表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/244

開戦

いつもこの作品を読んで下さりありがとうございます。

おかげ様で何とかモチベーションも維持できて一年間投稿を続けることができました。

今後もこの作品を読んでいただけると嬉しいです。

 恭也たちがカーツに着くと、カーツを囲む城壁の門は固く閉ざされていた。

 上空ではオルフート製の悪魔数十体が飛び辺りを警戒しており、透明になりながら恭也が街の様子を見ると人通りはほとんど無かった。

 街の中を歩いているのは武装した兵士と悪魔だけで、この街が完全にヘクステラ王国から逃げて来た者たちとタトコナ王国内にいた彼らへの協力者に占領されていることが上空からも見てとれた。


(これからどうしますの?)


 一通り街の様子を見て回った後、ホムラは恭也に指示を仰いだ。


(そうだね。今回の騒ぎ起こした人たちの幹部が集まってる領主の家制圧して速攻で終わらせようと思ったけど、悪魔たちが思ったより街中に散らばってるから一度宣戦布告しようかな。ホムラの眷属送って、今から一時間後に街に行くぞって言えばあっちで勝手に戦力集めてくれるでしょ)

(そうだな。雑魚共蹴散らすだけなら簡単だけど、いちいち追って回るのも面倒だしそれでいいと思うぜ)

(できるだけ街に被害出したくないから街の外に目立つ形で現れようか)


 ウルを始め他の魔神たちからも反対意見は出なかったため、恭也は領主の家の前でホムラの眷属を召還してから街の外へと向かった。


 恭也が送り出したホムラの眷属による宣戦布告を受け、カーツを占領していた一派はすぐに戦いの準備を始めた。

 魔導具、『監視者』による見張りによると異世界人と思われる少年はカーツの城壁のすぐ近くに陣取っており、一時間後に攻撃するという宣言を守るつもりかカーツを結界で覆った後は特に動きは見せていないらしい。


 この異世界人の動きを聞き、カーツに逃げて来たヘクステラ王国の人間のまとめ役、アインバドは不快そうに顔をしかめた。

 自分たちの本拠地に魔神の眷属を送り込む機会を得ていながら、急襲を仕掛けるのではなく敢えて宣戦布告を行うというその驕った振る舞いを必ず後悔させてみせるとアインバドは恭也への闘志を燃やしていた。


 異世界人の使いとして来た眷属はその場で切り捨てたが、今自分が抱いているこの怒りはあの異世界人を殺さない限り消えることはないだろうとアインバドは確信していた。

 前回は異世界人の手の内が分からずに不覚を取ったが、今回は金属を全く使わずに戦闘を行える悪魔を二百体そろえている。


 あの異世界人が本当に二百回殺さなくては死なないとしても、これだけの戦力があればあの異世界人を二百回殺すのも可能だろうとアインバドは考えていた。

 それにその他にもアインバドたちには奥の手があった。


「おい、上級悪魔の召喚の準備はどうなっている?」


 アインバドに質問され、アインバドの近くに控えていたエルフの男、ビズニオが笑顔を浮かべながら口を開いた。


「準備は万端でございます。異世界人や上級悪魔が大量の精霊を消費したせいで今のこの大陸の精霊の調和は大きく崩れています。そこに我らの技術とこの街で用意した生贄があればきっと強力な悪魔が呼び出せるでしょう。異世界人など魔神ごとひねり潰してみせます」

「ああ、期待している。異世界人への見せしめだ。生贄は城壁の上に連れて行き、異世界人の目の前で殺してやろう」

「それはいい考えですね。ではさっそく私は準備に取り掛かります」


 そう言って部屋を出て行ったビズニオを見送りながらアインバドは心の中で舌打ちをした。

 今回アインバドたち十武衆を含むヘクステラ王国の人間は、異世界人から逃げる際にゼキア連邦での商売への協力者も同行させていた。


 その協力者とはエルフ、ラミア、ハーピィ、獣人がそれぞれ数人ずつで、全員が並の兵士以上の力を持っているため異世界人と戦う戦力として生かしておいたがそろそろ潮時だとアインバドたちは考えていた。


 特にビズニアを含むエルフたちはまるで自分たちが人間と同等の様に振舞っており、アインバドを含むヘクステラ王国の人間の多くから不興を買っていた。

 今回ビズニアたちに用意させた上級悪魔召還の魔法が成功したら、すでに魔法の技術自体はアインバドたちも把握済みなのでビズニアたちは用済みだった。


 異世界人のせいでゼキア連邦での商売が行えなくなった時点でビズニアたちエルフを含む協力者たちの価値はなくなったというのがヘクステラ王国の人間の共通認識だった。

 最後の仕事となる異世界人との戦いで精々がんばってくれと心の中でビズニアたちを嘲笑しながらアインバドはビズニアが去った後も部屋に残っていた同僚七人との会議を始めた。


「昨日聞いた話ではあの異世界人は攻撃手段のほとんどを魔神の能力に頼っているらしい。つまり異世界人から魔神を引き離せば勝機は十分にある」


 アインバドはゼワールから逃げて来たタトコナ王国の大臣からタトコナ王国が入手した恭也の全情報を聞き出していた。

 それを踏まえた上でのアインバドの作戦を聞き、十武衆の一人が口を開いた。


「あの異世界人が何体の魔神と契約しているか分からない以上、六体と契約していると考えて動くしかないが手は足りるのか?」

「まずはエルフ共の用意した上級悪魔を異世界人にぶつけるつもりだ。おそらく上級悪魔自体は負けるだろうが、あの異世界人もそれなりの魔力を消費するだろう。その後で三つの門から軍を二つに分けて悪魔たちを出し、ザクレア、ゾーセ、ブイオンに向けて進軍させる」


 カーツから近い三つの街の名前を出したアインバドの発言を聞き、他の十武衆たちはアインバドの狙いを瞬時に理解した。

 自分の発言を聞き笑みを浮かべた同僚たちを見て、アインドラも嗜虐的な笑みを浮かべた。


「あの偽善者がそれを見て放っておけるはずがない。きっと魔神たちを送り込むはずだ。その後でこの街の人間を何人か殺せば残った異世界人もやってくるだろう。そこを我らで叩く。悪魔も百体はこっちに残すつもりだから安心してくれ」

「二百回も殺せるとは嬉しいな。あのガキにはたっぷりと礼をしてやらないといけないからな」

「ああ、我が国が長い年月をかけて築き上げたものを薄っぺらい正義感で破壊しおって。楽には死なせんぞ」


 口々に恭也への怒りや恭也を殺せることへの喜びを口にしながらアインバドとその同僚たちは作戦の細かいところを詰めていった。


(なるほど、僕に勝つ方法は一応考えてるみたいだね)


 アインバドに倒された振りをして透明になったホムラの眷属を通して恭也たちはアインバドたちの話を全て聞いていた。

 アインバドの作戦を聞いた限り、他の街を巻き込むことや恭也をおびき出すためにカーツの人間を殺すなど良識を疑う点は多々あったが、魔神たちと引き離すという恭也を倒すための最善手を選んでいることからアインバドたちの本気がうかがえた。


 もっとも仮に恭也の手元から魔神全員が離れたとしても恭也のもとにはアロジュートが残るのでアインバドたちの計画は最初から破綻しており、その上同時に六つの部隊を相手にするだけならフウだけで事足りるので魔神全員が出張る必要も無い。


 作戦の前提が破綻している上に作戦自体も恭也に筒抜けのアインバドたちの状況は敵の恭也からしても気の毒だったが、彼らのこれまでしてきた事と現在進行形で行っている事を考えれば遠慮する必要は一切無いと恭也は判断した。


(外に出てくる悪魔と兵士の相手はフウに任せるね。魔力は五万ずつ渡せば十分でしょ)

(分かった。しっかりと痛めつける)


 今回恭也は魔神たちに相手を徹底的に痛めつけるように指示を出していた。

 ゼワールでベルガードから聞いた話ではタトコナ王国内のゼキア連邦近くの街の人間の異種族に対する扱いはヘクステラ王国内でのものと大差無いらしい。

 今回の件が片付いた後でそういった人物の相手までしていては時間がいくらあっても足りず、かといって彼らが自発的に考えを改めるのを待つのも楽観的過ぎる。


 そう考えた恭也は今回の件を見せしめに使い、ゼキア連邦の住民に手を出すのがいかに割に合わないかをタトコナ王国の人間に知らしめるつもりだった。

 殺しさえしなければ何をしてもいいと恭也に言われて魔神たちが士気を上げている中、恭也はアロジュートに話しかけた。


(アロジュートさんはどうしますか?見てるだけじゃひまだって言うなら出てくる軍の相手一つ任せますけど)


 今回の戦いで恭也は自分たちが負けることなど全く考えていなかったが、同時に今回の戦いが数分程度で終わらないだろうとも考えていた。

 そのためアロジュートがひまな様なら出撃してもらおうと恭也は考えていたのだが、今回の戦いははっきり言って一方的なものになるのでアロジュートが嫌がるようなら無理強いする気は無かった。

 そんな恭也にアロジュートは相変わらずの返事をした。


(出ろって言うなら出るわよ。前にも言ったけど命令は好きにしていいわ。嫌なら断るけど)

(じゃあ、最初だけお願いして後は待機って感じでお願いします)


 アインバドたちの話を聞く限りでは戦いが始まってすぐにビズニオが生贄を捧げて上級悪魔を召還しようとするはずだ。

 それを阻止するにはアロジュートの能力を借りるのが手っ取り早く、それ以外は恭也たちだけでどうにでもなった。


 恭也の考えを聞きアロジュートがやる気の感じられない返事をした後、恭也は戦いの後に万が一にも今回の件の首謀者たちを逃がさないようにランとフウの合体技、『メタトロン』を発動して戦いに備えた。


 そして恭也が宣戦布告をしてから四十分程経った時刻、恭也の都合に付き合う義理は無かったアインバドたちは戦いの準備が済むなりあちらから恭也に戦闘開始を告げてきた。


「異世界人!私の実験のためにのこのこと現れたことをほめてやろう!今からこの人間どもを生贄に上級悪魔を召還し、貴様を魔神共々ひねり潰してやる!」


 得意気な顔で城壁の上から恭也にそう告げてきたビズニアの横には兵士たちにここまで連れて来られたカーツの住民たちの姿があった。

 城壁の上に立つビズニアを不快気な顔で見上げる恭也を見下ろしながらビズニアは楽しそうに恭也を挑発した。


「お前たち異世界人のおかげでこの大陸の精霊たちの動きは活発になっている!そこに我らの秘儀が加われば上級悪魔の一体や二体簡単に召還できる!自分たちの行いの報いを受けるんだな!」


 ビズニアがそう言った直後、生贄にされる予定だった人々の足下に描かれていた魔法陣が消え、突然の事態に驚いたビズニアは恭也に何をしたか問い詰めようとした。

 しかし突然足下の城壁の感覚がなくなったため、ビズニアは恭也を問い詰めるどころではなくなった。


 そのすぐ後にビズニアは三メートル程の高さから地面に落下し、全身を強打した痛みにのたうち回った。

 ビズニアが痛みから立ち直った頃には城壁の上はアロジュートとアロジュートが召還した天使たちにより制圧され、生贄として連れて来られた人々は無事保護されていた。


 痛みから立ち直ったビズニアはこのことにすぐに気づいたが、今のビズニアはそれどころではなかった。

 ビズニアのすぐ目の前に自分たちの敵である異世界人がいたからだ。


「な、一体何が……」


 突然目まぐるしく変わった事態に慌てふためくビズニアに冷たい視線を向けながら恭也は口を開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ