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クーデター

「もちろんこれから僕が全くこの国に介入しないってわけじゃありません。原因の僕が言うのも何ですけど十武衆が逃げた今、僕の後ろ盾無しでソアロ君が王様続けるの無理でしょうし」

「十武衆はどうなったの?」


 恭也の口から十武衆の名が出てきたことを受け、ミュールは恭也の説明の途中で質問をしてきた。

 このことに恭也は特に気を悪くせず、自分が現在知っている情報をミュールに伝えた。


「あなたを殺した十武衆は全員船で逃げたみたいです。今この国の北の方を探しているのでその内見つかるとは思いますけど」


 恭也の報告を聞きミュールは何やら考え込んでいる様子だったが、恭也はとりあえず今後についての話を最後まですることにした。


「もしソアロ君とエシルちゃんをこの国から逃がしたいって言うならそれでも構いません。その時は僕がトーカに持ってる街に逃がしてそこで暮らしてもらいます。その場合は普通の人として暮らしてもらうことになりますし、多分ミュールさんと会うのは難しくなりますけど」


 とりあえず自分が今考えていることは全て伝え、恭也がミュールの反応を待っているとミュールはしばらく考え込んだ後で口を開いた。


「もしソアロが王になった場合、私はこの子たちと会えるの?」

「はい。元々城があった場所に今は刑務所を作ったんですけど、その内城をその隣に移すつもりです」


 刑務所を作った後でソアロに城を返すことを決めた際、すでに刑務所を作っていたため恭也は城の設置場所に悩まされた。

 我ながら自分の計画性の無さに呆れた恭也だったが、幸い刑務所の横に広い空き地があったためそこに城を設置することにした。


 なおその空き地は国の式典のために用意されたものでそこが潰されたことで今後ヘクステラ王国の首脳部は式典の度に余計な手間を取らされることになるのだが、恭也を恐れた彼らがそのことを恭也に伝えなかったため恭也がそれを知ることはなかった。


「だから毎日は無理でも月に何回かは会えると思いますし、刑務所には二十年入ってもらうつもりですけど、その後は好きにしてもらえればと思ってます。……三日待つのでその間にどうするかを決めて下さい。僕はまだ回らないといけない街があるのでもう行きます。この宿から出る以外なら自由にしてもらって構いません」


 それだけ言って恭也は部屋を後にしようとしたのだが、ミュールが恭也を呼び止めた。


「一つだけ教えるわ。十武衆が逃げたとしたら北じゃなくてタトコナ王国よ」

「タトコナですか?」


 思ってもいなかった地名を挙げられて驚く恭也を前にミュールは説明を続けた。


「北の街にはゼキア連邦の奴隷はほとんど売っていなかったから十武衆はもちろん奴隷商人もほとんど伝手は無いはずよ。でもタトコナのカーツという街には奴隷を売っていたから多少の伝手はあるはず。十武衆だけなら北に逃げた可能性もあるけど、奴隷商人たちもいることを考えたら今のこの国の現状で北に逃げた可能性は低いわ。現地の人間に裏切られるのがおちだもの」

「なるほど、タトコナか……」


 仮にミュールの言う通りならタトコナ王国内で十武衆や奴隷商人お抱えの兵士たちと戦うことになるので、一言タトコナ王国に断っておく必要がある。

 場合によってはタトコナ王国の人間も捕まえることになるが、これについてはゼキア連邦の国民を解放しないタトコナ王国の国民は恭也が捕まえても構わないとタトコナ王国の国王、ベルガードから許可を取っているので問題無い。


 とりあえず残りの街でのゼキア連邦の国民たちの解放を行い、その後ミュールたちの判断を聞いてからタトコナ王国に向かおう。

 そう考えた恭也は今度こそ部屋を後にし、その後ある人物たちを探すためにヘクスにホムラの眷属五体を放ってからヘクスを離れた。


 恭也がミュールたちと別れた三日後、アクアと合流した恭也はミュールたちがいる宿を訪れていた。

 ミュールたちに会うなり恭也が彼女たちの意見を聞くと、ミュールたちは全面的に恭也の提案を受け入れるとのことだった。


「分かりました。そういうことなら僕も全力で力になりたいと思います。ミュールさんは今日の内に刑務所に連れて行くつもりですけど、その前に会って欲しい人がいます」


 そう言って恭也が室内に連れて来た二人を見て、ミュールは驚いた。


「あなたたち……」


 恭也がホムラの眷属を使い見つけ出した人物は、恭也に降参することを提案してくびになった元十武衆だった。


「本当ならこの二人も刑務所に入れたいところですけど、この国の見張りを任せるつもりの僕の仲間もこの国出身の人がいた方がやりやすいでしょうから特例ってことにします。ソアロ君もそれでいいですか?」

「は、はい」


 恭也に質問されて怯えながらも返事をしたソアロから視線を外し、恭也は続いて元十武衆の二人、フユートとアキスナに視線を向けた。

 フユートは今年で四十歳になる男で、アキスナは十武衆で最年少の二十二歳の女だ。


「最終的にはこの国の貴族の六割ぐらい捕まえることになると思いますし、商人に関してはどれぐらいになるか見当もつきません。でも大抵のことは僕や魔神の能力で助けられると思いますし、頭脳労働なら頼りになる魔神がいるので心配しないで下さい」


 そう言うと恭也はホムラを召還して室内のヘクステラ王国の面々に紹介した。


「ホムラと申しますわ。実際にこの国に残るのは私の眷属になると思いますけれど、マスターに命じられた以上今後はこの国の安定に努めたいと思っておりますの。よろしくお願いしますわね?」

「え、ええ、こちらこそ」


 突然ホムラが現れたことや眷属というものの意味すら完全には理解していなかったためヘクステラ王国の面々はホムラのあいさつを受けて面食らっていたが、それでもこの場では最年長のフユートが何とかあいさつを返した。

 その後いくつか打ち合わせをした後、恭也は三日後には城をヘクスに持ってくるとフユートたちに伝え、その後ミュールを連れて刑務所へと向かった。


 ヘクスに城を戻した恭也は、その後急いでタトコナ王国の国王、ベルガードに会うためにタトコナ王国に向かった。

 ヘクステラ王国で奴隷の売買を行っていた者たちの残党がタトコナ王国に逃げ込んだ可能性があることは数日前にホムラの眷属を通してタトコナ王国には伝えてあった。


 その際は何か分かったらすぐに知らせるという返事があり、今まで何の連絡も無かったということは特に進展は無かったのだろう。

 そう考えてタトコナ王国の首都、ゼワールにある王城を訪れた恭也は、城だけでなく街の雰囲気すら慌ただしいのを感じ取りため息をついた。

 来るのが遅かったかと嘆いていた恭也が王城内の客間で待っているとベルガードが部下数人を引き連れて部屋に入って来た。


「何があったんですか?」


 あいさつもそこそこにタトコナ王国ですでに事件が起きたことを前提に質問した恭也にベルガードはばつが悪そうな顔で説明を始めた。


「実は能様から我が国にヘクステラからの侵入者がいるかも知れないという報告を聞いた時点で城に保管されていた魔導具の紛失が確認されていたのです。どちらも上級悪魔由来の強力なものです」

「城や街の中が騒がしいのはそれが原因ですか?」


 ベルガードの報告を聞いた恭也は、どうしてここで魔導具の紛失の話が出てきたのか不思議に思った。

 タトコナ王国秘蔵の魔導具が紛失したというのは確かに大事おおごとだが、今すぐ街や国がどうこうなるという話ではなく身内の不祥事などできれば隠しておきたいはずだ。


 そう考えた恭也はベルガードの報告を聞いて何と返事をすればいいのか分からずに戸惑った。

 とりあえず恭也は紛失した魔導具の効果をベルガードに聞いたのだが、ベルガードが口にした魔導具の効果はどちらも大量の人間に危害を加えるといった類のものではなかった。


 そのためベルガードの説明を聞いても恭也は特に慌てず、それでもタトコナ王国に恩を売るために魔導具の捜索ぐらいは手伝おうと考えていた。

 しかし現状は恭也の考えているよりはるかに悪い方向に進んでいた。


「わが国の魔導具は私以外では限られた人間しか持ち出せないのですが、その内の一人が二日前から姿を見せず家ももぬけの殻だったそうです。他にも将軍二名と兵士三百人程が姿を消しており、調査の結果彼らは全員東に向かったそうです。そしてゼキア連邦との国境にある街、カーツはすでに彼らの手に落ちたらしいのです」

「なるほど、分かりました」


 ベルガードの報告を聞き、恭也は兵士が三百人もいなくなった時点で報告して欲しかったと心底思った。

 しかし今さらそれを言ってもしかたがないので、恭也はすぐにカーツに向かうことを決めてベルガードに断ってから部屋を後にしようとした。

 そんな恭也をベルガードは止めた。


「お待ち下さい!報告によるとカーツにはオルフートから手に入れた技術で創り出した悪魔が百体以上確認されており、いくら能様でも一人では!今軍の用意をさせていますので少々お待ちを!」


 どうやらベルガードも今回の騒ぎ、いやもうクーデターと言って差し支えない事態の収拾に動こうとしているようだが、わざわざこの国の兵士に出てもらうまでもない。

 そもそも恭也が以前戦った保有魔力千の悪魔が百体程といるという情報自体が数日前のもので、現時点ではもっと増えているだろう。


 これからさらに十日近くかけて軍がカーツに向かうことを考えたら、最終的にタトコナ王国の軍が相手にする悪魔の数はどれぐらいになるか見当もつかない。

 ここで余計な犠牲を出すぐらいなら最初から恭也が出た方がましで、それに言い方は悪いが今回の騒ぎはタトコナ王国に恭也たちの力を誇示するいい機会だった。


「僕なら数秒でカーツまで行けますし、オルフートが創った悪魔なら以前何十体か倒したことがあります。それに今は手元に魔神が全員そろってますから僕に任せてもらえませんか?」


 そう言って恭也が魔神六人を全員召還すると、ベルガードとその部下は突如として姿を現した魔神たちの姿を見て驚きと恐怖に表情を硬くした。

 その後ベルガードたちから反対意見が出なかったため、思う存分暴れられると意気揚々の魔神たちと次から次に面倒事が起こるものだと呆れた様子のアロジュートを伴い恭也はカーツに向かった。

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