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転移実験

「それに真面目な話すると僕とディアンさんの戦いが始まったらダーファ大陸の全ての国が攻撃される可能性があります。だからクノンにだけ精霊魔法の使い手がいないのって困るんですよね」


 ダーファ大陸にある国の内、クノン王国を除く四つの国ではすでに精霊魔法を与える人員三百が選ばれており、今回の滞在中に恭也自ら出向いて加護を与えるつもりだった。

 しかしギルドへの協力を一切行っていないクノン王国の兵士に加護を与える程恭也もお人好しではなく、いざという時のために迅速に対応するためにも恭也はクノン王国にギルドを受け入れて欲しいと考えていた。


 二人に加護を与えたのはその一環で、言い方は悪いが恭也は二人に広告塔になってもらいたかった。

 しばらく視線を交わした恭也とジュナだったが、やがてジュナが折れた。


「恭也と根競べするだけ無駄か。面倒なことになったら責任は取ってくれるんだろうな?」

「もちろんです。そんなもの押し付けたんですからいざという時には責任は取りますよ」

「……そうか。あまり陛下を困らせるなよ」


 それだけ言うとジュナはロップを連れて持ち場に戻り、その後恭也はひとまずカムータたちと別れて研究所へと向かった。

 恭也がコロトークたちがいる研究所に着くと、恭也は先程のユーダムの時同様研究員総出で出迎えられた。


「どうもお久しぶりです。研究は順調みたいですね」

「はい。能様のおかげで人員の目途も立ち、エアフォンの改良はもちろん悪魔の召喚についての研究も順調に進んでいます」


 エアフォンは連絡可能距離、精度共に順調に改善され、ユーダムから百キロ以上離れたネース王国内の二つの街とはすでに頻繁に連絡を取り合うまでになり、まだ試験的にではあるが国境沿いにあるセザキア王国の街にも一つエアフォンを設置していると恭也は報告を受けていた。


 ホムラの眷属による連絡は内容がホムラに筒抜けになるので私的な連絡には向いていない。

 ホムラによるとセザキア王国での実験がうまくいけばそのままダーファ大陸の各国にエアフォンを販売する予定らしい。


 これがうまくいけば遠く離れた土地にいる者同士の交流も進み、この世界の人々が取れる選択肢も増えるだろうと恭也は喜んでいた。

 また人材育成も思ったより順調で、元々コロトークは奴隷に取り付けていた首輪の開発者としてネース王国内での知名度はかなり高かった。


 そのためコロトークの下で研究したいという者はかなりおり、今では当初の三倍近い人数で研究を行っているらしい。

 恭也としては魔導具や悪魔の研究より人材育成の方が大事だったので、そちらもうまくいっているようで安心した。

 しかしそれとは別に先程のコロトークの発言で気になったことがあり、恭也はコロトークに質問をした。


「さっき言ってた悪魔の召喚についての研究で何か見せられるような進展はありましたか?」


 もちろんコロトークたちの行っている研究の内容は逐一報告させていたが、正直な話恭也はその内容の半分も理解できていなかった。

 そのためせっかく来たのだからこの目で見ることができる成果でも出ていればと思い恭也はこの質問をしたのだが、それと同時にそう簡単に報告書に載せていない最新の研究成果など見れないだろうとも思っていた。


 しかし恭也の予想に反してコロトークはある実験を見せたいと言ってきた。

 コロトークに言われるがまま外に出た恭也は、恭也を待たせて何やら準備をしているコロトークたちを見ながらホムラにコロトークの言う見せたいものに心当たりがあるかを尋ねた。


(研究途中のものはいくつかありますけれど、悪魔関係というのでしたら悪魔の転移だと思いますわ)

(……は?転移?もうそこまで研究進んでたの?)


 ホムラの口調があまりにいつも通りだったので、恭也は最初ホムラが言ったことを理解できなかった。

 しかしホムラの発言内容を理解した直後、恭也は思わず声を荒げてしまった。


 コロトークに悪魔を魔法で召還する際の魔法陣の研究を頼んだものの、頼んだ恭也ですらいくら魔法がある世界とはいえ転移技術の開発など無理だろうと思っていたのだ。

 それがもう実演可能な段階まで来ているというのだから恭也が驚くのも無理は無かった。

 しかしそんな恭也とは対照的にホムラは落ち着いた様子で、申し訳なさそうにすらしていた。


(あまり期待しないで下さいまし。魔法陣から召還した悪魔を別の魔法陣に召還できたというだけで、その悪魔が同一個体かすら分かっておりませんの。マスターの眼ぐらいしか確認の方法が無いので今まで黙っていましたわ)

(なるほど。でもうまくいけばすごいじゃん)

(マスターでも魔力を一万消費する転移を人間がそう簡単に再現できるとは思えませんわ。そもそも仮に転移が成功していたとしても、転移された悪魔はすぐに消えますのよ?)

(え、何で?)

(分かりませんわ。この研究はまだ手探りの段階ですの)


 今から行われる実験にあまりにホムラが興味を持っていなかったため、恭也も今回の実験は駄目そうだなと思い始めていた。

 頭の良さに関しては恭也はホムラに全幅の信頼を寄せていたからだ。


 実際にはさすがのホムラも魔法や悪魔の研究の内容の深い部分まで理解しているわけではなかったので、恭也のこのホムラへの評価は過大なものだったがそこにウルが別の側面から今回の実験の意義に疑問を呈した。


(そもそも転移ならもう恭也できるんだから必要ねぇじゃねぇか。魔力がもったいないって言うならライカもいるし)

(そうですね。今なら私たち六人を部下にしているのですから、魔力の一万や二万程度気にすることもありませんし)


 ウルの発言にアクアも同意する中、恭也は魔神たちの勘違いを正した。


(確かに僕が生きてる間はそれでもいいけどでも僕も何十年か経てば死ぬから、その後のことも考えておかないとね。せっかくギルドがこのままうまくいっても僕が死んだ途端連絡も魔導具も使えなくなったじゃ話にならないし)


 死ぬ可能性を考えたらディアンと戦って殺される可能性もあったが、それは今考えてもしかたがないので恭也は口にしなかった。

 恭也が死んだ時のことが話題になりランからかなり強い悲しみが伝わってきたが、恭也はとりあえず話を進めた。


(もちろん数十年後のことなんて具体的に考えられる程僕頭いいわけじゃないけど、難しいこと考えなくても技術は発展させといた方がいいでしょ?)

(そこまで師匠が面倒見る必要無いと思うっすけど)


 ライカは世界規模で死者の数を減らしたという恭也の目標の大きさに驚くと同時に呆れてもいた。

 そのため恭也が自分の死後まで影響を与えようとしていると知り、さすがに無理だろうと戸惑っているようだった。


(これに関してはやりたいからやってるだけだしね。どこまでできるかは分からないけどここまで色々やって死んだ後のことは知らないはさすがに無責任だから、できるだけのことはするつもりだよ)


 恭也のこの発言を聞き魔神たちはまだ何か言いたそうにしていたが、ここで準備を終えたコロトークが恭也に声をかけたため話は一時中断となった。

 その後失敗してもしかたがないと自分に言い聞かせながら恭也が見守る中、巨大な魔導具から魔法陣に魔力が送られ、魔法陣から中級悪魔が召喚された。


 しかしここまでは恭也が来る前にすでに可能だったことなので問題はここからだ。

 恭也は緊張した面持ちで『魔法看破』を発動すると、アクアを召還して外に残してから中級悪魔が転移される予定の魔法陣が用意された小屋に入った。

 その後すぐに中級悪魔が転移され、恭也の眼の前の魔法陣に中級悪魔が召喚された。


(へぇ)

(あら)


『魔法看破』により目の前に召喚された悪魔が先程の悪魔と同一個体だと恭也が知ると、恭也だけでなくホムラも驚きの声をあげた。

 恭也とホムラだけでなく他の魔神たちもそもそも実験が成功するとは思っていなかったので、『魔法看破』による情報に個人差こそあれ驚いている様子だった。

 念のため恭也は外で待機していたアクアに転移された際に中級悪魔がどうなっていたかを尋ねた。


「先程の中級悪魔の反応は突然消えました。私たちの様に体を解いて移動していた様子は無かったので、恭也様の前に悪魔が現れたなら悪魔は転移したということになります」

「へぇ、思ったより早かったな」


 恭也もまさかこんなに早く転移の技術が開発されるとは思っていなかったが、うまくいく時はこんなものかと考えてコロトークに話しかけた。


「おめでとうございます。僕と魔神の眼で確認しましたけどちゃんと転移は成功してました」

「そうですか。でしたら後は改良するだけですね」


 確かに距離もそれ程ではない上に肝心の転移した悪魔が転移した際の衝撃で消滅していたのでは話にならない。

 しかし転移自体は成功していたので恭也はコロトークにある質問をした。


「これ悪魔以外も送れるんですか?」


 この恭也の質問を聞き、魔神全員とアロジュートは恭也の思惑を察した。

 そんな中コロトークは何も知らずに恭也の質問に答えた。


「一応鶏や牛では実験しています。鶏は原型も留めない死体になってしまいましたけど」

「じゃあ、僕で、」

(お待ち下さいまし!)


 実験をと言いかけた恭也はホムラの制止の声に驚き、コロトークとの話を中断した。


(どうしたの、急に?)

(マスター自ら実験台になるなんてお止め下さいまし!実験台なら私の眷属で十分ですわ!)

(いや、でも痛覚無いと実験にならなくない?)


 ホムラの眷属は魔神であるホムラ同様味覚と痛覚が無いため、転移後の衝撃をコロトークに伝えることができない。

 そのため自分が実験台になるしかないと恭也は考えたのだが、ホムラがそれに納得するはずもなかった。


(そもそも先程見た限りでは魔力を五十以上持っている存在は転移できないようでしたから、どの道マスターでは実験台にはなれませんわ)

(今なら魔力十しか持ってない分身創れると思うから分身にやってもらえばいいと思うんだけど)


 恭也のこの案はホムラも当然思いついており、ホムラは駄目元で説得を試みたのだが結局失敗に終わった。

 しかたがないのでホムラは最後の手段を取ることにした。


(マスターがどうしてもと仰るのならこれ以上止めませんわ。ただしこのことはノムキナ様に報告しますわ。確か分身とマスターは感覚を共有していたのですわよね?)


 ノムキナの名を出され、恭也も自分の意思を通しづらくなった。

 しかし転移された際の感想があると無いとでは実験の進み具合も違うはずだ。

 そう考えていた恭也にホムラはある提案をした。


(マスターが実験台になるのが一番だというのはその通りだと思いますわ。そこで一つ提案がありますの。まず私の眷属で実験を重ねて眷属の損傷が怪我の範疇に収まってからマスターで実験すればいいと思いますの)

(怪我の範疇って具体的にどれくらい?)


 ホムラ相手にあやふやな約束をすると後々まるめ込まれそうだったので、恭也は具体的な条件を確認した。


(そうですわね。さすがに無傷は難しいでしょうから頭と手足が全て体に繋がっていればいいということでいかがです?本当はこれでも嫌ですのよ?)


 ホムラの提案を聞き、恭也はしばらく考え込んだ。


(うん。そうだね。よく考えたらそもそも転移の技術自体こんなに早く手に入るとは思ってなかったし、ちょっと焦り過ぎた。ごめん)


 ホムラの説得と他の魔神たちから伝わってきた呆れや悲しみの感情を受け、恭也は多少落ち着きを取り戻した。


(さっきの条件も撤回していいよ。この件はホムラに任せるから、僕で試してもいいってホムラが思ったら教えて)

(かしこまりましたわ。その際には必ず)


 こうして恭也と魔神たちの間で話がつき、その後の具体的な話はコロトークとホムラに任せて恭也はユーダムに戻った。

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