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新たな王

 それ程時間をかけることなく恭也はハーピィを見つけ、その後ハーピィに自己紹介をして取り次いでもらいハーピィの長、シーオシアに会うことができた。


「あんたが噂の異世界人かい。うちの子たちが世話になったみたいだね。礼を言うよ」

「いえ、ヘクステラのしてたことが個人的に気に入らなかったからやっただけなので気にしないで下さい」

「ふーん。ま、あんたがどう思おうとこっちが感謝してることに変わりはないさ。獣人の連中からあんたが得体の知れない化け物を倒したってことも聞いてるよ。本当に助かった」


 ゼキア連邦とタトコナ王国の国境近くで恭也が猿型の上級悪魔を倒したという事実をシーオシアがすでに知っていたことに恭也は驚いた。

 そんな恭也を見てシーオシアは楽しそうに笑った。


「偏屈なオーガの連中はともかく他の連中とはそれなりに交流があるからねぇ。あれだけ派手にやってりゃあたしらの耳にも入ってくるさ」

「誰かに見られてたとは思いませんでした。でもそれなら話は早いです。実はその件も含めて今日は話があって来ました」


 そう言って恭也はディアンとその上級悪魔の脅威をシーオシアに伝え、その後ギルドの説明を行った。


「ふーん。そんなにやばいことになってたのかい。……ラミアはともかくよくオーガ共があんたの頼みを聞いたね」

「一度交渉が決裂して戦ってから話がまとまりましたから、そこまですんなりと話が進んだわけじゃないですけど」

「ふーん。じゃああたしたちがあんたの話を断った場合も力づくで言うこと聞かせるのかい?」


 探る様な口調にも関わらずシーオシアに恭也を恐れている様子は無く、どこか楽しそうにすらしていた。

 そのため若干のやりにくさを感じながらも恭也はシーオシアとの話を進めた。


「いえ、オーガのみなさんの時は勝ち目が無くても自分たちで戦うと言ったので無駄死にを止めるために実力行使になりましたけど、ハーピィのみなさんがディアンさんや上級悪魔が襲ってきた時に無理をしないと言うならこっちも事を荒立てる気はありません。僕との連絡手段を置いていくつもりなので、いざという時はそれで助けを呼んでさえもらえればそれ以上のことは求める気は無いです」

「ずいぶん親切じゃないかい。そんなにギルドとやらにあたしたちを入れたいのかい?」

「……ゼオグさんにも同じ様なこと言ったんですけど、空を飛べるハーピィの力を借りることができれば色んなことができて便利だとは思ってます。でもみなさんが外部の人間と関わりたくないって言うなら、さっき話したディアンさんが関わってこない限り僕もここには顔を出しません」


 恭也の発言を受けてしばらく考え込んだ後、シーオシアは恭也にある提案をしてきた。


「ラミアだけじゃなくオーガまで前向きだって言うならあんたの話に乗ってもいい。ただし一つ条件がある」

「条件?何ですか?」


 基本的に恭也は死人が出なければ大抵の条件は飲むつもりだったが、シーオシアの出してきた条件は恭也が予想していたいずれとも違うものだった。


「あんたの子種が欲しい」

「……え?」


 最初シーオシアが言ったことが理解できず恭也は呆然としたが、そんな恭也を見てシーオシアはもう一度自分の要望を口にした。


「あんたの子種が欲しいって言ったのさ。異世界人との子なら強い子が産まれると思うしね」


 やはり聞き間違いではなかったかと思いつつ恭也はシーオシアの提案を断った。


「……その条件は飲めません。僕彼女いるんで」

「いや、別に結婚しろなんて言ってるわけじゃないさね。そもそもあたしらにはそんな習慣無いからね。子種さえもらえればそれでいい」


 シーオシアのこの発言を聞き不快感を覚えた恭也だったが、これに関しては種族としての生態の違いとそこからくる倫理観の違いだと考えて何も言わなかった。

 しかしシーオシアの提案が恭也にとって受け入れられないものであることに変わりはなかったので、恭也は改めてシーオシアの提案を断った。


「ハーピィの考えに口を出す気は無いですけど僕恋人以外とそういうことする気は無いです。だからシーオシアさんの頼みは聞けません」

「へー、そうかい」


 この瞬間シーオシアの表情が変わり、次の瞬間にはシーオシアは恭也との間合いを詰めてその強靭な足で肩をつかむと恭也を押し倒そうとした。

 しかし『物理攻撃無効』のせいでシーオシアは恭也を押し倒すことができず、その後『束縛無効』を発動した恭也はシーオシアの手から逃れてシーオシアに視線を向けた。


「もしかしていつもこんなことしてるんですか?もしそうならみなさんとの付き合い方考えないといけなくなるんですけど」

「ん?何か勘違いしてないかい?今のはあんたの力を試しただけさ。あたしに不意打ちで押し倒されるようじゃとても頼りになんてできないからねぇ。さっき見せた幻といい今の怪力といいなかなか多芸なようだね。今後は頼りにさせてもらうさ」


 シーオシアのこの発言を真に受ける程恭也もお人好しではなかったが、ここでそれを口にしても水掛け論にしかならないと考えて恭也は先程のシーオシアの行動は不問にした。

 なお恭也の中からシーオシアの恭也への不意打ちを見ていた魔神たちはシーオシアをまるで警戒していなかったので、恭也とシーオシアのやり取りを見ても特に怒りは覚えなかった。

 恭也もシーオシアの不意打ちではなくそれを見た魔神たちの反応を警戒していたので、魔神たちが特にシーオシアに敵意を向けていないことに安堵しつつ口を開いた。


「今のが腕試しってことならそれはいいですけど、僕は人間もゼキア連邦に住んでる種族も同じ様に扱いたいと思っています。他人に危害を加えるようならゼキア連邦の人でも容赦無く捕まえて刑務所に入れるつもりなのでそのつもりでいて下さい」

「ああ、分かったよ。一族の者にはよく言って聞かせるから安心しておくれ」

「……それじゃ失礼します。何かあったらこれで連絡を」


 そう言って恭也はホムラの眷属を召還した。

 すでに恭也はオーガの居住地域とラミアの居住地域の間にもホムラの眷属を配置しており、ゼキア連邦内でギルドのための取り組みが本格的に始まるまではホムラの眷属を通して連絡と警戒を行うつもりだった。


 シーオシアとの会話で想像以上に疲れたものの恭也は予定通りゼキア連邦の北に住む三つの種族の代表全員との会談を終え、その後ヘクステラ王国の王族を蘇らせるためにヘクスへと向かった。

 そしてヘクスに着き目的に向かう道中、恭也は魔神たちとゼキア連邦に住む種族を逮捕することになった場合について話し合っていた。


(オーガはどう考えても無理だけどホムラの眷属ってラミアやハーピィに一対一で勝てる?)

(強化型の眷属ならラミアやハーピィだけでなくオーガにも引けを取りませんけれど、私の眷属はできるだけ諜報や連絡に回したいので一時的ならともかく長期間ゼキア連邦に割くのはできれば避けたいですわ)

(だよね。ゼキアにばっか気を遣って他の所が駄目になっても困るし)


 現時点で恭也たちは恭也が所持する街の管理と協力関係にある各国との連絡のためにかなりの数のホムラの眷属を割いている。

 その上恭也は自分では気づけない違和感をホムラが覚えた際にホムラが独断で眷属による諜報を行うことを許可していた。


 それを考えるとホムラが自分の眷属に任せる仕事をこれ以上増やすことに難色を示すのは当然で、恭也はすぐにホムラの眷属をゼキア連邦の住民たちへの対処に回すのを諦めた。

 そんな恭也にフウが自分の考えを伝えてきた。


(私がゼキア連邦の見張りしようか?)

(うーん。確かにフウを一人回すぐらいは問題無いからそれが一番現実的かな)


 フウの固有能力は『分身の生成』で、自分の魔力を分けることで自分を含めて最大十人まで数を増やすことができる。

 この能力とホムラの眷属召還の違いは分身の全てがフウ本体と同じ能力を持っているという点だ。


 そのためフウ本体から離れたとしても数の上限を超えない限り分身も分身を創ることができ、分身は風の精霊魔法と魔神共通の怪力も使用できる上に本体と分身全てが意思と感覚を共有している。

 全ての魔神と契約した恭也を主とした今のフウなら十万の魔力を保有したフウ数人を創ることも可能だ。

 保有魔力が十万を超える分身を創ることはできないものの同時に何ヶ所にも魔神を配置できるこの能力には恭也も多いに期待していた。


(じゃあ、ゼキア連邦で本格的にギルドが始まったらフウに支部長任せるね。細かい仕事はホムラの眷属つければ大丈夫でしょ)

(はい。お任せ下さいまし)


 とりあえずではあるがゼキア連邦の住民が犯罪を行った場合の対処方法が決まり、気がかりが一つ消えた恭也はそのまま目的地の宿へと入って行った。

 恭也はホムラの眷属にヘクステラ王国の女王、ミュールとその子供のソアロとエシルの死体をヘクスの宿まで運ばせており、宿に着いた恭也は三人を蘇生してミュールに話しかけた。


「大丈夫ですか?話したいことがあるんですけど疲れてるようなら話は明日でも構いません」


 蘇った直後に室内を見回したミュールは声をかけられたことですぐに恭也の存在に気づき、その後自分たちが十武衆に殺されたことを思い出したのか意気消沈した様子だった。


「どうして私たちを蘇らせたの?この国を支配するなら私たちはいない方が都合がいいはずよ?」


 前回恭也に水魔法を放ってきた時の様な気迫を今のミュールからは全く感じず、恭也は異世界人に攻め入られた上に部下にも裏切られたミュールに同情しながらも自分の目的を伝えた。


「あなたたちを蘇らせた目的は二つあります。一つはあなたにちゃんと罰を受けて欲しいからです。あなたがこれまでにしたことを考えると部下に殺されて終わりはぬる過ぎると思ったので蘇らせました」


 恭也がミュールを蘇らせた理由を聞いてもすでに反抗する気力も無かったのかミュールは何も言わなかった。

 しかし恭也の二つ目の目的を聞いた瞬間、ミュールの表情が変わった。


「二つ目はあなたの子供のソアロ君にこの国の次の王様になってもらうためです」

「待って!この子たちだけは見逃して!この子たちは国のことには一切関わってないの!国も私も好きにしていいからこの子たちだけは!」


 ティノリス皇国の女王、オルガナも似た様なことを言っていたなと恭也は思い、子供たちに向ける十分の一でもゼキア連邦に住む異種族たちに向けられなかったのかと虚しさを覚えた。

 しかし恭也のこの提案はソアロたちにとっても悪い話ではなく、ミュールは勘違いしているようだが別に恭也にソアロを王位に就けた後で傀儡政権を作るつもりはない。

 そのため恭也はミュールだけでなくミュールの隣で怯えながらミュールにしがみついているソアロに向けて自分の考えを伝えた。


「僕がこの国でしたいことってゼキア連邦の人たちの解放とギルドの支部の設置だけです。だからこの国を支配する気は全然無くて、むしろ今後ソアロ君を助けたいと思っています」


 そう言ってギルドの概要を説明する恭也にミュールは疑いの目を向けてきた。

 これ自体は当然のことなので恭也もそこまでは気にせず説明を続けた。

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