事後報告
そのため恭也はカーツの住民たちには怒りと同時に同情も覚えていた。
(まあまあ、ここの人間たちはこれから師匠や自分たちの支援受けれるっすから、結果的にはよかったんじゃないっすか?ギルドここに作るっすよね?)
今回の件で怒りと呆れが入り混じった複雑な気持ちになっていた恭也にライカが今後のカーツでの方針を確認してきたので、恭也はすぐにうなずいた。
(うん。もちろんタトコナの王様に許可をもらってからになるし、具体的な話は新しい領主が決まってからになるけど一応そのつもりだよ)
恭也は今回十武衆たちと手を組んでいたカーツの領主、及び役人たちを全て刑務所に収容したので、現在カーツは統治する者が誰もいない状態となっていた。
今はホムラの眷属とアロジュートの天使たちがにらみを利かせているが、このままギルドを設置したら今度は恭也たちがカーツを武力で占拠する形になってしまう。
そのため一度ゼワールに帰り、国王ベルガードの許可を取る必要があった。
(じゃあ、僕はこのままゼワールに行くから、ライカは一っ走りお願いね)
(了解っす。無駄な抵抗はしないようにって知らせて来るっすよ)
これからライカはゼキア連邦との国境沿いにあるタトコナ王国の街三つに向かい、恭也から借りた『情報伝播』で今回のカーツでの一部始終を各街の住民たちに見せる予定になっていた。
これにより各街の住民たちが恭也の指示通り奴隷を解放するように促し、それと同時にこれに従わなかった場合刑務所に入れることも知らせるつもりだった。
(これ以上恭也様の時間が取られるのは嫌ですから、素直に従って欲しいですね)
(……本当にそう思う)
すぐに見えなくなったライカを見送りながらアクアがつぶやき、それにランがしみじみとした声で同意した。
いくらライカでも各街で『情報伝播』による告知を行うとなると、全ての街での活動を終えるのは数時間後になるだろう。
そう考えた恭也はライカの活動が終わる前にベルガードとの会談を終えておこうと考え、ゼワールへと転移した。
ゼワールに転移した恭也が王城に顔を出すと、早朝にも関わらずベルガードはすぐに恭也と会ってくれた。
「これ程早く帰って来るとは思いませんでした。もうカーツでの騒ぎを鎮められたのですか?」
半信半疑といった様子で尋ねてきたベルガードの前で恭也は『格納庫』から『コルガの腕輪』と『マエジュラの槍』を取り出した。
「この二つがここにあるということは本当にカーツでの騒ぎを鎮められたのですね。ブキスラはどうなりましたか?」
ブキスラが持ち出した魔導具二つを手渡され、恭也がカーツでの騒ぎを鎮めたことを信じたベルガードは国を裏切った元部下の処遇を尋ねた。
「はい。ブキスラさんは家族と一緒に今こっちに向かっているはずです。僕は自分以外の人間と一緒の転移はできないので別の手段で帰って来てもらってますけど、でも多分明日の夕方にはここに着くと思います」
そう言うと恭也はアクアに頼み、エイ型の悪魔に乗っているフウとブキスラたちの姿を『情報伝播』でベルガードとその部下に見せた。
当たり前の様に悪魔を移動手段として使役している光景を見せられ、しばらく言葉を失っていたベルガードだったがやがて口を開いた。
「この悪魔は能様の能力で召還したのでしょうか?」
「いえ、これは僕の街にある研究所で作った魔導具で召還したもので、魔力さえ用意できれば僕たち異世界人以外でも召還できますし実際僕の街の周辺では普通に荷物を運ぶのに使われています」
「なるほど。……街というのは能様が領主を務めていると街ということでしょうか?」
次から次に質問してくるベルガードに恭也は多少うんざりしたが、別に隠すことでもなかったので素直に答えた。
「話すと長くなりますけど、簡単に言うとある国と協力する見返りに街を一つもらいました。ここから北にあるダーファ大陸には五つの国があるんですけど、程度の違いはあっても一応どの国とも協力関係を結んでいます」
恭也はウォース大陸の五つの国を巡り、どの国にも各大陸を示す呼び名が無いことを知った。
そのため恭也は自分がつけた大陸名を各大陸で普及させても問題無いと考え、会話の中で積極的に使うことにしていた。
「なるほど、ありがとうございました。ではカーツの件についてなのですが、領主は今どうしているのでしょうか?」
ようやくギルドの話に移れそうだと内心安堵しながら恭也は口を開いた。
「はい。カーツの領主はヘクステラの兵士たちと手を組んでいたので、捕まえて僕の作った刑務所に入れました。だから新しい領主を派遣して下さい。そしてもう一つお願いがあります」
「何でしょうか?」
探る様な視線を向けてくるベルガードとその部下の前で恭也は自分の要望を伝えた。
「以前話したギルドについてですがまずはカーツでの許可をもらえないでしょうか?今回の件でゼキア連邦と交渉することも増えるでしょうから、その窓口としてもぜひカーツでギルドを始めたいんです。もちろん見張りを置きたいというならそれは受け入れます」
一通り自分の要望を伝えた恭也だったが、ベルガードからの返事は今すぐにはもらえないだろうと考えていた。
カーツにギルドの支部を作ることになったとしてもその前にカーツの新しい領主を決めなくてはならず、領主の人選から任命までが一時間やそこらで終わらないことは素人の恭也でも分かる。
そのため今日の話はここまでだと考えた恭也は、ベルガードにあいさつをして帰ろうとした。
しかしそれより先にベルガードが口を開き、恭也に予想外のことを言ってきた。
「能様の方から提案していただけてこちらも話がしやすくなりました。カーツでのギルドの件、喜んでお受けします」
「えっ、いいんですか?」
提案した側の恭也が思わず戸惑う程の即答をしたベルガードは、驚く恭也を見て苦笑しながら話を進めた。
「能様がカーツに向かった時点でカーツを占領した賊が敗れることも賊と共にカーツの領主が捕まることも予想がついていました。ですから能様が帰って来たら、お礼とお詫びも兼ねてこちらからカーツでギルドを始めて欲しいとお願いするつもりでした」
このベルガードの発言は傍から見るとカーツを差し出すと言っている様にも見えた。
しかしこのベルガードの発言の裏にはギルドの支部を作った際に恭也が街にどこまで干渉してくるかを見定めたいという思惑があり、ホムラだけはベルガードの狙いに気づいていた。
しかしそれをこの場で恭也に伝えても恭也が不快になるだけなので、ホムラは何も言わなかった。
どうせ探られて痛い腹など恭也側には無かったからだ。
「既に新しい領主の候補も二人まで絞っています。遅くとも明日までには決まるでしょう。ですから能様さえよろしければこのままカーツでのギルドの話を進めたいと思うのですがよろしいでしょうか?」
「はい。それ自体はありがたい話なのでこちらとしても大歓迎です。でも仮に領主が決まったとしてもその人がカーツに行くのに十日ぐらいかかりますよね?」
恭也のこの質問を受けたベルガードたちは、移動に転移や悪魔を利用している恭也の基準で話を進められても困ると心底思った。
しかしそれを口にしてもしかたがないので、ベルガードは恭也を待たせてしまうことを謝った。
「はい。移動に関しましては私共は歩いて移動するしかありませんので、能様をお待たせすることになってしまいます。申し訳ありません」
ただの確認のつもりだった自分の発言を聞き謝罪してきたベルガードを見て、恭也は慌てて口を開いた。
「いえ、今のはただの確認ですから気にしないで下さい。それに僕も一回ダーファ大陸に帰ろうと思ってるんで、本当に急ぎませんから」
「お帰りになるのですか?」
「はい。元々ディアンさんの悪魔を倒したら一度帰るつもりで、長くても十日ぐらいだろうと思ってたのがかなり延びちゃったんで。五日程帰るつもりです。だからそうですね。カーツで具体的な話をするのはそちらの準備ができてからで大丈夫です、本当に急ぎませんから」
「そう言っていただけると助かります。もちろんできるだけ早く準備をして連絡できるようにしたいと考えています。どうかよい休暇を」
こう言ったベルガードに見送られて恭也は王城を後にした。
その後ライカと合流した恭也はタトコナ王国とゼキア連邦の国境沿いにある三つの街に向かい、それぞれの街にフウと強化したホムラの眷属五体を配置した。
ライカが『情報伝播』で見せたカーツでの事件の映像の効果は大きく、国境沿いの街でのゼキア連邦の国民たちの解放は順調に進んでいた。
後は配置した六人だけで対応可能だとホムラも断言したので、恭也はとりあえずダーファ大陸に帰ることにした。
(いやー、ここまで長い滞在になるとは思ってなかったね)
(そうだな。まさかディアンの野郎の悪魔がここまで飛び飛びに現れるとは思ってなかったぜ)
今回恭也のウォース大陸での滞在がここまで伸びた最大の原因は、ウルの言う通りディアンの悪魔の出現日時が不規則だったことだ。
もしディアンの悪魔が一気に、あるいは数日以内に現れたら恭也たちは戦い自体は苦労してもすぐにダーファ大陸に帰ることができただろう。
もっとも二ヶ月近くいたおかげでウォース大陸のほとんどの国にギルドの支部を置く目星がついたのだから、決して悪い事だけではなかったが。
まだもう一体ディアンがウォース大陸に送り込んだ悪魔が残っているのは気がかりだったが、悪魔が出ない限りは恭也も動きようが無い。
とりあえず悪魔が出るまではゆっくりしよう。
そう考えながら恭也はライカがダーファ大陸に設置した魔導具に向けて移動した。