人だけで、その内の一人は自分の住んでる所しか守らないって言ってます。だからミウさんが戦いたくないっていうのも別に普通のことだと思いますよ?」


 恭也が三人の異世界人の力を借りていると聞き、ミウは恭也と共に戦う三人の勇ましい異世界人を想像していた。

 そのためミウは恭也の発言を聞き驚いた様子だった。


「残りの一人はさっき話に出た氷漬けになってた異世界人ですけど、この人も自分で考えて動くのが面倒だからって自分で氷の中に閉じ込もってました。だから怖くて戦わないなんて別に気にするようなことじゃないですよ。僕だって戦いに向いてない能力だったら今頃大陸の隅でガタガタ震えてたと思いますし」

「能様の能力は相手の能力を知る能力ではないのですか?」


 見ただけで相手の能力を知ることができる能力は便利ではあるが戦闘向きとは言えない。

 そのためそんな能力で魔神を従えて世界各地を飛び回り、ゼキア連邦の国民の救出を含む様々な偉業を成し遂げている恭也にミウは罪悪感と敬意が入り混じった感情を抱いていた。


 そんなミウに恭也は自分の能力を伝え、実際に一度死んでみせたのだがその直後恭也は後悔した。

 先程気軽に死ぬのは止めた方がいいと決めたばかりだったからだ。

 実際恭也の今回の自殺を受けて魔神たちは怒るよりも呆れており、アロジュートだけが笑いをこらえていた。


 死ぬのが癖になっているなと恭也が嘆いていると、そんな恭也を見てミウは言葉を失っていた。

 あまり見た目がひどくならないように恭也はこめかみを光線で撃ち抜くという形で自殺したのだが、それでも目の前での自殺は衝撃が大きかったのだろうか。

 そうミウを心配している恭也の前でミウは自分の心情を語り始めた。


「私はヘクステラに転移して、そこで十武衆という人たちに殺されました。その後しばらくしてアルラウネとして生まれ変わったんですけど、誰かに殺されるなんて経験はもう二度としたくありません」

「はい。それが普通だと思いますよ」


 痛みや恐怖を伴うことは恭也だって嫌だったので恭也にミウの発言を笑う気は無く、恭也は黙ってミウの話を聞いた。


「どうしてあなたは平気なんですか?」


 ミウのこの質問を受けて恭也は即答できなかった。

 ミウの質問の前提が間違っていたからで、恭也は自身の能力について更に詳しくミウに説明した。


「僕の能力は自分だけじゃなくて他の人が死んだ場合も能力が増えます。数えたわけじゃないですけど、僕の能力半分以上が他の人が死んだ時に手に入れたものだと思います。そして僕が自分以外が死んだ時でも能力を手に入れられるって知った時、僕のせいで百人以上の人間が死にました。だから平気ってわけではないですけど僕が何もしないとその人たちの死が無駄になっちゃうんですよね。もちろんこれから先僕が何をしてもその人たちは僕を許さないでしょうから、結局は自己満足の気休めですけど」

「……嫌な事を思い出させてすみません」

「気にしないで下さい。ダーファ大陸では有名な話ですから」


 ここで空気が重くなってしまったため、空気を変えるために恭也は気になっていたことをミウに尋ねた。


「異世界人だってばれたくないならどうして他のアルラウネより強力な能力使っちゃったんですか?正直その話聞かなければ僕もわざわざ眼の能力は使わなかったと思いますけど」

「……初めて木を生やした時に加減が分からなくて、魔力をたくさん込めた後で失敗に気づきました」

「……なるほど」


 まさか単なる失敗による結果だとは思っていなかったため恭也はうまい返事ができず、空気は更に重くなってしまった。


「この体の本来の持ち主の人生を奪った以上できれば自殺はしたくありません。能様のお言葉に甘えさせてもらいますね」


 このミウの発言でようやく恭也はミウの能力のえげつなさに気づき、思わず批判的な発言をしそうになったが思い留まった。

 これまで何度も能力で敵の殺害と蘇生を繰り返してきた自分にミウのこの行為を命の冒涜と批判する権利は無いと恭也は考えたからだ。

 もうこの重い空気を変えることは無理だと判断し、恭也は今日のところは退散することにした。


「僕も含めて異世界人はみんな好き勝手やってますからミウさんもそんなに気負うことないですよ。やりたいようにやったらいいと思います。じゃあ、また近い内に」


 そう言うと恭也は『隔離空間』を解除し、背中からウルの羽を生やして獣人たちの居住地区へと向かった。

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