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突入

 フウがカーツから出て来た部隊と戦い始めた直後、恭也もアインバドたちがカーツの住民に危害を加える前に行動を開始していた。

 フウの待ち伏せを受けて動きを止める部隊の横を光速で通過し、恭也は門の内側で人質二十人程を引きつれていた十武衆たちと対峙した。


 十武衆は兵士や悪魔を引き連れており、人質と兵士両方にラミアや獣人が含まれていた。

 このある意味平等な光景を見て、恭也はこの場で十武衆たちに制裁を加えたいという衝動に襲われた。


 しかし十武衆のまとめ役らしきアインバドはここにはおらず、この場にいる兵士もホムラの眷属が知らせてきた数より少ない。

 まだまだすることは山積みだったため、恭也は何とか自制して近くの十武衆に話しかけた。


「その人たちを放して大人しく捕まって下さい。今なら懲役二十年で済みますよ」


 恭也のこの発言を受け、カーツの住民たちに武器を突き付ける部下たちの前で十武衆の一人、シキクスは恭也の宣告を一蹴した。


「余計な口きくんじゃないわよ!少しでも妙な真似したら人質を一人ずつ殺すわよ!」


 そう言ってシキクスは恭也に攻撃を仕掛けるように部下に命じようとしたが、それより早く恭也は行動に移っていた。


「妙な真似っていうのはこういうことですか?」


 そう言った恭也の足下にはつい先程までシキクスやその部下が持っていた武器や魔導具が転がっており、シキクスたちの間に動揺が走った。

 しかしこの世界の人間には魔法があるため武器を取り上げたぐらいでは人質を助けたことにはならない。


 そのため恭也は『能力強化』で強化した『物質転移』使用後すぐに『ベルセポネー』を発動した。

 恭也に武器を奪われた直後、部下に魔法で人質を殺すように命じようとしたシキクスだったが、自分の魔力が急に失われたのを感じたため彼女は言葉を失った。


「そ、そんなその技は魔神がいないと使えないんじゃないの?魔神たちは今外で戦っているはずじゃ……」


『ベルセポネー』は以前ヘクステラ王国で使われたことがあったため、十武衆たちは『ベルセポネー』も十分警戒していた。

 そのためもし恭也が他の街に向かった部隊を無視した場合、各所に控えさせていた連絡要員が合図の魔法を空に撃つ手はずになっており、恭也が魔神を連れて街の中に来た場合の対策も十武衆たちは考えていた。


 そして合図が無かったためシキクスは恭也が丸腰だと判断していたのだが、今異世界人は自分の目の前で魔神の能力を使った。

 自分の魔力が失われたことでシキクスは自分たちの作戦の失敗を悟り、兵士たちに指示を出せなくなった。


 そんなシキクスの様子を見て兵士たちも浮き足立ち、恭也はこの場での決着がついたと判断した。

 後はこの場でシキクスを含む十武衆や兵士たちに軽く制裁を加えるだけだと恭也は考えていたのだが、ここで予想外のことが起こった。


 シキクスたちが連れていた悪魔が急に暴れ出したのだ。

 恭也だけでなくシキクスたちも慌てており、一体何事かと思った恭也は『魔法看破』を発動した。

 そして恭也はすぐに悪魔たちが暴れ出した理由を知り、自分のうかつさに呆れてしまった。


 悪魔たちが暴れ出したのは暴走でも何でもなく、『ベルセポネー』で魔力を失った兵士たちが魔導具による悪魔の制御を行えなくなったことが原因だった。

 兵士も人質も関係無く襲い始めた悪魔たちを恭也はウルの羽で次々に斬り裂いていき、その後このままでは悪魔全てを倒すまでに人的被害だけでなく周囲の建物への被害も大きくなると考えて『タルタロス』で悪魔全員を地下に引き込もうと考えた。


 しかしそれより先に悪魔たちが一斉に空へと逃げ出し、それを見た恭也はすぐにラン、ライカ、フウを召還した。

 その後『タルタロス』を発動して人質を除く全員を地下に引き込んだ後、恭也は三人に指示を出した。


「ランはここでその人たち守ってて!ライカとフウは地下の人たち死なない程度に痛めつけといて!」


 それだけ言うと恭也は羽を生やして上空に逃げた悪魔たちを追った。


「相変わらず行き当たりばったりっすね、自分たちの師匠は」


 自分たちに手短に指示を出して飛び立った恭也を見て、ライカは呆れた様子だった。

 そんなライカの発言には何も言わず、フウはライカに仕事をするように促した。


「とりあえず人間たちを痛めつけに行く。……二人もいらないと思うけど」

「そっすね。正直自分まで行く必要無いと思うっすけどここでじっとしてるよりはましっすかね。じゃあ、ランお願いするっす」


『タルタロス』は恭也、ウル、ランのいずれかの許可が無いと自由に出入りできない。

 そのためライカはランに『タルタロス』に入る許可をもらい、その後二人は地下に向かった。

 一人で人質たちの護衛を任されたランは恭也に置いて行かれた不満を隠そうともしなかったが、とりあえず人質全員を守る様に土の壁で囲んで最低限の仕事はしてから恭也が飛び立った上空に視線を向けた。


 一方恭也が悪魔を追い空に飛び立った頃、アインバドたちが拠点に使っていたカーツの領主の屋敷は、戦闘開始前から上空で待機していたホムラとアクアの襲撃を受けて大騒ぎになっていた。


「くそっ、何でここに魔神が!しかも一人や二人じゃねぇぞ!どうなってやがる!」

「アインバド様はこんな時にどこに行ったんだ?このままじゃここも、うわー!」


 アクアの発動した『隔離空間』により逃げることもできず、兵士たちはすでに自分たちに勝機など無いと悟りつつも必死にホムラたちに魔法を放っていた。

 そんな彼らの抵抗を嘲笑いながらホムラはアクアに話しかけた。


「アクアさんのそれすごいですわね。いくらでも呼び出せますの?」

「うーん。能力的には可能ですけどあんまり数を増やすと命令を出すのが大変ですね。ホムラさんなら何体でも大丈夫でしょうけど」


 現在ホムラとアクアは戦闘をそれぞれの召喚した眷属と悪魔に任せ、アクアの能力について話していた。

 アクアは恭也の全能力を使えるが、一部の能力にはアクアの能力を上乗せすることもできる。


 例えば現在アクアが使用している『悪魔召還』は単体ではただの下級悪魔か中級悪魔を召還するだけの能力なのだが、アクアが『悪魔召還』で中級悪魔を召還した場合は水属性の精霊魔法が使える中級悪魔が召還できる。


 氷の障壁で自分を守りながら戦闘を行う中級悪魔を前にして魔導具で武装した兵士たちは苦戦を強いられていた。

 もちろん所詮しょせん)は中級悪魔なので兵士たちでもアクア製の中級悪魔は倒せるのだが、氷の障壁のせいで通常の中級悪魔の何倍も倒すのが大変だった。


 そして苦労して倒したとしても倒したそばからアクアが新しい悪魔を召還するのだから兵士たちからしてはたまったものではなく、ホムラの強化した眷属が敵の中で一番弱いという絶望的な状況の中兵士たちは次々に倒されていった。


 こうしてほとんど戦うことなく領主の屋敷の中を歩いていたホムラだったが『隔離空間』の中に放っていた四体の通常の眷属の内一体から標的を発見したとの報告が入り、ホムラはここでアクアと別行動を取ることになった。


「アインバドとかいう男が見つかったそうですわ。申し訳ありませんけれど兵士の相手はお願いしますわね」


 数だけは多い人間たちを殺さずに無力化するという面倒な仕事を同僚一人に任せることに罪悪感を覚えたホムラを見て、アクアは気にしないように伝えた。


「気にしないで下さい。ホムラさんの眷属のおかげで人間の数は大分減りましたし、今回の首謀者の確保はすごく大事な仕事だと思います。こっちのことは気にせずにがんばって下さい」

「そう言ってもらえると助かりますわ。では失礼しますわね」


 アインバドのもとに向かったホムラを笑顔で見送った後、アクアは残り少なくなった敵を倒すために領主の屋敷から出た。

アクアが領主の屋敷から出ると外はまるで夜の様な暗さで、一度上空に視線を向けたアクアは自分たちの主が上空で戦っていることを知り笑みを浮かべた。

 その後しばらく歩いた後、アクアはハーピィ二人による奇襲を受けた。


 アクアは生物の体に含まれている水分を察知できるのでこの奇襲には気づいていたが、あえてハーピィたちの攻撃を受けた。

 その結果ハーピィの爪がアクアの右肩と腹部に深々と突き刺さり、次の瞬間にはハーピィ二人の脚が凍りついた。


 突然のことに事態を把握できなかった上に痛みがほとんど無かったため、ハーピィたちは凍りついた脚の先が砕けても叫び声をあげなかった。

 しかし続いてアクアがハーピィの翼を凍らせて砕くとようやく彼女たちは叫び声をあげた。

 そんなハーピィの様子を見てアクアは自分の失敗を悟った。


「全然血が出てませんね。これじゃ足りないかな」


 生まれ持った翼を奪われてハーピィたちはひどく絶望した様子だったが、ハーピィたちがあまり痛がっていない様子だったのでアクアは近くで戦っていた中級悪魔を呼びハーピィたちに死なない程度に暴行を加えるように命じた。


 その後悪魔たちによるハーピィへの攻撃が始まり、ハーピィたちの悲鳴が大きくなったことに安心しながらもアクアはその光景を複雑な心境で見ていた。

『悪魔召還』は恭也がアロジュートに殺されたことで獲得した能力だ。


 そのためアクアはこの能力を使うことに抵抗があり、実際手が足りない時は中級悪魔召還用の魔導具を使おうと思っていた。

 しかしアクアのその考えを知った恭也が自分の能力の半分近くが自分が死んだことで獲得した能力なのだから、そんなことを気にしていたら自分の能力のほとんどが使えなくなってしまうから気にしないで欲しいと言ってきた。


 恭也本人に言われたからといってすんなり納得できたわけではなかったが、主の発言より自分の感情を優先するわけにもいかなかったのでアクアは『悪魔召還』も積極的に使うことにしていた。

 自分の主の能力を使っているのだから少しでもいい結果を出さなくてはと使命感に燃えながらアクアはすでに泣きそうになっている兵士たちに視線を向けた。


「ゆ、許してくれ。もう抵抗しない。刑務所にでも何でも入るから、もう攻撃しないでくれ」


 そう言って兵士の一人が手にした武器を捨てると、それを見た他の兵士たちも武器を捨て始めた。

 アクアやホムラには歯が立たず、その配下の中級悪魔や眷属を苦労して倒してもすぐに蘇る。

 その上突然周囲が夜になるという異変に襲われ、兵士たちに心は完全に折れていた。

 それを見たアクアは全く迷う様子を見せずに最初に命乞いしてきた兵士の顔をつかみ、そのまま自分の体を使い『腐食血液』を発動した。


 眼を含む顔の一部を溶かされて兵士が絶叫する中、アクアは『格納庫』から取り出した剣で兵士の両脚を斬り落とし、その後すぐに『治癒』で兵士の傷を治した。

 自分で傷つけた相手の傷をすぐに回復したアクアの意図が分からずに困惑する兵士を前にアクアはすでに手遅れであることを伝えた。


「恭也様からは抵抗せずに投降するようなら手荒な真似はしないようにと言われていましたけど、あなたたち私やホムラさんに何度も魔法使いましたよね?」

「あ、いや、それは……」


 アクアの発言を聞き、アクアが兵士たちに怒りを覚えていると感じた兵士はアクアにそれ以上何も言えなかった。


「恭也様からあなたたちを痛めつけるように命じられている以上、あなたたちを見逃すつもりはありません。でも安心して下さい。私ホムラさんみたいに相手をいたぶる趣味は無いですから、そこまで苦しい思いもしないと思いますから」


 アクアがそう言った直後、兵士の足下の地面が水に変わり、兵士が首まで水没したのを確認してからアクアは兵士を氷漬けにした。



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