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評判

 ユーダムに帰った恭也は改めてカムータの家に向かい、ウォース大陸で購入した酒、本、織物などを土産として渡してから最近のユーダムの状況についてカムータと話し始めた。


「牧場は一応形だけは完成しました。家畜の数を増やすのは時間がかかりますけど、こればかりは時間をかけるしかないですから」

「水路はどうなってますか?最後に見た時はまだ時間がかかるって言ってましたけど」


 魔導具を使って工事を行えるとはいっても、それでも船が通れる程の水路を作るとなると大変なはずだ。

 そう考えての恭也の質問にカムータは水路工事の進捗状況を説明した。


「水路全体の完成は一年後になる予定ですが、でも一部はすでに使用中でクノンの二つの街とはもう何度も物のやり取りをしてます。エアフォンでの連絡ができないので少し不便ですが、それでも当初の予定よりかなり早く外とお金のやり取りができるようになりました。この調子でいけば恭也さんに借金を返す日も予定より早くなるかも知れません」

「そうですか。ホムラから話は聞いてましたけど順調そうでよかったです」


 借金の返済は別に急いでもらう必要は無いと恭也は思っていたが、ユーダムが外部との交易を行えるまでに発展したことは素直に嬉しかった。

 しかし外部との交流が増えるということはそれだけ問題も起こりやすくなるということだ。

 そう考えた恭也はカムータへの質問を続けた。


「よそから引っ越して来る人がどんどん増えてるって聞きましたけど、治安の方はどうですか?」


 恭也のこの質問を受けてカムータの表情がわずかながら曇った。


「……そうですね。引っ越して来た人間と元々の住民の間での衝突は増えています。引っ越して来る人間は今のところネースの人間ばかりなので、彼らの中には今も我々を奴隷と思っている人間も少なくないので」

「ジュナさんたちがいなくなった後、大丈夫ですか?」


 カムータの発言を聞き思わずこう尋ねてしまった恭也に対し、カムータはしばらく返事ができなかった。

 そんなカムータを見て恭也はやはりジュナたちがいなくなったらユーダムの治安の維持は厳しくなるのかと思った。


 しかしカムータはジュナたちがクノン王国に帰った後での治安悪化はそこまで心配しておらず、すぐに返事ができなかったのは別の理由からだった。

 しばらく悩んだ後、カムータはユーダムの治安維持については心配いらないと恭也に伝えた。


「ジュナさんたちが帰った後でもユーダムのことは心配いりませんよ」

「どうしてですか?」


 カムータの発言を聞き、恭也は最初カムータが自分に気を遣っているのだと考えた。

 そのため恭也は自分への気遣いは不要だと言おうとしたのだが、それより先にカムータが口を開いた。


「上級悪魔が来たというならまだしも人間同士でそこまで大きな争いを起こすような人間はユーダムにはいませんよ。だってそんなことをしたら恭也さんに何をされるか分かりませんから」

「僕にですか?」

「はい。ユーダムの人間は良くも悪くも恭也さんの力をよく知ってますからね。ホムラさんの目があるのに暴力沙汰を起こそうとは思いませんよ」


 自分が今もネース王国の人間から恐れられていると知れば恭也は傷つくだろう。

 そう考えて先程恭也への返事に困ったカムータだったが、遅かれ早かれ知れることだと考えて正直に話すことにした。


 しかし当の恭也は傷つくどころかカムータの発言をすぐには理解できず困惑していた。

 ユーダムで誰かと戦ったり制裁を加えたりした覚えが無かったからだ。

 そんな恭也にホムラが話しかけてきた。


(マスターはもう少し自分の知名度を自覚なさった方がいいですわ。マスターの武勇伝はネースでは有名ですもの。例えマスターの戦っている姿を直に見ていなくても、ネースの人間なら誰でもマスターに畏怖の念を抱いていますわ)

(ふーん。ここ最近ネースには顔出してなかったから知らなかった)

(いたずらした子供をたしなめるのにマスターの名前を使っている親もいますわよ?)


 知らぬ間に自分がなまはげ扱いされていたことに恭也が言葉を失うと、ホムラは驚いた様子だった。


(もしご不快でしたら禁止するように通達を出しますわ。マスターなら構わないとおっしゃると思って放置していたのですけれど……)


 ホムラのこの発言を聞き、恭也は慌てて返事をした。


(いや、それぐらいなら構わないよ。あんまりひどいのはホムラがとっくに対処してるでしょ?)

(もちろんですわ。あまりに目に余る輩はそれぞれの街の衛兵に命じて捕えさせましたわ。もっともここ最近は全くそういった話を聞きませんけれど)


 恭也がユーダムとコーセスを自治区として作った頃には恭也の名前を利用した人間が他者から金銭を騙し取ろうとする事例が頻発した。

 しかしネース王国の東部で村を襲っていた一団、ゾワイトたちに恭也が制裁を加えた後はそういった事例も減り、ネース王国全体でも月に一度起こるかどうかといった頻度になっていた。

 思ったより長くホムラと話し込んでしまいカムータを放置してしまった恭也は、カムータに謝ってから今後のユーダムの治安についての自分の考えを伝えた。


「相手の出方次第なのでディアンさんとの件がいつまでかかるかは分かりませんけど、何かあったらすぐに知らせて下さい。さっき言った通り光の魔神の能力でほとんど魔力を使わないでユーダムには来れますから」


 恭也はライカが創れる移動先の指定用の魔導具十個を各大陸に三つずつ配置し、残りの一つは念のために手元に置いておこうと決めていた。

 ダーファ大陸に配置する三つはユーダムとソパス、そしてもう一つはクノン王国とセザキア王国の国境沿いに配置する予定だった。

 すでにカムータにライカの魔導具は渡してあり、恭也の考えを聞きカムータは礼を述べながらうなずいた。


「じゃあ、僕はそろそろ行きますね。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。少しでも恭也さんに恩返しをできるようにこれからも住民一同がんばりたいと思います。またのお越しをお待ちしております」


 こうしてカムータに見送られた恭也はユーダムを後にし、その後コーセスへと向かった。


 恭也がダーファ大陸に帰って来た日の前日、恭也が領主を務める街、ソパスでノムキナはいつも通り仕事を行っていた。

 恭也は今回ダーファ大陸に五日間滞在する予定だが、ノムキナはその五日全てを恭也と過ごすつもりは無かった。


 もちろん本音を言えば久しぶりに会うのだから五日と言わずずっと恭也と一緒にいたかったが、今回の帰省を利用してノムキナは恭也にミーシアとフーリンとの時間も持ってもらいたいと思っていた。


 ミーシアとフーリンに恭也への気持ちを確認したところ二人からも色よい返事がもらえたので、恭也の知らないところでノムキナたちの計画は着々と侵攻していた。

 また簡単な仕事を割り当てられていた初めの頃とは違い、今のソパスの統治におけるノムキナの重要度はかなり高くなっており五日も休んでいられないという理由もあった。


 ノムキナはすでに外部との折衝や予算の配分すら任されるようになっており、今では十人以上の部下を抱える立場だ。

 そんな立場で恭也が帰って来るから五日間休むとはノムキナは言えなかった。


 ノムキナの要求はソパスでは確実に通ってしまうからだ。

 恭也やホムラを恐れているから表に出て来ないだけでまだ若いノムキナがソパスの統治に関わる仕事を行っていること不満を持っている人間は多いはずだ。


 それを考えるとノムキナもあまり自分の要求を口には出せず、もやもやした気持ちを抱えていた。

 しかし今の気持ちにとらわれて仕事がおろそかになるとさらに周囲からの目が厳しくなるので今は仕事に集中しよう。

 そう考えて明日からの休みを前に役所で机に向かっていたノムキナに部下の一人が声をかけてきた。


「ノムキナ様、ギズア族の方がいらっしゃいました」

「分かりました。応接室にお通しして下さい」


 ノムキナは軍事や治安に関する事案には一切関わっていないので書類で読んだだけだが、ホムラは最近ガーニスと頻繁に連絡を取り合っているらしい。

 ホムラとガーニスが連絡を取り合っていたのはディアン対策のためだったが、ガーニスがホムラと何度も連絡を取ることで思わぬ事態が発生した。


 ホムラからダーファ大陸やウォース大陸の近況を聞いたガーニスがそれをギズア族に伝えたところソパスで暮らしたいと考えるギズア族が出始めたのだ。

 比較的若いギズア族で増え始めたこの考えに年配のギズア族は難色を示したが、ガーニスとホムラを交えての話し合いの結果ギズア族からの志望者十人を研修生としてソパスで迎え入れることになった。


 今日はその研修生がソパスに着く日で、彼らへの対応はノムキナとその部下が行うことになっていた。

 ノムキナは応接室で緊張した様子でノムキナを待っていたギズア族の若者と合流し、その後彼らと共に研究所へと向かうために街へと出た。


 ソパスは病院や魔導具販売店といった街の各所で使われている技術こそ最新のものばかりだが、それでも街並み自体は他の街と大差ない。

 しかし多くの人間が道を行き交う光景だけでもギズア族の若者たちには珍しいらしく、最初彼らは目に映る物全てに驚いていた。


 しかしノムキナの護衛としてホムラの強化された眷属二体が現れた時には驚くどころではなく全員が顔を青ざめていた。

 ソパスを初めて訪れる者には街に入る前に簡単な説明が行われ、そこで最近マンタと命名されたエイ型の悪魔やホムラの眷属についての説明は受けているはずだったのだが実際見るとやはり怖かったのだろう。


 ソパスやユーダムの人間は魔神を恭也の部下と認識しているため、火の魔神であるホムラの眷属にも全く恐怖は感じない。

 しかし悪魔と眷属の違いすらあいまいな今のギズア族には強化されたホムラの眷属は凶悪な存在としか映らなかった。

 そんな彼らに眷属越しにホムラが話しかけた。


「そんなに怖がらないで下さいまし。この眷属はガーニス様がいつも話している眷属同様私わたくしが操っていますの。みなさまに危害を加えることはありませんわ」


 ガーニスの目があったギズア族の居住区と違い、ここではいざという時にギズア族を守ってくれる存在がいない。

 そのためギズア族の若者たちが見慣れない姿をした自分の眷属を見て恐怖を抱くのはホムラも理解はしていた。


 しかし彼らは自分の意思でここに来たのだし、そもそも今彼らを守る存在にあたるのは彼らが恐れているホムラの眷属だ。

 今の段階でホムラの眷属を恐れているようでは先が思いやられる。

 恭也とノムキナの手前態度にこそ出さなかったが、ホムラはギズア族の若者たちに心底呆れていた。

 そんなホムラにギズア族の若者の一人が謝罪した。


「すいません。頭では分かってるんですけどなかなか……」


 今回ソパスに留学したギズア族の若者の中で中心的な役割を担っている青年、コンスがホムラに謝罪する中、ノムキナが横からホムラに声をかけた。


「ギズア族のみなさんが驚くのも無理ないですよ。私も初めてホムラさんのこの眷属を見た時はびっくりしましたから。みなさんもその内慣れると思いますから、とりあえず今は研究所に行きましょう」

「かしこまりましたわ」


 ホムラとしては極端な話ギズア族に恐れられたままでも一向に構わなかったので、ノムキナに反論することなくノムキナに付き従った。

 そして放心状態だったコンスたちもノムキナに促される形で動き始め、ようやくノムキナたちは研究所に向けて出発するためにマンタに乗った。

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