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不穏の芽

 コーセスでキースなどに挨拶をした後、恭也は光速移動でティノリス皇国へと向かった。

 まだライカ程正確には光速で動けないため恭也は目的地のソパスからかなり離れた場所に到着してしまった。


 恭也は融合していなくても魔神の現在位置が分かり、その情報を使えば地図など見なくても自分の現在位置を知ることができる。

 今恭也は全ての魔神と融合しているがそれでも近くにいるホムラの眷属の位置を基に自分の現在位置は割り出せる。


 そのため恭也は今自分がソパスから南東に二十キロ程離れた場所にいることを瞬時に把握し、まだ時間に余裕があったためここからソパスまでは飛んで行くことにした。

 ウルの羽での飛行なら十五分もあればソパスに着くだろう。

 そう考えながら恭也は離陸し、ソパスへの道中昨日ホムラの眷属から伝えられた情報について考えていた。


(ヘクステラでの独立の方は今どうなってる?)

(申し訳ありません。今近くに眷属が一体しかいないのでまだ詳しい情報は集まっておりませんの。今近くの眷属を二体向かわせていますのでもう少しお待ち下さいまし)

(うん。分かった。さすがに独立してすぐに何かしようとはしないだろうし、そもそも眷属が足りないの僕のせいだからそんなに急がなくていいよ)

(そう言っていただけると助かりますわ。もちろん可能な限りは急ぎますのでもうしばらくお待ち下さいまし)


 昨日ヘクステラ王国に残してきたホムラの眷属からもたらされた情報によるとヘクステラ王国東部の三つの街がヘクステラ王国からの独立を表明したらしい。

 独立を表明した者たちは自分たちの国をサドナ共和国と名づけ、異世界人の恭也に屈したヘクステラ王国に失望して自分たちだけの国を作ったと表明しているらしい。


 これを聞いた恭也はサドナ共和国とやらがゼキア連邦の国民の誘拐を再開しない限りは放置しようと決めた。

 新参者かつ異世界人である恭也と距離を取りたいという彼らの気持ちも理解できたからだ。


 もちろんサドナ共和国が国内で国民の虐殺などを始めたら即介入するつもりだったが、そんなことをしたら恭也に介入の口実を与える結果になるのは明らかだ。

 そこまでサドナ共和国の首脳陣も愚かではないだろう。


 またタトコナ王国でのカーツでの一件の直後、恭也はウォース大陸の全ての国にゼキア連邦に住む種族を『亜人』と名づけて彼らを人間と同等に扱うと伝えた。

 亜人たちを各国でどう扱うかまでは強制する気は無いがもしゼキア連邦の国民に危害を加えたら恭也への宣戦布告と見なすと各国には伝えたので、今すぐサドナ共和国がゼキア連邦に手を出すことはないだろう。


 そう考えて恭也はサドナ共和国については大きな事件があったぐらいにしか思っておらず、ホムラも自身の目であり手足でもある眷属が不足している現状ではサドナ共和国に手を出す気は無かった。

 しかしウルはサドナ共和国の動きがおもしろくなかったようで、即座に攻め入るべきだと昨日から何度も口にしていた。


(恭也が離れた途端好き勝手しやがって!偉い奴二、三人痛めつければ調子乗ってる馬鹿共も落ち着くだろ!二時間もかからねぇからソパス行く前にやっちまおうぜ!)

(まあまあ落ち着いて。今すぐこっちから仕掛ける気は無いよ。別にサドナ共和国がどこにも迷惑かけないって言うなら好きにすればいいし)

(そんなこと言ってたらその内独立されまくるぞ?)

(独立ってそうほいほいできるものじゃないよ)


 恭也の説得を受けても怒りが収まらない様子のウルにホムラが話しかけた。


(ウルさん、少しは落ち着いて下さいまし。わたくしも今回の件は愉快ではありませんけれど先程ウルさんも言っていた通り私たちがその気になればサドナ共和国とやらはどうにでもなりますわ。わざわざマスターの帰省の前に慌てて済ませる程のことでもないと思いますの)

(そうっすよ。それに師匠はやり過ぎても悪い評判が立たないように相手が手を出すのを待つのが基本っすから今は放っておくしかないっす)

(人聞き悪いこと言わないでよ)


 ディアンの件も含めて後手に回ることが多いのは否定できない恭也だったが、ティノリス皇国以外の国での恭也の影響力には限界がある以上全ての問題に先手を打つのは不可能だった。

 恭也がいた世界で国が管理していた軍や警察ですら基本的に後手に回ることが多かったのだ。


 一応恭也はティノリス皇国とセザキア王国に街と領地を持っており、今ではダーファ大陸ではそれなりに影響力を持ってはいる。

 しかしウォース大陸での恭也はまだ強い異世界人という枠を超えてはおらず、各国から受けられる援助も限定的なものだ。


 また恭也がサドナ共和国を放置している一番大きな理由は悪評が立つのを恐れているからではなく、必要を感じないからだった。

 恭也のやり方が気に入らないと独立したサドナ共和国の行動は恭也から見れば自然なものだ。


 もちろん今回の三つの街の独立が税収や交易などの問題で周辺の街に影響を与えることになるのは恭也も理解している。

 しかし嫌いな相手と距離を取るというのは誰でもしていることで恭也もネース王国と神聖国オルフートにはできるだけ近づきたくはない。


 そのため恭也は今回のサドナ共和国の独立に関しては周りに迷惑をかけない限りは好きにすればいいと考えていた。

 恭也のこうした考えが伝わり、完全に納得した様子ではなかったがウルもやがて落ち着き始めた。


 なお今回の話に加わらなかったラン、アクア、フウに関しては恭也が動くなら全力を尽くすがサドナ共和国についてはどうでもいいという考え方だった。

 ランとフウが恭也や他の魔神以外に興味を持たないのは今に始まったことではなく、二人の態度に関しては恭也も特に何も思わなかった。


 しかしアクアは恭也からサドナ共和国侵攻の命令が下った場合にどの能力を使おうか考えている様子で恭也を不安にさせた。

 アクアは恭也の仲間になってから恭也と離れて行動することが多かったので活躍の場に飢えている様子だった。


 やる気があるのは構わないがアクアをこのままにしておくといずれやり過ぎてしまいそうだ。

 アクアには悪いがアクアの固有能力を考えると今後もアクアには恭也から離れての行動を頼むことが多くなるだろう。


 今回の帰省中、恭也はアクアと共に自分の能力の練習をしようと考えていた。

 自分の能力をこの世界の魔法と組み合わせて使うというアクアの発想に恭也は驚かされたからだ。

 それで少しでもアクアの不満が解消されるといいのだがと思いながら恭也はソパスに向けて飛び続けた。


「恭也さん!」


 ソパスの屋敷についてすぐに恭也は笑顔のノムキナに迎えられ、久しぶりにノムキナに会えた恭也は思わず笑顔を浮かべた。


「帰るのが遅くなってすみません。ホムラからノムキナさんが色んな仕事をがんばってくれてるって聞いてます。本当にありがとうございます」

「いえ、私なんて全然……。これから他の国に行くんですよね?」

「はい。夕飯までには戻ります」


 恭也はこれからダーファ大陸にあるクノン王国以外の四つの国に向かい、ディアンが悪魔を差し向けた場合に備えて各国の兵士にホムラの加護を与える予定になっていた。

 本来ならソパスに着いたばかりの初日ぐらいはゆっくりしたかったが、ウォース大陸での活動が予想以上に長くなってしまったためこの加護配りはただでさえ延期されていた。


 いざという時のために兵士たちに加護を与えるのはこちらから言い出したことなのでこれ以上の延期は避けたく、それにせっかくの休暇なのだから面倒なことは最初の内に済ませておきたい。

 そう考えて恭也は帰省初日に各国を訪問して加護を配ることにした。

 しかし少し話すぐらいならいいだろうと考えて恭也はノムキナと共に屋敷の中に入った。


「へぇ、これが精霊魔法ですか」


 自分の部屋に着いてすぐに恭也はアクアに頼みノムキナに加護を与えた。

 アクアに加護を与えられたノムキナは水を操ったり氷を創ったりと与えられたばかりの力を試していた。

 そんなノムキナを見て恭也は口を開いた。


「いきなり物騒なもの渡してすみません。もしディアンさんがこの大陸に攻め込んで来てもノムキナさんが戦うことはないと思います。でもせっかくなんで一応渡しました」

「はい。ありがとうございます。残念ですけど私は戦いでは力になれないと思いますけど、でも氷を創れるのは私生活でも便利だと思うので助かります」

「そう言ってもらえると嬉しいです。後一応向こうで買ったお土産もあるので」


 そう言って恭也は『格納庫』から織物や本を取り出してノムキナに渡し、その後予定通りダーファ大陸にある各国に向かうために一度部屋を出た。


「じゃあ、すぐに戻るけどみんなよろしくね」


 今回恭也がソパスに滞在する間、魔神たちにはそれぞれ仕事が割り振られていた。

 すでに多岐に渡る仕事を行い今回の魔神たちへの仕事の割り振りを決めたホムラを除くと、ウルは固有能力による魔導具の生産、ランは鉄の生産と先程『アルスマグナ』で創り上げた金属のソパス研究所への運搬と加工、アクアはダーファ大陸各地の要人の病気やけがの治療、フウは魔力一万ずつを保有した分身を九体創りソパス研究所を含む各地でマンタ召還や各種実験のための魔力の供給係を行うことになっていた。


 ライカはホムラと共に恭也の加護配りに同行するが、それが終わったらホムラの指示で各地にいくつか荷物を運ぶらしい。

 アクアの仕事のダーファ大陸各地での要人の治療はホムラが複数の権力者と交渉する際に見返りとして申し出たもので、他の魔神たちの仕事と違い数日がかりのものだ。


 こっちでも恭也と離れての仕事かとアクアは残念に思ったが、恭也にこんな雑用をさせるわけにもいかず恭也が新たに魔神を部下にしたという宣伝を兼ねているとホムラに言われて納得した。

 また今回の休暇中は恭也とノムキナに気を遣い、アクア以外の魔神たちも恭也から離れてソパスを徘徊することとなっていた。

 魔神たちの予定はこのようになっていたのだが、ここで問題になったのがアロジュートの存在だった。


(アロジュートさんはこれからどうしますか?さすがにノムキナさんと出かける時も着いて来るって言われると困りますけど……)

(そこまで野暮じゃないわよ。あんたについて行ってこの大陸の様子簡単に見た後は屋敷で大人しくしてるわ。気が向いたらこの街の様子ぐらいは見て回るかも知れないけど)

(分かりました)


 アロジュートの答えを聞き恭也が安心しているとアロジュートは呆れた様子で天使五十体を召還して恭也を驚かせた。


(あんたはあたしの主なんだからもっとはっきりついて来るなぐらい言ってもいいのよ?あんまり遠慮されてもうっとうしいからあたしからあんたに贈り物よ。雑用なり使い走りなり好きに使って。何なら魔法の実験台に使ってもいいわよ)


 いきなり大勢の天使を召還した意図をアロジュートから聞かされ、恭也はホムラにこの天使たちをどうするか尋ねた。

 ホムラからはありがたく使わせてもらうという返事が返ってきたので、恭也はアロジュートが召還した天使たちについてはホムラに任せることにした。


 その後恭也はホムラとライカ以外の魔神とは別行動となり、まずはティノリス皇国の首都、ノリスへと向けて光速で移動した。

 いつもの様に多少の誤差はあったものの数秒でノリスに着いた恭也は、兵士たちが待っているはずの場所に向かいながら先程新たに仲間にした魔神たちを紹介した時のノムキナの反応を思い出していた。


 今回恭也はノムキナにライカ、アクア、フウの三人を紹介したのだが、その際ノムキナはホムラと二人で何やらひそひそと話していた。

 ジュナの様に魔神が全員女の姿をしているのをからかわれても反応に困るが、かといって内緒話をされても困る。


 これでノムキナが恭也に怒るなり呆れるなりするならまだ恭也も対応のしようがあったのだが、ノムキナは恭也に文句一つ言わず新たに恭也が仲間にした魔神三人にあいさつをしていた。

 そんなノムキナを見てノムキナを不安にさせて我慢をさせているのではと恭也の方が不安に思ったのだが、そんな恭也の不安を感じ取ったホムラからは心配ないと言われた。


 ノムキナとホムラの会話の内容を恭也はほとんど聞き取れなかったが、やっぱりや余計な心配でしたわねといった発言が漏れ聞こえてきて恭也を困惑させた。

 恭也が強く聞けばホムラは答えるだろうが片方が魔神とはいえ女子同士の会話の内容を無理矢理聞き出すのは恭也としても気が引けた。


 この件に関しては今回の休暇中折を見てノムキナに直接聞くしかなく、とりあえずは目先の仕事を終わらせよう。

 そう考えて恭也は足を進めた。

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