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闇の魔神

 恭也がネース王国に帰ってから十日後、恭也はネース王国の南東部にある魔神が封印されている場所の近くまで来ていた。

 この十日間の道中は人との接触を極力避け、魔力の回復と能力の把握に努めてきた。


 食事は保存食で済ませ、人里に寄ったのは下級悪魔の群れに襲われている村を救った時だけだった。

 その結果魔力は最大まで回復し、能力の内容についてもある程度把握が進んでいた。


『埋葬』についてはシンプルな能力なので、一度内容さえ分かれば簡単だった。

 そして『六大元素』についても魔法を使えるようになるということ自体は把握していた。

問題は一度の発動につき一種類しか使えない上に、一度使うと二十四時間使える属性を切り替えられないことだった。


 もっとも通常魔法など魔神戦では役に立たないだろうし、恭也は魔導具を中級悪魔召還の指輪と透明になる布しか持っていなかったので致命的という程ではなかった。

 そして魔神が封印されている場所に近づくと、恭也は纏っていた透明化の布を解除して姿を現した。

さらに近づき封印があるらしき簡素な建物のそばまで恭也が行くと、見張りらしき衛兵四人が姿を見せた。


「おい、途中に立入禁止の立て札があっただろう。ここは国の許可無しでは入れない。さっさと帰れ」


 衛兵たちはこの時点では恭也のことをマナーの悪い自国民だと思っていた。

 そのため自分たちがこの場所に配属されてから初めての侵入者に対し、いきなり攻撃するのではなく一度忠告をした。

 これで忠告に従わないようなら殺すしかないと思いながら衛兵たちがそれぞれ持つ魔導具に意識を向ける中、恭也は自分の正体と目的を告げた。


「僕は異世界人です。どうせ僕に許可なんて下りないでしょうから、勝手に入らせてもらいますね」


 恭也のこの発言を聞き、衛兵たちはすぐに戦闘態勢に入ろうとした。しかしそれより早く恭也の『埋葬』が発動し、衛兵たちの足が地面に沈んでいった。

 予想外の事態に慌てる衛兵たちだったが、抵抗しようにも行動の土台となる地面が変化しているのだ。


 彼らが抵抗らしい抵抗もできないまま腰まで地面に埋まったところで恭也は『埋葬』を解除した。

 その結果固まった地面から必死に逃れようとしている衛兵たちに、恭也は持っている魔導具を渡すように命じた。


 手に入れた魔導具の内の一つ、ライフルの形をした光属性の魔導具をしばらく見た恭也は、衛兵に説明を求めた。

 衛兵の説明によるとこの魔導具は光線を撃ち出せる魔導具で、十メートル先の物まで撃ち抜くため街中では使えない代物とのことだった。


 他の三つの魔導具についても説明を受けた恭也は、とりあえず三つとも『格納庫』の中にしまった。

『格納庫』は大きさに関係無く五十個まで物をしまえる能力で、『物質転移』と違い直接触れさえすれば魔導具でもしまうことができる。

 万全の状態で臨むため一時間程待ち、魔力が満ちている状態で臨もうと考えていた恭也に衛兵の一人が声をかけてきた。


「頼む。逃がしてくれ!あんたが封印を解いたら近くの俺たちまで魔神との戦いに巻き込まれちまう!」


 恭也が以前セザキア王国で受けた説明では魔神の封印を解くと封印を解いた人間は魔神と共に異空間へ飛ばされて勝つか死ぬかしない限り帰ってこられないと聞いた。

 そのため恭也は封印を解いたら魔神との一騎打ちになると思っていたのだが、男によると封印の周囲の人間が全て異空間に飛ばされるらしい。


 負ける気は無いが、万が一の時に衛兵たちを巻き込むのはさすがに気が咎めた恭也は『埋葬』を解除して衛兵たちを解放した。

 その後恭也は衛兵たちの使っていた宿泊所に入り、中にあった水と食事で腹を満たした。


 見たこともない食べ物もあったが、奴隷市場での一件以来何を食べても味がしない恭也にとってはどうでもいいことだった。

 しかし最近保存食ばかりだったため、気づかないうちに食事の量が減っていたのだろう。

 久々のまともな食事につい食べ過ぎてしまった恭也は三時間後ようやく魔神との戦いに臨んだ。


 宿泊所から出た恭也は近くの建物に入り、光沢のある黒色の石に触ると魔力を流し込んだ。

 それ程魔力を流し込まない内に恭也の視界が歪み、気がつくと恭也は暗い空間にいた。

 暗いと言っても周囲の様子は何とか分かる暗さで、恭也から数メートル離れたところに黒いもやに包まれた人型の何かがいることは確認できた。


「あれが魔神か。いきなり始めちゃっていいのかな」


 戦闘前の問答などがあるといけないのでどうすべきか相手の様子をうかがっていた恭也に対し、もやに包まれた人影、魔神が話しかけてきた。


「よお、封印を解かれるのは久しぶりだぜ。たった一人とは勇敢じゃねぇか」


 思ったより高い魔神の声に驚いた恭也の前で魔神の姿が変わっていく。

 すぐにもやが消え、魔神がその全身を現した。

 恭也と比べてかなり小柄、おそらく百四十センチそこそこの身長の少女がそこにいた。

 髪も肌も真っ黒なその少女は、驚く恭也の前で堂々と名乗りをあげた。


「俺は全てを飲み込む闇の魔神!さあ、俺を従えたいなら力を示せ!」


 獰猛な笑みを浮かべる魔神に対し、恭也は戸惑っていた。

 恭也は魔神と聞き、中級悪魔以上の巨体を持つ人型や魔獣を想像していた。そこにこんなかわいらしい少女だ。

 ちょっと押しただけで転んでしまいそうな少女を前に恭也は闘争心が湧かず、それが口に出てしまった。


「魔神がこんな女の子だとは思わなかったな。ねぇ、今からでも戦い止められない?」


 そう尋ねた恭也に魔神は返事をせず背中から四枚の羽を生やし、そのまま上の二枚が伸びて恭也に襲い掛かった。

 油断していたため羽での攻撃をまともにくらった恭也だったが、いつもの様に『物理攻撃無効』が発動した。

 そしてこの一撃で恭也は目の前の少女の危険性を理解し、一方の魔神も恭也を敵として認識した。


「おっ、今までの雑魚とは違うみたいだな。少しは楽しませてくれよ?」


 魔神の羽の一撃を受けて中級悪魔の打撃を食らった時とは比較にならない魔力を消費した恭也は、今までの様にのんびり戦っていたらあっさり魔力切れになってしまうと気を引き締めた。


「なるほど、かわいらしいのは見た目だけみたいだね」

「いい顔だ。ようやくやる気になったか」


 自分の羽をまともに食らい死ななかった恭也を見て、魔神は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「どっちみち一度封印解いたら俺かお前、どっちかが死なない限り終わらない。覚悟を決めな!」

「オーケー、始めようか」

「さっきは不意打ちしたからな。先手は譲ってやる」


 そう言うと魔神は、四枚の羽を広げるだけで仕掛けてこなかった。

 恭也の出方を楽しそうに待っている魔神を見ながら恭也はどうするかを考えた。

 魔神は久々の戦いを楽しみにしているようだが、あいにく恭也は息詰まる戦闘などするつもりはなかった。


(先手必勝!)


 そう考えた恭也は『空間転移』で魔神の懐に飛び込むと、魔神の首に手に入れたばかりのライフル型の魔導具を突き付けて二発撃ち込んだ。

 その瞬間動きが止まった魔神の心臓目掛けて恭也は再び光線を二発撃ち込んだ。


「うおっ、速っ!」


 二ヶ所の急所に光線を叩き込まれた魔神はいきなり間合いを詰められて驚いた様子を見せながらも死にはせず、先程同様二枚の羽を恭也に突き立ててきた。

 その攻撃を『物理攻撃無効化』で防いだ恭也は立て続けに光線を何発も魔神に叩き込んだ。


 頭部、首、心臓といった急所に何発も光線を撃ち込んでいるのに、魔神はおもしろそうに笑うだけでダメージを受けている様子がまるでなかった。


「ははっ。敵の攻撃受けるなんて生まれて初めてだ!いいぜ!もっと色々見せてくれ!」


 傷口から黒い気体が漏れているのでダメージが無いわけではないようだが、魔神の余裕のある態度に恭也はこのまま攻撃を続けていいのか不安になった。

 魔神は生物でなく魔力の塊が意思を持った存在だ。


 そのため急所というものは存在せず、魔力が切れる以外で消滅することはない。

 たとえ傷ついても自分の魔力ですぐに損傷個所を回復するため、魔神に与えるダメージは攻撃を与えた場所ではなく損傷の大きさによって決まる。

 そういった意味では一点を貫くだけの光線による攻撃は魔神とは相性が悪かった。


 魔神の耐久力自体は人間と大差が無く、恭也の魔導具による攻撃で何度も体を撃ち抜かれてその度に体の回復に魔力を消耗していく。

 お互いに傷の回復と『物理攻撃無効』で魔力を消費しつつ攻撃するという消耗戦をしていた恭也と魔神だったが、先に動きを変えたのは魔神の方だった。


「俺の羽で傷一つつかないなんて、お前ほんとすげぇな!じゃあ、これはどうだ!」


 羽による攻撃を止めた魔神は、右手に魔力を集めると、直径二十センチ程の黒い球体を創り出した。

『魔法障壁』か『魔法攻撃無効』のどちらかが発動するだろうと思っていた恭也だったが、そうはならなかった。


 黒い球体を直接恭也に叩きつけようとした魔神に対して恭也の体が勝手に動き、持っていた魔導具を盾にしたのだ。

 そこに魔神の創り出した球体が叩きつけられた。


 黒い球体は魔導具、恭也の右腕と触れた場所を次々に消滅させていき、最終的には恭也の右わき腹の一部を半球状にきれいに消滅させた。

 今まで通りに『魔法攻撃無効』が発動しなかったことに驚いた恭也だったが、久しぶりに他者による死を迎え、そしてすぐに蘇った。


「おっ?死んで蘇ったのか。本当に楽しませてくれるなあ!」


 恭也が復活する場所は自分では決められず、死んだ時にいた場所で固定だ。

 そのため魔神の目の前で復活した恭也は即座に魔神に殴りかかった。

 自分の攻撃で死んでも即蘇り、何事も無かったように戦闘を続けた恭也に魔神の気分はどんどん高揚していった。


 一方の恭也は、魔神との戦いが終わってから緊張し通しだった。

 小柄ながら中級悪魔の攻撃より強力な攻撃を連発してくる相手に何とか通じそうだった魔導具があっさり破壊されてしまった。

 光の魔導具は先程破壊されて二人の足下に落ちており、衛兵たちから奪った他の魔導具は全て光属性以外のものなので使えない。


 一応『格納庫』に普通の武器はしまってあるが使うだけ無駄だろう。

 そう考えた恭也は『硬質化』を発動してひたすら魔神を殴り続けた。

 この時点で相手が小柄な少女だからやりにくいなどといった考えは恭也の頭から完全に消えていた。


「まったく、君がこんなに強いんだったら来るんじゃなかったよ」

「おいおい、つまんねぇこと言うなよ!今最高に楽しくなってきてるじゃねぇか!」


 誰かを守れなかったという意味でなく殺されるという意味での負けの可能性が見えてきたため、恭也は思わず心中を口にしてしまった。

 なにせ目の前のこの少女、常識外れの体をしていた。


 一度恭也は魔神の羽を引きちぎろうとしたのだが、引きちぎるどころか羽をつかんだ瞬間手が羽に飲み込まれそうになってしまった。

 それを見て怖くなった恭也は羽をどうにかするのはすぐにあきらめた。


「殴り合いはもういいや。次は離れて戦おうぜ」


 しばらく羽を使わずに恭也との殴り合いに興じていた魔神だったが、羽を動かして後ろに移動すると先程恭也のわき腹を消滅させた黒い球体を手のひらに発生させた。

 魔神は今度は接近するのではなく、離れた場所から黒い球体を撃ち出してきた。

 先程の死で手に入れた『魔法看破』を使い、その球体の正体を見た恭也は慌てて横に飛んだ。


「当たったもの全部消滅させる魔法?そんな無茶苦茶な…」


 魔法や能力に関することなら対象を見ただけで性質を見抜けるのが『魔法看破』の能力だ。

 それによるとあの球体は魔神が自身の魔力に周囲の闇の精霊を混ぜて作った物質らしい。

 恭也が聞いた話では大国に一人いるかどうかの珍しさらしいが、精霊に選ばれた結果常人とは比べ物にならない程強力な魔法を使える人間は存在するらしい。

 魔神はそれを基本技術として使えるのだろう。


「光栄に思え!この『キュメール』を使ったのはお前が初めてだ!」

「そりゃどうも」


 興奮した様子でそう言う魔神だったが、今までの魔神の戦いは各時代の国が差し向けた軍隊が相手でいずれも羽を適当に振るうだけで勝負が終わってしまった。

 そのためまともな戦闘は今回が初めてだったので、魔神にとっては『キュメール』どころか全ての技が初めての使用だった。


 そんなことを知らない恭也は初めて見た精霊魔法に驚きこそしたが、種さえ分かれば対処はできると考えていた。

 もう一度死んで『精霊魔法無効化』といった類の能力を獲得すればばいいだけだ。


 そう考えた恭也は魔神による球体の連射を必死に回避した。

 わざと球体を食らって死んでも能力を獲得できないから回避していたのだが、そんな言い訳代わりの回避をする必要はすぐに無くなった。


 魔神が四枚の羽根で挟み込むように恭也を攻撃し、動けなくなったところに数発の球体が叩き込まれたからだ。

 言い訳のできない程完璧な魔神の連続攻撃になす術も無い恭也は穴だらけになり息絶えた。


 恭也が死ぬ間際、球体を受けた魔神の羽も消滅しているのが見えたが、次の瞬間には何事も無かったように復元されていた。

 復活した恭也は新たに能力を獲得しているのを実感し、これで魔神の闇の球体も防げると意気込んだ。


「羽が消えてもすぐに生えるのずるくない?」

「ほいほい蘇る奴に言われたくねぇよ」


 魔神相手に軽口をたたきつつ、恭也は念のため新たに獲得した能力を発動した状態で自分の体を見た。

 そして『魔法看破』で新しい能力の内容を知った恭也は絶望した。

 期待した内容の能力ではなかったからだ。


 そんな恭也の絶望をよそに魔神は『キュメール』を撃ってきた。

 先程同様羽で動きを止めるのも忘れない。

 しかし恭也は羽による束縛を先程手に入れたばかりの能力『束縛無効』ですり抜けた。


 結局魔神の『キュメール』は魔神の羽を消すだけの結果となったが、恭也にそれを気にしている余裕は無かった。

 精霊魔法を無効にする能力を獲得できなかったことに驚いていたからだ。


 確かに恭也の能力獲得は内容を自分で決められるような便利なものではない。

 しかしこの状況なら最大の脅威のあの球体に対抗する能力が目覚めなくてはおかしいだろう。

 何度も自分を助けてくれた自分の能力に心の中で毒づきながら恭也は魔神の撃ち出す『キュメール』の雨の中を必死に走り抜けた。


「おい!今どうやって俺の羽すり抜けた?完璧に捕まえてただろ?」

「教えない!だって君強いもん!」


 あの後もう一度恭也を羽で押さえつけ、それもすり抜けられた魔神は『キュメール』の弾幕を敷くことで恭也を殺しにかかった。

 魔力切れなどまるで感じさせない大盤振る舞いだったが、『魔法看破』で見る限り魔神の魔力は徐々にではあるが減少していた。


 しかも魔神の体の仕組みが原因か異空間で戦っているのが原因か分からないが、魔力が恭也と比べてほとんど回復していなかった。

 恭也は『魔法看破』により魔力の塊である魔神が魔力の減少以外ではダメージを受けないことも、魔神の体の耐久力そのものは人間と大差ないことも見抜いていた。


 こうなったら魔神の魔力が切れるまで回避と復活に徹しようかと恭也が考え始めた頃、魔神が急に近づいてきた。

 そのまま右手を恭也の顔にかざしてきた魔神に対し、恭也はとっさに後ろに跳んだが遅過ぎた。


 魔神が至近距離で放った『キュメール』を前に恭也の両腕が勝手に動き頭部を守ったがそれでも『キュメール』は相殺できず、『格納庫』から食料や衣服が入った袋が取り出されて盾になった。

 魔神の『キュメール』は当たった物体の硬さや含有する魔力には関係無く、『キュメール』と同じだけの質量の物体に当たれば消える。


 ここが先程までの場所だったら周辺の土を『物質転移』させて簡単に防げるのにと思いながら恭也は今後の策を考えた。

 恭也が取った一連の行動は『自動防御』によるものだったが、『格納庫』には先程犠牲にした袋以外には武器・魔導具しか入っていない。


 魔神の『キュメール』を防ぐには大きさが足りず、恭也は『キュメール』に対する有効な策を思いつくことができなかった。

 その結果、恭也は続けて放たれた『キュメール』であっさり殺された。


 その後もすぐに恭也は復活したが、至近距離からの『キュメール』を防ぐ術が無いため復活しては殺されるの繰り返しとなっていた。

 一応その間に新しい能力『精霊支配』を獲得したのだが、精霊へ支配を及ぼす力が魔神のそれより弱い能力だった。

 一応『キュメール』に向けて使ってみたが、あっさりと失敗した。


「おお、精霊の支配までできるのか!お前本当に人間か?今まで戦った人間たちとは比べ物にならないぐらい強いぜ?」

「厳密に言うとこの世界の人間じゃないし、かなりのズルしての強さだからね」

「ふーん。よく分かんねぇけど、まあいいや。結構楽しめたし。でももう手が無いなら終わりにしようぜ?雑魚一方的に殺すのはこの数千年で飽きてるんだよ」


 確かにここ数分間、恭也は『キュメール』相手に手も足も出ていなかった。

 あくまで『魔力看破』は見た物の魔法的性質を見破れる能力なので恭也は知る由も無かったが、恭也の能力で精霊魔法を防ぐ能力を獲得するのは不可能だ。


 精霊魔法は異世界人たちの能力に比べると能力としての格は多少劣るが、それでもこの世界では最高峰の技だ。

 器用貧乏を地で行く恭也の能力で作った程度の防御能力で抵抗できるはずもなかった。


 この異空間で魔神と戦いを始めてからすでに三十回程殺された時、恭也は今まで感じたことが無い感覚を覚えた。

 しばらくはその正体が分からなかった恭也だったが、魔力の減少に近いその感覚の正体にはすぐに見当がつきその瞬間恭也はこの能力を得てから初めて死の恐怖を感じた。


 この感覚はおそらく復活可能な回数が減っている感覚だったからだ。

 今までは一日に十回も殺されたことが無かったので気がつかなかったのだろう。

 別に今までも魔神を侮っていたわけではないが、恭也は本当の死が近づいているのを実感した。


 一瞬心が折れそうになった恭也だったが、ここで恭也が死んだら市場で死んだ人々の死が無駄になってしまう。

 そう考えた恭也は今ある手で魔神に勝つ方法を考えたが魔神に勝つ方法などすぐには思いつかなかった。


 その後も魔神の『キュメール』から逃れようとした恭也だったが、足で移動する恭也と羽で移動している魔神では機動力に差があり過ぎた。魔力の消費が激しい『空間転移』はそう気軽には使えない。


 結局有効な策を思いつけないまま、恭也は『キュメール』を胸部に受けて絶命した。

 今まで即座に復活していた恭也だったが今回恭也が復活することはなく、その場には消えた敵を探して辺りをうかがう魔神の姿だけが残された。

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