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お茶会

 恭也がソパスに帰って三日目の午前中、恭也はフーリンとの会談のためノリスに向けて出発した。

 外交目的での訪問の場合、本来なら従者を何人も引き連れて馬車で向かうべきだ。

 しかし今回の訪問はそれ程堅苦しいものではないため恭也一人で来てもらって構わないとティノリス皇国側から通達があったと恭也はホムラから聞いていた。


 そのため恭也は遠慮無くノリスにある王城前にマンタで乗りつけた。

 ソパスからの道中、恭也はマンタ共々魔導具で姿を消していたのでティノリス皇国の国民は恭也の通過に気づかなかった。

 しかしホムラの眷属を通して恭也はあらかじめ王城には到着予定時刻を伝えていたので、王城の前で待機していた兵士たちは慌てることなく恭也を出迎えることができた。


 城門で兵士たちに出迎えられた恭也は攻め入るのではなく招かれて城に入るのは久しぶりだなと思いながら玉座の間へと向かった。

 恭也が玉座の間に着くとそこには大勢の大臣を従えたフーリンが待っており、フーリンは笑顔で恭也を出迎えた。


「恭也様!お待ちしていました。今日はお忙しい中ご足労いただきありがとうございます」


 そう言って頭を下げてきたフーリンを前に恭也も慌てて頭を下げた。


「この前もそうでしたけどフーリンさん自ら出迎えてくれて嬉しいです。こっちこそ今日はよろしくお願いします」


 こうして簡単なあいさつを交わした後、恭也はホムラから渡された贈り物を『格納庫』から取り出してフーリンたちに差し出した。

 その後以前恭也も会ったことがある女の従者二人のみを従えたフーリンに案内され、恭也は城内の一室へと向かった。


 その一室にはお茶会の用意がされており、恭也は従者の指示に従い席に着いた。

 以前自分に火球を叩き込んだ人物にお茶の用意をしてもらう日が来るとは人の縁とは分からないものだと恭也がしみじみと考えているとお茶とお菓子の準備を終えた従者二人はそのまま部屋を出て行ってしまった。


 今回の恭也のノリス訪問の主な目的は、ティノリス皇国内にまだ少数だがいるフーリンへの抵抗勢力に恭也がフーリンを支持していると示すことだ。

 そう恭也はホムラから聞かされており、どうせノリスの各施設を見て回ったところで恭也から建設的な意見が出るわけもなかったのでいきなり個室に案内されたこと自体は別に構わない。


 しかしまさか従者たちが恭也とフーリンを二人きりにして出て行くとは思っておらず、恭也は困惑した。

 もちろん恭也にフーリンに危害を加えるつもりはないが、それでもこれはあまりに警戒心が無さ過ぎるのではないだろうか。

 フーリンと二人で残されて思わずそう考えた恭也にフーリンが笑顔で話しかけてきた。


「私から頼んで二人には席を外してもらったんです。恭也様とゆっくり話したいと思いましたし。それにシアとティカには悪いですけど二人では恭也さん相手では何もできないと思いますから」

「なるほど、まあ、そういうことなら……」


 恭也に何もする気が無いのだからこれ以上恭也がこの件について悩むだけ無駄だろう。

 そう考えて恭也はフーリンとの会話を始めた。


「ホムラからある程度話は聞いてますけどくびになった兵士の人たちの雇用問題はどうなってますか?」

「はい。以前恭也様に助けていただいた後も何度か現役の兵士や元兵士による騒ぎは何度かありました。でも恭也様にソパスを差し上げた後は恭也様の御威光もあってそういった騒ぎは徐々に減って、今では兵士たちの就職の支援の方に力を入れることができています」

「そうですか、それならよかったです」


 ホムラからの報告によるとティノリス皇国で元を含む兵士たちによる事件が起こったのは二ヶ月前が最後らしい。

 四百人以上の逮捕者が出たその事件はホムラが鎮圧のために強化した眷属二体を派遣する程の事件だったらしいが、ティノリス皇国内の反乱分子が総力を集結したその事件が鎮圧されて以降はティノリス皇国は一応の平和を保っていた。


 このこと自体はホムラから聞いていた恭也だったが、ホムラは恭也や魔神たち以外への被害を軽視する傾向がある。

 恭也はホムラを信頼しているがそれでも一抹の不安はあり、今回はいい機会だったのでフーリンに直接今のティノリス皇国の状況を尋ねることにした。


 恭也は自分で素人なりに考えたティノリス皇国で起こり得る問題についてフーリンに質問したのだが、フーリンはそれらの質問にいずれも問題無いと返事をした。

 フーリンの答えを聞いて恭也は安心したが、一応自分たちの売り込みも行うことにした。


「物騒な事件が起こった以外でも何かあったらすぐに相談して下さい。魔神も全員仲間にしたので戦う以外でも色々力になれると思いますし」


 そう言って恭也はフーリンに新しく仲間にした魔神たちの能力を説明した。

 恭也から魔神たちの能力を聞いたフーリンが一番興味を示したのはやはりと言うべきかアクアの固有能力だった。


「恭也様の能力を全部使えるですか。……すごいですね」

「はい。僕の能力にアクア自身の力も加わってるんで本当に助かってます。今も僕の代わりにあちこち行ってけが人や病人の治療にあたってるはずですから」


 もしアクアの固有能力が戦闘にしか使えないものだったら、恭也は今回ここまで時間的に余裕のある休暇を過ごせなかっただろう。

 恭也の発言を聞きフーリンもそう考えたらしくフーリンはアクアへの感謝の言葉を口にした。


「アクア様には感謝しないといけませんね。おかげで恭也様とこうしてお話しできるんですし、その上貴重な水までいただいたのですから」


 先程恭也が玉座の間でティノリス皇国に渡した贈り物にはアクア製の水も含まれていた。

 大抵の病やけがを癒やすアクア製の水は便利ではあるが、アクアの魔力がある限りいくらでも生み出せるので貴重とまでは言えないと恭也は考えていた。


 しかしあまり謙遜し過ぎても嫌味になるかと考えて恭也は何も言わなかった。

 その後話題は恭也がウォース大陸で見聞きしたものとなり、恭也は『情報伝播』でゼキア連邦に住む亜人たちやタトコナ王国で見た演劇などをフーリンに見せた。


「以前恭也様にラミアのことはうかがいましたけど、他にもこんな種族がいるんですね」

「はい。僕が力を借りてる異世界人も全員人間じゃないですし、この世界って割と色んな種族がいますよ」


 そう言うと恭也はガーニス、シュリミナ、アロジュートの姿をフーリンに見せた。

 三種三様の異世界人たちの姿を見せられて最初は驚いていたフーリンだったが、やがて気落ちした様子を見せた。


「アロジュートという方とは一緒に行動しているんですよね?」

「はい。一応僕が主ってことで主従契約を結んでますけど、アロジュートさんはまだ僕のこと完全には認めてないみたいで。でもこれについては僕もがんばりますしそこまで心配しなくても大丈夫ですよ」


 自分たち異世界人のチームワークに不安がありフーリンは暗い顔をしたのだろうと考え、恭也はフーリンに心配無いと伝えた。

 この恭也の発言が功を奏したのかフーリンの表情は元に戻り、その後話題は恭也自身についてとなった。


「ところで恭也様は結婚なさらないのですか?こちらからお願いしておいてなんですが、領主ともなると結婚しておかないと色々と不便ですよ?」


 結婚の話をする際に便利や不便という言葉を使うフーリンを見て恭也は前時代的な考えだなと思ったが、異世界の人間に前時代的などと言ってもしかたがない。

 恭也がこの世界に来てから話した相手は権力者が多く、この世界の権力者の結婚観が自分と違うことは恭也も何となく気づいていた。

 しかし人種差別ならともかく結婚についてまでこの世界の人間の意識を変えるつもりは恭也には無かったので、恭也はフーリンに単に事実だけを伝えた。


「もう知ってるかも知れませんけど僕はフーリンさんと付き合ってます。フーリンさんが十六歳になったら結婚しようと思ってるので、別に領主だからってわけではないですけど結婚自体はするつもりです」


 これでこの話は終わりだと恭也は思ったのだが、フーリンは不思議そうな表情で恭也に質問をしてきた。


「一人としか結婚しないんですか?」

「はい。僕のいた世界ではそれが普通だったので」


 この世界では王族はもちろん各地の領主を始めとする貴族も複数の相手と結婚することが多く、それは恭也も知っていた。

 しかしだからといって領主になったからという理由で恭也が複数の相手を結婚する必要は無いので、恭也は一夫多妻など考えてもいなかった。

 しかし次のフーリンの発言を聞き、恭也は少なからず考えさせられた。


「でも恭也様は元いた世界では戦闘や暴力とは無縁の生活を送っていたんですよね?それにも関わらずこれまでたくさんの活躍をなさってきたんですから、結婚に関しても前にいた世界の決まりよりも恭也様の気持ちが大事だと思います」


 言われてみればこの世界に来てからの恭也は気がつけば戦い続きの日々を送ってきた。

 もちろんこの世界で最初に出会った人間が奴隷商人だったということも理由としては大きいが、前にいた世界ではけんかすらろくにしたことのなかったことを考えるとここ数ヶ月の恭也はまるで別人の様だった。


 いきなり強力な能力を与えられて魔法や悪魔が存在する世界に放り込まれたのだから言動が変わるのは当然だが、そう考えるとフーリンの言う通り今の自分が前にいた世界の常識を口にするのは筋違いかも知れないと恭也は考えた。

 かといってそれではノムキナ以外とも結婚しようとまでは恭也は思わず、恭也はとりあえず当たり障りのない返事をフーリンに返した。


「言われてみればそうですね。まあ、政略結婚とかする気は無いですけど縁があったらその時は考えます」


 もっとも自分と結婚したいなどという人物がそう何人も現れるはずもないのでこの仮定自体が無駄な事だ。

 そう考えながら恭也はフーリンとの会話を続け、二時間程会話をしてからフーリンと昼食を共にした。


 そして昼食後も恭也はフーリンとしばらく雑談をし、フーリンは恭也の体験談に終始楽しそうに耳を傾けていた。

 そして恭也が帰る時間になり、従者や兵士を伴いフーリンは恭也を王城の外まで見送った。


「恭也様、今日は本当に楽しかったです。またお時間があったらぜひいらして下さい」

「はい。話し相手ぐらいにならいつでもなるのでその時はまた」


 そう言ってマンタを召還してソパスへと向かった恭也を見送った後、自室へと帰ったフーリンは疲れた様にため息をついた。

 久しぶりに恭也とゆっくり話せる機会だったためフーリンは今日の恭也との会談に意気込んで臨んだ。


 話題に硬いものも混ざってしまったのが少し不満ではあったが、自分と恭也の今の関係を考えるとしかたがないことだとフーリンは考えていたため今日の恭也との会談はフーリンにとって概ね満足できるものだった。


 ホムラから頼まれていた恭也の一夫多妻への抵抗感の確認も無事に果たし、その際に恭也が何が何でもノムキナ以外とは結婚しないと言わなかったためフーリンは安堵した。

 恭也に助けられて以来恭也に淡い恋心を抱いていたフーリンだったが、自分のこの想いは叶わないだろうとフーリンは考えていた。


 恭也からすればフーリンは敵対した国の姫で、付き合うどころか恭也に殺されなかっただけでも感謝しなくてはならない。

 その上恭也はティノリス皇国に恨みを持っているギズア族と関係が深い異世界人、ガーニスと協力関係にあるのだからどう考えてもフーリンが恭也と結ばれるはずがなかった。


 そう諦めていた時に恭也の恋人であるノムキナから共に恭也の妻にならないかと提案されたのだからフーリンの喜びは大きかった。

 フーリンが恭也との結婚を望んでいることはティノリス皇国でもまだ一部の者しか知らないが、フーリンが自分の考えを伝えたところフーリンの考えを聞いた者全員が恭也とフーリンの結婚自体には賛成した。


 ティノリス皇国の王位はフーリンの弟のニオンが継げばよく、恭也と今以上に関係を深くできることを彼らも喜んだからだ。

 フーリンを差し置いてノムキナが恭也の第一の妻となることに不満を持つ者も何人かいたが、数自体は多くなかったのでこれはそこまで問題ではない。


 恭也とフーリンが結婚した際にガーニス及びギズア族が反感を覚えないようにする準備はホムラがしてくれているのでこちらも問題は無かった。

 そのため実のところ一番の問題は恭也がフーリンとの結婚を望むかどうかで、こればかりはフーリンががんばるしかなかったが前途は厳しかった。


 今日恭也と話している最中、フーリンは何度も恭也がホムラに全幅の信頼を寄せていると感じた。

 ホムラの頭の良さはこれまでの付き合いでフーリンも感じており、あれだけの智謀を持った忠臣が他に五人もいるとなるとフーリンも自分だけの魅力を恭也に示さなくてはとても恭也に興味を示してもらえそうになかった。


 また恭也に見せてもらったアロジュートの姿にもフーリンは驚いていた。

 あれ程美しい存在をフーリンは見たことがなかったからだ。

 アロジュートと出会い仲間になるまでの経緯が経緯だったので恭也はアロジュートをあまりそういった目で見ていなかったが、アロジュートの美しさはまさしく人外の美と言えるものだった。


 実際アロジュートがソパスを出歩く際には男女問わず多くの者がアロジュートの美貌に見とれていた。

 アロジュートはそれに加えて恭也以上の戦闘力も兼ね備えているのだ。

 別に兵士として恭也に仕えるわけではないのだから強さという点で劣等感を覚える必要は無いかも知れないが、直接会ったことはないもう一人の恭也の妻候補、ミーシアも異世界人の血が流れており高い戦闘力を持つとフーリンは聞いていた。


 アロジュートが恭也に異性としての好意を持っていないのがせめてもの救いではあったが、仮に恭也と結ばれても自分が恭也の周囲で埋没しないかとフーリンは不安になった。

 強さ、美貌、賢さとそれぞれの点で自分より上の存在が恭也の周りにいる以上フーリンも自分だけの強みを持たなくてはならない。

 しかしそんなものフーリンには見当もつかず、フーリンは考え込んではため息をつく日々をしばらく過ごすことになった。

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