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加護配り

 ウォース大陸を後にした恭也はライカが以前ダーファ大陸に設置した魔導具を目印に移動し、無事クノン王国に到着した。

 ライカは当初クノン王国のとある街道に魔導具を設置したのだが、その後恭也の配下のライカがクノン王国に来たこととその目的を知ったクノン王国の人間の手により魔導具はクノン王国の首都、メーズに用意された恭也専用の屋敷へと移された。


 このこと自体はホムラの眷属を通して事前に知っていたため、移動先が屋敷であることには恭也も驚かなかった。

 瞬時にメーズの屋敷に移動した恭也はほとんど顔を出さない自分のために常に屋敷の維持を行ってくれている使用人たちに礼を言うと、魔導具を回収してからメーズの南西へと向かった。


 メーズの南西に広がる森林地帯にはクノン王国に住むエルフのほとんどが住んでおり、エルフの代表から一度恭也と会いたいと打診されていたからだ。

 適当に森林地帯まで光速で移動した後、恭也はエルフの姿を求めて歩き始めた。


(ったく、恭也を呼び出すなんて何様のつもりだ?あっちから来りゃいいだろ)

(まあまあ、僕決まった場所にほとんどいないんだからしょうがないよ。メーズの屋敷で待ってもらうにしても、へたすると一週間以上待ってもらうことになるし。こっちはすぐに移動できるんだからそこまで怒ることないよ)


 エルフたちが恭也を呼び出したことに不満気な様子のウルをなだめつつ、恭也はホムラに話しかけた。


(クノンのエルフはギルドに前向きなんでしょ?)

(ええ、具体的な話はマスターと話してからということでしたけれど、ギルド自体には興味を持っているようでしたわ)

(ゼルスさんたちがあんまりギルドに乗り気じゃないからちょうどよかったね。実際にギルドの支部ができれば、ゼルスさんたちもギルドの便利さ分かってくれると思うし)

(その件に関しては私の力不足で申し訳ありません。折を見て何度も提案したのですけれど、ゼルス様の意思が思ったより硬いんですの)

(ホムラが謝ることじゃないよ。ホムラで無理なら誰がやっても無理だから)


 ダーファ大陸にある五つの国の内、クノン王国以外の四つの国では速度の差こそあれギルドの支部の数は順調に増えていた。

 しかしゼルスが恭也を今も警戒していることもありクノン王国には現在ギルドの支部は一つも無く、こういった現状を変えるためにも今回のエルフとの会談は恭也としてもうまくまとめたかった。


(この国でも何かでかい事件が起きてくれればいいんだけどな。そしたら俺たちで解決してそのまま流れでギルドの支部作らせればいい)

(ウル、怒るよ?)

(へいへい)


 大して反省した様子の見えないウルの返事を聞きながら恭也はウルの言ったことについて考えていた。

 確かにダーファ大陸のクノン王国以外の国で恭也が一定以上の影響力を及ぼせるようになった理由はそれぞれの国で何らかの事件が起こったからだ。


 これはウォース大陸の国々にも言えることだったが、恭也としてはこの状況を喜ばしいものだとは考えていなかった。

 これまで恭也がダーファ大陸各地で介入してきた事件やディアンが送り込んだ悪魔による被害はどれも痛ましいもので、事件自体は解決したものの今も関係者同士の確執や被害者の心の傷という形でその影響は残っている。


 ディアンのせいで今後も悪魔による被害が出ることが確定しているのだから、何かの事件が起きてその度に恭也が得をするという状況を受け入れていては際限無く犠牲者が出てしまう。

 そう考えた恭也は他の仕事に影響が出ると難色を示したホムラの反対を押し切りウォース大陸各地にホムラの眷属五十体を配置し、さらに三ヶ所に『ウラノス』も設置してきた。


 以前戦った猿型の上級悪魔の様に小型だと発見は難しいが、他の上級悪魔の様に大型の悪魔が現れたら街に着く前に発見できるだろう。

 ノムキナには悪いが恭也としては今すぐにでも上級悪魔発見の報告を聞きたいぐらいだった。

 そうなれば後はディアンと決着をつけるだけだ。

 そう恭也が考えているとライカが話しかけてきた。


(でも実際問題ディアンとかいう男に勝てるっすか?その男一人だけなら自分たちで袋叩きにすればいいっすけど、そいつ悪魔何十体も従えてるっすよね?)


 ディアンに恭也たちが勝てるというそもそもの前提を疑うライカの発言を恭也も否定はしなかった。


(そうだね。さすがに最初の一回で勝てるとは思ってないよ。とりあえず一回直じかに会ってディアンさんの能力確認して、その後は何回も戦ってじわじわ悪魔の数減らして最後にディアンさんって感じかな)


 一応ガーニスの鎧をセザキア王国とオルルカ教国の東に二体ずつ配置はしているので、いざとなったら船でそれをラインド大陸まで運び戦力に加えることは可能だ。

 しかし恭也はディアンとの戦いに極力自分たち以外を参加させたくはなかった。


(……ずいぶん都合がいい計画っすね)


 恭也の計画と言うのもはばかられる大雑把な予定を聞き呆れた様子のライカだったが、これに関してはしかたがないと恭也は考えていた。


(ディアンさんの能力が分からない以上、計画の立てようがないからね。悪魔作れて戦闘もできるってことしか分かってないし、それにいざ戦ったら僕の能力も何個か増えるかも知れないから今の段階できちんとした作戦なんて立てられないよ)


 詳細不明のディアンの能力に加えて恭也自身の能力も不確定要素だらけの能力なので、この状況ではとりあえず戦ってその後は臨機応変にいくしかないだろう。

 そう考えていた恭也にウルが呆れたように話しかけてきた。


(結局いつも通りってわけだ)

(まあね。みんなには迷惑かけるけどよろしく頼むよ)


 この恭也の発言に魔神たちはそれぞれ返事をし、その後しばらく歩き回った恭也は数人のエルフに出会った。


 通りがかりのエルフに案内された恭也は、エルフの集落でエルフの長、デジュセトとの会談に臨むことになった。

 デジュセトは二十代から三十代といった見た目の男だったが、エルフは長寿だと聞いているので恭也の倍以上生きている可能性もあった。

 もっとも恭也がこれまで会ってきた国や集団の代表はほとんどが恭也より年上だったので、恭也はデジュセトの年齢はそれ程気にせずに話を始めた。


「今日は突然押しかけてすいません。それにあいさつが遅れたことも謝らないといけませんね。この国の事情にあまり詳しくなかったもので」


 会って早々恭也が頭を下げると、デジュセトは穏やかな表情で恭也に話しかけてきた。


「いえ、こちらこそ多くの仲間を助けて下さった能様を呼び立ててしまい申し訳ありませんでした。それにあいさつが遅れたと言っても我々は別にこの国の貴族でも何でもないのでどうかお気になさらずに」


 デジュセトの言う通りクノン王国においてエルフたちは貴族の称号を持っておらず、国政にもほとんど関与しない。

 クノン王国のエルフは人口の五パーセントにも満たない少数民族で、クノン王国の建国に協力した後で獣人たちから与えられた森に住み滅多に外には出ないらしい。


 エルフが住む森の中は実質的に治外法権となっており、森の中ならクノン王国の許可無しでもギルドの支部を作れるとのことだった。

 そして少数ではあるが獣人とエルフは互いに行き来はしており、森の近くには時々市場も立つらしい。


 そのためまずはエルフたちの森にギルドの支部を作ることができればそれによる恩恵は獣人たちにも伝わるはずで、そうなればホムラもゼルスにギルドの件を提案しやすくなるだろうと恭也は考えていた。

 とりあえず恭也は『情報伝播』も使いディアンの脅威とギルドの支部を受け入れた場合の利点をデジュセトに伝え、手土産代わりにアクア製の水を凍らせた状態で渡した。


 いつもならウル製の武器も渡すのだがエルフには火属性と闇属性の持ち主がほとんどいないと聞いていたので今回は見送り、その代わり恭也はデジュセトにアクアの加護を与えることにした。

 恭也がアクアを召還するとデジュセトやその後ろにいたエルフたちは驚いた様子だったが、恭也がアクアを召還した目的を伝えると驚きこそ引かなかったものの安堵したようだった。


「能様が魔神を従えていることは噂で聞いていましたが、まさか魔神にそのような力があったとは……」


 いきなり精霊魔法を使えるようにすると言われてデジュセトは驚きと同時に恐怖も感じていたが、恭也はすでに他の者にも行っていることなので大丈夫だと伝えた。

 その後恭也の指示を受けたアクアがデジュセトに加護を与え、デジュセトが魔法を発動すると手のひら大の氷塊が創られてそのまま地面に落ちた。

 その後何度か精霊魔法を使用したデジュセトは高揚した表情で恭也に礼を述べた。


「素晴らしい力をいただき何とお礼を言ってよいか……。今の私なら練習すれば先程いただいた水を創れるようになるのでしょうか?」


 期待を込めた表情でそう尋ねてきたデジュセトだったが、残念ながらそれは不可能だった。


「先程渡した水は水の魔神じゃないと創れません。でも必要になったらいつでも届けに来るので心配しないで下さい」

「いえ、そういう意味では!これ程素晴らしい力をいただきながら失礼なことを……。申し訳ありませんでした!」


 深々と頭を下げてきたデジュセトに恭也は気にしていないと伝え、その後ホムラの眷属を残してギルドの支部の設置場所などの打ち合わせを任せた。

 今は自由に配置できるホムラの眷属の数が少ないのでこの眷属は数時間でホムラが手元に呼び寄せることになるが、ホムラなら数時間で必要な打ち合わせは終えることができるだろう。

 そう考えながら恭也はユーダム自治区へと向かった。


 三十秒程かけて恭也がユーダムに着くと、ホムラの眷属を通してあらかじめ伝えてあったので恭也はカムータを始めとするユーダムの人々に迎えられた。


「お久しぶりです」

「はい。ホムラさんから色々大変だと聞いていましたけどお元気そうで何よりです」


 カムータと簡単なあいさつをした後、恭也はジュナとロップに視線を向けた。


「カムータさんから話は聞いてるぞ?上級悪魔や異世界人相手に大活躍みたいだな」

「僕としてはゆっくり病院とかギルドの準備の方に力入れたいんですけどね」


 笑みを浮かべながら冷やかす様な視線を向けてきたジュナを見て恭也は苦笑した。

 その後ジュナの後ろにいたロップにもあいさつをした後、恭也はとりあえずの用件を済ませることにした。


「研究所に行った後でまた来るつもりですけど、カムータさんとジュナさん、ロップさんにあげたいものがあります」

「何だ、お土産か?」

「はい。魔神全員仲間にできたので三人に加護を与えようと思って」


 そう言うと恭也は魔神たちの紹介も兼ねて魔神を全員召還した。


「ウルさんやホムラさんを倒しただけでもすごいと思っていたのにまさか魔神全員を仲間にするなんて、……さすがですね」


 色とりどりの魔神たちが一斉に並ぶ姿はまさに圧巻で、カムータだけでなく少し離れたところから恭也たちを見ていたユーダムの住民たちからも驚きの声があがった。

 しかしそんな中、ジュナだけは驚きはしつつも呆れた様な表情も見せていた。


「全員女なんだな」

「いや、まあ、それは、ははは」


 ジュナの指摘にまともに返事をしても恭也が痛い目を見るだけだったので、恭也は乾いた笑い声をあげながら本題に入った。

 恭也の指示を受けてライカ、ラン、フウが前に出てそれぞれカムータ、ジュナ、ロップに加護を与えた。

 三人がそれぞれ精霊魔法の感覚を確かめた後、ジュナは加護を返したいと恭也に伝えた。


「恭也の気持ちは嬉しいけど私の立場でこういったものをもらうと後で面倒なことになると思う。後二ヶ月でここも離れるし気持ちだけ受け取っておく」

「そうですね。ジュナ様がそうおっしゃるなら私もお返しします」


 ジュナに続く形でロップも魔神の加護を返そうとしてきたが、ジュナたちがこう言い出すのはホムラから言われて予想していたので恭也は二人の申し出を即座に断った。


「悪いですけどそれを返してもらう気は無いです。だってこれは僕の力の宣伝も兼ねてますから。二人に加護を渡したことはもうゼルスさんたちに伝えてますし、このことでジュナさんたちに何か言うようなら僕への宣戦布告と見なすと言ってあるから心配しないで下さい」

「相変わらず無茶苦茶言うな」


 恭也の身勝手な発言にジュナが呆れる中、恭也は真面目な表情で話を続けた。

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